とりあえず、俺たちはシアやイズモ、アルテナの先導のもと、フェアベルゲンに向かった。
他の亜人族たちは、俺たちに悪意や偏見がないということを理解し始めてくれたようで、かなり心を許すようになってきた。
特に、勢い余って樹海を再生した香織には特に子供たちは好意を抱いており、香織の周りをうろちょろしては、香織がにこっとほほ笑むと顔を赤くしてうつむき、女の子たちは服の裾や手をぎゅっと握っていた。
そして、なぜか先導するシアにアルテナが対抗していた。いや、理由はなんとなくわかるが。ハジメに枷を外された時、やけに顔を赤くしていたし。
先ほどから、ちらちらと後ろにいるハジメを気にして振り返っては、ユエに無機質な視線を向けられてはビクッとふるえて視線を前に戻すということを繰り返している。
そんなこんなで、歩くこと1時間ほど、どこかしおれていたシアのウサ耳がピコピコと反応した。
「ハジメさん、武装した集団が正面から来ますよ」
シアの言葉に、何人かの亜人族が驚く。どうやら、自分たちでも気づかなかった気配をシアが察知したことに驚いたらしい。
そして、シアの言葉を証明するかのように、霧の奥から人影が現れた。
現れたのは、以前にも出会った虎人族の兵士だった。たしか、名前はギルとかだったはずだ。どうやら、なんとか生き延びて今も警備をしているらしい。
「お前たちは、あのときの・・・」
「久しぶりだな」
ギルは俺たちに気づいたようで、驚愕に目を見開いていた。
「一体、今度は何の・・・って、アルテナ様ぁ!?ご無事だったのですか!?」
「あ、はい。彼等とハウリア族の方々に助けて頂きました」
俺たちに目的を尋ねようとしたところで、今度はハジメの傍らにいたアルテナに気づき、素っ頓狂な声を上げた。
そこで、アルテナからだいたいの事情を聴き、安堵と呆れを含んだ深いため息をついた。
「それはよかったです。アルフレリック様も大変お辛そうでした。早く、元気なお姿を見せて差しあげて下さい・・・少年。お前たちは、ここに来るときは亜人を助けてからというポリシーでもあるのか?傲岸不遜なお前たちには全く似合わんが・・・まぁ、礼は言わせてもらう」
「んなポリシーあるわけないだろ?偶然だ、ぐーぜん」
特にハジメなんて、最初の頃は積極的に見捨てようとしたまであるし、俺も何でもかんでもとは言わない。仮にあの現場にハウリア族がいなかったら、普通にスルーしていただろう。
そこで、俺たちが知り合いなことに八重樫たちが疑問符を浮かべ、シアとティアがこっそりと事情を説明した。そして、シアがハジメに惚れた理由も察し、納得顔を見せていた。
「あぁ、そうだ。それより、フェアベルゲンにハウリア族の連中はいるか?あるいは、今の集落の場所を知っている奴はいるか?」
「む?ハウリア族の者なら数名、フェアベルゲンにいるぞ。聞いているかもしれないが、襲撃があってな。帝国が去ったあとから数名常駐するようになったんだ」
「なるほど、それはよかった。じゃあ、さっさとフェアベルゲンに向かうとするか」
俺の言葉にハジメたちも頷き、ギルに案内されてフェアベルゲンに向かった。
その道中、意外にも見知らぬ人間の混じった俺たちに以前のような敵意や警戒心は向けられなかった。ハジメが育てたハウリアに助けられたからか、長老衆から何か言われているのか、そこまではわからないが、揉めないのならいいことだ。
そして、フェアベルゲンにたどり着いたのだが、予想にたがわず大きく様変わりしていた。
「ひどい・・・」
誰かがつぶやいたように、本当にひどい有様になっていた。
まず、威容を示していた門は崩壊しており、残骸も処理されずに放置されていた。
中に入れば、以前は幻想的で自然の美しさに満ちていた木と水の都は、そのあちこちが破壊されており、木の幹で出来た空中回廊や水路もボロボロに途切れてしまって機能を果たしていなかった。
それに、フェアベルゲン自体の雰囲気も暗く、どこか冷たい空気が流れているようにも感じた。
その時、通りがかった一人がアルテナたちを見つけ、信じられないといった表情で硬直した。
が、それも一瞬で、すぐに喜びを爆発させるようにして駆け寄ってきた。
途中、人間である俺たちに気づいて表情をこわばらせるが、すぐに俺たちによって助けられたということが伝えられ、わずかに警戒心を残しながらも抱き合って喜びをあらわにした。
しだいに、俺たちを囲む輪は大きくなっていき、気が付けば周囲はフェアベルゲンの住人で埋め尽くされていた。
しばらくすると、不意に人垣が割れ始めた。その先には、フェアベルゲンの長老衆の一人であるアルフレリック・ハイピストの姿があった。
「お祖父様!」
「おぉ、おお、アルテナ!よくぞ、無事で・・・」
アルテナは目の端に涙を溜めながら、一目散に駆け出して祖父であるアルフレリックの胸に勢いよく飛び込んだ。もう二度と会えることはないと思っていた家族の再会に、周囲の人々も涙ぐんで抱きしめ合う2人を眺めている。
しばらく抱き合っていた2人だが、そのうちアルフレリックは、孫娘を離し優しげに頭を撫でると、俺たちに視線を転じた。その表情には苦笑いが浮かんでいる。
「よっ、久しぶりだな」
「・・・あぁ、とんだ再会になったな、峯坂ツルギ、南雲ハジメ。まさか、孫娘を救われるとは思いもしなかった。縁というのはわからないものだ・・・ありがとう、心から感謝する」
「言っておくが、俺たちは送り届けただけで、実際に助けたのはハウリア族だ。礼はハウリア族に言えよ。俺たちはここにハウリア族がいると聞いて来ただけだしな」
「そのハウリア族をあそこまで変えたのもお前さんたちだろうに。巡り巡って、お前さんたちのなした事が孫娘のみならず我らをも救った。それが事実だ。この莫大な恩、どう返すべきか迷うところでな、せめて礼くらいは受け取ってくれ」
「まぁ、言葉だけは受け取っておくさ。ていうか、ハウリア族を改・・・鍛えたのはハジメだし」
そう言いながらハジメの方を振り向くと、ハジメは困ったように頬を掻きつつも肩をすくめていた。その様子を、ユエたちが微笑ましそうに見ている。
まぁ、天之河はだいぶ複雑そうな表情をしていたが、放っておこう。
「それはそうと、ハウリア族はどこだ?」
「あぁ、それなら、タイミングが悪かったようだ。ちょうど都の外に出ているようでな、すぐに戻ってくると思うが・・・」
「なら、少し待たせてもらってもいいか?さっきから、うちの癒し手がそわそわしているからな。待たせてもらう代わりと言ってはなんだが、見返りはでかいと思うぞ?」
ついさっき樹海を盛大に再生したというのに、まだ再生し足りないのか、こいつは。
「? よくわからんが、待つくらいで見返りなんぞ求めんよ。我が家に招待しよう。ハウリア族が戻り次第、知らせを寄こすよう門の者にも言っておく」
ということで、俺たちはアルフレリックの家でくつろぐことになった。
途中、アルテナがハジメを案内するためか、手を取ろうとしたが、シアにぺしっと叩き落とされてしまった。
なにやら森人族のお姫様とバグ兎が火花を散らしているが、俺は見て見ぬふりをした。
ハジメに視線を向けられて香織が抱きつこうとして、それをユエが阻止して、こちらでもバチバチと火花を散らすことになったが、見なかったことにした。
その横では、ティオが谷口に疎外になる快感を教えようとしていたが、気づかないふりを・・・ダメだ、スルーしきれない。
「・・・ほんと、こいつらと一緒にいると、どこにいても退屈しないなぁ」
「まぁ、賑やかなのはたしかよね」
ちなみに、アルフレリックの家でお茶をごちそうになっていた時、ハジメの周りで世話を焼こうとしているアルテナを見て、アルフレリックはなんとも難しそうな顔をした。とりあえず、あとでそのことに関して話でもしておこうか。
とりあえず、俺が主にアルフレリックと話し合ってある程度の近況を共有していると、窓の外から香織が銀翼を羽ばたかせて窓からやってきた。今、俺たちがいる部屋は、地上から10mくらいの高さにあるのだが、入り口は下にあるはずなんだがな。
「休憩か?」
ハジメが問いかけると、香織は首を振った。
「ううん。外傷がある人はみんな癒したよ。あと、門も含めて都の中心周辺は全部復元できたよ。練習にもなるし、いっそ飛び回りながら他の場所も全部直しちゃおうと思ったんだけど・・・」
珍しく、なにやら煮え切らない様子の香織だが、よく耳を澄ませると、窓の外から「香織様!」という熱烈な声が聞こえてきた。まさかと思ってハジメとアルフレリックと共に窓の外を確認したところ、案の定というか、多数の亜人族が顔を紅潮させて、興奮気味に香織を称えていた。
それに、まさかとは思うんだが、
「・・・なぁ、長老衆のメンバーがいる気がするんだが、気のせいじゃないよな」
「・・・ゼルにグゼ。あいつら何をしとるんだ」
どうやら、気のせいではなかったらしい。そんなんでいいのか長老衆。
香織はどうやら、この熱気にちょっと怖くなって逃げてきたようだ。アルフレリックが、頭痛をこらえるように眉間を揉んでいる
にしても、なんだか同じ光景を見たことがあるような気が・・・あぁ、あれか、アンカジか。神秘さで言えば、今の方が上だろうけど。
とりあえず、ハジメが香織の手を握って部屋の中に入れると、今度はドアの向こうから地響きが聞こえてきた。
またまさかと思いながら扉の方を振り向いたと同時に、その扉がズバンッと勢いよく開かれた。扉にひびが入ったのを見て、アルフレリックが悲しそうな表情をしたが、気にしないことにした。
「ボスゥ!!兄貴ィ!!お久しぶりですっ!!」
「お待ちしておりましたっ!ボスゥ!!兄貴ィ!!」
「お、お会いできて光栄ですっ!Sir!!」
「うぉい!新入りぃ!ボスと兄貴のご帰還だぁ!他の野郎共に伝えてこい!30秒でな!」
「りょ、了解でありますっ!!」
飛び込んできたのは、やはりハウリアの男女数名だった。部屋に入ってからは、ビシッ!と直立不動で見事な敬礼を決めた。
ただ、あまりの剣幕に、予想できていたはずの天之河たちが思い切りお茶を噴き出していた。
ていうか、なにやら見覚えのない顔もいるんだが。まさか、またあれから増えたのか?新入りとか言ってたし。本当に、いらんことをしてくれたな、ハジメは。
「あ~、うん、久しぶりだな。取り敢えず、他の連中がドン引いているから敬礼は止めような」
「「「「「「「Sir,Yes,Sir!!!」」」」」」」
樹海全体に響けと言わんばかりに張り上げた俺たち(主にボスであるハジメ・・・だと思いたい)への久しぶりの掛け声に、とても満足そうなハウリア族と、初めて経験した本物の掛け声に「俺達もついに・・・」と感動しているハウリアでない兎人族たち。
きっと、俺たちがいない間にも、ハー〇マン方式で罵声が飛び交ったんだろうなぁ・・・。
「ここに来るまでにパル達と会って大体の事情は聞いている。中々、活躍したそうだな?連中を退けるなんて大したもんだ」
「「「「「「きょ、恐縮でありまずっ!!」」」」」」」
ハジメの賞賛に、最後が涙声になっているのが、微妙に反応に困る。
それはさておき、パル君からの伝言を伝えた。内容としては、カムたちが帝都への侵入したらしい情報をつかんだことと、自分たちも侵入するつもりであること、あとは応援の要請だ。
「なるほど・・・“必滅のバルドフェルド”達からの伝言は確かに受け取りました。わざわざありがとうございます、ボス」
「・・・・・・なぁ、お前も・・・二つ名があったりするのか?」
伝言を伝えたハジメが、まさかと思いながらも問いかけた。万一、気のせいかもしれないという淡い期待を抱いていたのかもしれないが、
「は?俺ですか?・・・ふっ、もちろんです。落ちる雷の如く、予測不能かつ迅雷の斬撃を繰り出す!“雷刃のイオルニクス”!です!」
「・・・そうか」
やはり、ハウリア族は手遅れだった。もうどうしようもねぇな、こいつら。
とりあえず、俺が気を取り直してイオ君に必要なことを尋ねる。
「それはともかくだ。ハウリア族以外のやつらにも訓練させていたみたいだが、今、それくらいいるんだ?」
「・・・確か・・・ハウリア族と懇意にしていた一族と、バントン族を倒した噂が広まったことで訓練志願しに来た奇特な若者達が加わりましたので・・・実戦可能なのは総勢122名になります」
122人か・・・ずいぶんと増えたな。もはや中隊規模じゃないか。いや、あの時見た戦いを考えれば、大隊クラス、連隊クラスの戦果も出せるだろう。イオ君の出した数には、ハジメやユエたちも驚いていた。
だが、別にただ規模を聞いただけではない。
俺はいったん、ハジメの方を振り向いて問いかける。
「なら、どうする、ハジメ?」
「そうだな、それくらいなら全員一度に運べるな・・・イオ、ルニクス。帝都に行く奴等をさっさと集めろ。俺が全員まとめて送り届けてやる」
「は?はっ!了解であります!直ちに!」
一瞬、何を言われたのかわからなかったイオ君だが、すぐに俺たちが帝都に同行するという意図に気づき、敬礼を決めてから他のハウリア族を呼びに急いで出て行った。
イオ君は、あくまで俺たちは大迷宮の攻略に来ただけなので、まさか手を貸してくれるとは思っていなかったのだろう。
そして、驚いていたのはイオ君だけではない。むしろ、ハジメの隣にいたシアが最も驚いていた。ウサ耳をピンと立て、目を丸くしてハジメを見ている。
まぁ、あくまで決定を出したのはハジメだし?べつに俺が尋ねたことを素で気づいていないことなんて気にしていない。それは香織で慣れたし。
「ハ、ハジメさん・・・大迷宮に行くんじゃ・・・」
「カム達のこと気になってんだろ?」
「っ・・・それは・・・その・・・でも・・・」
そう、俺がイオ君に質問し、ハジメに尋ねたのは、シアがどう見てもカムたちのことが気になっていたからで、ハジメもそんなシアを気にしていたのをわかっていたからだ。
もちろん、俺たちの目的が大迷宮であるのに変わりはないし、カムたちのことも自己責任ではある。だから、シアはハジメについて行くと決めていたのだろう。
だが、それでも実の親のことだ。やはり完全に割り切ることができないでいた。家族を心配する気持ちは自然と沸き上がってくるものだから、当然と言えば当然だろう。
それに、家族を憂いて笑顔を浮かべることができないでいたシアは、俺でもちょっと見ていられなかった。俺がそうなら、ハジメはなおさらだろう。
もっと言えば、最初のハジメならたしかにカムたちのことは気にせずに大迷宮に向かっただろうが、今のハジメはシアのことをそれなり以上に大切に想っている。だから、シアのために自らの全力を振るうのだ。
そのことをハジメの口から聞かされ、自らの気持ちを吐露したシアの表情は、まさに恋する乙女そのものだった。
「・・・シアのやつ、ずいぶんと喜んでいるな。まぁ、ここ最近はどことなく気張っていたし、ある意味ちょうどいい機会だったか」
「そうね。最初はライバルはユエだけだったけど、最近はすごい増えてきたし」
「たしかにな。だが、惚れた男からあんなことを言われたのだ。うれしいに決まっている」
そんなハジメたちのやり取りを、俺とティア、イズモは一歩引いたところから眺める。
ちなみに、俺たちもハジメの方針に異を唱えたりはしない。これだってハジメのいい変化には違いないのだから、わざわざ止める理由もないだろう。それに、俺たちだって仲間のために行動するのはやぶさかではない。ここは1つ、シアのためにひと肌脱ぐとしよう。
「・・・やっぱり、仲間のためなら戦うのか・・・」
そんな中、天之河の方からそんな呟きが聞こえた。
ちらっと見てみれば、今の天之河はどこか感情を抑えているような、苛立ったような様子だった。
・・・さて、帝国は亜人族の奴隷が最も多いところだ。そこのバカ勇者には気を付けた方がいいかもしれない。
「そういえば、なんで峯坂君はハウリアの人から“兄貴”って呼ばれているのかしら?」
「いや、ハジメが指導した直後のハウリア族は今よりも違う意味でさらにひどかったから、その責任をハジメにとらせて、かつ俺が説教したんだが、そのせいだな」
「・・・なんというか、峯坂君は苦労人なのね」
「八重樫。それ、ブーメランだぞ?いやまぁ、否定はしないが。たいていハジメの尻拭いとかめんどくさがってやろうとしない話し合いとかは俺がしてるし」
「・・・お互い、親友には苦労するわね」
「・・・本当にな」
ハウリア族から“兄貴”呼びされている理由を聞き、苦労人同士、どことなく距離が縮んだツルギと雫の図。
「・・・あの2人、また距離が縮んでいないかしら?」
「・・・これは、そう遠くないうちに展開が進みそうだな」
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さて、次からは帝国に入りますね。
今のところ、ツルギによる勇者()滅多切りを予定していますので、アンチ勇者()の方はお楽しみに。
ちなみに、ここ最近、いろいろなスマホゲーでリゼロとか盾の勇者みたいなありふれ作品のコラボが多くなっている気がするので、ありふれもどこかとコラボしてほしいなと切に願っている自分がいます。
もしでたら、今やっているゲームを消して乗り換えるまでありますし。(容量の関係上、今のところ1個しかできないんですよね。androidは容量がクソ雑魚ナメクジなのがどうも・・・)