二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

74 / 186
帝都にて

雑多。

ヘルシャー帝国の帝都を一言で表すなら、まさにこれだろう。

徹底的に実用性を突き詰めた建物が並んでるかと思えば、後から建物を継ぎ足したような奇怪な形の建物もある。

ストリートは区画整理なんぞ知らねぇと言わんばかりに入り乱れ、あちこちに裏路地へと続く入り口があった。

そして、街のどこもかしこも喧騒で溢れかえっており、粗野ながらも誰もが自由にやっているという感じで、かなりにぎやかだ。

だか、よくも悪くもにぎやかであって、

 

「おい、おまえ・・・ぐぺっ!?」

 

今も、俺たちにニヤニヤしながら近寄ってきた男をハジメが吹き飛ばしたところだ。

このヘルシャー帝国は傭兵団が興した新規の国で、実力至上主義を掲げた国だ。

そのせいというか、街の中は戦闘者や傭兵などで溢れかえっており、多くの美少女を連れて目立っている俺たちに邪な感情を抱いて近寄ってくる輩が後を絶たない状態だ。

ただ、男はそこそこ派手に吹き飛ばされたが、それを気にする者は周囲に誰もいない。これくらいのケンカなら日常茶飯事ということか。だから、俺たちもあまり遠慮しなくてすんでいる。

 

「うぅ、話には聞いていましたが・・・帝国はやっぱり嫌なところですぅ」

「うん、私もあんまり肌に合わないかな・・・ある意味、召喚された場所が王都でよかったよ」

「まぁ、軍事国家じゃからなぁ。軍備が充実しているどころか、住民でさえ、その多くが戦闘者なんじゃ。この程度の粗野な雰囲気は当たり前と言えば当たり前じゃろ。妾も住みたいとは全く思わんがの」

「そうね。なんだか、落ち着かないわ」

「よくもまぁ、ここに住もうと思える者がいるな」

 

どうやら、女性陣にはあまりお気に召さなかったようで、ユエもシアたちの言葉に頷いている。

ハジメや俺もだが、天之河や坂上はそこまで嫌いな表情ではないが、雫は警戒心をかなり上げているし、谷口もそんな八重樫にしがみついている状態だ。

俺としては、退屈しないんだろうなぁ、といった感じだし、ハジメもあまり表には出していないが、どこか楽しんでいるように見えなくもない。まぁ、向かってきた奴を殴り飛ばしても何も言われないのはここくらいだろうし、遠慮する必要があまりないという点ではそうなるのもわからないでもない

とはいえ、天之河たちは本気で気に入っているというわけではないし、女性陣が苦手にしている理由は他にもある。

それは、王都にはなかったもの。

 

「シア、あまり見るな・・・見ても仕方ないだろう?」

「・・・はい、そうですね」

 

嫌でも目に入ってしまうもの。それは、亜人族の奴隷だ。

弱肉強食を掲げ、使えるものはなんでも使う帝国は奴隷売買が非常に盛んだ。

今歩いていても、値札付きの檻の中に亜人族の子供がいる。そう遠くないうちに、過酷な労働を強いられることになるだろう。

そんなシアを、ユエがギュッと手を握ったりハジメが頬をムニムニすることで落ち着かせている。そのおかげで、シアはなんとか平静を保てている。

それより、ある意味シアよりも問題なのが、

 

「・・・許せないな、同じ人なのに・・・奴隷なんて」

 

ギリっと歯ぎしりし、今にも突撃しそうになっている天之河だ。

別に、突撃したら他人の振りをしてもいいが、できるだけ騒ぎは起こしたくない。

 

「言っておくが、今の目的はシアの家族の安否だ。余計な真似はするなよ」

 

そんな天之河に、俺があらかじめ釘を刺しておく。

どちらかと言えば八重樫の方が適任なんだろうが、必要以上に八重樫には頼らないようにしておきたい。それに、今まで鍛錬で散々しごいてきたおかげで、多少の上下関係はできている。気休め程度だが、効果がないわけではない。

現に、俺の忠告に納得できないというような表情をしながらも、渋々頷いた。

 

「そう言えば、雫ちゃんって皇帝陛下に求婚されたよね?」

「・・・そう言えば、そんな事もあったわね」

 

俺の忠告で若干微妙な空気になったのを察したのか、香織が話題を振ってきた。当の本人である八重樫は、どう見ても思い出したくないといった様子だが。

ユエたちが「ほぉ~」とニヤニヤした視線を向けたが、八重樫はさらに顔を顰め、隣の天之河も渋い表情になる。

どうやら、皇帝陛下本人も嫌われてしまっているようだ。

 

「そんなことより、峯坂君。具体的にどこに向かっているの?」

 

これ以上この話をしたくなかったのか、今度は八重樫が俺に話題を振ってきた。

そういえば、シアの家族を助けるにあたってどうするか、八重樫たちには話していなかったな。

 

「まずは、冒険者ギルドに行って情報を集める。俺とハジメの“金”の立場を利用すれば、ある程度の情報は集まるだろう」

「・・・峯坂君は、彼らが捕まっていると考えているの?」

「それを確かめるための情報収集でもあるが、俺はそう考えている。ただ隠れているだけなら何も音沙汰がないのは不自然だし、あんなレア兎をほいほい殺すとも思えないからな」

 

今の帝都は魔人族の襲撃のことがあって、厳戒態勢と言わないまでも、パル君たちが中に入れないくらいには異常なレベルの警備体制が敷かれている。それでも、ハジメの訓練を受け、自主訓練も欠かさなかったカムたちなら、外に伝言を送るくらいはできるだろう。

それすらできていないと言うなら、どこかに捕まっていると考えた方が妥当だ。

それに、強者への関心が強い帝国なら、“戦う”兎人族という特異な存在に興味を持たないはずがない。ここの皇帝の気質は、香織や八重樫から聞いてだいたいの察しはつけている。

俺が考えている通りの皇帝なら、あの強さの秘密を聞き出そうとでもしているのだろう。

とはいえ、証拠は何もないから、冒険者ギルドでカムたちが捕まっている場所の見当をつけて、助け出してから話を聞いた方がいいだろう。

だが、俺のカムたちが捕まっているという推測に、シアが暗い表情でうつむく。

そんなシアを、ハジメが頬をムニムニして慰める。今のハジメのムニムニが、シアの最近のお気に入りだったはずだ。

 

「安心しろよ、シア。俺もツルギの推測は正しいと思うし、捕まっているなら取り返せばいいだけだ。いざとなれば、俺達が帝都を灰燼にしてでも取り戻してやる」

「ん・・・任せて、シア」

「ハジメさん、ユエさん・・・」

 

励ましの言葉というには、かなり物騒な内容だが。

 

「いやいやいや、灰燼にしちゃダメでしょう?目が笑っていないのだけど、冗談よね?そうなのよね?お願いだから冗談だと言って!」

 

苦労性の八重樫が、顔を青くしながらツッコミを入れるが、そんな八重樫に香織が後ろから肩をたたいて、

 

「雫ちゃん、帝都はもう・・・」

「諦めてる!?香織、あなた治療師でしょう!?放っておけない!ってフェアベルゲンの人たちを癒して回ったばかりでしょ!なんで諦めちゃったの!?」

 

どうやら、香織の心は思っていたよりもやさぐれていたらしい。魂魄魔法でケアした方がいいだろうか。

 

「こうなったら、峯坂君!」

 

劣勢だと判断したのか、今度は俺に加勢を求めるが、

 

「ほっとけ。どうせ止まらねぇし、手を出した帝国が悪かったということでいいだろ」

「あなたもそっち側なのね!!」

 

だって、本気のハジメを止めるなんて不可能だし。

そんなこんなでしばらく歩いていると、また雰囲気の違う場所にでてきた。

あちこちの建物が崩壊していたり、その瓦礫が散乱していたりする。

周囲の話を聞くと、どうやらここが魔人族の魔物が現れて暴れた場所らしい。その魔物はコロシアムで管理されていたものが突然変異し、後手に回った帝国はいいように蹂躙されたらしい。

その混乱に乗じて、魔人族は帝国最強の証である現皇帝陛下を殺害しようとしたのだが、逆に返り討ちにあってしまった、ということだ。

魔物の方も、皇帝陛下が直接指揮をとることでなんとか討伐したようだが、様子を見るに代償は大きかったようだ。

そして、崩壊してしまったコロシアムの再建や瓦礫の撤去のために、多くの亜人族の奴隷が駆り出されていた。帝都にもたらされた人的・物的被害のしわ寄せは誰よりも亜人族に来ているようだ。奴隷の亜人族の誰もが、帝国兵の監視と罵倒の中で暗く沈みきっている。

いくら身体能力が高い亜人族とは言え、ここまで肉体を酷使し続ければ倒れる者もでてくるだろう。

そう考えていると、俺たちから少し離れたところで犬耳犬尻尾の10歳くらいの少年が瓦礫に躓いて派手に転び、手押し車に乗せていた瓦礫を盛大にぶちまけてしまった。足を打ったのか蹲って痛みに耐えている犬耳少年に、監視役の帝国兵が剣呑な眼差しを向け、こん棒を片手に近寄り始めた。何をする気なのかは明白だ。

そして、ここにそんなことを許せない正義の味方がいるのだが、

 

「おい!やめっ・・・」

「ハジメ」

 

天之河が一歩踏み出す前に俺がハジメに声をかけ、さらにその前にハジメが非殺傷弾を放って帝国兵を躓かせた。

盛大に転んだ帝国兵は顔面を瓦礫にぶつけ、ダラダラと鼻血を流しながら気絶していた。それを周りの帝国兵が嫌そうにしながらもどこかへ連れて行き、なにが起こったのかわからない犬耳少年は瓦礫を再び手押し車に戻し、運搬を再開した。

 

「面倒事に首を突っ込むのは構わないが、俺達に迷惑が掛からないようにしろよ?」

「っ・・・今のは南雲が?」

 

呆然とした天之河に、ハジメが声をかける。

天之河の確認には軽く肩を竦める程度にとどめたが、なにやら天之河の中の変なスイッチがオンになっており、眉をしかめながらハジメに話しかける。

 

「迷惑って何だよ・・・助けるのが悪いっていうのか?お前だって助けたじゃないか」

「どちらかというと、お前が起こす面倒事を止めたという方が正しいけどな。こんなところで帝国兵に突っかかっていったら、わらわらとお仲間が現れて騒動になるだろうが」

「こっちはあくまで、人探しに来てるんだ。余計な騒ぎを起こすなよ。どうしてもやるって言うなら、バレないようにやるか俺たちから離れたところでやってくれ」

 

ハジメの言葉に、俺が捕捉を加える。

今の俺たちの目的は、あくまでカムたちの安否の確認、または救出なのだ。こんなところで騒ぎを起こしたくはない。

だが、天之河は納得していないようで、倫理やら正義の価値観を訴え始めた。

 

「お前たちは、あの亜人族の人達を見て、何とも思わないのか!見ろ、今、こうしている時だって、彼等は苦しんでいるんだぞ!峯坂も!警察官の息子だっていうなら、あれが許せないんじゃないのか!」

 

どうやらこいつは、警察官を正義の味方かなにかだと勘違いしている本物のバカらしい。こいつに現代社会や倫理について学ばせてくれないかな。

とりあえず、俺にまで飛び火してきたから、ここで天之河を諭しておくことにしよう。

 

「その警察官の息子からの意見だが、ここじゃむしろ、お前のやろうとしたことの方が犯罪だ」

「なっ、どういうことだ!」

「帝国、ていうかこの世界では、奴隷に関する法律が制定されている。ここじゃあ奴隷ってのは誰かしらの“所有物”であり、それに手を出すってことは“窃盗”あるいは“器物損壊”に当てはまることになるぞ」

「そ、そんなの屁理屈・・・」

「屁理屈言ってんのはお前の方だ、バカ。ここでお前の価値観が通じると思うなよ」

 

こいつは、大多数の人間が正しいと思うことが絶対だと考えているが、その大多数はあくまで争いとは縁のない、平和な現代日本での話だ。

奴隷制度自体、一昔前の戦争の最中やヨーロッパの大航海時代では、むしろ当たり前のことに近かったのだ。時代背景的にも、このトータスではそれにあたる。

平和ボケした日本人の感性など、ここでは鼻で笑われるのがせいぜいだろう。

 

「それにな、ここでお前が『奴隷を開放しろ』とか言って、それが実行されたとしても、そう長くは続かない。せいぜい、5年程度で元に戻るだろう」

「ど、どうしてそんなことが言えるんだよ!」

「帝国で奴隷業が盛んなのは、この国の理念が“弱肉強食”だからだ。奴隷ってのも、“弱者は強者に従え”って考えに基づいている。逆に言えば、亜人族が帝国に強者であることを示さない限り、帝国は亜人族の奴隷化をやめはしない」

「だったら・・・」

「だが、それも難しいだろう。いくら亜人族の方が身体能力が高くても、魔力というアドバンテージがある限り、決して勝つことはできない。それに、奴隷をやめさせるほどの説得力は皇帝でも倒さない限り認められないだろうが、魔人族の魔物にいいようにやられたって時点で厳しいな」

 

フェアベルゲンでは魔人族の使役する魔物にいいようにやられ、蹂躙されたが、帝国は相応の被害を受けながらも討伐し、襲い掛かってきた魔人族を返り討ちにした。この時点で、実力の差があるというものだ。

帝国の実力至上主義は、建国から続いている価値観だ。たかだか演説1つで覆るほど、浅いものではない。天之河が吠えたところで、戯言だと切り捨てられるだろう。

“それでも”と言うなら、帝国そのものと敵対する覚悟と亜人族の奴隷を二度と禁止することを確約させる覚悟が必要だ。でなければ、ここで助け出したとしても、帝国が報復やさらなる亜人族捕獲活動が激化することになる。天之河には、それがわかっていない。

俺の言葉に天之河は納得できないといった表情になるが、俺が睨むことで無理やり黙らせる。

 

「・・・なんか、思いの外たんぱくだな、ツルギ」

 

すると、意外なことに、ハジメの方からそんな言葉を投げかけられた。

 

「さすがに、嫌悪感の1つくらいは出しそうな気はしたんだが」

「まぁ、さすがに女子供に思うところがないわけじゃないが、奴隷制度そのものを非難するつもりはない。地球でも昔にあったこと・・・いや、たしか今でも残っている地域があったか?宗教かなんかであった気がするな」

 

あくまで宗教による身分階級として、奴隷の地位があるだけだったはずだが。

つまりは、奴隷制度自体は、長い歴史から見れば割と珍しいことではないのだ。強者が弱者を屈服させ、いいようにこき使うというのは、自然な流れでもある。今でも、そんな輩がいるにはいるわけだし。

戦争時代ならなおさら、植民地にした原住民を労働に駆り出すなんてことは、列強のどこもやっていたことだ。

それを考えれば、そこまで嫌悪感を丸出しにするほどではない。

ミュウの時は、あくまで明らかな違法であったし、ここでも酷使されてはいるが、最低限の人権は守られているだろう。

というわけで、俺はそこまで奴隷に関してあれこれ言うつもりはない。

それに、フェアベルゲンの戦力ならたしかに太刀打ちできないだろうが、あいつらならあるいは・・・まぁ、考えたところでしょうがないことではあるか。

あぁ、そうだ。

 

「それとな、天之河。俺たちはあくまでお前たちの“同行”を“許可”しただけだ。余計なことをするって言うなら、問答無用で王国にたたき返すからな」

 

俺の最後の言葉に、天之河はわかっているのかいないのか、歩き始めた俺の背中を睨んで立ち止まっているが、八重樫が諭したことで渋々ついてきた。

・・・マジで、このバカだけたたき返したいな。俺が面倒なだけだし。




「考えてみれば、社畜も社会の奴隷って言い方ができるよな」
「あぁ、最近だと、何でもかんでも奴隷って言葉を使ったりするよな」
「・・・ん。それだと、私はハジメの愛の奴隷?」
「いや、俺がユエの愛の奴隷だな」
「ハジメ・・・」
「ユエ・・・」
「いや、ハジメの場合はユエの尻に敷かれているだけだろ」

突然いちゃつき始めたハジメとユエに、ツルギが冷静にツッコミを入れるの図。

「それだと、私はツルギの・・・」
「ティアは奴隷なんかじゃない。俺のカワイイ恋人だよ」
「ツルギ・・・」
「あなたたちもいちゃついてるんじゃないわよ!」

~~~~~~~~~~~

今回、イズモさんの出番が少なかったなぁ。
まぁ、原作でもティオの出番がほとんどなかったし、これならセーフですかね?
考えてみれば、ティオの方がよっぽどハジメの奴隷(自称)ですね、これは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。