その日の深夜、俺とティア、イズモ、ティオ、香織は他のハウリア族の面々とともに帝都から少し離れた岩石地帯で待機していた。
今頃、ハジメ、ユエ、シアは捕まったカムたちを助けに、勇者パーティーは陽動のために暴れている。
とはいえ、俺もただ待ちぼうけしているわけではない。
「・・・よし、ハジメ、罠や警報の類はあらかじめ解除しておいた。巡回に来ている兵士もいないから、問題ないはずだ」
『あぁ、わかった』
「八重樫、こっちの準備はできた。陽動は頼んだぞ」
『・・・了解したわ』
こうしている今にも、俺は現地の状況を観察し、指示を出したり罠の解除などの援護をしていた。
なぜそんなことができているのかと言えば、ハジメに別途で頼んで作ってもらっていた天板型アーティファクト・フリズスキャルヴによるものだ。
このアーティファクトはブリーシンガメンと連動しており、俺が発動させたブリーシンガメンと魔力を通して接続することで、より広範囲の活動を可能とし、より幅広い作業を行うことができる。
ただ、そこそこ大がかりなものなので携行はできないが、今のような状況で使うにはぴったりだ。
今は、ハジメたちのところにトカゲ型とクモ型を、八重樫たちのところに鳥型のものを放っており、作業と念話石を通しての指示をこなしている。
ちなみに、なぜ八重樫に念話石を渡したのかと言えば、現場で最も頭が回る人間だからだ。あの勇者(笑)に渡して指示を出したところで、素直に従ってくれるとは考えにくいし。
というわけで、ハジメたちの方の準備が終えたのを確認してから、八重樫たちにゴーサインを出した。
天之河の天翔閃(手加減)で奴隷監視用の詰所の外壁を破壊したところで、今度はハジメにゴーサインを出した。
俺がトカゲ型ブリーシンガメンでだいたいの罠や警報類はあらかじめ解除したこともあって、ハジメたちはすいすいとカムたちがいるという牢屋に向かった。
そして、苦も無く情報通りの場所に着いたのだが・・・
『ボスは容赦ないからな!』
『むしろ鬼だからな!』
『いや、悪魔だろ?』
『なら、魔王の方が似合う』
『おいおい、それじゃあ魔人族の魔王と同列みたいじゃないか。ボスに比べたら、あちらさんの魔王なんて虫だよ、虫』
『なら・・・悪魔的で神懸かってるってことで魔神とか?』
『『『『『それだ!』』』』』
『・・・随分と元気だな?この“ピー”共・・・久しぶりだってのに中々言うじゃないか?えぇ?』
『『『『『・・・・・・』』』』』
ハジメの肩に乗せたクモ型ブリーシンガメンからの映像を見る限り、なんというか、ずいぶんと元気だった。
話題にされたハジメの心境は、話しかけたときの内容と声音でお察しというやつだ。
「・・・なんつーか、予想以上に予想以上というか、なんというか・・・だめだ、なんて言えばいいのかわからん」
「・・・これが、ハジメの鍛錬の賜物なのね」
「・・・あらためて、ツルギ殿の指導がどれだけ良いものかがわかるな・・・」
「・・・これが、ご主人様が鍛えたという兎人族じゃというのか?」
「・・・なんか、兎さんなのに怖いね」
俺の呆れた声に、他の面々は複雑な表情だ。
パル君たちはと言えば、「さすがだぜ!」みたいな表情になっている。なにがさすがなのかは考えないようにしておくとして、
「ん?そういえば、カムがいないぞ?」
『あ?言われてみれば・・・どこにいるかわかるか?』
向こうは向こうで盛り上がっていたようだが、肝心のカムの姿がない。
ハジメが居場所を聞くと、どうやら尋問にかけられているらしく、その部屋の位置まで教えてくれた。
「それじゃあ、ハジメたちは引き続きカムを助けるとして、とりあえず、今いる分はこっちに送ってくれ」
『わかった。ちょっと待ってろ』
そう言いながら、ハジメは鍵型の金属プレートを取り出し、何もない空間に突き出した。ハジメが金属プレートに魔力を注ぐと、突如突き出された部分を中心として波紋が広がり、ぽっかりと穴ができた。
そして、その穴は俺たちの近くにある鍵穴型の物体につながっている。
これも、ハジメが新しく作ったアーティファクト・ゲートキーとゲートホールだ。
この2つのアーティファクトは対になっており、鍵型のアーティファクト・ゲートキーを空間に突き刺して開錠することで、あらかじめ設置しておいた鍵穴型アーティファクト・ゲートホールにつなげ、転移することができるというものだ。
捕まっていた面々は、ハジメの指示にすぐに従い、ためらいなく穴に飛び込んだ。よく訓練された兎たちだ。
一通りでてきたのを確認してから、ハジメがゲートを閉じ、カムがいる場所に向かった。
そして、カムがいる部屋の前にたどり着くと、なにやら中から怒声が聞こえてくる。
おそらく、カムが尋問を受けているのだろう。
その様子を想像したシアの表情が強張るのを見て、ハジメは頷いてドアノブに手をかけた。
のだが、よく耳を澄ませると・・・
『何だ、その腑抜けた拳は!それでも貴様、帝国兵か!もっと腰を入れろ、この“ピー”するしか能のない“ピー”野郎め!まるで“ピー”している“ピー”のようだぞ!生まれたての子猫の方がまだマシな拳を放てる!どうしたっ!悔しければ、せめて骨の一本でも砕いて見せろ!出来なければ、所詮貴様は“ピー”ということだ!』
『う、うるせぇ!何でてめぇにそんな事言われなきゃいけねぇんだ!』
『口を動かす暇があったら手を動かせ!貴様のその手は“ピー”しか出来ない恋人か何かか?ああ、実際の恋人も所詮“ピー”なのだろう?“ピー”なお前にはお似合いの“ピー”だ!』
『て、てめぇ!ナターシャはそんな女じゃねぇ!』
『よ、よせヨハン!それはダメだ!こいつ死んじまうぞ!』
『ふん、そっちのお前もやはり“ピー”か。帝国兵はどいつこいつも“ピー”ばっかりだな!いっそのこと“ピー”と改名でもしたらどうだ!この“ピー”共め!御託並べてないで、殺意の一つでも見せてみろ!』
『なんだよぉ!こいつ、ホントに何なんだよぉ!こんなの兎人族じゃねぇだろぉ!誰か尋問代われよぉ!』
『もう嫌だぁ!こいつ等と話してると頭がおかしくなっちまうよぉ!』
むしろ、帝国兵がカムの罵倒に悲鳴を上げていた。なんか、尋問している帝国兵が哀れに思えてきた。
「・・・ハジメ、そっちは任せた。俺は八重樫たちの方に指示を出すから、ブリーシンガメンはそっちで回収してくれ。あと、こうなった責任はちゃんと取れよ」
『・・・わかった』
俺の一方的な指示に、ハジメは素直に従った。今になって、ちょっと罪悪感が湧いてきたらしい。
これ以上、カムの状況を確認したくなかった俺は、そのまま通信を切り、八重樫たちの方につなげた。
「八重樫、こっちはあらかた終わった。撤収してくれ」
『・・・わかったわ』
「あ。あと、去り際にこんな感じの台詞を頼む」
そう言いながら、俺はフリズスキャルヴを操作し、八重樫の仮面の内側に文章を提示した。
『ちょっと、峯坂君!これって・・・!』
「いいから、はよ読み上げろ」
『くっ、やればいいんでしょ、やれば!』
そう言いながら、八重樫は俺の送った台詞を読み上げてくれた。
ちなみに内容は、簡単に言えば魔人族のせいにするものだ。これで、姫さんや俺たちにしわ寄せがくることはないだろう。まぁ、原案を出したのはハジメだし、ティアにもちゃんと許可をとってある。問題ないだろう。
最終的には、捨て台詞を吐いてそのまま去っていったから、こっちも任務完了ということでいいだろう。
それと入れ違いになるような形で、ハジメたちがゲートによる空間転移で戻ってきた。
すると、ハウリア族の面々が熱狂的に歓迎した。
ある者は肩を叩き合い、ある者はみぞおちを殴ったり、あるいはクロスカウンターを決めたりして互いの生存を喜んでいた。
「・・・いや、喜び方がおかしいと思っているのは、俺だけじゃないよな?」
「・・・えぇ、私もそう思ったところよ」
「・・・一応は無事なのだから、それでいいのではないか?」
微妙と言えば微妙だが、イズモの言う通りではあるだろう。
シアの方も、自分の家族が無事だったことに涙を流し、ユエはそんなシアの頭を撫でて慰めていた。
「まぁ、結果として帝都が地図から消えることはなかったわけだし、めでたしめでたしだな」
実際、カムたちに何かあってシアが悪い意味で泣こうものなら、本当にそうなりかねない。とりあえず、帝都の皆さんは無事だったようだ。
フリズスキャルヴを宝物庫にしまいながら、そんなことを考えていると、ふと後ろから殺気が。
俺はさりげなく手を掲げ、後ろから振り下ろされた見覚えのある黒い刀を片手白羽どりの要領でつかみ取った。
この刀を使っている人物は、俺の知る限り一人しかいない。
「で?なんのつもりだ、八重樫?」
後ろを振り向くと、そこには顔をうつむかせて“黒鉄”を振り下ろした姿のまま固まっている八重樫の姿があった。八重樫は“黒鉄”に力を入れて引き抜こうとしているが、俺もさりげなく魔力で身体能力を強化して離さないようにしてある。
なにやら怒っている様子だが、“黒鉄”は鞘に納めたままの辺り、まだ理性は残っているようだ。だが、力を入れてもビクリともしない“黒鉄”に舌打ちしている。
「・・・ストレス発散のために峯坂君に甘えてみただけよ。大丈夫、私は、峯坂君を信じているわ。そのマリアナ海溝より深い度量で受け止めてくれるって・・・だから大人しく!私に!タコ殴りに!されなさい!」
「なんだ、そんなにピンク仮面は嫌だったのか?八重樫なら気に入ると思ったんだが・・・」
「嘘おっしゃい!あなたたちの意図はわかっているのよ!絶対、悪ふざけと仕返しでしょ!何となく雰囲気に流されたけど!ある意味、自業自得ではあるけれど!1発、殴らずにはいられない、この気持ち!男なら受け止めなさい!」
「んな理不尽な・・・」
どうやら思っていたよりピンク仮面のダメージが深かったらしい。
まぁ、八重樫の言う通り、あの場で拒めばよかっただけの話だから、自業自得であるのはたしかだろうが。それなのに八つ当たりするとは、いったい帝国兵になにを言われたのやら。
「こんのぉ!“奔れ、雷華”!」
すると、八重樫はビクともしない“黒鉄”にしびれを切らしたのか、あるいは信頼から為せる行動なのか、“黒鉄”の機能の1つである放電を起動させた。
とはいえ、俺には効かないが。
「おぉ~、すごいな。本当に発動しているのな」
「ちょっと、峯坂君。電撃を流しているのに、なんで平気なのよ?」
「んなもん、電流の対処法なんて、避雷針だったり絶縁体だったりいろいろあるだろ?今は魔法で絶縁処理しているから、どうってことない。使う機能だって、状況からだいたいは察せられるからな・・・にしても、よくその機能を発動できたな。渡してからお前じゃ使えないってことを思い出したんだが」
「くっ、仕方ないわね・・・今回は引くわ。でも、いつかその澄まし顔を殴ってやる。それと、能力は王国錬成師達の努力の賜物よ」
どうやら、俺が思っていた以上に王国錬成師は優秀だったらしい。あるいは、あれほどの武器を前にしての執念かもしれないが。
「・・・雫ちゃんが八つ当たりするなんて・・・」
「どちらかと言えば、甘えよね」
後ろから、そんな香織とティアの会話が聞こえたが、ここはスルーした。天之河たちが八重樫の態度に目を丸くしていたり、ハジメたちが俺と八重樫のことを面白そうにニヤニヤしながら見ているのも、丸っと無視した。ハジメには死角から超振動付きの指弾をお見舞いしたが。
「ボス、兄貴、よろしいですか?」
すると、ようやくド突き合いを終えたらしいカムが、態度を改めて俺たちの方に歩み寄ってきた。
ハジメもカムの意図を察し、錬成で車座に椅子を用意して、その1つに腰かけてから了承の意を示した。俺も、ハジメが用意した椅子の1つに座ってカムの話を聞くことにする。
「まず、何があったのかということですが、簡単に言えば、我々は少々やり過ぎたようです・・・」
カムの話を要約すると、だいたいはこんな感じだった。
亜人奴隷の補充のためにやってきた帝国兵たちを、カムたちハウリア族はことごとく撃破してきた。
そのことで、帝国兵たちに「樹海には凄腕の暗殺集団がいる」という脅威を前に、正体を確かめるための一計を案じた。
それが、亜人族の奴隷を囮にし、そこに包囲網をしくというものだ。
カムたちは焦りや怒りもあって冷静になりきれず、あっさり嵌まってしまう失態を犯してしまった。
そして、帝国に知られてしまったわけだ。
争いに縁のない愛玩奴隷であるはずの兎人族が、悪鬼羅刹のごとく帝国兵を狩っていたことを。
捕まったカムたちは、連日にわたって取り調べを受けた。向こうの興味は、主に武器の出所やハウリア族が豹変した理由、そしてフェアベルゲンの意図だったという。
「どうやら、我等をフェアベルゲンの隠し玉か何かと勘違いしているようで・・・実は、危うく一族郎党処刑されかけた上、追放処分を受けた関係だとは思いもしないでしょうなぁ」
たしかに、そんな疑いを長老衆が知ったら、全力で首を横に振ることだろう。
話を戻すと、カムたちがいくらフェアベルゲンとは無関係だ、むしろ敵対していると言っても、むしろ国のためにあっさり自分達を切り捨てた覚悟のある奴等だと警戒心を強めただけらしい。
特に、皇帝陛下も何度か尋問に現れたらしく、不敵な笑みを浮かべながら、新しい玩具を見つけた子供のように瞳を輝かせていたという。
まぁ、ここまでは帝国に捕まった話だ。まさか、これで終わりなわけではないだろう。
「で?捕虜になった言い訳がしたいわけじゃねぇんだろ?さっさと本題を言え」
「失礼しました、ボス。では、本題ですが、我々ハウリア族と新たに家族として向かえ入れた者を合わせた新生ハウリア族は・・・帝国に戦争を仕掛けます」
ハジメに促され、カムの口からでてきた言葉は、その場の時が止まったと錯覚するほどの静寂を生んだ。
とはいえ、驚愕しているのは俺とハジメ、カム他ハウリア族以外だ。
ぶっちゃければ、俺もそれを可能性の1つとして考えていたから、そこまで驚きはしない。
だが、他の者はやはり別なようで。
「何を、何を言っているんですか、父様?私の聞き間違いでしょうか?今、私の家族が帝国と戦争をすると言ったように聞こえたんですが・・・」
最初に静寂を破ったのは、シアだった。
シアの戸惑いながらの質問に、カムは肯定するように真っすぐにシアを見つめた。
「シア、聞き間違いではない。我等ハウリア族は、帝国に戦争を仕掛ける。確かにそう言った」
「ばっ、ばっ、馬鹿な事を言わないで下さいっ!何を考えているのですかっ!確かに、父様達は強くなりましたけど、たった100人とちょっとなんですよ?それで帝国と戦争?血迷いましたか!同族を奪われた恨みで、まともな判断も出来なくなったんですね!?」
「シア、そうではない。我等は正気だ。話を・・・」
「聞くウサミミを持ちません!復讐でないなら、調子に乗ってるんですね?だったら、今すぐ武器を手に取って下さい!帝国の前に私が相手になります。その伸びきった鼻っ柱を叩き折ってくれます!」
カムのカミングアウトに、シアは完全に興奮状態になって宝物庫からドリュッケンを取り出した。
どうやら本気で怒っているらしく、普段からは想像できないほどの怒気を放っている。それでもカムは、凪いだ水面のように静かな瞳でシアを見つめ返している。
だが、このままではシアも話を聞こうとはしないだろう。
というわけで、
モフモフ
「ひゃぁん!?だめぇ、しょこはだめですぅ~!ハジメしゃん、やめれぇ~」
いつの間にかシアの後ろに回ったハジメが、シアの尻尾を絶妙な加減でモフモフした。
尻尾をモフモフされても気持ちよくなるシアは、早々に崩れ落ちて熱い息を吐きながら、ハジメの方を睨む。
それにハジメは、今度はシアのウサ耳を優しい手つきで撫で始め、シアは途端に気持ちよさそうに目を細めた。
それでシアは落ち着きを取り戻したようで、申し訳なさそうにカムに反省を示した。
対するカムは、先ほどまでとは打って変わって優しい視線を向けていた。
「ずいぶんと嬉しそうだな」
「えぇ、娘がずいぶんと幸せそうでしたからね・・・ボスにはずいぶんと可愛いがられているようだな、シア?孫の顔はいつ見られるんだ?」
「なっ、みゃ、みゃごって・・・何を言ってるんですか、父様!そ、そんなまだ、私は・・・」
「まぁ、少なくともカムが死ぬ前にはできるだろうな」
「ツルギさんも!何を言っているんですか!」
シアが顔を真っ赤にして俺に噛みついてくるが、ちらちらとハジメを上目遣いで見ている時点で、その内心はお察しというやつだ。他のハウリア族の面々も、ニヤニヤとした笑みを浮かべてシアとハジメの方を見ている。
ずいぶんといい性格になったものだ。それもハジメのせいではあるが。
とりあえず、話を元に戻そう。
「カム、念のために聞くが、俺たちにそれを話したのは、まさか俺たちにも参戦してほしいとかじゃないんだろうな?」
「ははっ、それこそまさかですよ。ただ、こんな決断が出来たのも、全てはボスに鍛えられたおかげです。なので、せめて決意表明だけでもと、そう思っただけですよ」
俺の勘ぐりに、カムは笑いながら否定する。
どうやら、本当に自分たちだけで帝国に戦争を仕掛けるようだ。
シアも、カムたちが力を持って調子に乗っているわけでも、復讐心に燃えているわけでもなく本気で言っているのだと察したようで、表情を悲痛に歪めている。
俺たちとしても、理由が気になるし、ここで話を終わらせはしない。
「理由は?」
「意外ですな。聞いてくれるのですか?てっきり、ボスに関しては興味ないかと思いましたが・・・」
「帝国に戦争を仕掛けた理由がハジメに鍛えられたことにあるってだけなら、たしかに無視するだろうがな・・・」
そう言いながら、俺はハジメに身を寄せるシアに視線を向けた。ハジメの方も、返答を促している。
それを見て、カムも目元を緩めて「なるほど」とうなずいた。
そして、カムは戦争を仕掛けるにいたった理由を話し始めた。
「先程も言った通り、我等兎人族は皇帝の興味を引いてしまいました。それも極めて強い興味を」
帝国は実力至上主義に基づいた国家であり、それもあって強者に対する関心も強い。さらに、弱いものは強いものに従うべきという考えも、皇帝も例に漏れない。
つまり、皇帝が大規模な兎人族狩りを行うというのだ。今までのような愛玩用ではなく、戦闘用として。
カムが言うには、尋問のときに皇帝が自らやってきて、「飼ってやる」などと言ったようだ。
これにカムは皇帝につばを吐くという帝国の歴史でも初めてのことをしたのだが、皇帝は逆に気に入ってしまったらしい。同時に、「すべての兎人族を捕まえて調教してやるのも面白そうだ」とも言ったという。カムの見た限り、これはまず間違いなく本気らしい。
こうなったら、帝国兵は再び樹海に乗り込み、多くの亜人族、特に兎人族を襲うだろう。そして、今のフェアベルゲンではその襲撃に耐え切れず、多くの兎人族が攫われるに違いない。
だが、フェアベルゲンを襲わないことの対価に多くの兎人族の引き渡しを求められたら目も当てられない。文字通り、同族のすべてを奪われることになる。
「ハウリア族が生き残るだけなら、それほど難しくはない。しかし、我らのせいで他の兎人族の未来が奪われるのは・・・耐え難い」
どうやら、カムたちは状況的にかなり追い詰められているらしい。
たしかに、樹海ならハウリア族だけが生き残るのはそれほど難しくはないだろう。だが、他の兎人族はそうもいかない。そして、帝国の求める“強い兎人族”の要望に応えられなかったら、女・子供は愛玩奴隷に、他は殺処分になるのがオチだ。
「だが、まさか本気で100人ちょいで帝国兵に真っ向から戦おうってわけじゃないんだろう?」
「もちろんです、兄貴。平原で相対して雄叫び上げながら正面衝突などありえません。我らは兎人族、気配の扱いだけはどんな種族にも負けやしません」
つまり、暗殺を仕掛けるというわけだ。
気を抜いた瞬間に、闇から刃が翻り首をはねる。兎人族と敵対するには死ぬ覚悟をしなければならない。それを実践し、帝国に恐怖と危機感を植え付けるというわけだ。
もちろん、皇帝や皇族の周囲には万全の暗殺者対策がしてあるだろう。
だから、皇族ではなく皇帝の周囲のに狙いを絞る。昨日今日、親しくしていた者が、日に日に消えていく。
今のところ、ハウリア族にとれる手段はこれしかない。
最終的には、兎人族に対する不可侵条約を結ぶつもりだということだ。
たしかに、十分にえげつない策だし、現実的ではあるだろう。
だが、それだと必然的に時間がかかってしまう。その間に大規模な報復行為に出られる可能性が高く、帝国側が兎人族の殲滅に出るか、それとも脅威を感じて交渉のテーブルに付くか、どちらが早いかという賭けだ。それも、極めて分の悪い。
それでも、やらなければ兎人族の未来は明るくないということなのだろう。
すでに、他のハウリア族の面々も覚悟を決めていた。
「・・・父様・・・みんな・・・」
これにシアは、悄然と肩を落とす。シアも、皇帝が兎人族を逃がしはしないと理解したのだろう。
他の同族を見捨ててハウリア族だけ生き残るか、全員仲良く帝国の玩具になるか、身命を賭して戦うか。それが、今の兎人族に残されている選択なのだから。
「シア、そんな顔をするな。以前のようにただ怯えて逃げて蔑まれて、結局蹂躙されて、それを仕方ないと甘受することの何と無様なことか・・・今、こうして戦える、その意志を持てることが、我らはこの上なく嬉しいのだ」
「でも!」
「シア、我等は生存の権利を勝ち取るために戦う。ただ、生きるためではない。ハウリアとしての矜持をもって生きるためだ。どんなに力を持とうとも、ここで引けば、結局、我等は以前と同じ敗者となる。それだけは断じて許容できない」
「父様・・・」
「前を見るのだ、シア。これ以上、我等を振り返るな。お前は決意したはずだ。ボスと共に外へ出て前へ進むのだと。その決意のまま、真っ直ぐ進め」
カムが、族長としてでも戦闘集団のリーダーとしてでもなく、一人の父親としてシアの、娘の背中を押す。自分達のことでこれ以上立ち止まるなと、共に居たいと望んだ相手と前へ進めと。
シアはこれに泣きそうな表情で顔をうつむけるが、カムはハジメに視線を移し、シアを頼むというようにうなずいた。
後ろでは天之河が再び暴走しそうになったが、それを八重樫が鞘に納めたままの“黒鉄”で殴って止めた。先ほどの件でよほどイライラしているのか、いつになく止め方が乱暴だ。
だが、八重樫の止めるという判断は正しい。俺が帝都で言ったように、これはハウリア族の、兎人族の、そして亜人族の問題だ。俺たちが手を出したら、それこそすべてが台無しになってしまう。
これにハジメは、最初から最後まで無反応を貫いていたが、ため息を吐きながら視線をユエに向けた。対するユエは、何もかもわかっているというように目元を和らげていた。
ついで、今度は俺に視線を向ける。これに俺は、軽く肩を竦めるに留めた。
だが、これで十分だったのだろう。ハジメは小さく笑みを浮かべて、シアに話しかけた。
「シア」
「ハジメさん・・・」
「今回の件で、俺が戦うことはない」
「っ・・・そう、ですよね・・・」
ハジメの言葉に、わずかに抱いた期待は崩れてしまい、再びうつむいてしまった。
後ろでは天之河がさらにわめこうとしたが、八重樫が今度はわき腹に“黒鉄”を当てて電流を流すことで黙らせた。なんか、やけに過激だな。
だが、これはシアの早とちりだ。
「おい、こら、早とちりするな。戦わないが、手伝わないとは言ってないだろう?」
「ふぇ?」
ハジメの言葉に、シアがほっぺをみょ~んと伸ばされながら間抜けな声を出す。カムたちも、ハジメの言葉の意味を図りかねたように困惑した表情で顔を見合わせている。
「今回の件は、ハウリア族が強さを示さなきゃならない。容易ならざる相手はハウリア族なのだと思わせなきゃならない。ツルギが言ったように、この世界において亜人差別が常識である以上、俺たちが戦って守ったんじゃあ、俺たちがいなくなった後に同じことが起きるだけだからな。何より、カムたちの意志がある。だから、俺は一切、戦うつもりはない」
ハジメはそこで、シアの頬を撫でながら視線をカムたちに移した。
「だが、うちの元気印がこんな顔してんだ、黙って引き下がると思ったら大間違いだぞ?」
「し、しかし、ボス・・・なら、一体・・・」
困惑を深めるカムたちに、ハジメはニヤリと不敵な笑みを浮かべて宣言した。
「カム、そしてハウリア族。こいつを泣かせるようなチンケな作戦なんぞ全て却下だ。お前等は直接、皇帝の首にその刃を突きつけろ。髪を掴んで引きずり倒し、親族、友人、部下の全てを奴の前で組み伏せろ。帝城を制圧し、助けなど来ないと、一夜で帝国は終わったのだと知らしめてやれ!ハウリア族にはそれが出来るのだと骨の髄に刻み込んでやれ!この世のどこにも、安全な場所などないのだと、ハウリア族を敵に回せば、首刈りの蹂躙劇が始まるのだと、帝国の歴史にその証を立ててやれ!」
ハジメの気勢に呑まれて硬直し、辺りに静寂が満ちた。ゴクリッと生唾を飲み込む音が、やけに明瞭に響く。
ハジメは、周囲を睥睨しながら、スッーと息を吸い、
「返事はどうしたぁ!この“ピー”共がぁ!」
「「「「「「「「「ッ!? サッ、Sir,Yes,Sir!!」」」」」」」」」
「聞こえねぇぞ!貴様等それでよく戦争なんぞとほざけたなぁ!所詮は“ピー”の集まりかぁ!?」
「「「「「「「「「「Sir,No,Sir!!!」」」」」」」」」」
「違うと言うなら、証明しろ!雑魚ではなく、キングをやれ!!」
「「「「「「「「「「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」」」」」」」」」」
「貴様等の研ぎ澄ました復讐と意地の刃で、邪魔する者の尽くを斬り伏せろ!」
「「「「「「「「「「ビヘッド!ビヘッド!ビヘッド!」」」」」」」」」」
「膳立てはするが、主役は貴様等だ!半端は許さん!わかってるな!」
「「「「「「「「「「Aye,aye,Sir!!!」」」」」」」」」」
「よろしい!気合を入れろ!新生ハウリア族、122名で・・・」
「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」
「帝城を落とすぞ!」
「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAA!!!!」」」」」」」」」」
先ほどまでの困惑はどこにいったのか、ハウリア族たちは熱狂に呑まれたように雄叫びを上げ、帝城落としへの闘志で燃え上がっていた。
ハー〇マン先生をリスペクトしている脳筋はべつにして、すっかり怯えてしまっている女性陣が少し可哀そうだ。
「まぁ、こうなるよな」
「まさか、わかっていたの?」
「なんとなくな。言っただろ?『亜人族が帝国に強者であることを示さない限り、帝国は亜人族の奴隷化をやめはしない』、『皇帝でも倒さない限り認められない』ってな」
「そういえばそうだな・・・それにしても、シア殿はずいぶんと幸せそうだな」
見てみれば、シアは頬を薔薇色に染めて表情を蕩けさせていた。
「まぁ、好きな人からあんなことを言われたらな。ぶっちゃけ、状況にあまり合っていない気はするが・・・それは気にしないとして、明日は大変なことになるな。帝国が」
「今更よね、それ」
「というより、あのお姫様も大変になると思うのだが・・・」
姫さん?せいぜい苦労してもらおう。それに、悪い話ばかりじゃないだろうし。たぶん。きっと。
とりあえず、明日の帝城落としの詳細を詰めたあと、各自明日に備えて休憩することになった。
はてさて、明日はどうなることやら。
「・・・向こうは向こうで楽しんでいるようだな」
「そうね・・・ねぇ、私たちも」
「あぁ。周りには誰もいないしな・・・んっ」
「んむぅ、んちゅ・・・」
翌朝、ハジメとユエが楽しんでいるのをいいことに自分たちも楽しむツルギとティアの図。
「あ、朝からあんなに・・・・!」
「・・・雫殿よ、なにコソコソしているのだ」
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勢いで始めたリクエスト企画で、思いのほかコメントが少なくてちょっと不安になっている作者です。
まぁ、やると言った以上はやりますが、もうちょっとほしいかなぁ、と。
余談ですが、今まででもありふれのアニメを楽しみにしていると言っていましたが、同じくらいにシンフォギアの方も楽しみにしているという。
今、YouTubeでアニメ5期を記念して1期から4期まで期間限定で配信していますからね。
元々オープニングが好きで興味はあったんですが、なかなか見る機会がなかったので、何気にうれしかったんですよね。