二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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帝城にて

俺たちは今、仕込みのためにヘルシャー帝国の帝城に訪れていた。

ヘルシャー帝国の帝城は、帝都の中でありながら幅20mほどの水路に囲まれており、水生の魔物まで放たれている。もちろん、城壁も堅固な物であり、魔法的な防護措置と見張りもしっかりある。

この帝城に入ることができる入り口は巨大な跳ね橋で通じている正門ただ一つであり、そこでは厳しい入城検査が行われている。まず帝城には入城許可証が必要であり、それがないと中に入ることすらできない。さらに、許可証があっても入念な手荷物検査も行われる。相手がたとえ正規の入城許可証を持っている出入りの業者であっても、荷物の中身まで入念に確かめられる。

この通り、生半可な方法では城の中に入ることすらできないのだが、今回はその生半可ではない方法を俺たちは持っている。

俺たちは“神の使徒”であり、さらに天之河は“勇者”だ。それを示せば、突撃訪問でもなんとかなる。まぁ、実態が伴っていないというのは、なんとも滑稽な話ではあるが。

そんなことを考えながら、俺は帝国兵に対応している天之河の様子を見ていた。

とりあえず、やはり“勇者”の名と“神の使徒”の立場は強かったようで、向こうで勝手に納得して上に取り次いでくれた。

そして、待つこと15分。跳ね橋からドタバタと足音が聞こえ、そっちを見てみると大柄な帝国兵が現れた。周りの帝国兵の態度から、それなりの地位にいるようだ。

 

「こちらに勇者殿一行が来ていると聞いたが・・・貴方たちが?」

「あ、はい、そうです。俺たちです」

 

天之河が応対すると、なにやら不躾とも言えるような視線を向けられたが、当人確認のためなら仕方ないと言えば仕方ないだろう。

だが、俺たち、正確にはシアの方に視線が向けられると、何やら目を大きく見開き、次いでいやらしい笑みを浮かべてきた。

それで、俺はこいつの正体をなんとなく察した。

 

「確認しました。自分は、第三連隊隊長のグリッド・ハーフ。既に、勇者御一行が来られたことはリリアーナ姫の耳にも入っており、お部屋でお待ちです。部下に案内させましょう・・・ところで、勇者殿、その兎人族は?それは奴隷の首輪ではないでしょう?」

「え?いや、彼女は・・・」

 

帝国兵・・・グリッドの問い掛けに、天之河はうろたえる。

が、天之河から答えは期待できないと考えたのか、今度はシアに直接視線を向けてきた。

 

「よぉ、ウサギの嬢ちゃん。ちょっと聞きてぇんだけどよ・・・俺の部下はどうしたんだ?」

「部下?・・・っ、あなたは・・・」

 

その質問で、シアも相手が何者なのか理解したらしい。

こいつはおそらく、樹海に入る前にライセン大峡谷でハウリア族を襲った帝国兵の隊長だ。

 

「おかしいよな? 俺の部下は誰一人戻って来なかったってぇのに、何で、お前は生きていて、こんな場所にいるんだ?あぁ?」

「ぅあ・・・」

 

問い詰めるグリッドに、シアは思わず後ずさる。

実力だけならシアの方が圧倒的に上だが、シアの反応は当然と言えるだろう。なにせ、目の前にいるのは大勢の家族を奪ったトラウマそのものだ。

俺としては、向こうには忘れてもらってくれればいろいろと楽だったのだが、さすがに白髪の兎人族は印象に残りやすかったらしい。

だが、今のシアはあの時のように奪われるだけの存在ではない。それに、俺たちがいる。

俺はハジメとサッと目配せし、お互いどうするか決めた。

シアへの慰めと叱責はハジメに任せるとして、俺はグリッドに話しかけた。

 

「なぁ、いつまでくだらないことを聞いてるんだ?」

「いえ、これは・・・」

「俺たちはべつにお前の部下になんて興味はない。どうせ、どっかでへまして死んだだけだろう。あいつらが弱かったから死んだ、ただそれだけの話だ。実力至上主義だって言うなら、弱い部下が死んだ程度で喚くな、みっともない」

「な、なっ・・・」

 

グリッドは俺の言い分に顔を真っ赤にし、口をパクパクさせている。

そこに、今度はハジメたちによって持ち直したらしいシアが口を開いた。

 

「そうですね、あなたの部下の事なんて知ったことじゃないですよ。頭悪そうな方たちでしたし、何処かの魔物に喰われでもしたんじゃないですか?あと、私のことであなたに答える事なんて何一つありません」

「・・・随分と調子に乗ったこと言うじゃねぇか。あぁ?勇者殿一行と一緒にいるから大丈夫だとでも思ってんのか?奴隷ですらないなら、どうせその体で媚でも売ってんだろ?売女如きが、舐めた口を・・・」

「口を閉じろ、下っ端」

 

さすがに聞き捨てならない台詞を吐いてきたので、言い終える前に俺が口をはさむ。

・・・正直な話、最初の方はたしかに「私の初めてをもらってください!」ってしょっちゅう言っていたから、頭から否定する気はないんだけどな、悲しいことに。

 

「何度も言わせないでもらいたいんだけどな、俺たちはお前の部下のどうこうなんて欠片も興味がない。俺たちだって暇じゃないんだ。さっさと道を開けて姫さんのところに案内しろ。それがお前たちの仕事だろう?身の程をわきまえてくれ。それとも、お前が俺たちより強いとでも言うつもりか?部下と同じ道をたどりたくないなら、さっさと職務を全うしろ。それ以外にお前に選択肢はないんだからな」

 

俺の言葉にグリッドは顔を真っ赤にして、目も血走り始めたが、一応は連隊長らしく自制をきかせることができたらしい。部下に案内を促した。

去り際にグリッドが血走った目で俺を睨んでいたが、軽く無視した。立場をわきまえていないのはあいつの方なのだから、いちいち反応する必要もない。

それに、なにやら女性陣がスカッとした表情でいるが、俺としてはどかせる口実と“売女”発言によるハジメの股間スマッシュを避けるために言っただけで、別に進んで嫌味を言ったわけではない。それを知ったグリッドの反応も気になると言えば気になるが、やめておこう。さすがにこれ以上は面倒なだけだ。

ちらりとハジメの方を振り返ると、軽く肩を竦めただけだった。とりあえず、これでよかったらしい。

さて、今度は姫さんと、たぶん皇帝陛下とも顔合わせか。どうなることやら。

 

 

* * *

 

 

「それで?」

 

それが、姫さんの顔を合わせた時の第一声だった。

ついでに言えば、笑顔だが目が笑っていないし声音が冷たい。どう見ても「さっさと説明しろやゴラァ!!」な感じだった。

どうやら、俺が思っていたより仮面戦隊の影響がでかかったらしい。

でもまぁ、遠慮なく本音を話せるくらいには打ち解けていると捉えることにしよう。矛先が誰であっても。

 

「帝都での茶番といい、一体全体どうして皆さんがここにいるのですか?納得の出来る説明を求めます。ええ、それはもう強く強く求めます。誤魔化しは許しませんからね!特に、南雲さんと峯坂さん!絶対、裏で糸を引いているのは貴方たちでしょう!というより、南雲さんは他人事みたいにシアさんのウサミミをモフらないで下さい!ユエさんも何でシアさんのほっぺをムニムニしているんですか!」

 

矛先は、どうやら主にシアのウサ耳をモフモフしているハジメに向けられていた。

だが、ハジメはシアのウサ耳をモフるのに意識を割いており、姫さんの言葉を右から左に流している。

姫さんはそれにさらに激昂し、香織と八重樫がそんな姫さんをなだめるという構成が出来上がっていた。

その光景に笑いをかみ殺していた俺は、フォローのために口を開く。

 

「まぁ、大目にやってくれ、姫さん。今のシアはちょいと事情があって、不安定な状態なんだ」

「不安定、ですか?どこか具合でも・・・」

 

これで途端に心配そうな表情になるのだから、姫さんも人がいい。

ちなみに、シアが不安定な理由は先ほどのグリッドが原因だ。

ただ、再びトラウマに呑まれそうになっているのではない。むしろ逆だ。

過去のトラウマを乗り越えた先にあるのは、当然グリッドに対する強烈な殺意だ。それこそ、ハジメとユエが協力して落ち着かせないと、早々にあの男を殺しかねないくらいの。

別にあいつが死んでも俺は一向に構わないが、さすがに今殺すのは得策ではない。だから、シアは必死に我慢し、ハジメとユエが一緒になってなだめているというわけだ。

事情を知らない姫さんや天之河たちにかいつまんで話すと、全員悲痛そうな表情になり、次いで、天之河たちは当然のように憤り、姫さんは暗い表情でうつむいてしまった。どうやら、亜人族の奴隷化を容認している自分が憤るのは違うと思っているようだ。

シアはと言えば、気にしないようにと笑顔を振りまいていた。

姫さんはそれをまぶしそうに見ながらも、本題の方に入ってきた。

 

「それで、なぜこちらに来たのですか?樹海での用事は?それと、昨夜の仮面騒動は何なのです?もうそろそろ、ガハルド陛下から謁見の呼び出しがかかるはずです。口裏を合わせる為にも無理を言って先に会う時間を作ってもらったのですから、最低限のことは教えてもらいたいのですが」

「まぁ、そう慌てんな。どうせ、夜になったら全部わかる。俺たちに関しては、用事が先延ばしになったから暇つぶしにこっちに来た、くらいに言っておけばいい」

 

べつに嘘ではない。今は大樹へは霧が濃い周期で行けない状態だ。霧が晴れるまでの間の暇つぶしというのも、そこまで的外れなことではいないだろう。俺たちにとって、今回の目的は片手間で済ませられる内容だ。まぁ、主に頑張っているのはハジメだが。

 

「そ、そんな適当な・・・夜になればわかるって、まさか、また仮面でも着けて暴れる気ですか?わかっているのですよ!雫たちに恥ずかしい格好をさせたのはお2人だって!」

「ひどい言い草だな。もしかしたら、ハジメの独断かもしれないだろ?」

「しれっと俺を巻き添えにするな。それより、そんなにカリカリしてたらはげるぞ、姫さん」

「ハゲませんよ!女性に向かって何てこと言うのですかっ!」

「・・・ハゲ姫」

「ユエさん!?」

 

俺たちの、というより主にハジメやユエのあんまりと言えばあんまりの対応に、姫さんは「私、王女なのに・・・」と落ち込み、姫さん曰く恥ずかしい格好をした八重樫が自らの黒歴史にどんよりした。

とはいえ、姫さんはいつまでもそうしているわけにはいかないと気を取り直し、再び俺たちに事情を尋ねた。

 

「・・・昨夜、仮面騒動とは別に帝城の地下牢から脱走騒ぎがありました。犯人は南雲さんたちとして・・・」

「当然のように犯人扱いとは、ちょっとひどくないか?」

「どの口で言うのですか・・・詳しい話は聞いていませんが、捕らわれていた兎人族はハウリア族の方ですよね?シアさんのために助けたというのはわかります。わからないのは、今さらここに乗り込んできたことです。何を考えているのですか?」

 

言外に、必要なら口裏合わせもするし協力もする、ということだろう。

やはりというか、この姫さんは人がいい。迷わずに俺たちのために行動しようとするとは。

だが、それは俺たちが召喚された時からの話でもある。この世界の事情に巻き込んでしまったことから、自分にできることは最大限に心を砕いてくれる。

そんな姫さんに対し、俺とハジメは微笑み、

 

「ちょっと何言ってるのかわからない」

「疲れてるんなら休憩した方がいいぞ?」

「どうしてそうなるのですか!?」

 

姫さんが噴火した。俺たちにつかみかかろうとするのを香織と八重樫が止める。

ぶっちゃけ、姫さんの提案は言ってしまえばありがた迷惑でしかない。ここはお引き取り願うとしよう。

その後も、姫さんから何度も追及されたのだが、俺とハジメでのらりくらりと躱し続け、最終的に「もう、なるよ~にな~れぇ~」みたいな感じで納得(思考停止とも言う)してくれた。

ちなみに、俺がはぐらかしたのは計画に支障が出ないようにするためだが、ハジメに関しては忙しくてそれどころではないため、他のメンバーが口を出さなかったのもその現状を理解しているからだ。

そして、香織たちが姫さんをなだめていると、とうとう皇帝陛下との謁見の時間がやってきた。

やってきた案内役について行くと、通された部屋は30人は座れる縦長のテーブルに、ほとんど装飾されていない簡素な部屋だった。

そのテーブルの上座には、見た目からして野心溢れる男が頬杖をついて不敵な笑みを浮かべていた。

この男こそが、ヘルシャー帝国の皇帝であり帝国最強の男であるガハルド・D・ヘルシャー。年齢は50代も近いと聞いているが、見た目は40代前半、ともすれば30代後半にも見えなくはない若々しさだ。おそらく、あふれる野心と覇気が、見た目よりも若く見せているのだろう。

そして、ガハルドの背後に2人の近衛兵らしき兵士が控えているが、そちらも研ぎ澄まされた空気を纏っており、一目で手練れだと分かる。

さらに、壁の裏に2人、天井裏に4人、閉まった扉の外に2人、音もなく気配を消している存在がいる。ガハルドの後ろにいる兵士ほどではないが、こちらもなかなかの手練れだ。

どうやら、謁見は完全包囲された状態でするらしい。

 

「お前たちが、南雲ハジメと峯坂ツルギだな?」

 

俺たちが部屋に入ると、姫さんによる紹介も勇者である天之河への挨拶もすっ飛ばして、いきなり俺たちに問いかけてきた。どうやら、今回は本当に俺やハジメにしか興味がないらしい。

そして、さすがは帝国最強の男だ。視線は鋭く細め、真っすぐに俺とハジメを射抜いてくるが、放たれるプレッシャーも中々なものだ。

天之河はわずかに後ずさって身構え、姫さんに限っては息苦しそうに小さく呻き声をあげていた。

だが、俺たちには通じない。ガハルドのプレッシャーにあてられても、平然としている。

この中では一番経験の少ない香織も、メルジーネでの経験もあって平然としている。

真の大迷宮を攻略している俺たちにとって、ガハルドのプレッシャーはそよ風のようなものだ。

そんな様子を見て、ガハルドはますます面白そうに口元を吊り上げる。

そして、そんなガハルドに対し、

 

「あぁ、たしかに俺は峯坂ツルギだ」

「ええ、自分が南雲ハジメですよ。お目にかかれて光栄です、皇帝陛下」

 

俺はぞんざいな態度で返し、反対にハジメは胸に手を当てて軽くお辞儀までした。

そんな俺たちに、というよりは主にハジメにそれぞれ驚愕の目が向けられ、

 

「香織、お願い!南雲君に回復魔法を!」

「え?し、雫ちゃん?」

 

八重樫にいたっては、香織に回復魔法を頼む始末だった。

姫さんも「あなた、誰ですか!」みたいな視線を向けている。自分との扱いの差にショックを隠しきれなかったらしい。

このあんまりと言えばあんまりだが、自業自得でしかない反応にハジメの目元がピクピクした。

別に、ハジメもTPOをまったく気にしないわけではない。普段は無視しているだけで。

とはいえ、失礼な態度をとって帝城から追い出されるわけにもいかなかったから、このような態度をとったというだけなのだ。

 

「ククッ・・・さすがは国民を欺くストーリーを平然と作り出すやつだ。建前を使うのはお手の物か?だが、今は普段通りの態度にしていろ。俺は、素のお前たちに興味があるんだ。似合わないことはやめておけ」

「・・・はぁ、そうかい。んじゃ、普段通りで」

「くはは!だから、変に気を遣う必要はないって言っただろ?」

 

実のところ、俺は今回の謁見で変に気を遣う必要はないとハジメに言っていた。だが、万が一もあるということでハジメはそのまま丁寧に接したが、結果として俺の予想は当たったようだ。

それに、ガハルドが興味深そうに俺を見つめてくる。

 

「ほう?こうなることがわかっていたと?」

「あんたの話は聞いていた。んで、話を聞いて、俺が予想したとおりの人物像なら変な気遣いはいらないと考えていた。まぁ、こいつは聞く耳を持たなかったが」

「ガハハ!話を聞いただけで人物像がわかるとはな!ずいぶんと頭が回ることだ」

「このバカが頭を使わないから、代わりに俺が考えざるを得ないってだけだ。まぁ、それよりだ。さっさと話し合いを始めようぜ。そのために、俺たちを呼んだんだろう?」

 

ここからは、ヘルシャー帝国の皇帝陛下との話し合いだ。

俺たちの目的のためにも、さっさと乗り切るとするか。




「つーか、なんでツルギはまとも扱いになってるんだよ」
「だって、結局はツルギの言う通りになったし、普段通りだったじゃない」
「ある意味、違和感はなかったよな」
「むしろ、南雲君のあの態度の方が異常よ」
「鈴も、言い様のない恐怖を感じたよ・・・」
「俺も、何かの間違いじゃないかと思ったぜ」
「普段通りじゃない俺はそこまでひどいのかよ・・・」

ツルギとの認識の差に若干心を折られるハジメの図。

~~~~~~~~~~~

なんとかアニメ放送当日までに投稿できましたが、自分はチャンネルが未対応なせいで見れないという悲しみ。
なので、見放題のやつを登録しようか考えているところです。
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