二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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*ベヒーモス戦の最後あたりのシーンに改変を加えました。
なんか、今になって話に出す機会を見失ってしまったので、いっそのこと違う形にしようとということにしました。


死闘の果てに

今、俺たちは迷宮のトラップにかかり、危機に瀕している。

上へと続く階段の前には、骸骨型のモンスターの“トラウムソルジャー”が魔法陣から湧いて出ていて、その数は100体近くにのぼり、それでもなお増えている。

だが、それはまだいい方だ。

下へと続く階段の前には、10mほどの4足歩行の鬼のような角の生えたドラゴン型のモンスターが出現している。しかも、その角からは炎が噴き出ている。

あの見た目とメルドさんが言った“ベヒモス”という名前に、覚えがあった。

図書館で情報収集をしていたときに見かけた名前で、かつて最強と言われた冒険者ですら歯が立たなかった、本来なら65階層に現れる化け物だ。

それからの俺の行動は迅速だった。

 

「ちっ!そっちは頼んだ!」

「ツルギ!?」

 

俺は迷いなく、トラウムソルジャーの群れに突っ込んだ。

トラウムソルジャーは38階層に現れる魔物だ。今までの魔物より危険度は高いが、ベヒーモスよりは遥かにましだ。

それに、クラスのほとんどが突然のことでパニックになっている。放っておいたら、下手をすれば誰か死ぬかもしれない。

ベヒーモスは、今騎士団がベヒモスの突進を防いでいる。

“聖絶”。王国騎士団の最高戦力が誇る、鉄壁の守りだ。

だが、一分しかもたない上に、魔力の関係上、一回しか使えない。

それまでに、最低でも階段付近まで退避させる必要がある。

 

「はぁっ!」

 

俺は素早く短剣を振りぬき、トラウムソルジャーにたたきつける。レベルの差もあり、一発で倒すことはできないが、倒す必要はない。

 

「おらぁ!!」

 

俺は短剣をたたきつけた状態からさらに力を加えて、トラウムソルジャーを跳ね飛ばす。すると、トラウムソルジャーはあっさりと橋の上から落ちていった。

ここは橋の上だ。無理に倒さなくても、橋から落とすだけで数を減らせる。

だが、俺一人だけでは対応できない。

 

「あ・・・」

 

ふと声が聞こえた方を見ると、そこではクラスの女子の一人が転倒したままトラウムソルジャーが剣を振り上げていた。

 

(まずい!)

 

俺は急いで弓を構えるが、間に合わない。

斬られる、と思った。

だが、次の瞬間にはトラウムソルジャーの足元が突然隆起し、トラウムソルジャーがバランスを崩す。

地面の隆起はそのまま他のトラウムソルジャーも巻き込み、ついに橋から落とした。

 

「へぇ、やるじゃん」

 

今の地面の隆起は、ハジメの錬成魔法だ。

どうやら、錬成魔法を連続で発動し、滑り台の要領でトラウムソルジャーを落としたようだ。

どうやらハジメは、この状況でもしっかりと頭を回せているようだ。

ハジメはそのまま女子生徒に声をかけて、階段の方へと向かわせた。

 

「なら、俺もしっかりと働かないとな!」

 

俺はそのまま右手に短剣を、左手に弓を持って、トラウムソルジャーの殲滅を再開した。

近くのやつは短剣で動きを止め、その隙に橋から叩き落す。遠くで剣を振りかぶってクラスメイトを斬ろうとしているやつは、短剣を持ったまま矢をつがえて、一発で頭部を破壊する。どうやら、俺の魔法込みの射撃なら倒せるようだ。

それでも、クラスのパニックは収まらない。ただ武器や魔法をやみくもに振り回しているだけだ。このままだと死者が出る可能性もまだある。

この危機を脱するのに必要なのは()()()しかいないのだが・・・

 

(あの野郎、ムキになりやがって。俺が行くか?いや、この状況で抜け出した方がクラスが危ないか。とすれば・・・)

 

俺が思考をめぐらしていると、視界の端でハジメがベヒモスの方へ走っていくのが見えた。正確には、ベヒモスに相対している天之河たちにだ。

 

(・・・ったく、相変わらず頼りになるな)

 

おそらく、こっちに増援を呼びに行ったのだろう。天之河たちが来れば、ここは問題ないはずだ。

だが、

 

「ゴアアアアァァァァァァ!!!!」

 

次の瞬間、ベヒモスの咆哮によって聖絶が破られてしまった。

 

 

* * *

 

 

「ぐっ・・・龍太郎、雫、時間を稼げるか?」

 

ベヒモスを押さえつけていた障壁が破られてしまった。このままでは、クラスメイト達に突っ込むだろう。メルド団長たちが衝撃波の影響で動けない以上、自分たちでなんとかするしかない。

 

「やるしかねぇだろ!」

「・・・なんとかしてみるわ!」

 

雫と龍太郎も、そのために2人で突貫する。

 

「香織はメルドさんたちの治療を!」

「うん!」

 

香織も、自分の役目を果たすためにメルドたちのもとに駆け寄っていく。

ハジメも、メルドたちを守るために床を錬成して石の壁を作り出している。ないよりはマシだ。

そして、光輝は己の最大の攻撃を放つ。

 

「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!・・・“神威”!」

 

詠唱を唱えると同時に聖剣を振りかぶると、聖剣から純白の極光が伸びた。

“神威”。光輝がもつ、最大威力の砲撃だ。

 

「はぁ、はぁ、これなら・・・」

「はぁ、はぁ、さすがに、やったよな?」

「だといいけど・・・」

 

神威が放たれる直前に離脱した雫と龍太郎の姿はボロボロで、肩で息をしていた。光輝も、莫大な魔力の消費で同じように肩で息をしている。

香織たちの方も、だいたいの治療を終えている。

そして、煙が晴れていくと、

 

 

 

 

 

 

 

そこには、無傷のベヒモスがいた。

 

 

 

ベヒモスは、軽く頭を振り払うと光輝をにらみつける。

そして、頭の角を掲げると、キィーーーーーという甲高い音をたてながら、角が徐々に赤熱化していき、ついに頭部の全体がマグマのように赤く染まった。

 

「ボケっとするな!逃げろ!」

 

メルドの叫び声で、光輝たちはショックから立ち直って身構える。

そこに、ベヒモスが突進をしようとした次の瞬間、

 

「ギャアアオオオォォォ!?」

 

不意に、ベヒモスが悲鳴をあげてたたらを踏んだ。

なにが起こったのかと光輝たちは困惑するが、雫があることに気づいた。

ひるんだベヒモスの目に、一本の矢が刺さっていたのだ。

 

「おら!さっさと逃げろ!」

 

声のした方を振り向くと、そこにはツルギが弓を構えて立っていた。

 

 

* * *

 

 

聖絶が破られたところを確認した俺は、強引にトラウムソルジャーの群れを突っ切って天之河たちのもとに向かった。

俺が抜けたときの影響は無視できないが、このまま天之河たちを死なせるほうがもっとまずい。

 

「峯坂!お前、どうしてここに!」

「いいからさっさと下がれ!今のままだとマジでクラスメイトがやばくなるぞ!」

 

天之河の疑問に、俺は苛立ち気味に声をぶつける。

天之河が目を向けた先には、半ば狂乱状態のクラスメイトたちの姿が見える。クラスメイト達はむやみに魔法や武器を振り回すだけで、いつ死人がでてもおかしくない。

それでも、天之河は俺に食いついてくる。

 

「お前はどうするつもりだ!」

「ここで足止めする!だから、さっさとあいつらの援護をしてこい!」

「でも!!」

「あいつらが立て直して魔法を一斉に放てば、まだなんとかなる可能性がある!!だから早く行け!!!!」

 

俺の怒声に天之河たちはびくりとふるえるが、納得したようですぐに立ち上がり、クラスメイトたちのもとへと向かう。

 

「さてと、どうしたもんか・・・」

 

とりあえず、見栄を切ったのはいいが、足止めできる自信はそんなにない。

俺の売りはあくまで精密射撃であって、天之河のような火力は持ち合わせていない。

一応、目への攻撃は有効だったが、あと一か所しかないし、目が見えなくなったベヒモスがむやみに暴れでもしたら、それこそ目も当てられない。

一応、弱点かもしれない部分には心当たりはあるが、

 

「どうやって後ろに回り込めと・・・」

 

この世界には、「竜の尻を蹴飛ばす」ということわざがある。俺たちの世界で言う「逆鱗に触れる」と似たようなものだ。

ここでの竜は竜人族のことで、竜に変身することができる種族だ。竜化した彼らは並大抵の攻撃は鱗にはじかれるが、唯一尻の部分だけは鱗で覆われておらず、急所になっている。

もしかしたら、ドラゴン型のモンスターであるベヒモスも尻が弱点かもしれないが、そこを攻撃するには後ろに回り込む必要がある。

俺の攻撃で、さらに凶暴性を増したベヒモスを、だ。

ハッキリ言って、できる気がしない。

さて、どうするべきかと悩んでいると、一人のクラスメイトが近づいてきた。

そいつは、

 

「ツルギ!」

「ハジメ!?なんで来たんだよ!」

 

俺の親友であるハジメだ。

 

「僕も手伝うよ!」

「バカ野郎!どうするつもりだよ!」

「僕が錬成でベヒモスを足止めする!だから、ツルギは隙を作って!」

「・・・本当にやる気か?」

「うん」

 

ハジメの目を見て、俺はため息をついた。

こいつは、普段は事なかれ主義だが、いざというときは自分を犠牲にしてでもだれかを守ろうとする。こうなったハジメは、止めることはできない。

 

「・・・なんとかして角を橋に突き刺す。その隙に」

「わかった」

 

俺の言葉に、ハジメも頷く。

 

「グルゥアアアァァァーーーーーー!!」

 

すると、ベヒモスが突進を始め、俺たちに向かって跳躍してきた。

ここがチャンスだ。

 

「グギャアアァァァーーー!!」

 

空中に浮いているベヒモスの目に、再び矢を突き刺す。この痛みに、ベヒモスは空中で態勢を崩してしまう。

 

「おらぁっ!“ぶっ飛べ”!」

 

そこに、俺が飛び上がって、魔法による風の勢いも加えた飛び蹴りをベヒモスにぶつける!

俺の飛び蹴りをもろにくらったベヒモスは、重力とともに落ちていき、角を橋に突き刺してしまう。

そうして動きを止めたベヒモスに、ハジメが飛びついた。

 

「錬成!」

 

赤熱化の影響が残っているのも構わずにしがみつき、ハジメは錬成を行使した。

ベヒモスが角を引き抜こうとしても壊したところから錬成で修復され、足元も液状化されて足を飲み込んだかと思えば、再び硬化してベヒモスの動きを止める。

ベヒモスのパワーはすさまじく、すぐに橋に亀裂が入りそうになるが、そうなる前にハジメが錬成をかけなおして抜け出すことを許さない。

 

「よし、これなら・・・!」

 

ベヒーモスの動きが止まった今であれば、渾身の一撃を叩き込むことができる。

急いで走りながら弓に矢をつがえ、魔力を込める。

相手は遥かに格上。生半可な攻撃では傷つけることすら叶わない。

だが・・・おそらく、今の俺のステータスでは、どれだけ魔力を込めようと有効打にはなり得ない。

 

(今のままだとダメだ・・・力がいる。あいつを倒せるだけの力が)

 

ベヒーモスの傍を走り抜けながら、俺は意識を内側に向ける。

上辺の魔力だけでは足りないなら、魂の奥底から引っ張り出す。

できるかどうかはわからない。だが、やらなければ勝てない。

 

(意識を研ぎ澄ませ。俺の身体の全てを、魂を感じろ。全部を引っ張り出してでも、やつを討つ)

 

集中力が極致を迎えたのか、視界が色あせて流れる景色が遅くなっていく。

まるで走馬灯のように流れる視界をよそに、俺は意識をひたすら自らの内側に向ける。

自らの魂の深奥へ。深く、深く・・・

次の瞬間、体の奥から熱が込み上がった。

 

「ぐっ・・・こ、れは・・・」

 

何が起きたのか、自分でもわからない。

だが、今までにないほどの魔力が湧き出てくる。

これなら、あいつに一矢報いることができる・・・!

 

 

 

「いっ、けえええええ!!!!」

 

 

 

俺は、込めれるだけの魔力を込めて、矢を放った。

放った一矢は、寸分たがわずにベヒモスの尻に刺さった。

ベヒモスは激しく暴れまわった後、次第に動きを止めていった。

おそらく、倒せたのだろう。

俺は急いで走ってハジメのもとに向かう。

だが、

 

 

 

 

 

「がっ!?」

 

 

 

 

急に、俺は吹き飛ばされてしまった。内臓にダメージが入ったようで口から血が零れ落ちる。

 

(くっそ、油断した!)

 

どうやら、一時的に動きを止めることはできたものの、倒すことまではできなかったようだ。

次の瞬間には、ハジメの拘束も解けてしまう。

だが、幸い俺が吹き飛ばされたのはメルドさんたちとベヒモスの中間あたりで、次には白崎の回復魔法が俺の傷を癒していった。

さらには、クラスメイトの方もなんとか落ち着きを取り戻したようで、今にも攻撃魔法を放とうとしている。

 

「ツルギ!」

「俺は大丈夫だ!早くとんずらするぞ!」

 

ハジメが俺の方に駆け寄っていくのを確認して、すぐに起き上がって階段の方へと向かおうとする。

ここで、予想外のことが起きた。

放たれた致死性の魔法。そのうちの一つが、急に進路を変えて俺たちの方に落ちたのだ。

明確に、最初から俺たち、いや、ハジメを狙って放たれたものだ。

 

「なっ、ハジメ!」

 

ハジメもそれに気づき、急停止しようとしたが間に合わず、俺とハジメの間に着弾した。

なんとかダメージを抑えることができたが、ハジメは平衡感覚を失っているようでふらついていた。

だが事態はそれだけで終わらなかった。

ベヒモスが、攻撃を受けながらも再び角を赤熱化させて、ハジメに向かって突進したのだ。

クラスの方からは、いくつか声を押し殺したかのような悲鳴がきこえた。

ハジメはふらつく体で必死に飛びのき、なんとか突進を躱すことに成功した。

だが、度重なるダメージに橋の方が耐えられなくなり、ついに崩壊を始めた。

ベヒモスは必死に爪をたてて踏ん張ろうとするが、自重には耐え切れずに落下していった。

そして、ハジメの方もなんとか逃げようとしたが、次第に足場がなくなっていき、ついに落ちようとした。

 

「ハジメ!!」

 

俺はそれを見て、一心不乱に駆け出していった。

もちろん、用意がなにもないわけではない。

いざというときのために、矢にロープを括り付けたものを一本用意していた。

俺は崩壊に飛び込み、腕にロープを巻き付けて矢を放つ。

放たれた矢は、狙い通りに階段近くに刺さった。これなら、簡単には抜けないだろう。

 

「ハジメ!掴まれ!」

「ツルギ!」

 

ハジメは、必死に俺の手をつかもうとした。

だが、急に俺の動きが止まってしまう。ロープの長さが限界になったのだ。

差し伸ばした俺の手は、あと少しでハジメに届くというところで、俺の体は俺の意志に反して、ハジメから遠ざかっていった。

 

「ハジメーーーーー!!!!!」

 

そして、ハジメはそのまま奈落の底に落ちて行ってしまった。




ようやく一区切りですね。
次からは、主人公視点で物語を進めていきます。

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