二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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歴史が変わるとき

「なんだ!何が起こった!?」

「いやぁ!なに、なんなのぉ!?」

 

一瞬で視界を奪われた帝国貴族が突然の事態に悲鳴や怒号をあげるが、中には冷静な者もいて即座に指示を出し、魔法で光源を作ろうとする。

 

「狼狽えるな!魔法で光をつくっがぁ!?」

「どうしたっギャァ!?」

「何が起こっていっあぐっ!?」

 

だが、その直後に悲鳴と共に倒れこむ音が聞こえ、さらに会場内が混乱に包まれる。

ちなみに、俺たちは邪魔にならないように会場の隅に移動し、姫さんも回収した。シアは、今この時はハウリア族族長の娘として動くために、気配を消して外に出た。外からくる兵士の足止めのためだ。

会場内で起こっている惨状は、俺の“夜目”でばっちり見えている。

俺のクリアな視界には、忍者のような黒装束に身を包んだウサ耳集団が縦横無尽に駆け回り、比較的冷静な者、あるいは戦える者を狙って首を刎ねるか舌をつぶしている。

 

「落ち着けぇ!貴様等それでも帝国の軍人かぁ!」

 

そこにガハルドが覇気に満ちた声を響き渡らせ、帝国貴族たちの精神を強制的に立て直そうとした。

が、そこを狙ったかのように周囲から矢が放たれる。ただ速く強力なだけでなく、タイミングをずらして実に嫌らしい一を狙ったものだ。

それをガハルドは、闇に包まれた中で風切り音だけで矢の位置を把握し、手に持っている儀礼剣ですべてを叩き落す。

ガハルドの喝によって冷静さを取り戻した者たちが火球を生成して光源にするが、ハウリア族はそれを狙っていたかのように背後から忍び寄り、首を落とす。その顔を見てみれば、首を斬り落とされたことに気づいていないような表情だ。

それによって会場は再び闇に包まれ、ついに腰を抜かして悲鳴を上げる者もでてきた。それはだいたいは令嬢や文官だが、一部将校も含まれている。どうやら、この暗闇と襲撃に精神がもたなかったようだ。

そうした者たちは、ハウリア族が闇の中から足を切り裂いて動けないようにする。

とはいえ、さすがは実力至上主義ということもあって、素早く陣形を組んで詠唱を始め、ガハルドの背後を守り、ガハルドに詠唱をさせる余裕を与える。

だが、これで有利になったわけではなく、今度はスタングレネードによって視覚と聴覚を奪い、動けなくなったところにさらに手足の腱を切り裂いたり舌をつぶして無力化する。

だが、驚いた事にガハルドだけは視覚と聴覚とつぶされているにも関わらず、それらの攻撃を防いだ。

攻撃を防がれたハウリア族はわずかに動揺し、その隙を突いてガハルドは震脚で動きを止め、横殴りの斬撃をあびせる。

ハウリア族はなんとか小太刀でこれを防ぐが、ガハルドから弾き飛ばされてしまう。

 

「散らせぇ!“風壁”!」

 

剣を振りぬいた隙をついて周囲から矢が放たれるが、二言の詠唱で風の障壁を発生させてこれを防ぐ。

 

「撃ち抜けぇ!“炎弾”!」

 

そこからさらに二言の詠唱で“炎弾”を10発生み出し、射線から位置を割り出して放つ。

そして、まだ十分に目が見えていないはずなのに、わずかに動揺した気配から位置を察して突撃する。

・・・ここまでのガハルドの動きを見て、帝国最強の称号に納得する。

ガハルドの動きは、天之河やクラスメイトたちとは違って、対人戦にも特化している。

近接戦闘も、切れ味があまりない儀礼剣でまともにやり合っている時点で普通ではない。

そういえば、以前天之河と模擬戦をしたことがあり、殺そうと思えば殺せるくらいにまでは追い詰めたと聞いたな。この戦いぶりを見れば、それも頷ける。

また、魔法の腕も中々だ。おそらくなにかしらのアーティファクトを使用しているのだろうが、それを差し引いても無駄のない展開と狙いはさすがの一言だ。

魔物を倒すための派手な魔法ではなく、人を倒すための実用的な魔法。

やはり、帝国最強は伊達ではないようだ。メルドさんともいい勝負、いや、総合的にはガハルドの方が上だろう。

だが、それでも相手が悪かった。

 

「っ!なんだっ?体が・・・」

 

ハウリア族とガハルドが剣戟を交わすこと数分、ガハルドの動きが突然悪くなった。

そして、その隙をハウリア族が逃すはずもなく、

 

「ぐぁ!!」

 

暗闇から放たれた矢がふくらはぎを貫き、ガハルドは膝をつく。

ガハルドはなんとか起き上がってハウリア族の攻撃をさばこうとするが、今度は腕の腱を切られて儀礼剣を落としてしまう。

それでも今度は魔法による攻撃を行おうとするが、今度は衣服の中に隠されていた魔法陣やアーティファクトを破壊されてしまい、さらにまだ斬られていなかった腕や足の腱も切り裂かれてしまう。

そして、ガハルドはそのままうつぶせに倒れてしまった。

つまり、ヘルシャー帝国皇帝の敗北だ。

ちなみに、先ほどガハルドの動きが悪くなったのは、ハウリア族が戦いながらも対魔物用の麻痺毒を散布していたからだ。その状態でしばらく戦い続けたガハルドもこの世界の人からすれば十分化け物なのかもしれないが、俺たちからすればすごいなぁ程度でしかない。その程度で、本気のハウリア族に勝てる道理もない。まぁ、俺たちがこれでもかとお膳立てしたからというのもあるだろうが。

なんにしても、皇帝が負けたという事実は変わらない。

 

「どどどどど、どういうことですか!?ここここ、これは!?にゃにゃにゃ、にゃぐもさん!いいい、一体ぃ!!」

「姫さん、いいから落ち着け」

「今、いいとこなんだからな」

 

ハジメに抱えられた姫さんが、無残な姿になってライトアップされたガハルドを見て動揺しているが、今はそれどころではない。ある意味、ここからが本番でもあるわけだし。

何人もの帝国貴族が死んだことに天之河が顔をしかめ、八重樫や谷口、坂上も難しい表情をしているが、これが亜人族の待遇改善のまたとないチャンスであることは理解しているようで、今のところ横やりを入れる様子はない。仮に天之河辺りが「やりすぎだ!」とかなんとか言って突っ込もうとしたところで、俺が簀巻きにして大人しくさせるか、ハジメがレールガンで問答無用に黙らせるが。

そうこうしているうちに、交渉が始まったようで、姿は見えないがカムの声が響いた。

 

「さて、ガハルド・D・ヘルシャーよ。今生かされている理由は分かるな?」

「ふん、要求があるんだろ?言ってみろ、聞いてやる」

「・・・減点だ。ガハルド。立場を弁えろ」

 

もちろん、対等とは程遠いが。

ガハルドが横柄な態度で応えると、ガハルドからほど近い場所にスポットライトがあてられ、そこにいた男の首があっさりと斬り落とされた。

 

「てめぇ!」

「減点」

 

ガハルドは思わず怒声を上げるが、再び違いところが照らされ、また一人の男の首が斬り落とされた。

 

「ベスタぁ!このっ、調子にのっ・・・!」

「減点」

 

どうやら側近だったようでガハルドが悪態をつくが、さらに男の首が斬り落とされるだけだった。

ていうか、思ったよりも喚くな。負けたなら潔く負けを認めればいいものを。

ガハルドはギリギリと歯ぎしりしながら前方を睨むが、カムはあくまで淡々と話かける。

 

「そうだ、自分が地を舐めている意味を理解しろ。判断は素早く、言葉は慎重に選べ。今、この会場で生き残っている者達の命は、お前の言動一つにかかっている」

 

その言葉と同時に、スポットライトの外から腕がのび、ガハルドの首に紅い宝石のついたネックレスを取り付けた。

 

「それは“誓約の首輪”。ガハルド、貴様が口にした誓約を、命を持って遵守させるアーティファクトだ。一度発動すれば貴様だけでなく、貴様に連なる魂を持つ者は生涯身に着けていなければ死ぬ。誓いを違えても、当然、死ぬ」

 

言外に、他の皇族はすでに人質にとり、同じアーティファクトがかけられていると告げる。

ちなみにこれは、ハジメが作ったものだ。

具体的には魂魄魔法を使用しており、誓約を魂魄に直接刻み付けることで、絶対の効力を持たせるというものだ。また、その効果は連なる魂を持つ者、つまりガハルドの一族に対しても効果があり、誓約を反故にしたり首輪を無理やり外すとその者は発狂死してしまう。要するに、皇帝一族全員に、末代まで誓約を守らせるというアーティファクトだ。

今回の場合、誓約は主に4つ。

 

1.現奴隷の解放

2.樹海への不可侵・不干渉の確約

3.亜人族の奴隷化・迫害の禁止

4.1~3の法定化と法の遵守

 

これをガハルドが「ヘルシャーを代表してここに誓う」と宣言して首輪をかけることで、効力を発揮する。

とはいえ、これはあくまで誓約に実行力を持たせるものであって、誓約そのものの強制はできない。ガハルドが拒否すればそれまでだ。

まぁ、ガハルドは自分の立場を弁えていないわけだが。

これをカムから告げられても、ガハルドは一向に徹底抗戦の姿勢を示す。

が、カムはあくまで機械的に答える。

 

「減点だ、ガハルド」

 

再びスポットライトが照らされると、そこには皇太子のバイアスがいた。

 

「離せェ!俺を誰だと思ってやがる!この薄汚い獣風情がァ!皆殺しだァ!お前ら全員殺してやる!1人1人、家族の目の前で拷問して殺し尽くしてやるぞ!女は全員、ぶっ壊れるまでぇぐぇ」

 

何やら醜くわめいていたが、あっさりと首を斬り落とされた。

ていうか、どれだけ小物なんだよ、あれ。あんなのが次の皇帝とか、世も末だな。いっそ殺しといたほうが帝国のためだっただろ。よかったな、ガハルド。あとはお前が素直に降参すれば帝国は安泰だ。

とはいえ、ガハルドに動揺の色は見られない。

やはりというか、親子の情はほとんどないらしい。

まぁ、王位継承すら殺しOKの決闘で決めるという話だから、当然と言えば当然なのかもしれないが。むしろ側近が殺された時の方が怒っていたような気がする。

そういえば、バイアスは側室の子供だったか。興味ないけど。

どうしても誓約を口にしないガハルドに、カムは次のステップに進む。

 

「どうしても誓約はしないか?これからも亜人を苦しめ続けるか?我等ハウリア族を追い続けるか?」

「くどい」

「そうか・・・“デルタワン、こちらアルファワン、やれ”」

 

カムがそう言った次の瞬間、会場の外から腹に響くような爆発音が響いた。

さすがのガハルドも、これに顔色を変えた。

 

「っ。なんだ、今のは!」

「なに、大したことではない。奴隷の監視用兵舎を爆破しただけだ」

「爆破だと?まさか・・・」

「ふむ、中には何人いたか・・・取り敢えず数百単位の兵士が死んだ。ガハルド、お前のせいでな」

「貴様のやったことだろうが!」

「いいや、お前が殺ったのだ、ガハルド。お前の決断が兵士の命を奪ったのだ」

 

まぁ、そう言えばそうだろう。

実力主義なら潔く負けを認めそうな気もするが、まだ自分が“強者”だとでも思っているのか。

 

「“デルタワン、こちらアルファワン、やれ”」

「おい、ハウリア!」

 

カムは再び合図を出し、なんとなく察したガハルドの生死もむなしく、再び爆発音が響き渡った。

 

「・・・どこを爆破した?」

「治療院だ」

「なっ、てめぇ!」

「安心しろ。爆破したのは軍の治療院だ。死んだのは兵士と軍医達だけ・・・もっとも、一般の治療院、宿、娼館、住宅街、先の魔人族襲撃で住宅を失った者達の仮設住宅区にも仕掛けはしてあるが、リクエストはあるか?」

「一般人に手を出してんじゃねぇぞ!堕ちるところまで堕ちたかハウリア!」

 

・・・えぇ、それを自分で言うのかよ。

今まで散々自分たちがやっておいて、自分たちがやられたらそれとか、心底呆れる。

“弱肉強食”。強い者は弱い者に従えということだが、逆に言えば弱者ばかり見て自分以外の強者を見ていないともいえる。その割をもろにくらった結果だな。

会談したときはちょっとは面白そうな奴だと思ったが、結局は期待外れだったな。

 

「・・・貴様らは、亜人というだけで迫害してきただろうに。立場が変わればその言い様か・・・“デルタ、やれ”」

「まてっ!」

 

カムも呆れの入った言葉を口にしながら、容赦なく命令を出す。

3度目の爆発音に、今度こそ市街地を爆破されたと思ったガハルドは思い切り歯ぎしりした。

ちなみに、実際は軍と関係ないところには1つも爆弾を仕掛けていない。今爆破されたのは、城へと続く跳ね橋だ。城へと続く唯一のルートをつぶしたことになる。

これは、自分たちは帝国とは違うという意思表示だったりするが、そんなことを知らないガハルドには関係ない。

必要ならそうするが、必要ないなら嘘でもハッタリでも詐術でも何でも使い、相手を打倒する。それが今のハウリアだ。強さをひけらかして悦に浸る程度の相手が勝てる道理はない。

そして、今のガハルドには欠片の余裕もなく、冷や汗をダラダラと流しながら思考を回しているようだが、いい案は思いつかないようだ。

 

「“デルタへ、こちらアルファワン・・・や”」

「まてっ!」

 

そして、とうとうガハルドは制止の声をかけ、苛立ちと悔しさを発散するように頭を数度地面に打ち付けると、吹っ切ったように顔を上げた。

 

「かぁーー、ちくしょうが!わーたよっ!俺の負けだ!要求を呑む!だから、これ以上、無差別に爆破すんのは止めろ!」

「それは重畳。では誓約の言葉を」

 

要求が通っても、カムは淡々と言葉を返すだけだ。これにガハルドは苦笑い気味だ。

そして、肩の力を抜くと、会場にいる生き残り達に向かって語りかけた。

 

「はぁ、くそ、お前等、すまんな。今回ばかりはしてやられた・・・帝国は強さこそが至上。こいつら兎人族ハウリアは、それを“帝城を落とす”ことで示した。民の命も握られている。故に、“ヘルシャーを代表してここに誓う!全ての亜人奴隷を解放する!ハルツィナ樹海には一切干渉しない!今、この時より亜人に対する奴隷化と迫害を禁止する!これを破った者には帝国が厳罰に処す!その旨を帝国の新たな法として制定する!”文句がある奴は、俺の所に来い!俺に勝てば、あとは好きにしろ!」

 

ようやく自らの負けを認め、誓約を口にして首輪をかけた。見たところ、効果は発揮されたようだ。

ガハルドの言ったことは、要は「今まで通り亜人族を奴隷にしたければ、ヘルシャーの血族を絶やせ」ということだ。たしかに、これはあくまでヘルシャーの血統に作用するものだから、他の者が皇帝になれば、誓約を反故にしても問題ない。

まぁ、それができる奴がはたしてどれだけいるのかは疑問だが。

そして、この場にいないはずの皇帝一族にスポットライトがあてられ、全員に首輪がかけられているのが確認できた。

 

「ヘルシャーの血を絶やしたくなければ、誓約は違えないことだ」

「わかっている」

「明日には誓約の内容を公表し、少なくとも帝都にいる奴隷は明日中に全て解放しろ」

「明日中だと?一体、帝都にどれだけの奴隷がいると思って・・・」

「やれ」

「くそったれ!やりゃあいいんだろう、やりゃあ!」

「解放した奴隷は樹海へ向かわせる。ガハルド。貴様はフェアベルゲンまで同行しろ。そして、長老衆の眼前にて誓約を復唱しろ」

「1人でか?普通に殺されるんじゃねぇのか?」

「我等が無事に送り返す。貴様が死んでは色々と面倒だろう?」

「はぁ~、わかったよ。お前等が脱獄したときから何となく嫌な予感はしてたんだ。それが、ここまでいいようにやられるとはな・・・なぁ、俺に、あるいは帝国に、何か恨みでもあったのかよ、南雲ハジメ、峯坂ツルギ」

 

ガハルドが俺たちの方を睨みながらそう言うが、別に俺たちには帝国への恨みは欠片もない。強いて言えば、ハウリア族を敵に回したお前らの自業自得でしかない。

とはいえ、事を為したのはハウリア族だから、俺たちは“観客なので関係ありません”のスタンスをとる。

 

「ガハルド、警告しておこう。確かに我等は、我等を変えてくれた恩人から助力を得た。しかし、その力は既に我等専用として掌握している。やろうと思えば、いつでも帝城内の情報を探れるし侵入もできる。寝首を掻くことなど容易い。法の網を掻い潜ろうものなら、御仁の力なくとも我等の刃が貴様等の首を刈ると思え」

「専用かよ。羨ましいこって。魔力のない亜人にどうやって大層なアーティファクトを使わせてんだか・・・」

 

今回使われた通信機のアーティファクトは、数少ない亜人族でも使えるアーティファクトの1つだ。

簡単に言えば、ピアスにあらかじめ“高速魔力回復”と“魔力放出”を付与させ、スライド式のスイッチで魔法陣を完成させることで起動する。さらに、ステータスプレートの血に反応する機能を使って、使用者の血液にしか反応しないようにする、といったところだ。

また、同じ原理の“ゲートキー”も渡しており、帝城にいくつか“ゲートホール”を設置したため、ハウリア族はいつでも帝城に出入りできる。

とはいえ、他に亜人族でも使えるアーティファクトはなく、トラップの解除をやったのは主にハジメだ。また、原案はあっても製作時間が足りずに没になったアーティファクトもあるが、それは今さらだ。

最終的に、ハウリア族はフェアベルゲンとも独立して、亜人族(厳密には兎人族)の不遇改善と戦争の回避を望むという旨を伝え、スポットライトが消えてから去っていった。

これで、今回の件は終わりだ。

もちろん、まだこれからのことがあるから、これで終わりというわけではない。

だが、ハウリア族にはそれでも先に進む覚悟がある。

それなら、俺たちがこれ以上言うことはない。

帝国対ハウリア族の戦争。この結果は、紛れもないハウリア族の勝利に終わった。それで十分だ。

 

「くそっ、アイツ等、放置して行きやがったな・・・誰か、光を・・・あぁ、そうだ誰もいねぇ・・・って、ゴラァ!南雲ハジメ!峯坂ツルギ!てめぇら、いつまで知らんふりしてやがる!どうせ、無傷なんだろうが!この状況、何とかしやがれ!」

 

通信機越しの勝利の雄叫びを聞きながら感慨にふけていると、ガハルドから声をかけられた。

今いいところだったんだが、まぁ観客を装っているなら、放置というわけにもいかないか。

 

「へいへい。ったく、めんどくせぇ」

 

いつの間にか戻ってきたシアがハジメに抱きつき、ついでに姫さんが横に放り捨てられたのを横目に、俺はぼやきながらも光魔法で光源を作って会場を照らした。

会場を明るくして改めて周囲を見ると、まさに死屍累々といった様子だった。

所々に首のない死体が転がり、生きている者も舌や腕、足を切り裂かれてまともにうごけないでいる。

貴族の令嬢も大半は恐怖と痛みで失禁しており、意識を保っていた者も会場の悲惨な光景を見て気絶した。それでも気絶しなかった残りも、シアを認識した瞬間に失禁した。どうやら、上手くハウリア族の恐怖を植え付けることができたらしい。

 

「おい、こら、南雲ハジメ。いい加減、いちゃついてないで手を貸せよ。この状況で女、しかも兎人族の女を愛でるって、どんだけ図太い神経してんだよ」

「いや、ほら、シアはか弱いウサギだから、さっきの襲撃で怯えちまってんだよ。可哀想になぁ。ほんと恐ろしい奴等だった。俺も、身を守るので精一杯だったよ」

「くっ、ぷふっ・・・」

 

ハジメの言葉に、俺は思わず笑いを堪える。なんというか、さすがの図太さだ。

そんな俺たちにガハルドは青筋を浮かべ、部下たちも射殺さんと言わんばかりににらみつけてくる。

 

「いけしゃあしゃあと・・・とにかく、無傷であることに変わりねぇだろ。お前等に帝国に対する害意がないってんなら、治療するなり、人を呼ぶなりしてくれてもいいんじゃねぇか?」

「別に治すくらいならいいんだが、治した途端にあんたの部下が襲い掛かって来そうな眼差しをむけてくるんだが?さすがに俺たちに手を出されたら、返り討ちにするしかないんだが。それでうっかり殺してもいいのか?」

「いいわけ無いだろ!おい、お前ら!そこの化け物共には絶対手を出すなよ!たとえ、クソ生意気で、確実にハウリア族とグルで、いい女ばっか侍らしてるいけすかねぇクソガキでも無駄死には許さねぇぞ!」

 

おいおい、ずいぶんな言い様だな。

とはいえ、部下たちも悔しそうに目元を歪めながらも、とりあえずは引き下がった。

 

「ほれ、お前たちのことを殺したくても、実際に化け物の顎門に飛び込むような馬鹿は、ここにはいねぇ。俺がさせねぇ。そろそろ出血がヤバイ奴もいるんだ。頼むぜ」

「しゃあないか。任せた、香織」

「うんっ、任せて・・・“聖典”!」

 

ここは回復のエキスパートである香織に任せ、回復魔法をかけてもらった。

無詠唱、魔法陣無しで発動された最上級回復魔法“聖典”の輝きはは、会場内の負傷者に癒しをもたらし、瞬く間に立ち上がってきた。

ガハルドも部下たちもこの光景に呆然とするが、部下たちの方はすぐにガハルドの周囲を固め、警戒心丸出しで俺たちを睨みつけてきた。

 

「だから、よせっての。殺気なんか叩きつけて反撃くらったらマジで全滅すんぞ」

「しかし、陛下!アイツ等は明らかに手引きを!」

「そうです!皇太子殿下まで・・・放ってはおけません!」

「このままでは帝国の威信は地に落ちますぞ!」

 

ガハルドは面倒そうにたしなめるが、部下はそれでも言いつのる。

いっそ、俺がまとめて殺気で気絶させてやろうか・・・そうすれば話は早いだろう。

と思ったが、行動に移す前にガハルドが声を張り上げた。

 

「ガタガタ騒ぐな!言ったはずだぞ、お前等を無駄死にさせるつもりはないと。いいか、あの白髪眼帯と黒髪短髪の野郎共は正真正銘の化け物だ。ただ一人で万軍を歯牙にもかけず滅ぼせる、そういう手合いだ・・・強ぇんだよ、その影すら踏めない程な。奴に従えとは言わねぇが、力こそ至上と掲げる帝国人なら実力差に駄々を捏ねるような無様は晒すな!それはハウリア族に対しても同じだ。最弱のはずの奴等が力をつけて、帝国の本丸に挑みやがったんだ。いいようにしてやられたのは、それだけ俺達が弱く間抜けだったってだけの話だろう?このままで済ますつもりはねぇし、奴等もそうは思っていないだろうが・・・まずは認めろ。俺達は敗けたんだ。敗者は勝者に従う。それが帝国のルールだ!それでもまだ、文句があるなら俺に言え!力で俺を屈服させ、従わせてみろ!奴等がそうしたようにな!」

 

ふ~ん?このまま引き下がるつもりはないが、それでも今は認めると。認めたら話は早いんだな。まったく、少しは諦めの良さを学べば、被害はまだ抑えられただろうに。

まぁ、とりあえずは、だ。

 

「うん、これにて一件落着だな」

「あぁ、めでたしめでたしだな」

 

俺とハジメの言葉にその場の全員が俺たちを睨んだ。「お前たちが言うな!」といったところか。




「ったく、さっさと降伏すれば話は早かったのにな」
「あぁ?てめぇ、どの口でそんなことを・・・」
「お前らよりよっぽど強いこの口で言ってんだが?弱い奴は強い奴に従え~、じゃなかったのか?」
「ぐっ・・・」
「おぉ、あおってんなぁ、ツルギ」
「・・・先にも後にも、皇帝をここまで虚仮にする人は峯坂さんか南雲さんしかいないんでしょうね」

ハウリア族に負けた帝国勢をこれでもかとあおるツルギの図。

「・・・はっ!どこかにいい煽りのカモがいる気がする!」

~~~~~~~~~~~

ミレディさんなら、さらに煽るんでしょうねぇ。その光景が目に浮かぶ浮かぶ。

なるべく簡単にまとめようとした結果、そこそこ長くなりました。
戦闘をはしょるのは簡単でしたが、その後が苦労しましたね。
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