二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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またやらかしやがった

フェルニルをフェアベルゲンまで飛ばした俺とハジメは、フェルニルを()()()()()()()()()()()()()()()()()()。途中で木の枝をベキベキとへし折ったが、気にせずに降下を続けた。そして、船底下部のゴンドラが地面についたところでゴンドラをバージした。

周りの亜人族は未知の物体に怯えているが、ゴンドラの前後がパカリと開き、中から奴隷だった亜人族が出てくる。

最初はだれもが戸惑い気味だったが、犬人族の親子が抱きしめ合って歓喜の涙を流し始めたのを皮切りに、他の亜人族もいっせいに歓声をあげて駆け寄った。家族、友人、恋人など知人を見つける度に声を枯らす勢いで無事を喜び合う。フェアベルゲンは、大きな喜びに包まれ、普段の静謐さはどこにいったのかと思う程のかつてないお祭り騒ぎとなった。

俺たちはその様子を見ながらフェルニルから降りると、アルフレリックと他長老たちが近づいてきた。

 

「南雲ハジメ、峯坂ツルギ・・・まったく、とんでもない登場をしてくれたな」

「アルフレリックか。まぁ、俺たちもあれの操縦で疲れてたんだ。大目に見てくれ」

 

たしかに、森の外に下ろしてからフェアベルゲンに入ったり、一人一人ゲートで転移させる

という手もあったのだが、フェルニルの操縦に思った以上に疲れて、それすらも面倒になってしまったのだ。

まぁ、そもそもハジメはカムたちに座標位置を知らせるアーティファクトを渡していたから、確信犯だともいえるが。

とはいえ、俺たちも悪いことをしたと思っているのも事実だ。

 

「悪い、香織。頼んだ」

「よかった!ハジメ君も、まだ常識を失ってなかったんだね!・・・“絶象”!」

 

ハジメの頼みにさらっと毒を吐きつつも、再生魔法で頭上の破壊された木々を一瞬で元に戻した。その中心で銀の魔力を纏っている香織は、神々しくも見える。

 

「おぉっ!我らの香織様が、また奇跡をお見せてくださったぞ!」

「香織様万歳!フェアベルゲンの守護女神!」

 

実際、香織教の人からすれば神々しかったようで、跪いて感涙の涙とともに香織を崇めた。

 

「やめてぇ!やめてくださぁ~いっ。崇めないでくださ~い!」

 

当の本人は、顔を真っ赤にしながらあたふたと走り回り、必死に跪く人々を立ち上がらせようとする。

 

「また女神が生まれたな。愛子殿は豊穣の女神と呼ばれるているし、唯一神を崇める大陸で、よくもポンポンと神が生まれるものだ」

「愛ちゃん先生に関しては、俺たちが仕組んだものでもあるけどな」

 

でもまぁ、まだ健全な信仰なんだから、別にいいんじゃないかなとは思う。暴走したらしたで、本人に何とかしてもらえばいいだけだし。

それに、香織に関してはアンカジでも同じようなことになっているから、今さらな気もする。

 

「香織・・・立派になったのね」

「シズシズ、なんだかお母さんみたいだよ」

「それに、ハジメとツルギが壊したものをカオリが直して感謝されるって、ひどいマッチポンプよね」

 

谷口のツッコミとティアの呆れ口調に、俺はさっと目を逸らした。

自覚はある。が、べつに狙ってやったわけじゃないから、大目に見てほしい。

そんな、場が渾沌とした状況の中で、アルテナがアルフレリックに耳打ちした。

 

「お祖父様、お気持ちは察しますが、そろそろ・・・」

「む、そうだな。峯坂ツルギ、南雲ハジメ・・・いや、峯坂殿、南雲殿。大体の事情はカムから聞いている。にわかには信じられない事ではあるが、どうやら本当に同胞達は解放されたようだ。まずは、フェアベルゲンを代表して礼を言わせてもらう」

「言っておくが、事を成したのはハウリア族だ。そこは間違えるなよ?」

 

アルフレリックの言葉に、俺が釘を刺しておく。

そう、今回の奴隷解放はハウリア族がことを為したからこそ実現したものだ。俺たちがやったと周りに思われたら、最悪今回の成果が水の泡になる可能性もゼロではない。

 

「ああ、もちろんわかっている。まさか、最弱のはずの兎人族が帝国を落とすとはな・・・長生きはしてみるものだ。おそらく、私は今、歴史的な瞬間に立ち会っているのだろう」

「まぁ、そうだろう。実際、歴史に残るようなことをしたわけだからな」

 

ちなみに、敗者として歴史に名を刻むだろうガハルドは、いつかの仮面戦隊の仮面(黄土色で光と音を完全遮断する)をつけている。周りから「ふざけやがって!」と思われるかもしれないが、素顔をさらしたままでもどのみち「ふざけやがって!」みたいなことになるのは目に見えている。それに、姫さんやその侍女、近衛兵もいるから、いつかは黄土色仮面がガハルドだとバレるかもしれない。だから、さっさとガハルドを連れていきたいというのが俺の本音だ。

だが、まだもう少し時間がかかるだろうとは想像に難くなかった。

なぜなら、この場には立役者であるハウリア族がいる。アルフレリックの言葉に、他の亜人族も改めてハウリア族の存在を意識し、族長であるカムに畏怖や尊敬といった、まるで英雄を見るような眼差しを向けていた。

 

「ユエさん・・・」

「ん・・・」

「カムの横に立ってやったらどうだ?」

 

ちらりと視線を横に向けると、そこではシアが万感の思いで瞳を潤ませており、ハジメとユエがシアノ背中を押していた。

自分の父親が、今までの仕打ちや艱難辛苦を乗り越えて、今や英雄としての扱いを受けているのだ。

ハジメやユエが温かい視線を向けるのも、納得できる。他からすれば、ちょっと受け入れがたかったようだが。

そして、シアは2人の後押しを受けて、カムの横に立とうと駆け寄った。

さぁ、感動のシーンだ・・・

 

シュババッ!

 

と思ったら、カムが右腕をスッと掲げた。あれはたしか、対帝国でも使った集合の合図だ。

その合図を受けて、他のハウリア族が広場に集まった。

 

「あ、あれ?父さま?いったい何を・・・」

「聞け!同胞たちよ!」

 

シアの困惑には目もくれず、カムは声を張り上げた。

 

「長きに渡り、屈辱と諦観の海で喘いでいた者達よ。聞け。

此度は、帝国に打ち勝つことが出来たが、永遠の平和など有り得ない。お前達の未来は、そう遠くない内に再び脅かされるだろう。

そうなれば、お前達はまた昨日までの日々に逆戻りだ。それだけではない。今度は、奴隷を免れていた仲間も同じ目に遭うかも知れない

お前達はそれでいいのか?

いいわけがないな?なら、どうすればいいか。

簡単だ。今、隣にいる大切な者を守りたいと思うなら・・・戦え。

ただ搾取され諦観と共に生きることをよしとしないなら・・・立ち上がれ。兎人族の境遇を変えたいと願うなら・・・心を怒りで充たせ!我等ハウリア族はそうした!

兎人族は決して最弱などではないのだ!

決意さえすれば、どこまでも強くなれる種族なのだ!我等がそれを証明しただろう!

帝国で受けた屈辱を思い出せ。不遇な境遇に甘んじるな。大切な者は自らの手で守り抜けっ。諦観に浸る暇があるなら武器を磨け!戦う術なら我等が教えよう。

力を求め、戦う決意をしたのなら、我等のもとに来るといい。

ハウリア族は、いつでもお前達を歓迎する!!」

 

主に兎人族に向けて発せられたであろう演説は、兎人族のみならず、他の亜人族の心に響き渡った。傍から見れば、まさに英雄の発破だとも受け取れるだろう。

・・・たださぁ、これって要約すると、あれだろ?ハウリア族の一員になりたいもの募集!ってことだろ?

様子を見る限り、ほぼ全員の兎人族の瞳に火種が灯っている。

これは、あれだ。

 

「歴史に、優しい兎人族の絶滅も追加だな」

「なんていうか、シアがいたたまれないわね」

 

それもそうだろう。

もし、誰かから「兎人族を、誰がこんな風にした!」と問われたら、こう答えなければならないのだ。

私の旦那様と、父さまです、と。

たしかに、いたたまれない。

俺たちの間に微妙な空気が流れたが、とりあえずアルフレリックがアルテナに案内を促すことで、一度空気をリセットしてくれた。

ただ、そのアルテナが妙にハジメを意識しており、シアと火花を散らしたり、ハジメがシアの手を握ることでアルテナが意気消沈していたりしたが、似たような光景は何度も見たことがあるから、それほど気にはならなかった。

どちらかといえば、最初と比べてハジメがシアに心を砕くようになったことの方が、よっぽど面白そうだ。いやまぁ、それはそれで俺にも関係してくる部分が出てくるわけだが、今は考えないようにしておこう。今も俺に向けられているイズモの視線にどう反応すればいいかわからない。

 

 

* * *

 

 

その後、俺たちは広間に案内され、そこでガハルドが長老衆の前で正式に敗北宣言と誓約の宣誓をした。

これで、全ての長老がハウリア族の言葉を真実として受け入れることになった。

 

「ふん。しかし、よくも1人でのこのこと来られたものだな。貴様は我らの怨敵だぞ。まさか、生きて帰れるとは思っていないだろうな?」

 

その中で、虎人族のゼルが、敵地のど真ん中にも関わらず不遜な態度を崩さないガハルドを憎々し気に睨んだ。

だが、ガハルドはこれにも動じないどころか、むしろ挑発してきた。

 

「はぁ?思っているに決まっているだろう。まさか、本気で俺を殺せると思ってやしないだろうな。だとしたら、フェアベルゲンの頭はとんだ阿呆ということになるぞ?」

「なんだと、貴様!」

「ゼル、よせ」

 

ゼルはガハルドの言葉に激昂しそうになったが、その前にアルフレリックが止めに入った。

 

「気持ちはわかるがな。ガハルドがここに来たのは、我等にハウリア族の成した事と誓約の効力を証明するためだ。それ以上でも以下でもない。ここで殺してしまっては、ハウリア族が身命を賭した意味がなくなってしまう」

「くっ・・・」

 

ゼルはアルフレリックの言葉になんとか納得したが、気持ちは抑えきれずに拳を床にたたきつけた。

そして、アルフレリックはガハルドにも忠告を入れた。

 

「ガハルド。少しは態度を改めろ。我々を、お前の言う阿呆にするな。時に、理屈では抑えきれぬ感情があると知れ。お前は、それだけのことをしてきたのだ」

 

それはあくまで静かな声音だったが、さすがは長きを生きる森人族の長老と言うべきか、その言葉にはガハルドでさえ不敵な笑みを潜めるだけの重さがあった。

だが、それでガハルドの態度が変わるわけでもなく、

 

「だったら、剣を取れ」

 

胡乱気なまなざしを向けるアルフレリックに対し、ガハルドは真っすぐなまなざしを向けたまま言葉を重ねる。

 

「俺が、帝国が敬意を払うのは、強者だけだ。俺の態度が気に食わないというのなら、力を以て従わせろ。帝国の皇帝を、御託でどうにかできると思うなよ。

俺が負けた相手は、亜人族じゃあない。敬意を払うべきは、お前らじゃあない。剣を取り、命を懸け、戦場にて強さを示したのはハウリア族だ!」

 

この言葉と共に、ガハルドは周囲に覇気をまき散らす。

場はすでに一触即発の空気に包まれており、いつ血の応酬が繰り広げられるかもわからない。

・・・まぁ、ここいらが潮時か。

 

「ハジメ、やれ」

「おう」

 

俺の合図に、ハジメは立ち上がってガハルドの首根っこをつかんだ。

 

「あ?なんのつもりだ?」

「おい、ガハルド。これ以上はめんどくせぇから、さっさと帰っていいぞ」

 

ガハルドの問い掛けにハジメが適当に答え、帝城へとつながるゲートを開いた。

それで、ガハルドも自分が何をされるのかわかったらしい。じたばたと暴れ始めた。

 

「お、おい!まさか、本当にこのまま送り帰す気かっ!ちょっと待て、折角、フェアベルゲンまで来たってのにっ、色々知りたいことがっ。それにお前のことも、って離せ!こら、てめぇ!俺は皇帝だぞ!引きずるんじゃねぇよ!」

「んなもん知るか。俺は、お前を証人として連れてきたんだ。会談を見守るためじゃない。送り返さなきゃならないのに、なんで待ってなきゃいけねぇんだよ」

 

ガハルドはわめきながらじたばたと暴れるが、その程度でハジメを振りほどくことはできない。ハジメはため息をつきながら、ガハルドに本音をぶちまける。

そんなハジメに説得は無駄と悟ったのか、今度は俺の方を見て文句を言ってきた。

 

「おい、峯坂ツルギ!今、ある意味、二国間の歴史的な会談って感じだっただろ!?なんで空気を読まずに帰らせようとしてんだよ!」

 

ガハルドのわがままに、俺もため息をつきながら呆れ100%で諭す。

 

「今まで何百年も続いてきた価値観の相違、恨みつらみってのは、今ここでちょっと話し合って解決するような簡単な問題なのか?それほど浅い溝でもないだろう?」

 

実際、ガハルドへの報復や改心などを改める亜人族と、実力至上主義を掲げるガハルドの信念は、見事なまでに平行線をたどっている。ここで一度話し合ったところで、何も解決しないだろう。

それにだ。

 

「この会談を最初で最後にされても困るんだよ。こっから何度も会談を重ねて、互いのすり合わせをしてもらうぐらいのことしなけりゃ、この問題はいつまで経っても解決しないだろう」

 

そう、大変なのはここからなのだ。

人の価値観は簡単には変わらない。今回の奴隷解放に納得していない帝国民はそれこそ嫌というほどいるだろうし、聖教教会関係で亜人族を汚らわしい種族と見ている者も少なくないだろう。

それに、帝国に報復や復讐を考えている亜人族も0ではないはずだ。

そういったトラブルを解消するために、それぞれの代表には働いてもらわなきゃ困るというのに、その肝心の代表が殺し合いをしたり、仲が悪いまま会談をしないとか、揃いも揃ってガキかと思わざるを得ない。

 

「そういうわけだから、ガハルド。てめぇももうちょい話し合いの精神を身に付けろ。これ以上わがまま言うなら、俺が手ずから精神改造してもいいんだぞ?ちょうど、それができる神代魔法があるからな」

「この悪魔めっ!!」

 

ちょっと何を言ってるのかわからないな。俺は聞き分けの悪い大人を素直な大人に変えてあげようとしているだけなのに。

周りからも戦慄の眼差しを向けられるが、とりあえずスルーする。

姫さんがぞんざいな扱いを受けているガハルドを見て嬉しそうにルンルル~ン♪とステップしているが、それも見てないふりをした。あっちはそもそもハジメのせいでもあるし。

そして、ガハルドはそのままハジメによってゲートに放り込まれ、帝城へと送り返された。

場の空気もリセットされたのは、結果オーライってことで。

ちなみに、姫さんは長老衆と現状や今後のことを話したいということで、その場にとどまった。まぁ、どうせ後で送り返されるだろうが。

 

「さて、用も済んだし、俺たちはさっさと部屋に戻って休むとするか。俺もハジメも、フェルニルの操縦で疲れたし、大迷宮攻略も控えている」

「ふむ、それはそうでしょうな。なら、すぐに案内させますよ、兄貴、ボス」

 

カムもまだフェアベルゲンで陣頭指揮を続ける必要があるからと、他の者に案内させようとしたが、その前にアルフレリックが俺たちを呼び止めた。

 

「待ってくれ、峯坂殿、南雲殿。まだ、報いる方法が決まっていない。もう少し付き合ってくれないか」

「悪いが、気持ちだけで十分だ。それに、何度も言っているが、事を為したのはハウリア族だ。俺たちじゃない」

「もちろん、カムたちにも相応の礼をする。だが、峯坂殿たちにも大恩があるのも事実。何もしなければ亜人族はとんだ恥知らずになってしまう。せめて、今夜の寝床や料理くらいは振舞わせて欲しい」

 

・・・まぁ、変にお宝とか地位をもらうよりはいいか?

ハジメたちにも確認の視線を送ると、特に反対はないようだった。八重樫や谷口にいたっては、ケモミミと触れ合えることに目を輝かせている。

 

「・・・そういうことなら、世話になろう」

 

俺の返答にアルフレリックはホッとしたように息をつき、今度は視線をカムに向けた。

 

「さて、カムよ。追放された身で、襲撃者共を駆逐し、尚且つ、帝国に誓約までさせ同胞を取り返した。我等は、お前達に報いなければならない。とりあえず、ハウリア族の追放処分を取り消すことに異存のある者はいない。これは先の襲撃後の長老会議で既に決定したことだ。これからは自由にフェアベルゲンへ訪れて欲しい。なんなら、都の中にハウリア族の居住区を用意しよう」

 

追放処分の取り消し。これはまぁ、言ってしまえば当然だろう。さすがに、ここまでしてもらって追放処分のままにするほどのバカは、ここにはいないようだ。

カムはと言えば、特になんとも思っていないようだが。

 

「そしてだ。此度の功績に対しては、ハウリア族の族長であるカムに、新たな長老の座を用意することで報いの1つとすることを提案したい。他の長老方はどうか?」

 

アルフレリックの言葉に、後ろの側近たちが驚いたように目を見開いた。

フェアベルゲンの長老衆というのは、ここ数百年の間、ずっと現在の6種族の族長で占められており、それ以外の種族が入ったということは一度もないらしい。つまり、兎人族の身で長老衆の中に入るというのは、それだけで歴史的快挙らしい。(byアルテナ)

そして、他の族長もアルフレリックの案に頷きあい、賛成で満場一致した。

 

「ふむ、そういうわけだ。カムよ。長老の座、受け取ってくれるか?」

 

アルフレリックの提案に、カムはすぐに答えた。

 

「もちろん、断る」

 

その提案を蹴るということで。

 

「「「「「「・・・・・・え?」」」」」」

 

これに、長老たちの目が点になる。

まぁ、それはそうだろう。まさに仲直りしよう的な雰囲気だったのに、その雰囲気をぶち壊したわけだし。

 

「・・・なぜか聞いてもいいか?」

 

アルフレリックがなんとか立て直し、頭痛を堪えながらもカムに理由を尋ねた。

 

「なぜも何も、そもそもお前達は根本的に勘違いをしている」

「勘違い?」

「そうだ。私が亜人族全体を助けたのはもののついでだ。我らが決起を決意したのは、あくまで同族である兎人族の未来を思ってのこと。他の亜人族は、言ってしまえば“どうでもいい”のだよ」

「・・・なんだと」

 

長老衆の面々はカムに信じられないような目を向けるが、俺は「まぁ、言われればなぁ」とは思っていた。

なにせ、俺たちはカムの言葉を聞いている。「我らのせいで、他の兎人族の未来が奪われるのは耐え難い」と。

たしかに、“兎人族の未来”とは言ったが、“亜人族の未来”とは言っていない。

これを聞いていない長老衆からすれば、この反応も普通と言えば普通だ。

それに、他の長老に「同じ亜人族ではないか」と言っている者もいるが、兎人族は同じ亜人族にも蔑まれていた。以前に海人族がシアに特に高圧的な態度を向けていたのがいい例だ。

それを差し置いて「同胞として仲良くしましょう」とか言われても、素直に受け取ろうとは思えないだろう。

ついでに言えば、たしかにアルフレリックが言ったことに嘘はないんだろうが、それでもハウリア族という戦力を手元に置きたいという打算もたしかに存在するだろう。兎人族の未来のために戦うと決めたカムにとって、これは面白くないのも理解できる。

 

「まるで、亜人族から兎人族だけ独立したような言い方だな」

「アルフレリック、お前はいつでも的確だな。全く、その通り。これからは、兎人族は兎人族のルールでやっていく。フェアベルゲンのルールに組み込まれて、いいように使われるのは御免なのでな」

 

この言い方に、アルフレリック以外の長老や側近が激しく憤るが、カムは涼しい顔だ。後ろのハウリア族はやる気満々のようだが。

そんな中、難しい表情で考え込んでいたアルフレリックは、以前に俺たちの相手をした時のような、どこか疲れた表情でカムに話しかけた。

 

「では、カムよ。お前さん達を“一種族にしてフェアベルゲンと対等である”と認めるというのはどうだ。当然、長老会議への参加資格を有することにして。これなら、フェアベルゲンの掟にも長老会議の決定にも従う義務はなく、その上で、我等にも十分な影響力を持てる」

「ほほう~。まぁ、悪くはないな」

 

このアルフレリックの新たな提案に、カムがニヤリと笑った。“まさにその言葉が聞きたかった!”みたいな感じで。

これにもちろん、他の長老はハウリア族を優遇しすぎだと反論するが、アルフレリックはため息をつきながらも諭した。

他の長老はやりすぎだと言っているが、冷静に考えればこれは普通だともいえる。

なにせ、フェアベルゲンの総力でもできなかっただろうことを、ハウリア族は一部族だけで成し遂げた。この事実だけでも、対等だと認めるには十分な理由だ。

それに、ハウリア族を対等だと認めないまま縁を切るよりかは、多少自分たちが不利になってでもハウリア族とつながりを保った方が、まだ先がある。

この辺り、やはりアルフレリックは頭が回るようだ。

 

「そういう訳で、カムよ。長老会議の決定として、ハウリア族に“同盟種族”の地位を認める、ということでよいか?」

「まぁ、認められようが認められまいが、我らのやることは変わらんが、そういうことでいいだろう。ああ、ついでに、大樹近辺と南方は我等が使うから無断で入ってくるなよ?命の保障は出来んからな」

 

しれっとカムから追加の注文が入った。しかも、すでに決定事項として。

さすがのアルフレリックもこれには頬をピクリとさせ、シアは顔を両手で覆った。

さすがの俺も、アルフレリックに向けて謝罪の目礼をした。

ハジメの教育のせいで無駄に疲れさせてすまない、と。別に俺は、カムの言ったことを否定するつもりはないが、一応、ハウリア族がこうなったのは、俺のハジメへの監督不足のせいでもあるし。

アルフレリックも、それに気づいたようで小さく苦笑した。

・・・今日はもう疲れたから、さっさと部屋に行って休もう、そうしよう。




「はぁ、どうしてこうなったんだか・・・」
「さすが、ハジメよね」
「ちなみに、ツルギ殿ならどうするつもりだったのだ?」
「あ?あ~、そうだなぁ・・・とりあえあず、ハー〇マン方式は避けるな」
「・・・そのハー〇マン方式とは、それほどまでに危険なものなのか?」
「効果は抜群、ただし副作用も強烈、ってところだな」
「・・・ツルギ殿の世界とは、とても恐ろしいのだな」
「言っておくが、あれを普通だと思うなよ」

ツルギの世界を若干誤解しそうになったイズモの図。

~~~~~~~~~~~

今は大学のテスト週間なので、いつもよりスローペースです。
とりあえず、あと1週間ちょっとくらいなので、そこまでスローペースのままではないかと思います。

この時のカム、言っていることは割と正論だったりしますが、正論に聞こえないのは開発者が原因なのでしょう、間違いなく。
一応、言葉だけ見ればたしかにと思えなくもないですが、態度のせいでそう思えないという。
ハジメの影響力は計り知れないですね、はい。

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