二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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うっそだろおい

鍛錬の翌日、俺たちはシアを先頭にして大樹へと向かっていた。

俺たちが鍛錬をしている間、ハジメたちはハジメたちでいろいろとあったようだが、ここではスルーしておく。

現在、樹海の魔物はすべて香織と天之河たちに任せており、俺たちや周囲に散らばっているハウリア族は手を出さないようにしている。大樹の大迷宮がどのようなものかわからない以上、天之河たちには樹海の魔物でウォーミングアップしてもらうことにした。

では、なぜ香織も参加しているかと言えば、使徒の身体で本格的に戦闘をするのは初めてなのと、まだ使徒の身体を使いこなせてはいないことから、香織にもウォーミングアップしてもらうことになったわけだ。

使徒の身体はかなり便利なようで、濃霧の影響をあまり受けないらしく、天之河たちが樹海の魔物の奇襲戦法に苦戦している中、香織だけ銀羽による分解ホーミング攻撃や大剣で魔物を蹴散らしている。双大剣じゃないのは、まだそこまで使いこなせていないからだが、1本だけなら十分剣士を名乗れるくらいに成長している。

 

「大分、慣れてきたみたいだな。毎日、ユエと喧嘩しているだけの事はある」

「・・・スペックが異常。うかうかしていられない」

 

ハジメの呟きに、ユエが感嘆も込めて返す。

そして、俺も感想は同じだった。

なにせ、同じ一刀という条件だが、今の段階でも俺が1対1でやりあってもてこずるほどだ。剣術が十八番だった俺にとって、ちょっと存在が薄くなりそうな気がして内心焦ったのは内緒だが。

 

「そんな事ないよ。魔法はまだ実戦だと使い物にならないし、分解も集中しないと発動しないし・・・ユエからは一本も取れないし」

「・・・香織。あなた何を言ってるのよ。軽く私達を上回る身体能力に、銀翼と分解なんていう凶悪な能力、魔法は全属性に適性があって無詠唱・魔法陣無しで発動可能。剣術も冗談みたいに上達して上限は未だ見えず、ただでさえ要塞みたいな防御能力なのに傷を負わせても回復魔法の練度はそのまま継承しているから即時に治癒して・・・もうチートなんて評価じゃ足りない、バグキャラというべきよ。なのに、まだ不満なの?」

 

香織の自信なさげな言葉に、八重樫が呆れ気味に指摘した。

まぁ、まだ使徒の身体になれていない香織からすればそうかもしれないが、慣れたら俺たちとタメを張るか、もしかしたらスペック的には超える可能性だってあるわけだから、俺たちだってうかうかしていられない。

 

「でも、ユエやシアにも勝てないし・・・私がバグキャラなら、ハジメくん達は?」

「・・・名状しがたい何か・・・としか・・・」

 

八重樫の俺たちに対する評価に俺にも思うところがないわけじゃないが、あまり否定できない。それでも敢えて言うなら、“化け物”ということになるのかもしれないと、俺は思っているが。

 

「大丈夫だ、雫。大迷宮さえクリアできれば、俺たちだって南雲や峯坂くらい強くなれる。いや、南雲が非戦系天職であることを考えれば、きっと、もっと強くなれるはずだ」

「・・・だな。どんな魔法が手に入るのか楽しみだぜ」

「・・・うん、頑張ろうね!」

 

複雑な表情になった八重樫に、天之河が励ますような調子でそう告げた。

谷口と坂上も、微妙な雰囲気を払拭するように、明るい調子で同意したが、わずかに間が空いたのは、見当違いな部分もあると気づいたからか、一瞬だけ俺に向けられた対抗心に気づいたからか。

天之河は、俺たちの強さの理由を神代魔法によるもの()()だと考えているように見える。

だが、実際はそうではない。神代魔法に関係なく、俺たちが強者である理由もあるのだが・・・天之河はそれに気づいているのか。いや、気づいていないだろう。

坂上と谷口は、少なからず俺の教えを受け、飲み込んでいるだけあって気づいたようだが・・・今はそのことについて突くのはやめておこうか。せっかく、緊張をほぐすために坂上と谷口が気を遣ったんだ。それを無下にするようなことを言うほど、俺も考えなしではない。

ティアも、天之河の視線に気づいたようでムッとしたが、俺が肩を竦めて「気にするな」と伝えると、渋々引き下がった。

 

「みなさ~ん、着きましたよぉ~」

 

そんなやり取りをしていると、シアが大樹への到着を告げた。

その声を受けてシアの方に走り寄ると、一気に濃霧が晴れて、以前と変わらない姿の大樹が姿を見せた。

 

「・・・大丈夫だとは聞いていたが、大樹はちゃんと無事だったみたいだな。にしても、相変わらず枯れたままなのな」

「たしか、ここにあるときから枯れていたのだったな?」

「アルフレリックの話によるとな」

 

少なくとも、口伝で伝わっている範囲ではずっと枯れていたと聞いている。

天之河たちも、始めてみる大樹の威容に唖然としていた。

俺やハジメたちも最初は似たような感じだったんだろうなぁ、と感慨深く感じながらも、俺たちは例の石板のところに向かった。

 

「カム、なにが起こるかわからないから、ハウリア族は念のために離れておけ」

「わかりました。ボス、兄貴、ご武運を」

 

俺の指示にカムたちは従い、少し残念そうな表情になりながらも敬礼を決めてから散開した。

それを確認してから、ハジメは宝物庫からオルクスの証である指輪を石板の裏の窪みにはめ込んだ。

すると、以前と同じ文章が浮かび上がってきた。

 

「これは前と同じだな。ハジメ、どれを使う?」

「とりあえず、神山以外のやつをはめ込んでみるか」

 

ハジメはそう呟きながら、それぞれの攻略の証をはめ込んでいった。

石板の方も、証をはめ込むごとに輝きが強くなっていっていく。

そして、神山の攻略の証以外をはめ込んだ直後、その輝きが解き放たれたように地面を這って大樹に向かい、今度は大樹そのものを盛大に輝かせた。

見てみると、大樹にも七角形の紋様が浮かび上がっていた。

 

「ふ~ん?ここで再生魔法を使うのか?」

 

呟きながら、俺は紋様に手を当てて再生魔法を使った。

直後、今までの比じゃないほどの光が大樹を包み込み、巨大な光の柱をかたどった。光に包まれた大樹は光を隅々に行き渡らせながら、徐々に瑞々しさを取り戻していく。

 

「あ、葉が・・・」

 

ティアの呟きに視線を上げると、たしかに大樹の枝に次々と葉が生い茂っていった。

まるで命の誕生を見るような光景に目を奪われながらも周囲を観察していると、大樹は周囲に葉鳴りを響かせ、途端に正面が左右に割れて、大きな洞が出来上がった。

俺たちは顔を見合わせて頷き、躊躇なく洞の中に足を踏み入れた。

このとき、大迷宮を攻略していない天之河たちがはじかれないか心配したが、特に問題なく入れたようだ。おそらく、「入りたければ入れ、何があっても知らんけど」なスタンスなんだろう。

俺は洞の中を見回したが、ドーム状になっているだけで道も扉もなかった。

だが、

 

「行き止まりなのか?」

「いや、下だ!」

 

天之河の呟きに、俺は否定を返す。

次の瞬間、洞の入り口が完全に閉じて、地面に魔法陣が出現して光を放ち始めた。

 

「うわっ、なんだこりゃ!」

「なになに!なんなのっ!」

「落ち着け!転移系の魔法陣だ!転移先で呆けるなよ!」

 

道央する坂上と谷口を俺が叱咤したと同時に俺の視界は光に塗りつぶされ、直後に暗転した。

 

 

* * *

 

 

光の奔流がなくなったのを感じて目を開くと、そこは森の中だった。

木の中に森とかどうなってんだと思うが、それを言えば海底洞窟にも森はあったんだから、今さらだと考えることにする。

それよりも問題なのが、今は俺一人しかいないということだ。全員がバラバラになったのか、俺や少数だけが離されたのかはわからないが、俺が孤立しているのはたしかだ。

まずは、ハジメたちを探すのが目標か。

 

(さて、どうしたものか・・・)

「キュキュゥ・・・」

 

・・・ん?今の鳴き声、どこからだ?周りには、俺以外の気配は感じないが・・・。

いや、ちょっと待て、そういえば、視線がやたらと低い。詳しくはわからないが、周りの草や樹木から推測するに、高くても1mはないだろう。むしろ、50㎝前後といったところか。

・・・この辺りで嫌な予感がした俺は、恐る恐る俺の手を見てみた。

 

 

 

俺の視界に入ったのは、紫の肌に白い毛が生えた、明らかに人間ではない腕だった。

 

 

(うっそだろおいーーーーー!!??)

「キュキュゥゥーーーーー!!??」

 

つーことはあれか?俺は今、完全に魔物の姿になってるってことか?下手すれば、なんかの動物っぽい見た目の!

それに、ふと足元を見下ろしてみれば、むしろあるの?ってくらいの短さしかない。道理で歩きにくいと思ったわけだ!

尻あたりに変な感覚があると思ったら、尻尾も生えているし!

さらにまずいのが、装備がすべて没収されており、魔法もろくに使えない。戦闘面では、まず間違いなく戦力外通告まったなしだ。

・・・だが、不幸中の幸いと言えるかはわからないが、わかったことがある。

この迷宮のコンセプトがなんとなくわかった。おそらく、あの石板に書かれていた“紡がれた絆の道標”というのは、亜人族の協力を得て案内してもらうことではなく、仲間との絆を以て試練を乗り越えることができるか試すということだろう。

であれば、いつまでもこのままということはないはずだ。さすがに迷宮に入った瞬間にゲームオーバーはシャレにならない。

そう考えれば、魔物の姿になったのも、魔物になった仲間を判別、あるいは信頼できるかを試しているのだろう。

なんにせよ、まずはハジメたちを探そう。話はそれからだ。

ハジメたちに俺だとわかってもらえるか不安もあるが・・・だからと言っていつまでもしり込みしているわけにはいかない。合流した時のことは、ハジメたちを見つけた時に考えるとしよう。

俺は決意を固めて、ハジメたちを探すために歩き出した。

 

 

* * *

 

 

決意を固めてから数十分後、俺は必死に逃げ回っていた。

何から?数えきれないほどのロケットやミサイルによる爆撃からだ。

 

(くそったれーー!!)

「キュキュッキューー!!」

 

どうしてこうなったのかと聞かれても、俺にだってわからない。数分前、何やら嫌な気配というか殺気を感じたと思ったら、遠くから噴射音が聞こえた。それが徐々に近づいていると思った俺は、その場から全力で逃げた。次の瞬間には、ミサイルとロケットによる大虐殺が始まった。

不幸なことに、魔物に襲われないとわかった俺は周囲に魔物がいるのも無視して探索していたから、俺を認識していない可能性が高い。いや、そもそも俺が魔物の姿になっていることがわかっているかどうかも怪しいところだ。

幸いなのは、俺のいる位置がちょうど射程の境目付近だったことだろう。中心地に比べれば、まだ被害は少ない。

だが、移動しながらぶっ放しているのかじりじりと爆風が近づいてくる。

それを俺は木の枝による立体機動や今の身体に適応した体捌きで必死に回避している。

この惨劇を引き起こした人物には、1人しか心当たりがない。いや、他に同じことができる奴がいても困るだけだが。

とりあえず、ハジメはあとでボコして説教しよう。

 

 

 

 

 

 

必死に逃げ回ること、さらに数分後。俺にとっては永遠のように感じた数分だったが、それはともかく、ようやく爆撃が収まった。

新しいミサイルの気配がないことを確認した俺は、なるべく身を隠してハジメたちがいるだろう方向に進んだ。

場所はそこまで離れていなかったようで、およそ500mほど進んだところでハジメたちを見つけた。

見た限り俺の他にいないのは、ユエ、ティオ、坂上の3人だ。

だが、なんか妙なことになっている。

というのも、ゴブリンっぽい見た目の魔物が、ハジメとイチャイチャしているのだ。

それで、なんとなく、あのゴブリンがユエだろうと思った。ハジメなら、それくらいはすぐに見抜きそうだ。

なら、俺たちが魔物になっていることはわかっていると考えていいだろう。

それを確認した俺は、即座にハジメのところに向かった。気配を消して。

一番最初に気づいたのはティアで、その次に八重樫、その次にハジメが振り向かずに拳を放ってきた。

俺は放たれた拳を回転しながら受け流し、回転運動も加えた尻尾攻撃を顔面に叩き込んだ。

 

ビシッ!

「んあ?なんだこいつ?」

 

とはいえ、今の身体ではステータスに差がありすぎるせいで、ハジメにとっては痛くもかゆくもなかったようだが。

 

「キュキュウ!キュキュウ!キュキュッ、キュー!」

 

言葉を発することができな俺は、鳴き声とジェスチャーで俺の態度を示したが、ハジメは『なんだこいつ』と言わんばかりに首をかしげる。

こいつ、本気で俺のことがわかってないのか?なら、さらにもう一発・・・

 

「ツルギ!!」

「ムキュウ!?」

 

叩き込もうと思ったら、サイドから思い切り抱きしめられた。

俺を抱きしめた正体は、ティアだ。

ティアはよほど心配だったのか、一心不乱に俺を抱きしめ続けている。

 

「ツルギ!ツルギ!」

「ム、キュ、ギュウ・・・!」

 

ただ、力が強すぎて俺の呼吸ができない。

やばい、酸欠でめまいが・・・。

そこで、ようやく俺の正体を察したハジメが、俺に念話石を渡してきた。

俺はこれを受け取り、ティアの腕をタップしながら話しかけた。

 

『ティア、もう少し力を緩めてくれ。さっきから首がしまって・・・』

「え、あ、ごめん!」

 

ようやく正気に戻ったティアは、俺を抱きしめる力を緩めた。

それでなんとか余裕を持った俺は、ティアの頭を撫でながら話しかける。

 

『心配かけて悪かったな。見ての通り、俺は無事だ。だから、早く泣き止んで・・・』

 

話しかけている途中で、俺は気づいた。

ティアはすでに泣いていない。それどころか、俺の体に顔をうずめたまま頬ずりさえしている。

なんとなく、嫌な予感がした。

 

『・・・ティア。まさかとは思うが、今の俺の姿を満喫しているとかじゃないよな?』

「・・・べつにいいじゃない」

 

言外に肯定されてしまった。

そして、ハジメが俺にニヤニヤと笑みを浮かべている。他の面々も、男性陣はなにやら面白そうな表情を浮かべていたり、女性陣はわずかに頬を赤くしている者さえいる。主に八重樫と谷口が。

なんだか、さらに嫌な予感がしてきた。

 

『・・・なぁ、ハジメ。今の俺は、いったいどんな姿なんだ?』

「あぁ?まだ見てないのか?なら、ほらよ」

 

そう言いながら、ハジメは宝物庫から姿見を取り出した。

そこに映っていたのは、

 

『・・・マジかい』

 

全身は顔と手足を除いて、丸っこい耳も含めて白い体毛に覆われ、つぶらな瞳に小さな鼻を持った、わ〇ぼうに酷似した姿になっていた。

有り体に言えば、とてもかわいいビジュアルになっていた。

 

『くっそ!こんなの俺じゃねぇ!!』

「いや、私はかわいらしいツルギ殿もいいと思うぞ?」

『褒められた気もしないし、嬉しくもねぇから!』

 

はたして、可愛いと言われて喜ぶ男がどれだけいるのか。

俺はじたばたと暴れるが、それでティアの抱擁から抜け出せるはずもなく、疲れた俺はぐったりと力を抜いた。

そして、ふと強烈な視線を感じる。

顔を上げてみれば、八重樫がいつぞやのシアのウサ耳を前にしたときのように、口元をだらしなく緩ませながら、瞳をキラキラさせていた。あと少しでよだれが垂れそうなレベルだ。

ティアもその視線に気づいたようで、いったん顔を離したと思ったら、八重樫の方に俺を差し出し、

 

「せっかくだし、抱きしめてみる?」

『ティア!?』

 

そんなことを言ってのけた。

これに八重樫は、まるでゾンビのように両手を前に差し出しながら俺の方に近づいてきた。

 

『待て!近づくな!せめてよだれは拭いてくれ!』

「・・・もふもふ・・・」

『くそっ、正気を失ってやがる!おい!お前たちもニヤニヤしてないで助けてくれ!ハジメも!ゴブリンといちゃついてんじゃねえよ!』

 

俺は必死に訴えかけるが、だれも手を差し伸べてくれない。

天之河でさえ、視線を逸らしたまま周囲を警戒しているふりをしている。

そして、とうとう八重樫の手にわたってしまった。

手渡された瞬間になんとか振りほどこうと暴れたが、思った以上に今の身体は貧弱なようで、八重樫からでさえ逃げられなかった。

 

『ちょ、まっ、やめ、のあああぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

俺の訴えもむなしく、その後も散々に、主に八重樫、ティア、イズモにモフモフされた。

・・・イズモがモフモフされてるときって、こんな感じなのかなぁ・・・。




『やめろぉ!離せぇ!』

5分後

『お前らぁ・・・いい加減にぃ・・・』

15分後

『・・・』(ぷら~ん)
「静かになったな」
『・・・ん。諦めたともいう』

徐々に抵抗する気力をなくしていったツルギの図。

~~~~~~~~~~~

ティアが魔物になると思ったか?
残念、ツルギが魔物になるのだ。
さすがに恋人が魔物になってハジメやツルギがキレるのはありきたりだと思ったので、発想を変えてみました。
ちなみに、なぜわ〇ぼう風にしたかと言えば、単純にドラクエの中で自分が最も抱いてみたいモンスターだからです。
あれの抱き心地もとても気になるので。




・・・ちなみに、自分はアレルギー検査したら、主要なやつはすべて陰性でした。
なので、思う存分モフモフできます。
やったぜ。

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