二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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今回から、ツルギくんがバグ化していきます。
*雫との絡みを変えました。
 月島獅道様の感想を取り入れてみてます。
*ツルギの天職を「神子」に変更しました。
 さすがに弓兵だと無理がある気がしたので。


俺の決意

「離して!南雲君のところに行かないと!約束したのに!私が、守るって!離して!」

 

すぐさまロープを登って橋の上に戻ると、そこでは白崎が八重樫に羽交い絞めにされながらも必死に橋の下へと手を伸ばしていた。

様子を見る限り、どうにも普通じゃないようだ。

白崎が言っている約束というのも、おそらくあの時の夜に話したことなのだろう。

 

「香織!ダメよ、香織!」

 

八重樫も白崎の心情を理解しているからか、必死に止めながらもかける言葉が見つからないようでいた。

 

「香織!君まで死ぬ気か!南雲はもう無理だ!落ち着くんだ!このままじゃ、体が壊れてしまう!」

 

そこへ天之河が声をかける。

だが、その言葉では白崎は止まらない。むしろ逆効果でしかない。

 

「無理って何!?南雲くんは死んでない!行かないと、きっと助けを求めてる!」

 

たしかに天之河の言う通り、普通ならハジメはもう助からない。

だが、今の白崎にはそれを受け止めることができるだけの余裕はない。

このままだと、本当に白崎の体が壊れてしまう。

だから、俺はすぐに白崎のそばに近づき、

 

「悪いな」

「え?・・・うっ!?」

 

白崎のみぞおちに拳をめり込ませ、白崎の意識を落とした。

倒れこむ白崎を天之河が介抱し、俺をにらんで何かを言おうとする。

だが、その前に八重樫が機先を制して、俺に頭を下げた。

 

「ありがとう。悪かったわね」

「気にするな。俺がやらなくても、メルドさんがやってただろうし」

 

視界の端では、メルドさんが白崎にツカツカと近寄ろうとするのが見えた。

つまり、俺がやるかメルドさんがやるか、その違いだけだ。

 

「それじゃあ、早く出るぞ。八重樫は白崎を頼む」

「わかったわ」

 

それだけ言って、俺はメルドさんのもとに向かった。

今は、一刻も早く迷宮から出なければならない。

 

 

* * *

 

 

ツルギが去っていく背中を、光輝はどこか納得していない様子で見ていた。

それを見て、雫はたしなめるように声をかける。

 

「私たちが止められないから、峯坂君が代わりに止めてくれたのよ。わかるでしょ?今は時間がないの」

「それはわかっている。だけど、どうしてあいつはあんなに平然としていられるんだ。目の前で親友を失ったというのに」

 

そう、光輝が納得いかなかったのは、香織を強引に気絶させたこともあるが、目の前で親友を失ったというのに動揺のかけらも見せなかったからだ。

これに雫は、ため息をつきながら光輝の勘違いを訂正した。

 

「あなた、本当に峯坂君がなんとも思ってないと思うの?」

「だが・・・」

「峯坂君の手、よく見てみなさい」

 

天之河は言われたとおりにツルギの手に目をやり、そして気が付いた。

見た目は平然としているが、その手からは血がしたたり落ちている。

爪を食い込ませるほどに、手を握り締めているのだ。

それはなぜか?理由はひとつしかない。

 

「あいつだって苦しんでるのよ。あと少しのところで助けることができたのに、結局目の前で、誰よりも近いところで失ってしまったのだから」

「・・・そう、だな」

 

ツルギが平然とした態度をとっているのは、そうすることでクラスにとどめを刺さないようにするためだ。

香織を気絶させたのだって、その叫びがクラスの心に致命傷を負わせないようにするため。

ツルギは、苦しい気持ちを押し殺して、なるべく多くのクラスメイトを生かそうとしているのだ。

 

「ほら、早く行くわよ。全員が脱出するまで、あんたが道を切り開かなきゃいけないんだから」

「・・・あぁ、そうだな」

 

そう言って、雫は香織を担ぎ、光輝も聖剣を携えて立ち上がった。

 

 

* * *

 

 

オルクス大迷宮から脱出した俺たちは、まずはホルアドの宿で一晩を過ごした後、早朝に高速馬車に乗って王宮へと戻った。そして、王宮にハジメの死亡が伝えられた。

最初は国王やイシュタルも含めて誰もが愕然としたものの、それが“無能”であるハジメだと知ると、誰もが安堵の息をついた。

あの場で気絶させた白崎もいまだに目を覚ましていない。

そして、俺はというと、外出の準備をしていた。

だが、買い物に行くわけではない。

 

「入っていいか」

 

俺が淡々と準備をしていると、ドアの向こうから声が聞こえてきた。

 

「どうぞ」

「邪魔するぞ、ツルギ」

 

俺が了解を出すと、メルドさんが中に入ってきた。

わざわざ俺のところに来た理由は、おそらく()()()()だろう。

 

「ツルギ、本当に行くのか?」

「えぇ。教皇と国王にケンカを売ったんですから、このままここにいるわけにはいかないでしょう」

 

そう、俺はハジメの死亡の報告の時にメルドさんと共にいた。

のだが、

 

『なめてるのか?』

『なめてなどいない。だが、勇者の死亡は人間族にとっての大きな損失でも・・・』

『だから、死んだのが“無能”でよかったと、そう言うのか?』

『勇者が死ぬよりは構わな・・・』

 

そこで俺は安堵の息をついた教皇と国王に向かって隠し持っていた短剣を投擲した。

もちろん当ててはいない。顔の横を通しただけだ。

だが、問題であることに変わりない。

メルドさんも、俺の行動には目を剥いて驚いていた。

 

『な!?』

『貴様!国王陛下と教皇様に矢を放つなど、重大な国家反逆と背信行為だぞ!』

『もともと俺は、王国にも聖教教会にも所属しているつもりはない。あんたらが勝手に思ってるだけだ』

『な、それでも勇者の仲間なのか!』

『だから、あんたらが勝手に思ってるだけだろう』

『貴様!!』

 

その結果、俺は周りから非難を浴びて、王国から出て行くことになった。当然と言えば当然だが。

そんな俺のところに来るあたり、メルドさんも人がいいというか、少しお人好しなところがあるというか。

 

「そうか。だったら、聞かせてほしい。どうして、お前はあそこで陛下と教皇猊下を攻撃するような真似をした?」

「ハジメがバカにされたのが気にくわなかったからで・・・」

「それは違うな」

 

俺の()()を、メルドさんは言い終える前に切って捨てた。

 

「大迷宮でのあの時、お前は目の前で親友を失ったにもかかわらず、表は平静を保っていた。そんなお前が、あの場で今さら感情任せに行動したりはしないだろう」

「・・・まさか、そこまでバレるとは思いませんでした」

 

どうやら、思った以上にメルドさんは俺のことを見ていたらしい。

この人になら、ある程度は話していいだろう。

 

「そうですね。たしかに、あれはわざとです」

「理由を聞かせてもらっても?」

「はい。主には三つほどですね」

 

そうして、俺は王国から出て行く理由を話す。

 

「一つ目は、ハジメを探しに行くためです」

「だが、あそこから落ちたのなら、もう助からないのではないか?」

「いえ、俺はまだ可能性があると思います」

「と、言うと?」

「あの奈落の底で、微かにですが、横穴とそこから水が流れているのが見えました」

 

そう、奈落の底は深すぎて俺の“天眼”でも見えなかったが、かろうじて壁から水が流れ出しているのが見えた。

同時に、ハジメがそこに巻き込まれたところも。

そのまま落下していったわけではないのなら、おそらく即死ということはないだろう。

 

「あいつは頭が回ります。おそらく、魔物もなんとかしてやり過ごすことができるでしょう」

「だが、食べ物も何もないのに、何日も持たないと思うが」

「それはそうですが、仮に生きていなかったとしても、せめてあいつがいた証は持っておきたいんです」

 

結局、ハジメがどこにいるのかはわからない。最低でも、遺品となるものくらいは回収したかった。

 

「二つ目ですけど、白崎のためです」

「白崎というと、まだ目を覚ましていないあの嬢ちゃんか」

「はい。おそらく目を覚ましたら恐慌状態に陥る可能性があります。それで、俺がハジメを探しに行っていると伝えておけば、多少は落ち着くかもしれません」

 

もちろん、望み薄ではある。だが、ないよりはいいだろう。

 

「そして、三つ目ですけど、教会と縁を切るためです」

「それはなぜだ?」

「こっちの理由は二つあります。一つ目に、俺は聖教教会、ていうより、教皇も含めた本山の幹部とエヒトを信用していません」

「・・・理由を聞かせてもらおうか」

 

この俺の言葉に、メルドさんの目に剣呑な雰囲気が宿る。

メルドさんも聖教教会の信者だ。人格者とはいえ、信仰している教会やカミサマを悪く言われるのはいい気分ではないのだろう。

 

「あくまで俺の考えですが、たしか聖教教会は人間族のおよそ9割が信徒で、そのすべてが同じ考えでエヒトを崇めているんですよね?」

「あぁ、そうだが、それがどうした?」

「それは、俺からしたら()()()()()ことです」

「・・・それはなぜだ?」

「俺の世界にも、でかい宗教はあります。ですが、その中にも宗派というものがあります」

 

例えば、キリスト教の中にもカトリックやプロテスタントなどの宗派があるし、日本の神道も多くの神が存在する。時と場合によっては、同じ宗教の違う派閥同士で争うことも、ない話ではない。

 

「少なくとも、一つの神をまったく同じ考えであがめるというのは、俺からすれば不自然です。たとえ同じ神を祀っていても、それが人間である以上、考え方がまったく同じとは限りませんから」

 

宗教を信仰しているにしても、それが人間である以上、必ず考えに差が生じる。それは当然のことだ。

だが、この世界では、その当然が成り立っていない。

 

「それに、教会のトップがあそこまで陶酔しているのも、俺としては不気味です」

 

宗教のトップであるなら、信者のことを第一に考えなければならないはずなのに、イシュタルはそのすべてがエヒトが判断基準だ。おそらく、人間族を滅ぼせと言われたら、喜んで実行するだろう。

 

「だから、お前はエヒト様を信用していないと?」

「いきなり俺らを異世界に拉致して戦えって言っている時点で、信用できる要素なんてありませんよ」

 

俺の言葉に、メルドさんも不承不承ではあるが納得している。

 

「これが、一つ目の理由です」

「・・・では、二つ目は?」

「・・・それは、これを見てください」

 

そう言って、俺はステータスプレートをメルドさんに見せる。

そこに書かれていたのは、

 

 

=============================

 

峯坂ツルギ 17歳 男 レベル:10

天職:神子

筋力:130

体力:150

耐性:70

敏捷:130

魔力:560

魔耐:500

技能:天眼[+魔眼]・剣製魔法・気配感知・魔力感知・全属性適性・複合魔法・魔力操作・想像構成・高速魔力回復・言語理解

 

=============================

 

 

「なっ・・・」

 

これを見たメルドさんは愕然とする。

俺だって、これを見たときは自分の正気を疑った。

ベヒモスに攻撃を入れたとき、突然に沸き上がってきた魔力。いったいどういうことだろうと思ってホルアドでステータスプレートを確認したら、こうなっていたのだ。

魔力と魔耐が大幅に増加し、さらには技能では弓術が消えて、魔法系の技能が4つと、ついこの前話してメルドさんがないだろうと言っていた固有魔法が追加されたのだ。

本来、技能が増えることがあっても、減ることはないと教わっていたのだが、それを根底から覆しているし、さらに言えば天職も変わってしまっている。

もう何がなにやらだ。

 

「・・・偽装の可能性、はないか」

「えぇ。正真正銘、それが俺のステータスです」

「この剣製魔法と言うのは?」

「簡単に説明すると、魔力そのものに実体を持たせて、武器を作る魔法です」

 

これは説明欄を見ただけでなく、夜中に自分でもこっそり試した。

この魔法を使うと、俺の魔力が実体を持ち、イメージ通りの武器を作り出すことができた。

さらに、魔法の発動に詠唱が不要になる魔力操作や、魔法陣をイメージだけで構成できる想像構成、魔力の回復速度が上昇する高速魔力回復、最後に複数種類の魔法を組み合わせることができる複合魔法を身に付けた。

複合魔法と高速魔力回復は天之河も持っているが、後は今のところ俺くらいしかもっていないだろうし、魔力操作に関しては魔物と同じような感じですらある。

 

「これが教会の上層部に知られれば、おそらく飼い殺しにされるでしょう。俺としても、それは嫌ですし避けたい」

「なるほど、たしかにそうだな・・・わかった、このことは他には言いふらさないと約束しよう」

「ありがとうございます」

 

メルドさんが話の分かる人で助かった。やはり、根っこからいい人なのだろう。

 

「それで、王国から出たらどうするつもりなんだ?」

「オルクス大迷宮に潜って、ハジメを探します」

「だが、食料はどうする?早さが肝ではあるが、1人では持ち込める量に限りがあるだろう」

 

メルドさんが言うことはもっともだ。

普通、オルクス大迷宮に潜るときはパーティーを組むか、運び屋を雇う。そうすることで、少しでも長く迷宮に滞在することができる。

俺の場合、一人で潜ることになるから、食料の関係上、本来ならあまり深いところまでは潜れない。

だが、それは()()()()、だ。

 

「問題はありません。魔物の肉を食べますから」

「なっ、正気か!魔物の肉を食べたら死ぬぞ!」

 

魔物の肉、正確には魔力は、人間の体にとっては毒だ。少量でも摂取するだけで、体中に激痛が走り、体がぼろぼろになって死んでしまう。

 

「たしかに、そのまま食べたら死にます。ですが、魔物の肉が人間の体に害なのは、魔物の持つ魔力が人間にとって害だからで、肉そのものに毒があるわけではありません」

「まさか・・・」

「はい。逆に言えば、魔物の肉から魔力を抜きだすことができれば、十分食べれるようになる。俺なら、それができますし、実際に試して成功しました」

 

剣製魔法の本質は、魔力の実体化。であれば、魔力操作と合わせて使えば魔力を抜き出すことができるのではないかと試したところ、見事に成功した。

味はいまいちだったが、今回は食べれるだけでも御の字だ。

 

「・・・よくもまぁ、そんな綱渡りができたな」

「“天眼”の派生技能の“魔眼”のおかげです」

 

何気に追加されていた天眼の派生技能“魔眼”は、魔力の流れを視認することができる能力だ。これを使えば、肉の中に魔力が残っているかどうかがわかる。これのおかげで、安全に魔物の肉を食べることができるのだ。

 

「それに、実力的にも俺なら問題ありません」

「たしかにそうだな・・・わかった。お前の健闘を祈る」

 

メルドさんも、俺の決意を受けて送り出すことに賛成してくれた。

これで、心おきなく探索できる・・・いや、そうでもないな。

 

「ありがとうございます。それと、最後に一ついいですか?」

「なんだ?」

「今回、ハジメが落ちた一件、クラスでは()()()()()ってことになってますよね?」

「あぁ、そうだ。それが・・・」

「あれは事故じゃありません。明確にハジメに照準されていました」

「なに!?」

 

俺の証言に、メルドさんが勢いよく立ち上がる。

それだけ、信じがたいことだったのだ。

 

「それは、本当か?」

「はい、間違いありません。心当たりもあります。動機も含めて」

「・・・それが誰だか言ってもらっても?」

「犯人はおそらく檜山です。動機は、白崎でしょうね」

 

オルクス大迷宮での訓練の際、檜山は憎悪に近い目をハジメに向けていた。間違いないだろう。

おそらく、ホルアドの宿で白崎が俺たちの部屋に入ったところを見て、その嫉妬心にかられたのだろう。

 

「ですが、一応このことは伏せておいてください」

「クラスの士気に影響するから、か?」

「はい。誰もかれもふさぎ込んでいるのに、本当にクラスの中で人殺しをしたやつがでたとなれば、とどめになる。それは避けたほうがいいでしょう。それに・・・」

 

クラスのためでもあるが、もう一つ、でかい問題がある。

 

「天之河は、絶対に信じない」

 

あいつの行動理念は親切心で、性善説を鵜呑みしている。

そんなあいつにとって、クラスの人間が故意に人殺しをしたなどと言っても、「きっとわざとじゃない」などとご都合解釈全開で言ってくるだろう。

今のクラスの支柱は天之河だ。今のクラスでは、天之河の発言がもっとも影響力を持っている。

 

「もしかしたら時間をかければ納得するかもしれませんが、そんなことで時間を無駄使いするわけにはいきません」

「・・・お前は、ずいぶんとあいつのことが気に入らないのだな」

「えぇ。あいつは、戦うことがどういうことかをわかっていない」

 

この世界において、戦うとはどういうことか。答えはひとつしかない。

 

「あいつは、自分が人を殺すことになるという自覚がない」

 

なにも考えずに「俺は戦う」などと言ったのだ。間違いないだろう。

 

「そう聞くと、お前には自覚があるようだが?」

「ありますよ。覚悟もできている」

「・・・お前は、元の世界でも人を殺したことがあるのか?」

 

メルドさんの、確信をついたような質問。

これに対し、俺は、

 

「はい」

 

これだけ答えた。

 

「ですが、そのことについて今ここで話すつもりはありません。それに幸か不幸か、一部はちゃんと自覚も覚悟もあるみたいですからなんとかなるでしょう」

「・・・そうか」

「はい、ですからメルドさんは皆のことをよろしくお願いします」

「わかった」

「それじゃあ、そろそろ行きます」

「あぁ、達者でな」

「はい」

 

そして、俺は部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「峯坂君!」

 

王宮から出ようとしたところ、不意に声をかけられた。

声がした方を振り向くと、そこには八重樫が駆け寄ってきた。

 

「八重樫か。白崎はどうしたんだ?」

「・・・まだ眠ってるわ。それよりも、ここから出て行くって本当?」

 

どうやら、俺を案じてわざわざ見送りに来てくれたらしい。

 

「まぁな。国王と教皇にケンカを売ったんだから、こうするしかないだろ」

「・・・どうして、そんなことをしたの?」

 

まさか、メルドさんと同じことを聞かれることになるとは思わなかった。

だけど、また同じことを話すのは面倒だ。

 

「だいたいのことは、メルドさんに話してある。そっちで聞いてくれ」

「・・・そう。だけど、これだけは聞かせて」

 

そうして、八重樫は俺の目を覗いて尋ねた。

 

「ちゃんと、生きて帰ってくるのよね?」

「・・・さぁ」

 

八重樫の問いには、これだけしかいえない。

 

「一応、俺に力があるとは言っても、相手は迷宮の魔物だ。絶対なんてことはない」

「・・・そうね。でも、これだけは言わせて」

 

そう言って、八重樫は一拍置いた後、

 

 

 

「絶対に、生きて戻ってきなさい」

 

 

「・・・はぁ、わかったよ。善処はする」

 

絶対はないと言ったはずなのに、こう言ってくるとは。

それだけ、俺のことを気にかけているのだろう。

 

「それと、八重樫も無理するんじゃねえぞ。お前が一番しっかりしてるからって、お前だけが重荷を背負う理由にはならないからな」

「あら、私のことも気にかけてくれるの?」

「まあ、お前がリタイアしたらあの馬鹿勇者がどうなるかもわからないしな」

「ふふ、ありがとう。覚えておくわ」

「それじゃあ、またな」

「えぇ、またね」

 

そうして二人で笑いあって、今度こそ俺は王宮を出てオルクス大迷宮へと向かった。


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