二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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黒くて光るあれ

閃光が収まると、そこは転移前と同じような洞の中だった。

 

「ん?転移、したよな?」

「ハジメ、向こうに出口があるぞ」

 

俺も一瞬転移していないのかと思ったが、奥を見れば光がさしていた。ちゃんと転移したということだろう。

今回も偽物はいないことを俺とハジメで確認した。

それから俺たちは意を決して先に進んだ。

そして、出口から出て俺たちが目にしたのは、

 

「これは・・・まるで、フェアベルゲンみたいだな」

 

ハジメの言う通り、フェアベルゲンのものとは比較にならないほどの大きさの木の枝が通路になっており、背後を振り向けば、俺の“天眼”でも大きさを確認できないほどの大きさの巨樹が鎮座していた。そして、伸びている枝は他の枝と絡み合い、複雑な空中回廊を作り出していた。

 

「地下空間・・・であることは、間違いなさそうだが・・・」

「つーか、ハジメ。もしかしなくても、これ、大樹じゃないか?」

 

この付近にある巨樹といえば、大樹“ウーア・アルト”しかない。

だが、それが正しいとしても、さらに疑問がわき上がる。

 

「でもそれだと、地上に見えてた大樹って・・・」

「まさしく、枝の先端でしかない、ってことになるな」

「・・・ほ、本当の大きさはどれくらいになるんだ?」

 

天之河の若干引きつった声音での疑問に答える者はなく、俺もちょっと考えて、

 

「・・・多分、最低でもキロ単位。根も含めれば、10,20は軽くいくんじゃないか?」

 

下手をすれば、さらに桁が追加される可能性だってある。

改めて俺たちは、大樹の規格外のスケールに度肝を抜かれた。

俺も含め、思わず上を見上げるが、呆けてばかりもいられない。

 

「そういやぁ、下も確認しとかなきゃな」

 

どこぞのうざい迷宮ではないが、落ちたら毒沼とか危険だし、そもそもこの高さから落ちた時点でもアウトだ。万が一落ちた時のことを考えて、下の状況を確認する必要がある。

 

「んー、暗いな・・・」

 

地下なこともあって、さすがに下はかなり暗い。

だから俺は“夜目”も使って下を確認して・・・

 

 

 

 

「ツルギ!ツルギ!!」

「はっ!」

 

気付けば俺は、必死になっているティアに介抱されていた。

どうやら俺は、数秒だけだが気絶していたらしい。

俺はいったい何を見たのか、思い出そうとして・・・思い出して、後悔した。

 

「ツルギ!どうしたの!?顔が真っ青になってるわよ!?」

 

今の俺の顔は、ひどいことになっているらしい。

ハジメや天之河たちも、戦慄の表情で俺を見ている。

 

「まさか、あのツルギがそこまで怯えるなんてな・・・」

「なぁ、峯坂。いったい、何があったんだ?」

 

あのもっぱら俺に敵意を向ける天之河が、心配と戦慄半々の表情で問いかけてきて、俺は答える代わりに、ハジメに話しかけた。

 

「・・・ハジメ、クロスビットで地下の様子を映し出してくれ。そっちの方が早い」

「それはいいんだが・・・マジで何がいたんだ?」

「・・・あいつらが、あいつらがいたんだ」

「あいつら?」

 

ハジメは訝しげにしながらも、言われたとおりにクロスビットを一機、下に飛ばし、小型の水晶ディスプレイを全員が見えるように掲げた。

そこに映っていたのを見て、

 

「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」」

 

ハジメたちも含めた全員が顔を青くし、目を背ける。

そう、ディスプレイに映っているのは、1匹見つけたら30匹はいると思え!という言葉と共に恐れられてきた黒い悪魔の名を冠する頭文字Gのあんちくしょう。

その名を、ゴキブリ。

それも、ただのゴキブリではない。この地下空間には、数百万、数千万、いや、数えることが不可能なほどの、もはやゴキブリの海とでも言うべき数が、地下空間にひしめき合っていた。

これにほとんどのメンバーが顔を青くして鳥肌を立てながら目を背け、耳のいいシアはウサ耳を抑えてしゃがみこみ、ユエと香織がそれぞれ薙ぎ払おうとしたが、ゴキの大群に襲われる可能性をハジメに諭されて大人しくなった。

ティアとイズモも、俺を慰めるのではなく、むしろ自分たちの精神衛生のために抱きついてきた。

・・・映像越しの面々でさえこれだ。このパーティーの中で最も目がよく、誰よりもはっきりとゴキの大海を見た俺の精神状態は言うまでもない。

なにせ、触覚や脚の一本一本まで認識してしまったのだ。思い出しただけでも吐き気が・・・。

俺は精神安定のために、ティアとイズモを抱き寄せた。

 

「・・・なんというか、峯坂にも苦手なものがあったんだな」

 

雰囲気を変えるためかはわからないが、天之河が俺に話を振ってきた。

 

「・・・俺だって人間だからな。苦手なものの1つや2つくらいはある」

「にしても、ちょっと過剰じゃないか?さすがに気絶ってのは・・・」

 

ハジメからすれば、俺の反応は大げさだったらしい。

もちろん、理由はある。

 

「これは、俺と親父で大掃除をしていたときの話なんだがな・・・」

 

親父は未婚とはいえ、立場上、どうしても物は多くなる。だから、大掃除の時は協力して箱詰めしてしまっているのだが・・・

 

「ある時な、いつものように箱を持ちあげたら、ゴキがでてきたんだよ」

「あ?んな1匹くらいで・・・」

「30匹くらい」

「・・・」

 

運悪く、箱の下に卵があったようで、わらわらでてきた。

そして、これだけでは終わらなかった。

 

「突然のことで、ついパニックになってな。それで、その拍子に、何匹か踏みつぶしたり、俺の足をカサカサ這い上ってきたり・・・」

 

幸いけがはなかったが、片付けがさらに大変なことになってしまった。

それ以来、俺の中でゴキ=天敵という認識が出来上がった。普通にトラウマだよ、ちくしょう。

俺の話を聞いて、周りはもはやお通夜ムードになっていた。その光景を想像したのか、全員が顔を青くして鳥肌の立った腕をさすっている。

 

「・・・とりあえず、先に進もう。落ちたり不用意に刺激しない限りは大丈夫、なはずだ」

 

もちろん、そんな保証はどこにもないが。むしろ、襲わない理由の方がないわけだし。

それに、正直なところ、もう少しティアとイズモで癒されたい気持ちはあったが、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。大迷宮攻略のためにも、俺は自分の身体を叱咤して立ち上がった。

幸い、通路は十分な横幅があり、よっぽどじゃない限りは落ちる心配もない。ひとまずは、枝が4本合流していて広場のようになっている足場に向かうことにした。

そこに向かうまでの間、俺は内心ではかなりびくびくしながらも、枝から枝に飛び移ったりして、何事もなく目的の場所にたどり着いた。

 

「・・・まだ大丈夫だよな?」

「どれだけ怖がってるのよ」

 

そりゃあそうだろう。別に戦意喪失してるわけではないが、いつ襲い掛かって来ても対処できるようにはしておきたいし。奴らが気配なく近づいてきては危ない。いろいろな意味で。

と、次の瞬間、

 

ウ゛ゥ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!!!

 

恐れていた音が聞こえた。

そう、奴らの羽ばたき音だ。

まさかと思って下をのぞけば、そこにはゴキの大群が津波のように押し寄せてくる悪夢のような光景が!

 

「っ!?全員、攻撃開始ーーー!!!」

 

一瞬で状況を確認した俺は、指示を出しつつすぐさま魔法陣を展開し、迎撃態勢を整えた。この時の展開速度は、たぶん今までで1番だったと思う。確認する暇はないが。

俺が展開したのは、俺の持ちうるすべての攻撃の魔法。何が効果的なのかわからない以上、とにかくあらゆる手段で攻撃する。

“緋槍”の弾幕でゴキを焼き払い、“破断”でゴキを薙ぎ払い、“嵐帝”でゴキを寄せ付けず、“落牢”でゴキをまとめて石化させ、“天翔閃”でゴキを吹き飛ばし、“黒天窮”でゴキを押しつぶし、“震天”でゴキを吹き飛ばす。

もちろん、ハジメたちもそれぞれの最高火力でゴキの大群を吹き飛ばしているが、それでも数が多すぎて全部は叩き落せない。

ゴキ共は小魚の群れのように一糸乱れぬ動きで縦横無尽に飛び回り、俺たちに近づいてくる。

 

「うぅ、こ、ここは聖域なりてぇ、し、しし神敵通さずぅっ・・・“聖絶”ぅ!」

 

すでに半泣きになっている谷口が障壁を展開すると同時に、すでに上空に迫っていたゴキが重力に引かれるように落下して襲い掛かってくる。

谷口のおかげでなんとか防げているが、障壁にすごい勢いでぶつかり、中には潰れて体液をまき散らしている個体がいるのも見て、

 

「む、り」

 

障壁を展開している谷口が気を失いそうになった。

そこに天之河が咄嗟に手を伸ばし、谷口を支えると同時に必死さのにじんだ声で励ます。

 

「鈴ぅ!寝るな!寝たら死ぬぞ!俺達の精神がっ!!」

 

そりゃあそうだ。生身でゴキに押しつぶされただなんて、一生のトラウマになる。俺だって、1ヵ月くらいは意識を失うくらいは確実だと思う。

 

「ユエ!重ねて防御!」

「ん!絶対破らせない!」

 

俺の指示にユエも素早く反応、鳥肌を立てながらも谷口の“聖絶”に重ねるようにして展開した。それでも、障壁の外でゴキがカサカサしているのは普通に気持ち悪いが。“天眼”の影響でさらにくっきり見えちゃうし。

 

「クソッたれがァァァァァ!!」

 

何も見たくなくなった俺は目を閉じて耳を塞ぎ、魔力だけを認識して攻撃するようにした。大量のゴキが周りにいる事実は変わらないが、リアルの触覚や脚とカサカサ音がなくなっただけでだいぶマシになった。

 

「・・・こんなツルギ、初めて見たわ」

「・・・ここまでとなると、ツルギ殿が少し可哀そうに思えてくるな」

「・・・この様子じゃあ、うかつにからかえねぇな・・・」

 

後ろから何か聞こえた気がしたが、ゴキのカサカサ音が嫌だったから耳はふさいだままにした。

なにやら香織の悲痛な叫びと八重樫の生気を失ったような声が聞こえた気もしたが、それも聞こえないふりをした。

と、なかなかカオスなことになっていたが、変化が生じた。

ゴキの魔力で気配を探っていたが、一斉に俺たちから距離を取り始めたのを感じた。

 

「ん?」

 

目を開けてみれば、障壁に張り付いていたゴキはすべていなくなっていた。

何事かと思っていたら、ゴキは空中に球体を作り、それを中心に囲むように円環を作り出した。

さらに外周にも円環が重ねられ、次にはゴキの列が円環の中に紋様を描き出す。

俺は、ゴキ共が何をしようとしているのか察した。なにせ、俺もやっていることだからだ。

 

「まさか、魔法陣を形成してんのか!?」

 

まさか、ゴキにそこまでの知性があるとは思わなかった。魔物だって魔法を使うが、あくまで魔法陣は必要ない固有魔法だ。魔物が魔法陣を作るなんて聞いた事がない。

それに、何度も魔法陣を作っている俺だからわかるが、サイズといい紋様の複雑さといい、あれは間違いなくろくでもない魔法だ。

俺は咄嗟に魔法陣に向かって魔法を放つが、ゴキの壁が立ちふさがって防いでしまった。表面のゴキはボロボロと落ちていくが、奥の魔法陣にはかすりもしない。

 

「だったら・・・!」

 

俺は今度は貫通性能の高いゲイボルグに切り替え、攻撃箇所も一点に絞って放つ。ゲイボルグ1本ではすぐにゴキによって埋められてしまうが、連続で放つことで徐々に押し込んでいく。

だが、間に合わなかった。

完成された魔法陣が赤黒い光を放ち始め、次いで中心の球体がグネグネと形を変え始め・・・最終的には、背中から3対6枚の羽根を生やし、腰から尾も生えた人型ゴキになった。

これ、なんてテラ〇ォーマーズなんだろう。

だが、呆然としている暇はなく、ボスゴキが赤黒い燐光を纏うと、周囲のゴキが集まり始めて、新たな魔法陣の中に小さめの球体がが何個も形成され始めた。どう考えても、新しい特殊ゴキがでてくるのは明らかだ。

 

「チッ、させるッッ!?」

「・・・んっっ!?」

「っ、まさかっ!」

 

俺とハジメとユエで阻止しようと構えた瞬間、足元から魔力の奔流が発生した。

魔力の流れを辿ってみると、通路の裏側に先ほどとは違う魔法陣が形成されているのが見えた。

どうやら、目の前の魔法陣に集中しすぎて、下のゴキの存在をすっかり忘れてしまったようだ。

まずいと思った俺はすぐに下に魔法陣を形成して撃ち落とそうとするが、少し遅かった。

足場の通路を透過して赤黒い魔力がほとばしり、爆発したような閃光が周囲一帯を包み込んだ。

俺は咄嗟に顔を腕で庇うが、光が収まったのを確認してから目を開けると、傷や破壊跡は何もなかった。

いったいどういうことなのか。俺は周囲を見渡し、ティアを見た。

すると、俺の中に沸き上がってきたのは、

 

 

 

 

すさまじい嫌悪だった。




「そういえば、ゴキ以外で苦手な奴ってあるのか?」
「そうだなぁ・・・特にこれってのはねぇかなぁ・・・」
「ふ~ん?他の虫は大丈夫なのか?」
「大丈夫っつーか、たまに食べるまである。ハチの素揚げとか、イナゴの佃煮とか」
「いや、それは食えるのかよ」
「意外とおいしいんだ、これが」

ゴキ以外ならわりとなんとかなる・・・かもしれないツルギの図。


~~~~~~~~~~~

アニメ9話・・・もう、なにも言うまい。
ちょっと、大事なものを削り過ぎているというか・・・。
下手したら、ミュウちゃん出てこないまま香織と再会、までやりそうな気が・・・考えてみれば、ミュウのCVなかったですし。

ちなみに自分は、リアルでゴキを踏みそうになったことがあります。
足で踏んで蓋を開けるタイプのごみ箱で、あるときごみを捨てようと踏んだら、足の裏にカサッとした感触が当たって、何だろうと思ったらゴキだったという。
もう10年くらい前の話ですが、今でもたまに思い出してしまいます・・・。
一応、今はゴキが出て来ても袋とかティッシュ越しでつかんで投げ飛ばすくらいはできますが、あればっかりはどうにも・・・。
それに、まったく気配を感じないので、突然目の前に現れてビビることもしばしば。

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