二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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自覚した気持ち

友情とは、信頼から生まれるものだという。

相手を信頼するからこそ仲間意識が生まれ、友情が芽生えるのだ。

ユエと香織がいい例だろう。普段は喧嘩ばかりしているが、時折息ぴったりの行動をとったり、ライバル意識はあっても微塵も嫌悪感を感じないその姿から、誰が見ても仲良しだと言えるだろう。

であれば、()()もまた友情から生まれたものなのだろうか。

 

「うりゃぁあああ!」

「いやぁあああ!」

 

そう考える俺の目の前では、盛大な喧嘩が行われていた。

いや、喧嘩と言っても、シアがアルテナに対して一方的にプロレス技を決めているだけだが。

どうしてこうなったのかと言えば、早い話、アルテナがハジメに甲斐甲斐しく世話を焼こうとしたからだ。

いくらハジメから塩対応を受けても、アルテナは一歩も引かず、むしろシアに張り合うようにハジメに世話を焼こうとした。もちろん、そのたびにシアがにこやかに断りを入れたのだが、それでもあきらめようとしないアルテナに、ついにシアがコブラツイストをかましたのだ。

普通ならフェアベルゲンの姫に手を出したシアは問答無用で処刑になってもおかしくないのだが、シアは今や亜人族の英雄となった“ハウリア族”族長の娘であることから、周囲はどうすればいいのかわからずにおろおろするだけだった。

生まれて初めて粗野で乱暴で遠慮容赦のない扱いを受けたアルテナは、シアに技を解かれたあとは崩れ落ちたまま放心状態になり、もうハジメには手を出さないのかと思ったのだが・・・

 

「オラオラオラオラッ!止めて欲しかったら、ハジメさんに色目を使わないと誓いやがれですぅ!!」

「やぁあああああ!!恥ずかしいのぉおおおお!!」

 

アルテナはめげなかった。むしろさらに張り合うようになり、そのたびにシアからプロレス技をかけられている。

天之河あたりなら止めに入るだろうが、あいにくと今は考え事があるとかで自室にこもっている。

俺たちは最初から止めるつもりはないし、給仕やアルテナの側仕えも実力的・立場的に止められない。

ちなみに、今かけられてる技は、いわゆるキン〇バスターというやつで、アルテナの意外とアダルティな下着とすらっとのびた脚部を惜しみなく晒している。

ユエといいティオといい、どうしてこの世界のお姫様はいろいろと挑発的なのか・・・。

ただ、その姿からは不思議と色気を感じない。

というのも、

 

「チッ、強情なっ。ならこれでどうですっ!!」

「こ、今度は何を・・・や、やめてぇ~~、はしたない格好をさせないでぇ~~」

 

今のアルテナは、顔を真っ赤にして、泣きが入っているように見えるのだが、どちらかと言えば、アルテナの表情からは楽し気な雰囲気を感じてしまうのだ。

今もシアから次のプロレス技(ロメ〇スペシャル)をかけているのだが、再び恥ずかしい姿をさらされてもなお、「やめてぇ~」と言いながら「えへへ~」と表情を緩ませていた。幸か不幸か、体勢的にシアには見えていないが。

周囲の人がおろおろして近づけないのも、今はどちらかと言えばそんなアルテナの表情にドン引きしているから、という方が近いかもしれない。

ティオが、同志を見つけたかのような慈愛に満ちた眼差しをアルテナに送っている気がするが、気のせいだと思うようにしている。

 

「ね、ねぇ、ツルギ、止めないの?」

 

隣から、ティアが困惑気味にたずねてくる。

普段なら下着を晒しているアルテナを見ていることにジト目を向けるのだろうが、状況が状況なだけあってどうすればいいのかわからないといった感じだ。

 

「ほっとけ。楽しそうにしてるんだし」

「そんな生気の抜けた声で言われてもな・・・」

 

イズモから呆れ気味に言われるが、俺にどうしろと。

ハジメに関わった、あるいは恋をした女性は、少なからず人格を変えられてしまう。シア然り、ティオ然り、香織然り。アルテナもそれに当てはまってしまったと考えるしかない。

だから、ここはハジメに任せることにする。

俺はできるだけ食事に意識を割くことにした。うん、今日もパンがおいしい。

とりあえず、後ろからハジメがシアを特別扱いしている云々が聞こえたあたりで、情報をシャットアウトした。

ひたすら無心で食事を続け、食事を終えて辺りを見渡したら、シアとアルテナの姿はなかった。

 

「あれ、あいつらどこ行った?」

「アルテナ嬢がドMの変態になってシア殿に続きをせがみ、それにドン引きしたシア殿が窓から逃げたのをアルテナ嬢が追いかけていったぞ」

「アルテナさん、『自分たちは親友ですよね?』って言ってシアと握手したけど、その後に『わたくし“で”遊んでください』って言ってたわね」

「手遅れじゃねぇか」

 

いや、まだ大丈夫だと思っていたわけでもないけどさ。

 

「・・・ハジメくん・・・さっきはどういうことかな?かな?」

 

内心で微妙な感じになっていたが、ふとハジメの方を見てみると、香織が般若のス〇ンドを出現させてハジメに詰め寄っていた。

俺としてもハジメの心境の変化には興味があったから、あえて静観する。

・・・いや、ハジメの修羅場はいつもノータッチだったか。

 

「あ~、何というかだな・・・どうやら俺は、ユエとは同列に語れないくせに、それでもシアに対して独占欲を持っているらしいと、少し前に自覚してな。ユエの助言もあって、シアに対しては相応の態度でいこうと決めたんだ。特に何があったというわけじゃない」

「そ、それは、シアに恋愛感情があるってこと?」

「それは・・・よくわからない。違うような気もする。ただ、愛おしいとは思う」

 

ハジメは自分で口にしながらも自信なさげだが、俺はなんとなくその違いに心当たりがあった。

ユエの場合、ハジメは問答無用で自らの欲求をぶつけようとする。公衆や俺たちの前でちょくちょくユエとキスしていたし。言うなれば、心からユエを求めているというか、激しい情熱を持っているといったところか。

それに対し、シアに対してはどちらかと言えば、愛でるという感じが近い気がする。シアを求めてはいるが、興奮するとかそういうのはなくて、あくまで冷静というか、柔らかな感じだ。

要するに、これが“特別”と“大切”の違い、ということか。向ける感情の大きさは同じでも、質が違う。“特別”だからこそ一切の遠慮がなく、“大切”だからこそ丁寧に扱う・・・みたいな感じか?

なんとなくでしかないから、断言はできないが。

それに・・・これはハジメに限った話でもないし。

 

「ツルギ?何か考え事?」

 

一瞬あることを考えていた俺だったが、ティアが目ざとく反応してきた。

 

「いや、なんでもない。気にしないでくれ」

 

実際は何でもないどころか猛烈に関係があるのだが、ここで言うのははばかられた。

ただ、やはりティアは俺のことは何でもお見通しなようで、

 

「ふふっ、そう」

 

意味ありげに微笑んで、それ以上の追及はしなかった。

そんな細やかな気遣いができる俺の恋人に、ご褒美として頬をぷにぷにしてみる。ティアも自分からこすりつけてくるから、気に入っているのは確かだ。

 

「ちょっといいかしら!」

 

すると、俺の正面に八重樫がテーブルに両手をついて現れた。

顔を上げると、そこには眉をキリリと上げて怒っているアピールをしている八重樫の姿が。

 

「なんだ?今いいところなんだが」

「いろいろと言いたいことはあるのだけど・・・今朝のことを言わせてもらうわ」

 

今朝のこと?なにか怒られるようなことはしていないはずだが・・・あぁ、もしかして、

 

「なんだ、クマさんはお気に召さなかったか?狐の方がよかったか?」

「そういう問題じゃないわよ!そもそも、なんで動物に乗せようとしているのよ。もっと普通の運び方があるでしょう?」

「そりゃあ、俺の鍛錬も兼ねてるからな。毛の1本1本まで再現しつつ維持するのは、魔力操作を鍛えるのにちょうどいいし」

 

俺が肩に担いで運ぶよりかは振動も少ないし、快適な睡眠環境を提供できると思った俺なりの配慮だったのだが、八重樫は気に入らなかったらしい。

 

「だからってねぇ・・・」

 

俺の説明に八重樫は呆れ気味になっている。

よし、最後の一押しといくか。

 

「そんなにお気に召さなかったのなら、これでどうだ?」

 

そう言って、俺はブリーシンガメンを取り出し、それでウサギを作ってみた。もちろん、ふわふわ毛並みも再現して。

その瞬間、八重樫はデレっと相好を崩して兎を抱きかかえた。

すると、横からチョンチョンと肩を叩かれた。横を向くと、ティアが物欲しげな眼差しで俺を見つめており、

 

「ねぇ、ツルギ。私にもいい?」

 

そう懇願してきた。

特に断る理由もないから、追加でテディベア風の子クマを生成してティアに渡すと、幸せそうな表情で顔をうずめた。

2人とも、気に入ってくれたようでなによりだ。

 

 

* * *

 

 

あの後、俺はユエたちと別れて、1人で木の枝の上に座っていた。ついでに言えば、以前イズモに膝枕をしてもらった場所だ。

香織やティアあたりからはハジメの告白をこっそり覗かないのかと尋ねられたが、さすがに親友の告白に水を差すような真似をする気はなかったから遠慮した。

それに、俺にも目的はあるし。

 

「やはり、ここにいたか」

 

すると、声をかけられた。

声のした方を振り向けば、いつかと同じようにイズモが立っていた。

 

「イズモも、やっぱり来たか」

「当然だ。ツルギ殿は、ここでなにを?」

「ここでハジメとシアの様子を見ている」

 

“遠見”を使うと、そこには抱き合ってキスをしているハジメとシアの姿が。

昇華魔法を習得したことによって“天眼”の性能が上がり、さらに鮮明に見えるようになった。ついでに言えば、“看破”によって相手のステータスや技能はもちろん、バイタルサインまで丸わかりになるようになった。誰得だよと思わなくもないが、戦闘において情報量は多いに越したことはないと考えるようにした。

 

「・・・水を差すような真似はしないのではなかったのか?」

「ここなら邪魔にならないだろ?」

 

たしかに水を差すつもりはないと言ったが、覗かないとは言っていない。ハジメとシアの邪魔にならないところから見物させてもらう。

そんな俺の主張に、イズモは呆れ気味だ。

 

「・・・そういう嘘でなくても曖昧にぼかすやり口、ハジメ殿に似ているぞ」

「いやぁ、あいつはもっとえげつないだろ」

 

なにせ、国民まるごとだますシナリオを即興で思いついてるし。時折、あいつの頭の中はどうなっているんだと疑問に思うことがある。

まぁ、あいつのロマン思考とか扇動の台詞はアニメや漫画、ゲームから得たものだろうけど。

 

「まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。俺にも、イズモに話しておかなきゃいけないことがあるからな」

「どうでもよくはないと思うが・・・聞こう。大事なことなんだろう?」

 

イズモも俺の真剣な雰囲気を感じ取ったようで、改まって俺の方を見つめた。

俺がイズモに話さなければいけないこと。それはつまり、

 

「あぁ。告白の返事をしようと思ってな」

 

そう、イズモに告白の返事をしなければならない。

そう思いなおすと、久々に緊張してくる。

俺の答えは決まっている。だが、それをイズモが必ずしも受け入れてくれるとは限らない。そう考えると、怖くなってくる自分がでてくるが、それを押し殺して返答を口にする。

 

「まず、俺にとっての“1番”はティアだ。それは何があっても変わらない」

「・・・」

 

俺にとって、ティアはすでにかけがえのない存在になっている。言ってしまえば、ティアより大切な人物はいないと言ってもいい。

イズモも、それはわかっていたのか、落胆することもなく、真っすぐに俺の目を見る。

たしかに、俺の“1番”はティアだ。

だが、

 

「だが、それでも、俺はイズモのことが好きだ」

 

自分でもずるいと思う。俺にとってイズモは唯一ではないのに、好きだと言うなんて。

だが、それでもどうしようもなかった。

 

「今までティア以外にいなかったんだよ。思わず甘えたくなる相手なんて。いや、ティアには隠そうと思っても、イズモには打ち明けようって思ったり、つい縋りたくなった。そう思うような相手は、イズモが初めてなんだ」

 

もちろん、ティアに隠し事をするというのは気が引けるが、それでも好きな人に対しては見栄を張りたかった。ティアの前では、俺は強くなくちゃいけないから。仕方なく話すことも多々あったが、それは本当に仕方なくだ。

だが、イズモに対しては、つい素直に弱みを見せてしまう。自分の胸の内を吐露して、甘えたくなってしまう。

そんな相手は、日本にいたころからをカウントしても、イズモが初めてだった。

 

「だから俺は、何があってもイズモと一緒にいたい。イズモがいないなんて、俺は嫌だ」

 

自分でも、わがままだと分かっている。

それでも、それが俺の偽りのない気持ちだった。

 

「これは、俺のわがままだ。それでも言う。俺は、イズモが好きだ。俺と一緒にいてくれ」

 

俺の言いたいことは全部言った。あとはイズモ次第だ。

 

「・・・そうか、そうか。一緒にいたい、か」

 

イズモは、俺の言ったことを噛みしめていた。

そして、

 

「あぁ、そうだ。私もそうだ。たとえティア殿がいても、私はツルギ殿と共にいたい。私も同じだ」

 

そう言って、俺に抱きついてきた。今までのような、少し強引な抱擁ではなく、気持ちを確かめるような、柔らかな抱擁だった。

俺も、自分の気持ちを噛みしめるために、イズモを抱きしめる。

ついでに、気になっていたことを口にした。

 

「それとさ、もう俺たちに“殿”をつける必要はないと思うぞ。少なくとも、俺とティアには、な」

 

こうして気持ちを確かめ合ったのだから、今さら敬称は必要ないだろう。

 

「そうだな。つ、ツルギ・・・」

「まだ慣れないか」

「あぁ。これは癖のようなものだからな・・・」

 

たしかに、イズモはずっとティオの側近として過ごしてきたから、そうなっても仕方ないかもしれない。

だが、いつかはスムーズに読んでもらいたいのだ。

そのためにも、俺はいったんイズモから体を離し、俺の方から強引にイズモの唇を奪った。

 

「んっ!?んむぅ・・・」

 

突然のキスにイズモは一瞬体をこわばらせたが、すぐに力を抜いて俺にもたれかかってきた。

しばらくしてから唇を離すと、銀の糸が間に伸び、すぐに切れてしまった。

 

「・・・これで、ちゃんと呼び捨てできるようになるか?」

「・・・もう少しだけ頼む。ツルギ」

 

珍しくイズモの方から甘えてきたから、俺もそれに応じて再びキスをした。

それからしばらく、俺とイズモは2人で今の時間を楽しんだ。




「♪~」
「? ティア、なんだかご機嫌ね。なにかあったの?」
「べつに?何でもないわよ・・・これで後は・・・」
「?」

ちょいと意味深な空気を醸したティアさんの図。

~~~~~~~~~~~

調整平均が7を超えて「よっしゃ!」と思ったら、すぐに6に戻って少しへこんだ自分がいます。
まぁ、いい夢を見させてもらったということで。

さて、とうとうツルギとイズモをくっつけました。
これを書いている最中、もう口の中が甘くて甘くて・・・。
ちなみに、次は文庫の番外編から出そうかなと。
このまま次に進んでもいいんですが、書きたくなったので。

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