二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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ガールズトーク

イズモに告白した後、俺はハジメたちと合流した。なるべく平静を保って。

そこで、氷雪洞窟には天之河たちもついていくことになったらしい。

谷口は、やはり攻略した後にガーランドに向かうために。それに、中村を日本に連れて帰らせて欲しいとも懇願したとのことだ。

他の面々も、谷口を一人で行かせるわけにはいかないから、ということで。

その時に、天之河が「あんな卑劣な場所でなければ」云々を言って、俺が思い切り拳骨をかました。ついでに、「攻略できなかったことに言い訳するくらいならついてくるな」と黙らせた。

ぶっちゃけ、俺個人としては天之河は置いていきたかったが、それはそれで面倒なことになりそうだから、諦めることにした。

ハジメも、中村に関しては「少しでも敵意を持っていたら射殺する」と念を押したうえで了承し、氷雪洞窟にも同行を許可した。

その後、俺はハジメと共同で急ピッチで天之河たちの装備の魔改造をした。とはいっても、俺がやったのは改造案の提示をしたくらいで、後はほとんどハジメがやることになった。

俺が手伝ってもよかったが、量と内容を考えればハジメ1人の方が捗るからということで、俺は改造をハジメに任せ、早々に自分の部屋に戻った。

すると、部屋の中にいたのはイズモだけだった。

ちなみに、ティアには、というか、ハジメたちにも俺とイズモのことは話した。

だいたいの反応としては、ティアはわりと全面的に受け入れてくれた。やはり、今朝の俺の態度でわかっていたとのこと。ティア、いったいどこまで俺のことを把握しているのだろうか。

ハジメたちの方も、からかいながらも祝福の言葉をくれた。特にハジメは、自身がシアを受け入れたこともあって、思ったよりからかいの言葉は少なかった。

そういうこともあったのだが、ティアはどうしたのかと聞くと、今夜は谷口のところに行ったとのこと。ガーランドについていろいろと話しておきたい、と言っていたらしいが・・・絶対、半分以上は建前だよな、それ。

まぁ、そういうわけで、部屋には俺とイズモしかいなかったわけで・・・。

当然のように、俺とイズモは2人の夜を過ごした。

詳しいことは言わないでおくが、ティアとはまた違った良さがあったとだけ言っておこう、うん。

 

 

* * *

 

 

そんなこんなで、数日後、フェルニルでフェアベルゲンを出発したと同時に、ハジメから強化済みの装備を渡された。機能説明やらは俺に丸投げされたが。

 

「というわけで、それぞれ装備を渡すから、ちゃんと使い方を覚えておけよ」

 

フェルニルの中にある訓練場に天之河たちを呼び、装備を渡した。

 

「八重樫のは、まぁ、この前説明したとおりの性能だ。細かい追加もあるが、それはおいおい説明する」

「・・・本当に実現したのね」

 

俺の説明に、八重樫は軽く引き気味だ。

だが、八重樫にとって大きな力になるのはたしかだから、積極的に使ってもらおう。

 

「これは、坂上の籠手だな。もともと備わっている衝撃付与をさらに強力にして、さらに重力魔法と空間魔法を付与した。重力魔法でさらに拳を重くすることができるし、空間そのものを殴って衝撃を発生させることもできる。“震天”よりは威力は落ちるが、坂上次第で威力は上がる。あと、障壁も展開できるようにした。谷口のと比べてもかなり脆いが、無いよりはマシだろう。この中だと、圧倒的に被弾が多いし」

「おう。たしかに、それはありがてぇな。これで突っ込みやすくなるぜ」

 

この脳筋は突っ込むことしか考えていないのか・・・まぁ、わかった上で改造したわけだけど。

 

「天之河の聖剣は、ぶっちゃけほとんどいじってない。いくつか外付けのオプションを追加した程度だ」

「・・・どうしてだ?俺には、そこまで強化する資格がないのか?」

 

こいつ、どんだけねじれた思考をしているんだよ。俺が今まで、散々ボロクソ言ったからなんだろうけど。

 

「そうじゃない。むしろ、その聖剣にはいじれるほどの余地はないんだ」

「・・・つまり、どういうことだ?」

「要するに、その聖剣はそれで完成しているってことだ。ハジメも、『こいつは改良する余地なく完成している』って悔しそうに言っていたぞ。ハジメがやったのは、さっき言った外付けオプションの追加と、あとはさび落としのようなもんだ」

 

あのハジメをして、改良する余地がないと言わせるほどに完成されたアーティファクト、それが天之河の聖剣だ。やはり、俺の考えは間違っていなかったようだ。

天之河も俺の言葉は予想外だったようで、まじまじと聖剣を見つめている。それはもちろん、他も同じだ。八重樫は以前に俺から同じような推測を聞いただけあってまだ冷静だが、それでも驚きを隠しきれていなかった。

 

「とはいえ、これはあくまで俺の主観だが、天之河はおそらく聖剣の性能の全てをまだ引き出せていないと考えている。まぁ、ほとんど勘みたいなもんだが、珍しくハジメが悔しそうにしたアーティファクトなんだ。聖剣の本当の力はまだ別にあると考えてもいいだろう。今後の天之河の目標は、それを使いこなすのはもちろんだが、今まで以上の性能を引き出す糸口を見つけることだ。こればっかりは俺に頼るなよ。その聖剣は天之河にしか使えないんだからな」

「・・・わかった」

 

天之河は、意外なほど素直に頷いた。多分、俺よりも強くなる糸口を見つけたと考えているんだろうが・・・ぶっちゃけ、そう思っている限りは無理だと思うけどな。今までがそれで駄目だったわけだし。

 

「さて、最後は谷口だが、お前が一番変化が大きいから、覚悟しておけよ」

「う、うん、わかったよ!」

 

谷口は、俺の言葉に力強くうなずいた。

それを見てから、俺は谷口に杖を渡した。

だが、見た目は変わっている。サイズはひと回り大きくなり、持ち手の部分はダイヤルのようにブロックが埋め込まれており、杖の先端には翼のようなオブジェが追加されている。

 

「えっと、杖のままだけど?」

「見た目はな。だが、中身は大きく違う。谷口、“天絶・刃”って唱えてみろ」

「えっと、わかったよ。“天絶・刃”!」

 

谷口が俺の言ったように詠唱すると、先端に矛のような刃が形成され、薙刀のようになった。

 

「わわっ、何これ!」

「見ての通りだ。これからのことを考えると、谷口にはある程度攻撃力を持たせた方がいいと思ってな。だから、他にもいくつか攻撃に転用できるように設定した。昇華魔法を習得できた谷口なら、ただの障壁も武器になるからな。あと、そのダイヤルになっているブロックの部分に、いろいろな魔法と“複合魔法”の機能を持たせているから、様々な障壁を展開することができる。今までのような防壁はもちろん、障壁に熱を纏わせたり、細分化してビットみたいに操作できたり。それと、今後は薙刀の使い方もレクチャーする。期間は短いから、覚悟しろよ」

「わかったけど、どうして薙刀?峯坂君なら、剣術を教えたりしないのかな?」

 

谷口の言うことはもっともだろう。俺も、最初は双鉄扇にして双剣のように展開できるアーティファクトを思い付きはしたが、それだと問題があった。

 

「それは俺も考えたんだがな、教えるには谷口の方の基礎ができていない。谷口はもともと後衛だから、武器の扱いなんて教わっていないだろう?」

「あ・・・」

「だが、薙刀なら元の身体能力や体格はあまり関係ないから、こっちの方が谷口にはいいと判断したんだ」

 

谷口くらいの体格なら、双剣で素早く懐に潜り込んで切り裂く戦法もできなくはないだろうが、それを教えるには谷口の基礎ができていないし、それを叩き込む時間もない。

実際、薙刀は戦国時代には女性にも使える武器として使われていたし、現代でも身長が低くても薙刀で強い人は少なからず存在する。

 

「そういうことだから、今後谷口には薙刀の使い方を教える。ぶっちゃけ俺も専門外だが、使えないわけじゃない。付け焼刃なりにもなんとかなるはずだ」

「うん、わかったよ!」

 

谷口も、決意をあらわにして再び力強くうなずいた。

 

「それと、これは全部のアーティファクトに言えることだが、再生魔法を付与して少しずつだが回復できるようにしたし、ステータスプレートの技術を応用して“起動状態”にすれば思考だけで発動できるし、ワンワード詠唱でも最大限の効果を発動できる。それと、天之河と坂上には後で“空力”を付与したブーツも配るから、そっちの練習もしておくように。さて、そしたら鍛錬を始めるぞ!谷口はこっちで俺が薙刀を教えるから、他は向こうの方で新しいアーティファクトの調子を確かめてくれ。詳しい説明はこの紙に書いておいたから、各自で確認してくれ」

 

やることは多いが、あと少しなんだ。ラストスパートの勢いでやっていこう。

 

 

* * *

 

 

数日後、翌日には氷雪洞窟の攻略を開始するところまで来た。

そして、その日の夜、シュネー雪原の少し手前でフェルニルを停泊させ、英気を養っていた。

そんな星が煌めく夜空の下、フェルニルの甲板の上では、

 

「・・・鈴、生きてる?」

「・・・・・・なん、とか」

 

鈴と雫が大の字で寝転がっていた。

ツルギの指導の下、雫たちはスパルタ特訓を受けていた。普段ならここまでボロボロにはならないだろうが、短期間で習熟させるためにツルギはかなりハイペースかつ濃いメニューを課した。

特に鈴は使ったことのない薙刀を覚えるために他よりも厳しい指導を受けたため、魔力・体力ともにすっからかんですでに息絶え絶えになっていた。雫も鈴よりはまだマシだが、それでもひどい倦怠感に襲われてまともに動けないでいた。

だが、その甲斐あってツルギから高評価をもらうくらいには結果を出すことができた。

ちなみに、ツルギ、光輝、龍太郎はすでに各自部屋に戻っている。

 

「雫ちゃん、鈴ちゃん、お疲れ様!」

 

そこに、香織やその他女性陣が寝間着姿でやってきた。香織が2人にタオルを差し出し、シアが持ってきたスープとパンに雫が思い切り腹を鳴らしたのと、多めに作ったものの光輝と龍太郎がいなかったことから、シアの提案で女子会的に夜食会をすることになった。

そこでは、ユエと香織がそれぞれ親友のいいところで競い合ったり、親友に裏切られた鈴がやさぐれたり、気を遣ったティオがアーティファクトのことに話題転換したり、ユエが香織をいじったり、香織と雫が過去話の流れで百合空間を作ったり、ユエが香織をいじったり、ロリコンにしか好かれなかった鈴がやさぐれたりしたのだが、鈴がユエをお姉さま呼びするようになった理由を話したときに、自然な流れでハジメとツルギのことになった。

 

「そうだよね。ユエはともかく、あの時のハジメ君、素敵だったなぁ」

「そ、そうね・・・」

 

香織のうっとりした言葉に雫も小さな声で同意し、同時にその時のことを思い出していた。

ただ、浮かんだ光景は香織とは少し違っており・・・

 

「シズク」

 

ティアの呼びかけで顔をあげてみれば、全員が雫のことを見ていた。

 

「な、何よ。どうしたの?」

「シズクって、ツルギとハジメのこと、どう思っているの?」

 

ここでツルギに話を限定しない辺り、ティアの微妙な優しさがうかがえた。雰囲気は微塵も変わらないが。

 

「えっと、南雲君と峯坂君のこと?それなら、南雲君のことなら香織の方が知ってると思うけど・・・」

「・・・香織はダメ。自分とハジメしか知らない想い出だってすぐにドヤ顔するからうざい」

「ユエだって奈落での生活の話をするじゃない!ドヤ顔で!」

「はいはい。お2人とも、落ち着いてくださいねぇ~」

 

流れるようにユエと香織が喧嘩になったが、シアが首根っこを掴んで阻止した。

それを横目に、ティオとイズモが「で、どうなんじゃ?」「で、どうなんだ?」と尋ねてきた。

雫はビクッと震えながらも、少し考える素振りを見せ、ポツリと呟いた。

 

「そうね。2人に対する最初の印象なんかは、“なんて変な人”だったかしらね」

『変な人?』

 

まさかの回答ユエたちの言葉がハモり、香織も目を丸くした。付け加えれば、香織に「本当にこんな人で大丈夫なの!?」と本気で心配した。

だが、ちゃんと理由はある。

雫がツルギとハジメを直で見たのは、高校の入学式が初めてだった。ハジメは香織からの話でしか知らず、ツルギに関する情報はまったくないどころか存在すら聞かされていなかった。

そして、新入生代表の挨拶の際、光輝がその役割を受けたのだが、光輝が壇上に上がるとそれだけで女子からの窓ガラスが割れそうなほどの黄色い歓声の中で、ハジメは我関せずと言わんばかりに爆睡しており、ツルギも興味がないと言わんばかりに寝に入ったのだ。

なのに、光輝が挨拶を終えた途端にツルギはぱちりと目を開け、ハジメも入学式が終わった瞬間に目を覚ましてむくりと起き上がった。

その後も、ツルギとハジメは揃って毎朝時間ギリギリに登校し、授業中もハジメは爆睡、ツルギは起きてこそいたものの、これまた興味ありませんと言わんばかりのやる気の無い態度で受けていた。

昼食の時間になると、ハジメは頑なに10秒チャージ、ツルギは重箱弁当を持参して、時にはクラスメイト(主に女子、ついでに言えばツルギファン)に分けていた。

なのに、いざ話すとハジメは意外と聞き上手で、ツルギも話を盛り上げるのが上手だった。

 

「そういうわけで、2人ともなんだかちぐはぐで、今まで見たことのないタイプだと思ったのよ」

 

雫の評価に、香織と鈴が「あ~」と納得の声を上げた。

 

「何より変なのは、香織にまったくなびかなかったことね」

 

なんとなく香織がハジメのことを好きなのをわかっていたツルギはともかく、何度もアタックを受けたハジメでさえ、たいていは苦笑か困った表情を見せる。

雫からすれば「可愛い香織の一体なにが不満なのよ!」と怒気を込めて睨んだりしたが、ハジメからすれば周りからの嫉妬で死活問題になりかねなかったので、なるべくスルーするしかなかったのだ。

その後も、香織や雫はもちろん、光輝や龍太郎とも一緒にいることが多かったツルギとハジメだが、いつからか、学校生活に変化が生じ始めた。

簡単に言えば、周りからの嫉妬を買ったのだ。

学校の有名人が勢ぞろいすれば、何かと目立つ。そして、それを快く思わない人間も現れ始めた。

檜山たち小悪党組がいい例だろう。そのように、やっかみや冷たい視線が増えたのだ。

これに雫は、なんとかしなければと思った。光輝や香織には悪気はないから、自分がなんとかしなければと。

だが、

 

「2人とも、全っ然気にしないのよ。南雲君は『まいったなぁ~』って口では言っても、ちっとも参ってないし、峯坂君に限っては売られた喧嘩を片っ端から買ったのよ!」

 

雫は、鋼鉄の心臓を持ったハジメと、その才能で片っ端から突っかかってきた人間を返り討ちにしてきたツルギに戦慄した。

同時に、そんな2人に興味を持ち、ハジメに関しては香織を通してなんとなく理解した。

ハジメは、傍から見れば他人に関心がないように見えるが、それは違って、自分の好きなもののための代償を甘んじて受け入れるだけの“強さ”があったのだと。その強さで、あらゆる逆境を跳ね返していたのだと。そして、その強さこそが香織の惹かれたところなんだろうと。

だが、どうしてもツルギだけはわからなかった。

 

「光輝と違って、峯坂君は南雲君以外の人のために行動するってことは滅多になかったし、むしろ敵を作るようなことばかりしていたから、この人は一体何をやってるんだろうって思っていたわ」

 

言ってしまえば、当時のツルギとハジメではいろいろと不釣り合いだ。ハジメは良くも悪くも平々凡々だが、ツルギは光輝と同じくらい才能にあふれている。授業は普段からやる気がないのにテストでは常に学年トップ10をマークし、スポーツもそつなくこなし、武術もたしなんでいる。なのに、ハジメのために行動し、時には悪意から守るように動き、時には自分から威圧して人を遠ざけることもあった。

そんなツルギの不思議な人物像に、少なからず雫は興味を抱いた。

そして、ある時、そんなツルギを少し理解する機会があった。

その時のことを、雫は思い出した。

 

 

* * *

 

 

とある日の放課後、剣道部の練習の後に忘れ物に気づいた雫は、教室に戻った。

そこで、制服を少し着崩したツルギとばったり会ったのだ。

 

「あ、峯坂君」

「ん?なんだ、八重樫か。忘れ物か?」

「えぇ、そうよ。峯坂君も?」

「いや、俺はバスケ部から売られた喧嘩を買って返り討ちにしたところだ」

「え!?」

 

たしかに最近では同じような話は何度もあったので珍しいことでもないのだが、あまりにもあっさりと言ったので何か良からぬことをしたのではないかと咄嗟に勘ぐってしまったのだ。

ツルギも雫の表情から誤解していることを察して、説明を入れた。

 

「なんか変な勘違いをしている様だが、単純にバスケの試合をしただけだ。それで俺に恥を晒そうとしたようだが」

「そ、そうだったのね・・・ちなみに、1対1?」

 

少なくとも血みどろとした結果にならなかったことにホッとしつつ、少し興味が湧いた雫は結果を尋ねた。

そこで、ツルギの口から出たのは、

 

「いや、1対3」

「え?」

「最初はサシだったんだが、それだと相手にならなくて、途中からどんどん増えていって、最終的にはスタメンが出てきた」

「えぇ・・・」

 

ちなみに、その時のツルギはキセ〇の世代のような動きでバスケ部を圧倒し、結局バスケ部はツルギを止めることはできなかった。

また、この試合がきっかけでツルギのファンがさらに増えたのだが、それはツルギの知らないところだ。

雫は、ツルギのあまりの規格外さに感心半分呆れ半分になった。

 

「・・・すごいわね。バスケを習ったことがあるの?」

「いや?学校の授業でしかやったことないぞ?」

「え?」

「1on1の時にだいたいのコツは見て掴んだから、あとは俺なりにやっただけだ」

 

ツルギは、だいたいのスポーツは武術で培った体捌きを応用して超人プレイができる規格外の応用力をこの時点で持っていた。

他にもサッカー部やテニス部などでも同様のことがあったのだが、それらもすべて玉砕している時点で、ツルギの化け物ぶりがわかる。

雫も、ここまでくると言葉が出てこず、口を開けたまま呆けている。

 

「ていうか、さっさと帰るぞ?これ以上は先生が教室のカギを閉めるかもしれないしな」

「あ、そ、そうね」

 

ツルギは一体何者なんだろうと内心で疑問を深めながらも、ツルギの言葉で我に返って急ぎ気味で教室に戻り、忘れ物をカバンに入れた。ツルギの方も、軽く制服を直して荷物を持った。

そして、自然な流れで2人で並んで歩き始めた。一連の動きに迷いがないのは、すでにハジメと香織関連で2人で行動することがたまにあったからだ。

だが、会話が弾むわけではない。あくまで状況的に2人でいることが多いだけで、そこまで親しいというわけでもなかったのだ。

だが、ここで一緒になったのも何かの縁だと思った雫は、思い切ってツルギに話しかけた。

 

「ねぇ、峯坂君」

「ん?なんだ?」

「どうして、そんな敵を作るようなことばかりしているのかしら?峯坂君なら、もう少しうまくできると思うのだけど」

 

雫のぶっちゃけた質問に、ツルギは即座に答えた。

 

「そっちの方が手っ取り早いからだ」

「手っ取り早いって・・・」

「だいたい、喧嘩をふっかけてくる奴らはたいていが白崎関連で嫉妬してる輩だからな。白崎に『俺たちは迷惑してるから付きまとわないでくれ』って言えない、っつーか言っても意味がない以上、()()()()()()()()()くらいしか方法がないんだよ。白崎の方から来る以上、『俺たちは別に友達ではありません』って言っても信じないだろうし」

「それは、そうね・・・」

 

そう、あくまで香織に悪意はないのだ。だから、香織に言って聞かせることはできない以上、向かってくる面々を正面から跳ね返すしかないのだ。

細かいことを言えば、ツルギに喧嘩を売っているのはツルギに嫉妬しているからではなく、ハジメに手を出そうものならツルギがさらに過激な方法で返り討ちにするからだ。巧妙に、警察や学校に問題にならない範囲で。

だから、ツルギを倒してハジメに手を出すか、遠巻きにハジメたちをののしることしかできないのだ。

だが、それでも自分たちのせいでこのような目にあっているのも事実であり、光輝の無自覚な発言でツルギのフラストレーションが溜まっているのもわかっているので、自分がどうにかしなければと思い詰める。

そんな雫の様子を察したのか、昇降口についた辺りでツルギが口を開いた。

 

「なぁ、八重樫」

「っ、な、なに?」

「そんなんだから、自称義妹どもが繁殖するんだよ」

「・・・どういう意味?」

 

別に間違ってはいない。その雫の姉心のようなものからくる世話焼きによって雫のことを“お姉さま”と呼ぶ女性は多いのだ。先輩だろうが関係なく。

とはいえ、それでもいただけない言葉であるので、雫も思わずジト目になる。

これにツルギは、特に気にするでもなく話を続けた。

 

「要するにだな、俺たちにまで世話を焼かなくてもいいってことだ」

「え?」

「八重樫は誰彼構わず世話を焼きたがるが、別に俺たちのことまで気にしなくてもいい。あれくらいなら自分たちでどうにでもなる」

 

ツルギの言葉に、雫はなんて言えばいいのかわからずに下駄箱の前で上履きを持ったまま立ち尽くす。

 

「ハジメなんてむしろ、スルーしている自分も悪いし自業自得なところがあるって恐縮しそうだしな。まぁ、要はあれだ。俺たちに気を遣う必要はないってことだ」

 

ツルギの言葉がなぜか雫の頭の中にリフレインしていて気を取られていると、ツルギが外の方を見て一瞬嫌そうな顔で舌打ちをしてから、「んじゃ、また明日な」と言ってさっさと帰ってしまった。

雫は慌てて呼び止めようとするが、そこで校門の近くに光輝の姿が見えたことで、光輝と一緒にいるのが嫌だったのだと推測できた。

だが、やはり勝ち逃げされた感じは否めず、なんとなくムッとしていた。

そこで、香織がハジメにムスッとしているのはこういう感情からかと納得し、同時にツルギが自分にも気を遣ってくれているのかもしれないと、なんとなく察した。

このツルギの一端を知ることができた会話は、雫にとってなんとなく秘密にしたい出来事でもあった。

 

 

* * *

 

 

「シズク?」

 

ティアに呼びかけられて、雫はハッと我を取り戻した。

周りを見れば、ティアとイズモが意味深げに、他のメンバーが少しニヤニヤしながら雫を見ていた。

少しいたたまれなくなった雫は慌てて咳ばらいをして居住まいを正し、結論を述べた。

 

「とにかく、()()()に対する印象は“とんでもなく強くて少し優しい人”よ」

 

実際はツルギだけでなくハジメも対象なのだが、その点はあえてスルーした、

それでも、視線が生暖かくなるのは変わらず、雫は羞恥心に顔を真っ赤にし、

 

「も、もうこれくらいでいいでしょ!明日は大迷宮に向かうんだから、これくらいにしましょう!」

 

無理やり女子会を終わらせた。

ついでに、胸の内に沸き上がったわずかな感情も押し殺した。




「ティア。雫殿をどう思う?」
「あと一押しって感じよね」
「たしかにそうだな。だが、私たちはどうする?」
「どうもしないわよ。あとはツルギしだいだろうし」
「それもそうか」

雫の態度に意味ありげな会話をするティアとイズモの図。

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やたらとお気に入り登録や高評価が増えて、平均評価もいきなり7超えてなんだろうと思ったら、日間ランキング10位に載っていてびっくりしました。
イズモとツルギがくっついたのがそんなによかったんですかね・・・。

文庫の新巻を買いましたが、表紙のフルカラーミュウちゃんに撃ち抜かれました。
もう可愛くて可愛くて・・・。
あと、涙目の雫もGJでした。

さて、鈴の強化の方向性をかなり変えてみました。
まぁ、ちびっ子に薙刀を持たせたいという個人的な願望もありましたが。
ノーブルワークスのちびっ子お嬢様だって、主人公相手に薙刀振り回してましたし。

今回は女子会のところをばっさりカットしてお送りしました。
思いの外前半が長くなったのと、文庫書下ろしをコピペ(手作業)するわけにはいかなかったので。

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