不思議。
「はぁ――」
本日、投稿後カタナの開口一言目は、溜め息から始まった。
理由? そりゃ……ねぇ……。
4/19 06:41:20
瞼を開き、仰向けのまま目を動かす。
窓からは日光が、部屋の中を明るくしている。その向こう側にスズメが二匹。傍から見れば、仲よさげにお互いを突きあっている。その向こう側に空が、雄大に朝を知らせてくれる。
「おはようございます」
「どわっ!?」
聞き慣れない高い声が耳元で! カタナは驚いて起き上がった。
「?」
白いパジャマに、紫色のロングヘアー。どこかの
感情が読めない程度に無表情の少女、エグゼが
「……」
「どうしましたか?」
「あのですね、なんでこちらに入ってるんですか」
何もしれない人から見れば、それはそれは
「護衛のためです」
「そうだと思ったよ!」
だがしかし! 現実は非情である!
……助かったというべきなのかな。
リビング。
湯気がホクホクとご飯から立ち上っている。その隣にはお味噌汁がこれまたホクホク、バナナ、目玉焼き。朝食の王道がテーブルに2セットある。
「エグゼ、これ……」
「前もってご用意させていただきました」
だが、カタナが準備したわけではない。まさかのエグゼが準備した朝食だ。しかも、とても美味しそう。
白米はすっごくもっちもちのてっかてか。味噌汁はキラキラエフェクトが幻覚――( ゚д゚)ハッ!
バナナと目玉焼きは普通――目玉焼きが熟れたような色してる……。
「いつ準備したの?」
「〝
早いですね。手作りだとそうなりますけども。
「で、なんで俺のベッドに入ってたんだ」
準備したのなら、その後エグゼに充てがった部屋のベッドに戻ればいいのだが……。
「護衛のためです」
「繰り返すのね」
真面目で何よりです――。
「おいしい――」
味も見た目通り。良く言えば想像通りでした(ニッコリ)
▷▷▷
「見送らなくていいぞ」
「そういう訳にも行きません」
玄関。
エグゼは護衛目的でどうしてもついていくようだ。
「だからいいって」
「では私と「違うそうじゃない」
訳も判る。いつ来るかわからない不確定要素を常日頃から備えなければならない。それを無防備で行くなど、〝どうぞ殺ってください〟と敵に風潮していると捉えられかねない。エグゼは何より、それを危惧している。
「どうにかして遠距離からはできないのか?」
でも、常日頃から学校にまで近くにエグゼがいるのもそれはそれで問題。
「できません」
だが、誰が銃弾に銃弾を命中させるなんて奇跡を毎回起こせるのか。エグゼ普通にやりそうだけど。
「――」
確固たる意思を持つ瞳を、エグゼはカタナに向ける。断っても着いてきそうだけど。
「……行くか」
どこか諦めた目で、カタナは玄関を開けた。
「着いてこないでね……?」
「……」
不満気な顔を見せるエグゼに釘を刺す。
結果。校門をくぐるまでストーキングされました。
▷▷▷
「はいここ、二次方程式――」
また、空を見つめる。
水色――大気の色しか見えないはずなのに、その先の色が見えるような気がする。
また、空を見つめる。
不思議な感じだ。遠い宇宙が近くに思えてしまう。
また、空を見つめる。
飛行機が飛んでいる。距離は――100kmか。
また、空を見つめる。
揺らめく炎が見えた。
ピー
一定のリズムで4分音符の電子音が部屋中に鳴る。
その部屋の中央にはカプセルがひとつ置かれている。側面にはモニターが付いており、緑色の線と数字が、見えないスキャンラインが左から右に流れる
86――――87――――86――――
心拍数が変わる。また、音が鳴る。
「命に別状は無いようです」
転送されたデータを、仮想
「そうですか……」
デスクの前に立つ男が状況を伝え、オフィスチェアーに座る男が、安堵から気が抜けたように息を吐いた。
「それで、ラーネル副大統領――
この件も、やはり〈ネメシス〉が関与していると見られます」
「――概ね仮定していた通りでしたね……」
目を細め、顔を上げた。耳まで伸びた金髪に、碧目。何も知らない人から見れば、何処かの男性モデルと見られておかしくは無い美貌を持っている。
その彼。
ラーネル・ロビイスト。
如月ヤイバに次ぐ立場、太陽系星間連邦
トップであるヤイバが凶弾に倒れている今、暫定的に大統領と同等の権限が、ヤイバから与えられている。裏を返せば、実権を与えても問題ないと、ヤイバがそれ程までに信頼しているのだ。
「それで、確保した犯人から何か聞き出せましたか?」
その事を訊く彼の表情からは、ヤイバの命が無事であった事の安心感の他、これからの一挙一動による緊張の色が拭えない。
「いいえ。未だ口を割らない模様です」
「やはり、情報管理は徹底していますね――」
仮にも組織の一員だ。下っ端であろうと油断すれば情報漏洩しても可笑しく無いのだが、〈ネメシス〉は、その末端組員でさえ口が開かない。徹底した教育をしていると推測できる。
「情報が入り次第、お伝えに上がります」
「分かりました」
男が一礼、反転し歩を進め、部屋から退出する。
ドアが閉まると、ラーネルは顔を俯かせた。
「ヤイバさん……」
▷▷▷
4月20日。
「おはようございます」
棒読みの声が聴こえる。寝起きの挨拶らしい。カタナは目を開く。
目の前には絶世の美少女が(無表情で)こちらをのぞき込んでいる!
吐息がかかる近さで。
「うわぁ!?」
驚愕に驚愕。二重表現も辞さない程に、ゴキブリ並みにカサカサして眼前の顔からカタナは飛び退いた。
「?」
原因を創った彼女、カタナの反応を不思議に見つめ、真っ白パジャマを着る。何も変わらない彼女の様子に、カタナは冷静さを取り戻す。
「ビックリした……――おはよう、エグゼ」
「はい、おはようございます」
息を吐いて挨拶すると、エグゼは普通に返してくれた。
急に現れた美少女と同棲することになって、朝起こしてもらう――。
……これなんてエロゲ?
※エロゲです。
本日は土曜日。
握手したあの後、就寝前にエグゼが「護衛のために」と言ってカタナのベットで添い寝しようとしていた。
うん、正しいんだけどね。任務のためだし、無感情だし。
カタナは固辞しようとしたのだが、気が緩んでそのまま一緒に寝た。一応パジャマも持っていたようで、また光って白無地のパジャマに着替えていた。
例外として、風呂場に入ってこようとしていたのは断固として拒否したが。
そんなで同居人が増え、多少賑やかになった朝食。器用に箸を使って白米をパクパクしているエグゼは、早朝からやっているテレビショッピングを見入っていた。
「あんな売り方があるのですね」
エグゼの周囲に、商品を甲高い声で売る手法はなかったようだ。さすが未来といったところなのか、単純に知識としてなかっただけか。
「テレビショッピングだと一般的だよ。型落ちを大量に仕入れてオプションを付けて安めで売るのは。企業は、売れ残った在庫があったからそれを売りさばきたいって、どっちの会社にも利害が一致しているから」
「なるほど。確かに合理的です」
一体何を学んでいる。
「エグゼ。遺伝子の確保ってどうやるんだ」
二日前、エグゼの任務であったそのことをカタナは彼女に訊く。口をもぐもぐしてゴクンと喉が動く。
「はい、まずカタナの精液を採取します」
食事中に訊くんじゃなかった。カタナの手に持つ箸がプルプル震えている。
「皮膚とかからのDNAじゃないのか……」
「可能な限り破損が少ない新鮮な遺伝子を採取することが目的ですので」
確かに合理的だぁ(遠い目)。
「その採集した精液を、未来の伴侶となる女性の受精卵に受精させ、代用の子宮内で記録と誕生日に出産されるように育成します」
「何そのクローン育成みたいな……」
そもそも、エグゼもクローンだったりするのだが。
「てか未来の伴侶って――まあ未来から来たんだからそりゃわかるか……」
データベースなんてものがあるぐらいだ。最低でもそれくらいあるだろう。だた妙なのは、公文書は一定期間経つと破棄される筈なのだが……。流石に戸籍は破棄されるはずないよね。そりゃ残ってるわ。
「それで、未来の伴侶は――俺はともかく、エグゼにも伝えられていないよな」
「その通りです。もし知ってしまうと、伴侶となる女性と最悪結ばれないようになってしまう可能性があるため、教えるわけにはいきません。私も同様の理由で教えられてはいません」
食事中にこれを訊くのは流石に気が引けるが、カタナはエグゼだからと思って訊いた。
「で、エグゼがどうやって採取すると……」
デリカシーが無いと言われても仕方がないが、先を鑑みた上で聞かずにはいられなかった。
「私の
ご飯を口でもぐもぐしながら淡々と。頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。
「――は?」
気が抜けた声が漏れたのは誰も責められないだろう。その
「性交」
生物学的表現だが、ダメ押しが入る。
「セックスです」「おいこら」
更に俗語で直接的な表現をし始める。
「カタナのペニスを私のヴァk「オーケー解ったそれ以上喋るなお願いだから」
無表情で一体何を喋ってるんですかねこの子。
ぐぐぐと鳴らしながらカタナは肘を付いて頭を抱える。
「仮にもしやったとして、一体何が遺伝子の確保になるんだ?」
「カタナの精子を私の胎内にて適切に保存し、母体の
ずいぶんと医学的に言いますねエグゼさん。直接的か?
少し呆れているカタナをどう思ったか、エグゼは。
「私のt「もう言わなくてください結構ですエグゼさん」
またダメ押ししようとする。自然とカタナはもうやめてと懇願。箸で豆腐を掬い、ぷるぷるする固体を見ながら。
「要するにだな、俺にエグゼと
「はい。もし護衛対象が死亡した時の保険です」
「おい」
聞きとうなかったそんなリアルな話。
「全力を以て守りますが、もしカタナが死亡してしまった場合は、人工受胎計画が発動し、データのプログラムが解除される仕組みになっています」
「で、データ通りのクローンに育成させるのか」
「正確には、カタナと伴侶の女性の人格データを入力した
「そこは大変でもクローンにしてほしいかな……」
中が機械で側が人工皮膚の人とかどんなだよ。まるで映画……今でしたね。
「あと、カタナにナノマシンを注入させてもらえないでしょうか」
ナノマシン。
字面通りにナノサイズのマシンという意味だが。
「ナノマシンって……体内とかに流して人体を強化することが出来るとかでの?」
「はい、その認識で問題ありません。私の身体にも、ナノマシンが細胞レベルで組み込まれております」
すごいっすね。未来。
「メリットは?」
「カタナの自己防御の強化です」
「身体能力を向上させることが可能な為、私はオススメします」
「へぇ……」
仕組みはよくわからないが、ナノマシンはあくまでも
電気信号を発して目の網膜に擬似的なディスプレイ表記するのも可能だろうし、筋細胞を刺激して活性化させ身体能力の一時向上もわかる。もしかしたら脳の活性化もできるかもしれない。
ただ、それ以上に分子合成とかなんだ。体内にFeとか保管してるのか。そもそもあの戦闘服はどこに。
――ん?
如月ヤイバとか、如月家が狙われた要因って。
……そのナノマシンが原因じゃ――。
「…………」
てぃんと閃き、偶々辿り着いたカタナなりの結論。
閃かなきゃよかった。
「体温の上昇を探知。風邪ですか?」
「未来を知って愕然としてるだけだからそっとしておいて」
タイムパラドックスはこうして起きるんですね。SF学者さん。
そしてエグゼはこんなときにも平常運転。羨ましい。
恐ろしい想像をしたところで、カタナは目線をエグゼに向ける。
「で、それを俺に流し込むには?」
「セックスです」
「やっぱりバカだろその科学者!?」
叫ばずにはいられない。せめて注射とかそういう手段はあっただろうに。
……物質創造できない? そうですか身体の中で保管するのが一番ですかそうですか。確かに効率で言えばトップかもしれませんね。
というか、未来を守るためには……ナノマシンを体内に入れないとだめ……?
結論:未来を守るために俺はエグゼとやらなきゃいけない(決定事項)
orz
「――――」
もう言葉が出ないご様子。
「今ならたった一万円☆」
「いりません脱がないでください」
さっき放送してたテレビショッピングの謳い文句を
「私と性交するのは嫌なのですか」
「いいえむしろウェルカム」
カタナ、脊髄反射で本音が漏れる。
やっちゃったとカタナが固まる。対してエグゼは。
「では」
「ではじゃないです」
またエグゼのまた服がキラキラさせ、カタナが即座に反応する。
エグゼの顔がムスッとなる。
「どうしてでしょうか」
「どうしてもです」
「理由を聞いても」
「気が乗らない。以上」
エグゼの問をカタナははぐらかす。
「何故、気が乗らないのでしょうか」
「それを理解することがエグゼの宿題につながるな」
「はぁ」
何故はぐらかすのか、理由が判らず、エグゼはただ返事する。
▷▷▷
「これ、食べていいですか」
エグゼが持っているのは板チョコ。ビターというおまけつき。食べたいらしい。
「それ? いいよ」
何枚かまだ残っているし、そこまで消費の激しいモノじゃない。カタナの返事を聞き、頷いてパックを端から裂き始める。
中から普通のチョコより濃い茶色の板チョコが。パキッと割って、エグゼはひとかけら口にする。途端、動いていた口が止まった。
「……苦い」
無表情でそう告げられてもあまりわからない。が、思っていたのと違っていたらしい。
「分かってたんじゃ……」
「チョコレートは甘いものだと教えられていまして」
「ビターだよそれ」
「……」
ビターの単語に目をぱちくりさせ、手元の板チョコを見るエグゼ。〝Bitter chocolate〟とパックにプリントされているのだが。
未来にビターはないのか……?
「そうだ、戸籍とかは?」
板のビターチョコを半分程度パクパクしているエグゼを眺め、カタナは気付いた。
この先暮らしていくとなると、戸籍がないとなんやかんや大変だ。身分を証明するものが何一つ存在のは、法治社会の昨今を生きる事は出来ない。
……まあ、両親のいざこざで無戸籍状態でいる子供もいるらしいですし。
「ありませんが」
「そりゃそうだわな……」
当たり前のことだが、エグゼは未来から来た。勿論戸籍なんてものは無い。作る事もできはするのだが、役所でなんやかんやの手続きをする必要がある。
だが、この先エグゼがこの時代で活動していくにも、戸籍は作っておいたほうがいい。
しかし。
「作るにしても、どうやってやるか……」
生憎、カタナはその知識を持ち合わせていない。普通無戸籍状態になることは無いからだ。それより、どうやってエグゼに言い訳やら付けて戸籍を取らせるのかがキモ。詳しい方法は省くとして。
「作るんですか?」
無くてもいいらしいエグゼ。戸籍があったらあったで面倒臭いからだろうか。
「作らないの?」
「いえ、ありがたいですけど」
違うようだ。
「作る方法が分からないからなぁ……」
「一応、知識としてはもっておりますが」
「持ってるの!?」
まさかの発言にカタナが声を荒げる。
「はい。電脳領域にて法務省のサイトを閲覧していました」
「なんつーSF」
どうやってネットに――あぁ、通信事業者の電波ですか。電波法に引っかかりませんかそれ。無断使用で訴えられませんかね。
「全て記憶しておきましたので、不備はありません」
もうわけがわからないよ。
翌日。
「……本当に申請通ったし」
「よかったです」
役所に申請書類を出したら、なんだかんだ確認だけされ、本当に申請が通ったのだ。ザルすぎやしませんか。これが法治国家ですか。
ちなみに、エグゼの情報も少し書かれていた。
11月23日。これがエグゼの誕生日らしい。というか、1024年後も太陽暦が使われているのか。キリスト教様々ですね。
実年齢はカタナと同じ16歳。事前に聞いた実際の生まれ年、3020年と書くわけには行かないので、1996年と記入した。
「同い年だったんだな……」
「私はあまり興味が無いですが」
16歳だよ、16。それでこの
「胸を見てどうしました?」
「発育良すぎでしょうよう」
「そうでしょうか」
……まさか周りにいたエグゼと同じスレイブニルも全員このくらいが普通だったというのか。
「見たいのですか?」
「公然でそんな事言うんじゃありません」
周囲から奇異の目で見られてしまう。迷惑防止条例違反とかで
「私は、別に構いません」
「だからやめなさいって!」
あぁ、もう……。リアル感情育成って大変だ……。
でも、まあ……。
エグゼの手にあるクリアファイル。その書類に、書かれている。
〈如月エグゼ〉――新しい、
――
2013.4.21
如月カタナ。
如月ヤイバ大統領の祖先
発見時に〈
その後、如月カタナをマスターと承認。
マスターからの要望で、カタナと呼称することに。
後日、2013年代の戸籍申請を行う。
名前は、如月エグゼ。
今まで見てきたマスターと、カタナは何処か違う。
元のマスターも私の扱いは丁寧だったが、カタナの場合は思考している事が全く違う事かもしれない。
戸籍:
法務省のページで調べてきた。
抜かりはないぜ。
数学:
わざわざ文部科学省の学習指導要領を見てきた。参考にならなかったよ。
素直に教科書ちら見すれば良かった。
2019.04.18
別枠で書いていたモノを追記、統合。約2,000字。
一部誤字の修正。