東京喰種ーGhostー   作:マーベルチョコ

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#9 人間も喰種も敵なんだよ

地下で出会った男と絋輝は用意された椅子に向かい合って座った。

この男が芳村が知り合いだと言う亜人。

黒い革ジャンを着て、髪をオールバックにした大柄な男性で、どこか野性味が溢れている。

 

「さて、先ずは何を話したもんかな?」

 

男は考える素ぶりを見せると絋輝は横目で後ろに待機している董香に目を向ける。

先ず亜人のことより、董香に自分の想いを伝えたくて仕方なかった。

 

「そうだな。先に亜人として生きていくための注意点を言っておくか。……おい、聞いてるのか?」

 

「え、あっ…はい」

 

男は後ろを気にしている絋輝の視線を追っていくと董香がいることに気づき、一瞬目を細める。

 

「そういや、まだ名前を聞いてなかったな」

 

「あっ、篠原 絋輝です」

 

「俺は田中 雄二だ、よろしくな。さて、先ずは注意点だが兎に角自分が亜人だと言うことはバラすな。バラしたら終わりだと思っておけよ」

 

田中はタバコを取り出し、火を点けながらそう告げた。

 

「バレたらどうなるんですか?」

 

「まぁ、実験動物にされるだろうな。死んでも生き返る生物、『亜人』なんて国が喉から手が出るほど欲しがるからな」

 

煙を吹かす田中はそう軽く言うが絋輝は背筋が寒くなった。

確かに夢物語のような生き物である亜人を調べるのは当たり前だ。

しかも、それがどんなものかはわからないがロクなもんじゃないのはわかる。

 

「あっ、あと喰種にも気をつけろ。奴らは人間よりやり方が荒いからな」

 

田中は後ろで待機していた芳村たちを見て、思い出したかのように言った。

 

「喰種が?何で……」

 

「何でって……殺しても殺しても生き返る人間だぞ?奴らにとって最高の食材だ。それにどうやら俺たちの肉は奴らにとって極上の味らしいぞ」

 

「何でそんなことまで知って……」

 

喰種のことに詳しい田中を不思議に思った絋輝がそう聞くと、田中は服をめくり自分の腹を見せる。

 

「実際に俺がそうだっただからだよ」

 

その腹にはいくつもの噛み跡が残っていた。

それを見て絋輝は声を上げそうになるが何とか耐える。

 

「お前、後ろの女喰種と仲が良さそうだけど気をつけろよ?案外お前と仲良くしているのも喰べるためだったりしてな」

 

ケラケラと笑いながら絋輝に告げると董香が声を上げた。

 

「そんなわけないだろうが!!私は絋輝にはそんこと思ってなんか……!!」

 

声を上げる董香は振り返った絋輝と目が合って気まずそうに目を伏せる。

田中に喰種が亜人のことをどう思っているのか教えられた絋輝が自分のことを怖がっていると思ってしまったからだ。

 

「お前がどう思ってようと俺たちの価値観は変わらねぇ。亜人にとって、人間も喰種も敵なんだよ」

 

董香を睨みながら田中はそう言ってのける。

その眼には怒りと恨みが籠っていた。

緊迫した空気となり、絋輝は話を変えるべく田中に話を振った。

 

「あ、あの亜人って何なんですか?」

 

「うーん……………わからん」

 

十分に間をとって答えた田中の答えはあっけらかんとしたものだった。

 

「わからんって……」

 

「わからねぇもんはわからねぇよ。人間と少し違うだけで飯は普通に食って、クソして、寝てるんだからよ」

 

田中のこの言葉に絋輝は何とも言えない顔になる。

 

「じゃあ亜人は何が違うんですか?」

 

「特徴的なのはお前も知ってると思うが、死んだら生き返る。声に金縛りの力がある。そして黒い幽霊を出せるってとこだな」

 

「金縛り?幽霊?」

 

「順番に説明してやるよ。先ずは死んだら生き返る、俺はこれを『リセット』って呼んでる。大きい肉体を核としてリセットしたらその時まで受けていた傷は全て治る。欠損した所もな……次に金縛りの声だ。これは仕組みはわからんが俺たちの声には亜人以外には金縛りの

効果があるらしい。逃げる時にはとりあえず叫んどけ。……そして俺たちの最大の武器である幽霊だが……」

 

田中が目を瞑り、体に力を入れる。

すると、体から灰黒い粒子が溢れ出してそれらが集まっていき人の形を作り上げていく。

背は高く、肩幅も広い。

ゴリラのような太腕を持ち、口は広く裂けた大型の灰黒い幽霊だ。

 

「これが幽霊だ」

 

まるで田中を守護するかのように立つ幽霊は不気味な威圧感を放っていた。

 

「ひっ……!?」

 

突然現れた謎の物体に絋輝は座った後退る。

 

「そんなにビビるなよ。話を聞く限りじゃお前だって出せるんだろ?こいつを」

 

怖がっている絋輝を可笑しそうに見る田中は思いついたような表情をし、立ち上がる。

 

「そういやまだお前が亜人だってことをちゃんと確認してなかったな」

 

「え、いや、俺は……」

 

「まだ俺の目で見てないんだ。だから……とりあえず死ね」

 

「え?」

 

田中は腰から拳銃を取り出し、絋輝の頭を撃ち抜いた。

椅子ごと後ろに倒れた絋輝は頭から血を流す。

 

「絋輝!?テメェッ!!」

 

突然の惨劇に董香は田中に襲い掛かろうとするが芳村に止められる。

 

「離してください!!」

 

「ダメだよ、董香ちゃん。まだ終わっていない」

 

「そうだぞー。それに慌てるなよ。こいつが亜人なら復活するって」

 

「くっ…!」

 

董香に向かってぶっけらぼうに言う田中に董香は怒りを募らせる。

芳村と四方は動かないが、入見と古間はいつでも動けるようにして、田中を睨む。

すると死んだ絋輝の体から黒い粒子が溢れ出す。

 

「はっ!?ハァ…!ハァ…!」

 

突然起き上がった絋輝は冷や汗を流して、呼吸を荒くしていた。

 

「本当に亜人みたいだな」

 

「い、いきなり何するんだよ!?」

 

「一番手っ取り早い確認をしただけだ。ギャーギャー騒ぐな」

 

全く悪びれていない田中を見て、絋輝は田中は頭が狂っているんじゃないかと思う。

 

「説明の続きをすんぞ。幽霊は亜人なら誰でも出せるはずだが、きっかけがないと出せない。その点、お前は大丈夫だろ?ほら、出してみろよ」

 

田中は挑発するかのように絋輝を促すが、絋輝は戸惑いの表情を見せる。

 

「え?いや……」

 

「なんだ?出し方がわからないのか?前は出せたんだろ?」

 

「あの時は訳が分からずに出てきたんだ!そんな急に言われても……」

 

田中は未だに地面に座り込んでいる絋輝の顔目掛けて蹴りを放った。

 

「がっ!?」

 

「じゃあ無理やり出させてやるよ」

 

顔を蹴られた絋輝は蹲り、蹴り続けてくる田中から体を守る。

執拗に蹴り続けてくるため絋輝は逃げることも出来ずに傷ができていく。

 

「幽霊が出てくる条件は主に3つだ。1つ、死んだ時。2つ……」

 

田中は絋輝の足目掛けて発砲した。

 

「があぁぁああっ!?」

 

撃たれた絋輝から叫び声を上がる。

その瞬間、芳村に止められていた董香は隙を突いて、拘束から逃げ出し、絋輝を守るために田中に突撃する。

 

「絋輝から、離れろッ!!」

 

赫眼になり、田中を殺さんと腕を振るう。

このまま行けば田中の首は喰種である董香の腕力で跳ねられてしまうが、田中は慌てる素ぶりを見せずに口を動かす。

 

「『ヴェノム』」

 

一言そう告げると董香と田中の間に田中の幽霊が入ってきた。

 

「っ!チィッ!!」

 

突然間に入ってきた幽霊に董香は驚くが董香は幽霊ごと切り裂かんと腕を振るう。

しかし、それは硬い物にぶつかる音と共に阻止された。

 

「かた……!」

 

『無理ヤリ出サセテヤルヨ』

 

殴られた幽霊からフィルターがかかったような声が聞こえた。

董香は痛む手を我慢して、一旦離れようとするが幽霊が董香が動き出す前に董香を殴りつける。

 

「ぐあっ!?」

 

「董香!?」

 

吹き飛ばされた董香は体勢を整えることが出来ずに地面に転がり落ちる。

 

「これは流石に…!」

 

「見逃せないね!」

 

入見と古間も董香が攻撃されたのを見て、見過ごすことができないと田中に攻撃しようとするが芳村が手で制する。

 

「芳村さん?」

 

「まだもう少し待って欲しい」

 

芳村の意図はわからないが妹のように可愛がっている董香が傷つけられて、我慢するのはおかしい。

ましてや孫娘のように可愛がっている芳村が動こうとしていないのだ。

入見と古間も怪訝な表情になる。

 

「ここまで痛めつけてもダメか」

 

「うぅ……」

 

田中の足元で傷だらけになった絋輝から呻き声が上がる。

これ以上は無理かと思った田中は倒れた董香に目を向け、足を進めた。

 

「ま、待てよ……董香に何するんだ?」

 

「殺してやるんだよ」

 

何とも思っていないように衝撃なことを言う田中に絋輝は目を見開いて驚く。

 

「董香は、関係ないだろ!」

 

「あるな。俺たち(亜人)と仲良くしている喰種なんて気持ちが悪りい」

 

田中は董香に標的を定める。

田中の幽霊も董香の方を向き、姿勢を低くしていつでも動けるようにする。

それに気づいた絋輝は痛む体を我慢して、足を引きずりながら田中に飛びかかった。

 

「うおっ、離せよ」

 

「嫌だ!」

 

絋輝に腰を掴まれた田中は慌てる様子を見せずに、後ろから抱きつく絋輝を前に持ってきてその腹に膝蹴りを数発ぶつける。

 

「がっ!?げほっ!!」

 

引き離された絋輝は田中に投げ飛ばされ董香の前まで転がる。

 

「絋輝っ!」

 

「ハァ……ハァ……!」

 

董香は蹴り飛ばされた絋輝に近づこうとするが手で止めて、田中と対峙する。

 

「何で喰種なんかを守るんだ?そいつはお前を喰うかもしれないんだぞ?」

 

「……そんなの関係あるか!」

 

絋輝は田中の拳銃を構えた。

 

「いつの間に盗ったんだ?手先が器用だな」

 

自分の腰のホルスターに手を当てると拳銃がなくなっていることに気づいた。

絋輝が腰に抱きついた時に盗んだのだ。

おちゃらけたように言う田中に絋輝は緊張した顔で引き金に指をかける。

 

「撃てるのか、お前に?この前まで唯の学生のお前が?」

 

「……ッ!」

 

絋輝は震える手で拳銃を握りしめて、引き金を引こうとしてもできない。

人を撃つなんて、ついこの間まで普通の学生だった絋輝にできるはずがない。

それに気づいた田中は一歩、足を進める。

絋輝はそれを見て咄嗟に引き金を引いてしまい、銃弾が田中に迫る。

しかし、その弾丸は田中の幽霊によって止められた。

 

「あ……」

 

「まさか撃つとはな。見直した、そこを退け。その喰種を殺す」

 

幽霊が一歩一歩近づいてくるのを絋輝は董香を庇う。

それを見た田中は怪訝な顔になる。

 

「何でソイツを庇う。お前を喰うかもしれない危険なヤツだ。それに今まで人だって殺しているかもしれない。だとしたら、ソイツは社会から見たら害悪だ」

 

田中の言うことは確かに合っている。

喰種は社会から見たら悪だ。

しかし、絋輝はそれは十分にわかっている。

その上で自分の答えを見つけた。

 

「………そうかもしれない。最初は董香が喰種だって知って怖かった。自分も喰べられるんじゃないかって」

 

絋輝の言葉に董香は悲しそうに俯く。

 

「だけどな!俺はそれでも一緒にいたいって思ったんだよ。一緒に幸せを感じたい、笑い合いたいってな!」

 

絋輝は自分の意思を確固たるものとして声を上げる。

吉桐の『君はどうしたい』という言葉を思い返しながら。

 

「俺は董香が好きだ。だから、一緒にいたい!俺が亜人だろうが、董香が喰種だろうが関係あるか!!」

 

「絋輝……」

 

董香は絋輝の想いに嬉しくなり、目を潤ませる。

 

「それを邪魔するなら誰だろうが、ぶっ倒してやる!!」

 

その一言と共に絋輝の体から黒い粒子が溢れ出し、人型を作り上げていく。

 

「漸くお出ましか」

 

田中はそれを見て、嬉しそうに笑みを浮かべる。

絋輝と董香を守るように絋輝の幽霊は現れた。

 

『ブッ倒シテヤル』

 


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