東京喰種ーGhostー   作:マーベルチョコ

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#10 例え世界がそうであっても

現れた幽霊は姿勢を低くして、顔がない幽霊の表情はわからないが、その雰囲気から田中に敵意を見せていた。

 

「出た……」

 

絋輝は自身から現れた幽霊を見て、あの時の幻覚じゃなかったと思い、そう言葉を零した。

絋輝から現れた幽霊は田中のと比べると線が細く、標準男性と同じ体型だった。

 

「漸く出せたな。幽霊が出る2つ目の条件が強い意思だ。一度自分で出せたんだ。もう大丈夫だろう」

 

「もう大丈夫って……え?」

 

「悪いな。乱暴なことをして。手っ取り早く出すにはこうするのが一番だからな」

 

つまり田中は絋輝の幽霊を出すために演技をしていたのだ。

 

「もしかして芳村さん知ってました?」

 

「すまなかったね」

 

入見が聞くと芳村は笑みを浮かべて謝った。

 

「もう幽霊を消していいぞ。説明の続きをしよう」

 

「消していいって言われても……」

 

絋輝は自分の幽霊に目を向けるが、幽霊は田中への敵意を消さずにいた。

 

『ブッ倒シテヤル!』

 

絋輝の幽霊は突然勝手に走り出し、田中に襲いかかった。

 

「おいおい、自動で動くのか。ヴェノム!」

 

田中は襲いかかってくる幽霊に驚きながらも自身の幽霊、ヴェノムを呼ぶと幽霊の振り下ろしてきた拳を受け止めた。

 

「おい、坊主!さっさと命令してやめさせろ!」

 

「そ、そんなこと言われたって!どうすりゃいいんだよ!?」

 

「強く念じろ!」

 

田中が声を荒げて、絋輝に命令する。

その様子に田中が追い詰められているのがわかった。

その間にも幽霊とヴェノムとの戦いは続いていた。

幽霊はただひたすらに田中を殺さんと攻撃を加えてくるが、ヴェノムがそれを全て防いでいく。

凄まじい力と力のぶつかり合いに空気が振動する。

 

「コイツら同士の戦いなんて初めてだぞ……」

 

田中は冷や汗を流しながら、二体の戦いを見守る。

防戦一方だったヴェノムが攻撃に転じて、幽霊を殴ると防がれるがパワーが違うのか幽霊は吹き飛ばされてしまう。

 

「おい!もう止めろって!」

 

『関係アルカ!』

 

「何言ってんだよお前!?」

 

絋輝の命令にも全く聞かず、訳の分からないことを言う幽霊は四つん這いになり、獣のように駆け出しヴェノムに拳を振るう。

ヴェノムもその巨大な拳を握りしめ、幽霊の拳に合わせるように殴る。

凄まじい衝突音と共に今までにない何か壊れる音が響いた。

幽霊は吹き飛ばされ、転がりながらも体勢を整えようとするが片方に傾いてしまう。

ヴェノムと幽霊の殴り合った部分を見るとその部分が消失していた。

 

「打撃が有効なのか?……おい!まだ止まらないのか!?」

 

「それが……言うことを聞かないんだ!」

 

「暴走か?」

 

田中が呟くと同時に幽霊は駆け出し、ヴェノムに飛びかかる。

ヴェノムは再び拳を握りしめ、巨腕を振るう。

 

(どこか弱点かわからないなら、生物の弱点である頭を……!)

 

狙ったの幽霊の頭部。

理屈はわからないが殴った部分が消失するなら、頭めがけて殴るしかない。

ヴェノムの拳が幽霊に迫るが、当たりそうになった瞬間に幽霊は体を傾けて拳を避け隙を見つけて、田中に迫った。

そして手刀を田中に突き刺し、鮮血が田中から舞った。

 

「がっ…あぁぁああぁぁぁっ!!?」

 

刺された田中はそのまま持ち上げられ、まるで獲物を狩り取ったと言わんばかりだった。

 

「ぢぐしょ……!!ヴェノムゥッ!!」

 

口から血を零し、痛みで意識が薄れそうになりながらも田中はヴェノムに命令を出す。

ヴェノムは幽霊の背後に回り、その頭を殴り潰した。

頭を失った幽霊は膝から崩れ落ち、その姿を徐々に消滅していった。

田中は地面に落ち、血溜まりの中で絶命し、それと同時にヴェノムも消えていった。

 

「終わった……?」

 

その光景を絋輝は呆然と見ていると田中の体から灰黒い粒子が現れ、ゆっくりとその体が起き上がった。

 

「あ"ー、くそっ!お気に入りのジャケットなのに……」

 

服を血で濡らした田中はがっかりした口調で起き上がる。

 

「えーっと、その……なんかすいません」

 

「いいって気にすんな。散々煽った俺も悪い」

 

田中は疲れたようにため息を吐きながら、タバコを取り出すが血で濡れてしまっているため投げ捨てた。

 

「幽霊はいつでも出せるようにしておけよ。いざという時に出せなきゃ意味が無いからな」

 

「でもアレ、俺の言うこと聞かなかったし」

 

「名前なんて付けてみたらどうだ?」

 

「名前って、ペットじゃないんだし……」

 

「愛着が湧いて言うこと聞いてくれるかもしれないだろ?俺だったら『ヴェノム』だしな」

 

「アメコミじゃないですか……」

 

「おっ!知ってる?」

 

さっきまでの殺伐とした空気は何だったのか、落差に絋輝もため息を吐くが気が抜けたのか、痛みが蘇ってきた。

 

「イデッ!?」

 

「あー、痛みが戻ってきたか。俺たち亜人は人間と少し違うだけで構造は同じだ。もし、何かあったら気をつけろよ」

 

田中は立ち上がり、絋輝の側まで近づいて、銃を拾い上げる。

 

「気をつけろって……どういうことですか?」

 

「痛みは消えないってことだ」

 

田中は銃を構えて絋輝の眉間を撃ち抜いた。

横に倒れる絋輝を見て、董香はまた激昂する。

 

「絋輝っ!?テメェッ!!」

 

「そう怒るなって。どうせ蘇る」

 

絋輝の体から黒い粒子が出て、目を覚ます。

先程まで感じていた痛みは全てなくなった。

 

「ハッ!?はぁ…はぁ……突然やめてくださいよ」

 

「ハハッ、やっぱり慣れないか」

 

「当たり前です」

 

非難する目を田中に向けるが田中はケラケラと笑う。

 

「それで良い。死を慣れたらそれで終わりだ」

 

「……どういうことですか?」

 

「死ぬのが怖くなくなったら生き物として終わりだ」

 

 

ーーーーー

その後、田中は絋輝に諸々亜人としての注意点をいくつか説明して帰った。

あまりの呆気なさに絋輝は少し脱力してしまった。

そして全てを知っており田中と共謀した芳村から謝罪と替えの服を貰ってから、絋輝は董香と2人で休憩室のソファで隣り合って座っていた。

 

『色々と疲れたからここで休んで行きなさい。何か欲しい時は董香ちゃんに言ってくれて構わないからね』

 

芳村の粋な計らいにより、漸く2人きりになれた。

その際に四方からまた睨まれたが、絋輝には理由がわからなかった。

 

「………」

 

「………」

 

黙って座る2人に気まずい空気が流れる。

絋輝から話すべきなのだが田中との戦いが終わり、冷静になってしまった絋輝は先の自分の発言を思い出し、赤面してしまう。

 

(ドラマみたいなクサイこと言っちまった……)

 

顔を俯いて、董香に隠しながら絋輝は悶えていると董香が話しかけたてきた。

 

「ねぇ、あの時言ったことって……本当?」

 

董香が言っているのは絋輝が田中に向かって言ったことだ。

絋輝は顔を上げて、董香の目を真っ直ぐに見る。

 

「うん。嘘は言っていない」

 

絋輝の目を見て、本気だとわかった董香は悲しそうな表情になる。

 

「……私は今まで生きていくために沢山殺してきた。ムカついて殺したことだってある。……あのオッさんが言ってたとおり喰種は危険。だから、私たちの側にいると危険が増すから……もう会わない方が………」

 

話を進めていく毎に董香の言葉に力が抜けていく。

絋輝のことを考えるならばもう会わない方がいいに決まっている。

あんていくは20区に住み着いている喰種の溜まり場だ。

他の区と比べて比較的温厚な者が多いとはいえ、喰種であることには違いない。

だから、2人は離れることが良いのだが董香の本心はそんなことを望んでいない。

辛いことだが、こうすることが一番だと自分に言い聞かせるために強く拳を握りしめる。

その手に絋輝は包むように手を重ねた。

 

「さっきも言ったけど、俺は董香が喰種だろうが好きなんだ。一緒にいたいって思ってる」

 

「それじゃあ絋輝が危険な目にあうって」

 

「それでもだ。俺は例え世界がそうであっても董香が好きなんだ」

 

真っ直ぐに絋輝は董香の眼を見つめる。

絋輝の気持ちは変わらない。

董香が喰種であることに戸惑ってしまったが、董香に対する気持ちは『あの頃』から変わらない。

覚悟を決めたその眼に、喰種であっても好きだと言ってくれた絋輝に董香は嬉しくなり目から涙が溢れる。

 

「アハッ、何その言葉……クッサ」

 

董香は涙を誤魔化すために笑って絋輝に返す。

 

「なっ!?覚悟決めたのにそんなこと言うのかよ!」

 

絋輝は赤面して言い返すと、董香はつられて笑った。

そして絋輝の重ねられた手にゆっくりと指を絡め、絋輝の暖かさを確かめる。

 

「絋輝……」

 

「どうした?」

 

「………んっ」

 

董香から唇を突き出し、優しく絋輝に重ねる。

最初は驚いた絋輝だが董香の匂い、体温を感じとり、心から溢れる想いを確かめながら何度も董香と唇を重ねた。

 

 

 

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