東京喰種ーGhostー   作:マーベルチョコ

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#12 ありがとう。貴方のおかげだ

女狂いの本名は矢ヶ崎 塁(やがさき るい)。

生まれたのは17区だった。

彼は母親と暮らしており、父親は彼が赤ん坊の頃に捜査官に殺されてしまった。

 

昔、17区は18区との喰種同士の縄張り争いで酷い争いがあった。

そのため17区は治安が悪いので有名だった。

勿論捜査官もこの状況を解決するために鎮圧や見回りを強化したが焼け石に水だった。

 

そんな過酷な環境の中で母子2人で生きるのは簡単ではなかった。

彼の母親は弱い喰種であり赫子も出せなかったので、他の区に逃げても生活できるアテがなく、警戒が強化された17区で食糧を得るのも難儀していた。

しかし、息子である塁を育てるためにはどうしても食糧が必要だ。

そこで彼の母親は17区の他の喰種を頼った。

勿論、17区の喰種達は関係のない母親の頼みなんか聞いてくれるほど優しくない。

最初は耳を貸さず、暴力で叩き返したが母親は諦めなかった。

何度も何度も頭を下げて頼み込んだがその度に傷が増えていった。

17区の喰種達がそんな母親に呆れたころ、17区の喰種達のリーダーがあることを言った。

 

『見返りにお前は何ができる?』

 

そう言われた母親はチャンスが来たと即答した。

 

『私の体を売ります』

 

母親は弱い喰種であったが、それと同時に美しい容姿を持っていた。

覚悟は決めていた。

息子を育てるためならどれだけ汚れようとも関係ないと。

その言葉にリーダーは了解し、母親はリーダーを含め様々な喰種に抱かれた。

最初は事が終わった後、涙を流し、死んだ主人に申し訳ないと心の底で何度も謝った。

しかし、満足そうに食事をする塁を見て良かったと思った。

それからも母親はリーダーに命令され、体を売った。

時には17区の喰種を慰安するために、時には18区の喰種から情報を得るために、時には遊びで見知らぬ喰種や人間にも抱かれた。

日に日に精神が疲弊していくが、息子のためならと健気に続けていた。

 

唯一の誤算があるとすれば、それはその息子が自分の情事を覗いていた事だろう。

塁が10歳の時だった。

夜な夜な住処から抜け出す母親を不審に思った塁はコッソリと跡をつけ、母親が見知らぬ男に抱かれるところを見てしまった。

その時、塁が感じたのは母親に対する軽蔑でも、母親を抱く男に対する怒りでもなく、その時の母親に美しいといった感情と興奮を覚えた。

それからというもの塁は母親が夜出掛ける度について行き、母親のその姿に見惚れた。

 

それから数年、17区と18区の争いは17区の優勢のまま終わりを告げようとしていた。

その理由は塁の母親のおかげであった。

力で奪い合うのが基本である喰種だが、母親を使った色仕掛け、策略により、17区は徐々にその勢いを有利にしてきたのだ。

今回の争いで母親が鍵となっていることにリーダーはわかっていたが、この男はそんなものは関係なかった。

『弱肉強食』、この言葉を地で生きているリーダーにとって母親はまさしく弱者。

力が無いものは搾取されてしまう。

 

最早、用済みとなった母親はその日リーダーに犯されながら首を絞められ殺されてしまった。

しかも、自身の息子である塁の前でだ。

母親は目を見開きながら、言葉を発することが出来ず、口だけを動かし『ごめんね』と謝った。

塁は母親が目の前で犯されながら、絞め殺されているというのに微動だにしなかった。

ただただ死んでいく母親を見ているだけだった。

そんな塁を興味を示さなかったリーダーは塁を放っておき、姿を消した。

母親の死体と2人っきりになった空間で塁の中では母親を喪った喪失感、殺された怒り、悲しみの感情などは一切なく、過去のどの時よりも最も興奮を覚え、感動していた。

やがて塁は母親の屍に飛びつき、その体を貪った。

涙を流しながら、歓喜の笑みを浮かべて。

 

この時、『女狂い』が誕生した。

 

その後、塁は17区の喰種が集まる場所に出向いた。

その中には母親を殺したリーダーもいた。

最初は復讐目的に来たのかと思ったが、塁はただ笑みを浮かべていたことに不審に思った。

すると塁はリーダーを見て、柔らかい口調で話しかけた。

 

『ありがとう。貴方のおかげだ』

 

その日以降、17区を支配していた喰種たちは一切姿を消し、18区の勝利で収まった。

しかし、18区の喰種たちは17区には手を出さなかった。

18区を縄張りとする喰種たちは揃ってこう言う。

 

『あそこにはヤバイ奴がいる』

 

それ以来、女狂いの凶行は東京中に広まった。

 

 

ーーーーー

その日は土曜で絋輝は董香の住むアパートにいた。

絋輝はソファに寛ぎながらタブレットで絵を描いており、董香は雑誌を広げながら頭を絋輝の太ももに乗せていた。

すると董香は飽きたようにため息を吐き、雑誌を閉じて顔を絋輝に向けた。

 

「ねぇ、暇なんだけど」

 

不満そうな顔でそう文句言ってくる董香に絋輝は困った表情になる。

 

「んなこと言われてもな……今日はお家デートしようって言ってきたのは董香だろ?」

 

「そうだけどさぁ……一日中ゴロゴロしてるのも勿体無くない?」

 

「俺はバイトの締め切りが迫ってるから忙しいんだよ」

 

絋輝はそう言ってタブレットに視線を戻す。

それに不満を覚えた董香は少しムッとしながら起き上がり、絋輝を押し倒した。

 

「うおっ!?何すんだよ?うごっ!」

 

突然のことに驚く絋輝だが董香が腹に乗って、呻き声を上げてしまう。

馬乗りになった董香は悪戯な笑みを浮かべて、下の絋輝を見下ろす。

 

「何って、暇つぶし♪」

 

董香は体を倒して絋輝にもたれかかりながら、顔を首元に埋める。

董香の胸の柔らかい部分が体に当たり、意識してしまうがすぐに董香が絋輝の首筋を舐めたことで意識がそっちに向く。

 

「 お、おい!董香!何して……!」

 

「んっ、レロ……チュッ……構ってくれないからやってんの」

 

董香は絋輝の首に吸い付き、舌で舐め回しながら時折啄ばむようにキスをする。

 

(董香……最近よく甘えるようになったな)

 

首から来る淡い快感に身じろぎしながら耐えながらそんなことを考えた。

自分が喰種だが、それでも好きだと言ってくれた絋輝に今まで喰種だからと遠慮していた分がなくなったのだ。

すると、董香は舐めるのを辞めてゆっくりと顔を上げた。

その時、董香の口から銀色の橋が絋輝の首から伸び、プツリと消えた。

董香は恍惚とした表情で絋輝を見下ろし、絋輝も少し息を荒くして董香を見つめる。

 

「………」

 

「………」

 

やがて2人は互いに顔を近づけあう。

2人の距離がなくなろうとした瞬間、絋輝のスマホから着信を流れた。

 

「えーとっ……」

 

「………」

 

鳴り続けるスマホに絋輝は気まずそうにしながら目線をスマホに向けると董香は不機嫌そうに絋輝から退いた。

 

「早くして」

 

「……はい」

 

董香が怒る前に済ませようと、すぐさまスマホを取る。

 

「もしも『もしもし!!?篠原君!!?やったわよ!!!』っ!?」

 

突然の大音量に絋輝は咄嗟に通話を切ってしまった。

隣を見ると、董香も聞こえてきた大音量に驚いていた。

すると、すぐさままた電話がかかってきて絋輝は落ち着きながら電話に出る。

 

「もしも……」

 

『ちょっと篠原君!?何で突然きっちゃうのよ!!?』

 

「水戸さんがいきなり大声で叫ぶからですよ」

 

電話の相手は水戸 和子と言って、絋輝がバイトをしているイラスト会社の社員であり、絋輝に仕事を流してくれる人物だ。

今日はやけに興奮している様子だ。

 

「で、どうしたんですか?」

 

『やったわ!!やったのよ!!』

 

「……何がです?」

 

話の要領が掴めない話に絋輝は若干呆れながら聞き返す。

 

『今超売れっ子の小説家の新作の表紙を貴方に書いて欲しいって、直接お願いされたのよ!!』

 

「はぁ?」

 

『詳しい話は明日、会社で会ってからするわね!それじゃ!』

 

「えっ、ちょっ!あの!?」

 

一方的に電話を切られ、絋輝は呆然としてしまう。

 

「何だったんだよ……今の」

 

疑問に思っていると董香が絋輝の背中に抱きついてきた。

 

「うおっ、董香?」

 

「もう……いいよね?」

 

首を後ろに向け、董香の表情を見ると息を荒くして目を潤ませていた。

 

(あっ、今日は寝れないかも……)

 

絋輝は董香に押し倒され、長い夜が始まった。

 

 

ーーーーー

翌日、絋輝は眠気と若干痛む腰に耐えながら、担当である水戸と共にある出版社を訪れていた。

 

「あー……きっつ」

 

「ほら!しっかりしなさい!これから先生方と打ち合わせをするんだから!」

 

「わかりましたよ。……てか、何で俺なんですか?俺以外に絵上手い人いるでしょう?」

 

若干ぼやきながら、水戸に質問する。

 

「それがわからないのよねぇ。突然新作の表紙を篠原君にして欲しいの一点張りでね。でも、これで私のお給料が上がるわ!ありがとう!!」

 

「包みも隠しもしないんすっね」

 

呆れた顔をしながら打ち合わせ場所である出版社に入っていく。

大きな出版社だが絋輝は『でかいビルだなー』としか思わず、緊張せずに進んでいく。

案内されたのは待合室でそこに1人の男性が腰を低くして入ってきた。

細目の若い男性でどこか苦労してそうな雰囲気が漂っていた。

 

「お待たせしました〜。私、今回の担当になります。塩野 瞬二と申します」

 

「初めまして。私、TRAピクチャー株式会社の水戸 和子と申します。今回の件、我が社のイラストレイターを希望していただき誠にありがとうございます」

 

「いえいえ、そんな……」

 

その後も2人の社会人としての社交辞令は続いて行き、置いていかれた絋輝は用意されたコーヒーをちびちびと飲んでいた。

 

(やっぱ、あんていくのヤツがうまいな……)

 

関係のないことを考えていると塩野が絋輝に顔を向ける。

 

「それで、そちらが……」

 

「はい、ご依頼の表紙を担当いたします。篠原 絋輝です。ほら」

 

水戸に促され、絋輝も立ち上がって挨拶する。

 

「篠原 絋輝です」

 

「よろしくね。いやー、先生が君の絵を気に入っちゃってねー」

 

塩野はフランクに話しかけてくる。

どうやら高校生だということはわかっているのか気楽な態度だ。

 

「あの、そういえば先生はどこに……?」

 

「あっ!すいません!それが……先生は遅刻しておりまして……」

 

塩野が申し訳なさそうにしていると待合室の外からパタパタと小走りしてくる音がしてくる。

 

「ふひぃ〜、遅れちった」

 

会議室のドアが乱暴に開けられ、入ってきたのはボサボサの緑髪で顔が隠れそうなくらいの長髪だが、髪の間から覗く顔は美人であることがわかるくらいに可憐な女性だ。

しかし、絋輝はその女性を見て気づいた。

 

(あれ?この人……)

 

「高槻 泉です。遅れてすみませ〜ん」

 

 

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