東京喰種ーGhostー   作:マーベルチョコ

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#18 僅かに彼女の匂いがするからさ

週末になり絋輝は4区の駅で董香と待ち合わせしていた。

今回はデートも兼ねているがそれだけではなかった。

 

「マスクか……」

 

董香を待ちながら、前日に芳村に話したことを思い出していた。

 

 

ーーーーー

田中との訓練を終えた絋輝が店で休憩がてらコーヒーを飲んでいると芳村が絋輝に提案してきた。

 

「マスクですか?」

 

「そう。我々、喰種は人前でその本性を出さなければいけない時がある。その時、素顔で人の前に現れるのは色々とまずいのだよ。そこで我々はマスクで隠すんだよ。絋輝君にも必要だと思ってね」

 

「でも、それは喰種だけの話じゃないんですか?」

 

不思議そうにする絋輝に同じくコーヒーを飲んでいた田中が付け足した。

 

「俺らの力が万が一に人間にバレたら不味いだろうが、あと喰種にもな。それらから隠すために必要なんだよ。俺だって持ってる」

 

田中が取り出したのはアメコミのダークヒーローそっくりのマスクだった。

 

「私たちが贔屓にしている店を紹介しよう。董香ちゃん、明日休みだから絋輝君を連れて行ってくれないかい?」

 

「わかりました。じゃあ、明日新宿駅の東口で待ち合わせね」

 

「おう」

 

 

ーーーーー

そんな会話を思い出しながら、吹いてきた風に身震いする。

もうすぐ秋が終わるからか風が冷たかった。

 

「絋輝!お待たせ」

 

董香がやって来て2人で目的の店を目指す。

会話をしながら歩く2人は正に恋人同士だが、時折すれ違う男性は董香に目を向けてくる。

董香は贔屓目なしで見ても綺麗な人だ。

それは恋人である絋輝も思っているし、嬉しくもある。

しかし他人に董香が見惚れられることに少し不満に思い、董香の手を握った。

 

「わっ、何?どうしたの?」

 

「別に……」

 

見知らぬ人に嫉妬したからと言える訳もなく、はぐらかす。

董香は絋輝の様子に不思議に思ったが、絋輝と触れ合えることに嬉しく思い、しっかりと握り返した。

 

2人は手を握ったまま大通りではなく路地裏に入り、人影が全く見えなくなったところまでやってきた。

そして目的の場所に着く。

店の全面がアートで飾られた中々独特な店だった。

 

「『ArtMask Studio HySy』……?」

 

「さっ、中に入ろ。もうウタさん待っているだろうし」

 

店内に入ると奇抜なマスク多く壁に掛けられてあり、マスクを飾るためのオブジェも多くあった。

 

「へぇ!面白いところだな」

 

「絋輝ならこういうの好きだもんね。ウタさんは奥にいるのかな?ウタさーん!」

 

董香はウタという人物を探しに行き、絋輝は飾られてあるマスクを眺めていた。

その中で布で隠してある作品があり、気になった絋輝は悪いと思いながらも布を除けた。

そこに現れたのはオブジェではなく、人だった。

 

「うおっ!?」

 

「やぁ、いらっしゃい」

 

驚く絋輝にその人物は何ともなく挨拶する。

 

「どうしたの……ってウタさん。何してるんですか?」

 

「ごめんね。芳村さんから亜人の子が来るって聞いてさ。どんな反応するか見たかったんだ。ウタです。よろしくね」

 

ウタは絋輝に手を差し出して、挨拶する。

 

「は、はぁ、篠原 絋輝です」

 

絋輝も戸惑いながら握手すると突然手を引っ張られ顔を近づけられ、匂いを嗅いできた。

 

「……うん。やっぱりいい匂いがするね。何かで誤魔化しているようだけど僅かに香ってくる」

 

ウタは満足したのか絋輝を放し、絋輝は引きつった顔で董香に寄り添う。

 

「大丈夫か?あの人」

 

「まぁ……悪い人ではないし」

 

董香も独特なウタに苦笑いをして答えるしかなかった。

 

ウタに案内され、マスク作りに入る。

 

「何か要望とかある?アレルギーとかは?」

 

「いや、特には……」

 

「ふーん……そういえば亜人って幽霊を出せるんだよね?見せてもらってもいいかな?」

 

「あっ、はい。…………」

 

絋輝は目を瞑り、集中すると背後にゴーストが現れる。

 

「へぇ……これが亜人の幽霊なんだ。顔がないんだね」

 

まじまじとゴーストを観察するウタはゴーストの顔部分を注目していた。

 

「他の亜人もみんなこんな風なの?」

 

「人それぞれですよ。ゴリラみたいなのもありますし」

 

ウタと絋輝が話しているとゴーストは独りでに動き出し、マスクを眺めていた董香の後ろに立った。

 

「ちょっ……何?」

 

『別ニ……』

 

不気味に思った董香がゴーストから離れるがゴーストは董香に付いて行った。

 

「何で付いてくんのよ!?」

 

『別ニ……』

 

いくら離れても付いてくるゴーストに董香は悲鳴を上げる。

それを絋輝は呆れた表情で見ていた。

 

「何やってんだ?」

 

「あの幽霊は董香さんが好きなようだね。君もそうだからかな?」

 

「へ?」

 

「董香さんの恋人だよね?僅かに彼女の匂いがするからさ」

 

「喰種の嗅覚って凄いですね……」

 

喰種の嗅覚に戦慄した絋輝だった。

その後、ゴーストから発想を得たウタは後日マスクを送ると言って、マスク作りは終わった。

その後、デートとなったがゴーストに付け回された董香は不機嫌で、どうにか機嫌を取ろうと絋輝は董香の我儘に付き合い、疲れてしまった。

 

 

ーーーーー

20区のCGG支部で荒木が一服していると波島が調査報告書を持ってやって来た。

 

「おう、波島。今日はどうだった」

 

「今日も変わらずでしたよ。強いて言えばデートをしてました。……羨ましい」

 

「あ?なんか言ったか?……今回はマスクショップに行ったのか」

 

「最近の高校生って多趣味ですよねー。私なんか大きなショッピングモールに行くだけで楽しかったですよ」

 

荒木は報告書から目を離さず、考え込む。

 

「それに最近あんていくに頻繁に通っているか」

 

「頻繁にというより毎日です」

 

「何かあるのか?出入りする客は?」

 

そう聞かれた波島は違う書類を取り出し、荒木に見せる。

 

「客の出入り多くて客層は絞り込めませんね。とりあえずここ数日で連日店に通っている人物だけ挙げました」

 

受け取った人物の写真を見比べているとある写真で止まった。

 

「この男は?」

 

「さぁ?通っている人物の調査まではしてませんので……何か気になる所があるんですか?」

 

「いや、どこかで見たことがあると思ってな」

 

その写真には田中が写っていた。

 

 

ーーーーー

地下水道の一部には血と腐敗臭が立ち込めており、地下に住むネズミでさえ近づかなかった。

その匂いの元は触手のようなものがより固まった肉塊があった。

それは脈動するように蠢き、その脈動は徐々に早まってきていた。

そして内側から突き破るように手が肉塊から飛び出し、人が出てくる。

辛うじてその人は女狂いとわかるがその様相は豹変していた。

体の至る所から触手が伸び、体の表面には血管が浮き彫りになり凶悪さが増している。

顔も崩れて、人の形を成しておらず触手にほとんど覆われている。

豹変した女狂いは僅かに覗く目を血走しらせる。

 

『コロス……コロスゥゥ……僕ノ邪魔スルヤツハぜんぶコロスゥゥ……』

 

 


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