女狂いを倒すために絋輝は告白したが2人は微妙な表情を浮かべた。
「ねぇ……亜人って何?」
「え!?知らないんですか!?」
「う、うん」
国の公務員でもあるCCGの人間ならば知っていると思った絋輝は不思議そうにする波島に驚く。
しかし、荒木は運転しながら何かを呟く。
「まさか本当にいたなんて……」
「荒木さん?」
何を呟いたかはわからないが様子がおかしいことに波島が名前を呼ぶと車に衝撃が走る。
女狂いがまた赫子を槍に投げてきたのだ。
しかも今度は連続して投げてくるために車は激しく蛇行して躱していく。
「キャッ!」
「チィッ…!」
「………」
揺れ動く車の中で絋輝は攻撃してくる女狂いを見る。
女狂いは巨腕を振るうと赫子がいくつも切り離され、矢のように飛んでくる。
「波島!撃ち落とせ!」
荒木の指示に従い、スサノで撃ち落としていくが1本だけ打ち損じ、波島に向かっていく。
当たると思った赫子は寸前で止まった。
止めたのは車内で出したゴーストだった。
「え……何、これ」
「っ!」
突然現れたゴーストに波島は戸惑い、荒木も驚く。
「行けっ!」
絋輝が命令するとゴーストは車の扉を蹴破り、女狂いに向かって走り、タックルをして足止めした。
「これで信じてくれましたか?俺が亜人だって」
荒木と波島は神妙な顔になってうなづく。
そして絋輝は亜人のことを説明した。
不死身の特性、黒い幽霊のことなど亜人についての自分が知る情報を殆ど教えた。
勿論董香達喰種のことは一切言っていない
「そんなモノがいたなんて……」
「不死なんて信じられねぇがな」
驚く2人はそう呟く。
『波島ニ等!今どこにいる!?応援に来たがお前達の姿どころか件の喰種さえ見られないぞ?』
スピーカーで2人にも聞こえるようにするが、波島は返答に困ってしまう。
もし、絋輝がいると答えてしまうと後で事情徴収で後で問いただされるかもしれないからだ。
応答できずにいると荒木が横からスマホを奪い取った。
「こちら荒木上等だ。今現在俺たち『2人』は女狂いをおびき寄せて人がいない所まで行く。そこで奴を討つ」
『わかった。こちらも処理を終え次第応援に向かう』
「了解した。場所は追って知らせる」
通話を切ると波島に投げ渡し、2人に話しかける。
「俺たち3人でケリを付けるぞ。お前の存在が他の奴らにバレる前にな」
覚悟を決めた荒木はハンドルを強く握り直しながら告げる。
それに絋輝は何故自分のことを話さなかったのか気になった。
疑問に思っている目で見てくる絋輝に気づいた荒木は笑みを浮かべながら答えた。
「子供が困るようなこと大人がするかよ」
その時の荒木からは頼もしさが溢れていた。
ーーーーー
女狂いはゴーストが足止めしてから姿が見えず、その隙に人がいない所までやってきた。
絋輝たちがやって来たのは『ゴーストタウン』と言われる場所でかつて強力な喰種たちが治めており、CCGも手を焼いていたが忽然と姿を消した。
その後も他の喰種が新しく縄張りを広げようとしたり、人間が新しく開発しようとしたがその度に人が消えており誰も寄り付かなくなった。
絋輝達はそのゴーストタウンの中でも倒壊したビルに陣取っており、そこは1階から4階まで筒抜けである中々大きいビルだ。
「こんな危ない所で大丈夫なんですか?」
絋輝は倒壊したビルを見ながら不安そうに聞く。
「人を巻き込まずに戦うならここが一番だ。それに俺はここが女狂いの寝床だと前から思っていたしな。慣れ親しんだ場所だ。奴は必ず来る」
クロガネを地面に突き刺し、杖のようにして女狂いを待ち構える荒木はそう言った。
「それよりお前は俺から離れるなよ。もうさっきの黒い奴出せないんだろ?」
「はい、1日に出せるのは2体だけって教わりましたから」
それを聞いた荒木は頷き、上の階に目を向け、スサノを構えている波島と目を合わせ、準備はできたと確認する。
絋輝はウタに貰ったマスクを被った。
「何だそのマスク?」
「念のためってやつですよ」
「喰種みたいだな」
その一言に少しギクッとした絋輝だがマスクのおかげでバレずに済んだ。
マスクのおかげか緊張していた心が少し落ち着き、必ず倒すと気合を入れる。
できる限りの準備は整った。
荒木は一呼吸ついて正面の入り口を見つめる。
外の雨の音が激しい中、緊迫した空気が流れる。
数分待っていると絋輝は地面に違和感を覚え、下を見るとその瞬間、地面が大きく揺れる。
地面がひび割れ、下から女狂いが現れた。
『グオォォォォォッ!!!」
「避けろ!!」
荒木の声と共に絋輝は横に跳んで、瓦礫を避ける。
女狂いは身体中に蔓延っている赫子を唸らせて何かを探している。
やがて全ての赫子が絋輝の方を向き、女狂いもそちらを向く。
『グルルル……!」
唸り声を上げながら絋輝に近づこうとするが、荒木が女狂いの体にクロガネを突き立てる。
「逃げろ!!」
絋輝は奥に向かって走り出す。
更にクロガネを突き刺そうとするが女狂いが体を大きく揺らし、荒木を振り落とし、赫子で潰そうと振り下ろす。
「やらせない!」
上から波島が体に羽赫を撃ち続けるが微動するだけで振り下ろすのをやめようとしない。
そこに絋輝が滑り込み、荒木を転がるようにして救い出した。
「何で戻って来た!?」
「助けたのに怒鳴るなよ!」
2人は立ち上がると女狂いは突き刺さったクロガネを抜いて、投げ捨てて2人に近づく。
波島が撃ち続けるがあまり効いている様子はない。
女狂いは赫子を伸ばし、貫こうとする。
荒木は避けたが絋輝は反応できずに貫かれた。
「ごっ!?」
「しまっ……!」
体に大きな穴が空いた絋輝は血を流し、倒れる。
『ハハはっ!!」
女狂いは絋輝を殺せたことに笑みを浮かべるがすぐに唸り声に変わる。
倒れた絋輝から黒い粒子が溢れ、ゆっくりと体を起こす。
「はぁ……はぁ、くそ……」
死んだことに悪態をつきながら立ち上がる絋輝に荒木と波島は驚いた表情になる。
「本当に生き返った……」
「………」
驚きのあまりに荒木は声も出ていない。
幻覚かとも思ったが絋輝の服には穴ができて、そこには血も付いている。
現実で起きたことだと認めるしかない。
絋輝が生き返ったことに更に怒りが募ったのか、狂ったように赫子を振り回しながら巨体を揺らして絋輝目掛け走り出す。
女狂いの突進を横に跳ぶことで躱す絋輝だが、女狂いはそれをわかっていたかのように柱に赫子を回し、振り子のようにして急旋回して絋輝の前に躍り出た。
『グオォッ!」
「っ!!」
巨体に似合わない動きに面を喰らう絋輝に女狂いは赫子を振るう。
そこに荒木がクロガネで赫子を切り落とした。
『グギャアァァッ!!?」
赫子を切り落とされた女狂いは断末魔を上げるがそこに巨大な羽赫が突き刺さり、大爆発を起こした。
「やった……!大きな一撃なら効く!」
大爆発を喰らった女狂いは後ろに大きく仰け反りながらもその血走った眼は絋輝を捉えており、負けじと赫子を振るってくる。
嵐のように振るわれる赫子に荒木は咄嗟に身を屈めて躱すが、絋輝は巻き込まれて吹き飛ばされてしまう。
「あぁっ!?」
「坊主!!」
吹き飛ばされた絋輝は鉄棒が束を巻き込みながら吹き飛ばされた。
「うぅ……いってぇ……」
痛みで呻く絋輝に女狂いは近づいていく。
逃げようとするが肋に鋭い痛みが走り、足が鉄棒に引っかかって逃げれない。
「チッ……!波島!撃ち続けろ!!」
「はい!」
絋輝が逃げ出せないことに気づいた荒木はクロガネで背後から女狂いに斬りかかろうとするが女狂いの背中から赫子が伸びて荒木を攻撃する。
「くそっ!近づけない!」
波島も撃ち続けるが弱い羽赫では豆鉄砲にしかならない。
徐々に近づいて来た女狂いは攻撃するための束ねた赫子をバラバラに解き、絋輝に伸ばして纏わりつかせる。
「な、なんだ…!?離せよ!!」
纏わりついてくる赫子に体を捩って振り払おうとするが徐々に全身を絡め取られる。
一体何をしようとしているのかと思った瞬間、女狂いが野次馬の1人を絡め取って自分の一部にしたことを思い出し、背筋が凍る。
女狂いは今自分を吸収しようとしているのだと気づいた。
「うああぁっ!?離せ!!離せよ!!!」
不味い状況に絋輝はもがくが赫子は無慈悲にも纏わりついてくる。
その様子を僅かに覗く口を歪めて愉快そうに女狂いは嗤う。
(死にたくない!死にたくない!)
今まで一瞬のうちに殺された為か死への恐怖というものをしっかりと感じたことがない絋輝はこの時初めて死の恐怖を感じた。
絶望するなか赫子が絋輝を飲み込もうとした瞬間、絋輝は何かに赫子から引っ張り出された。
目を恐る恐る開けるとそこには自分の片腕を掴んで持ち上げる『3体目』のゴーストの姿があった。