女狂いと戦ったビルには多くの車と白いコートを着た人物達が女狂いとの戦いの処理で駆け回っていた。
荒木は治療を受けながら、その光景を暗い表情で眺めていた。
妻の仇である女狂いを倒すことができはしたが一般市民に多くの被害を出し、パートナーである波島も死んでしまった。
遣る瀬無い気持ちだけが心に残っていた。
ふと目を前に向けると死体が乗った担架が運ばれるのが見え、荒木は足を引きずりながらその担架に近づいた。
「ちょっと待ってくれ……最後に顔を見ていいか」
担架を運んでいた処理班は荒木の意を汲み取り、担架を下ろした。
荒木はシートを剥がし、波島の死に顔を見て、出会った当初を思い出した。
波島の最初の上官が殉職し、次にパートナーとなったのが荒木だった。
先代のパートナーは堅実で誠実な上官で波島はとても尊敬していた。
そんな上官の教えを守りながら、新たに努めようとした矢先に悪い噂が立つ荒木と組まされた。
捜査のやり方は無茶苦茶で、無茶な戦い方をする問題児としてCGGでは荒木は悪い意味で有名だった。
そんな荒木と馬が合うはずがなく、最初は荒木のやり方に反発していたが徐々に荒木の信念に気づき、尊敬できる部分に気づいた。
最終的には荒木のやり方に少し僻辞しながらもついていくようになった。
荒木も当初は新人の担当に嫌気がさしていた。
CGGからは問題児として面倒な部下を押し付けられ、殉職させれば荒木の問題として叩かれてしまうため、仕方なく波島を受け持った。
その頃の荒木は女狂いを何度も逃し、息子とも疎遠になり荒れに荒れていた。
波島との衝突が何度もあり、仲は相当悪かったがある事がきっかけでお互いの思いがわかった。
それ以来波島はパートナーとしては先輩であり、師である真戸と妻であった美沙に次ぐ優秀なパートナーとなった。
息子との確執を取り除こうとしてくれたり、息子と個人的に会って近況を聞いてくれたりと色々としてくれた。
信頼でき、これからが将来が期待できる仲間をまた失った。
荒木は目を閉じ、悔しそうにしながら波島との別れでシートを閉じようとした時、僅かに波島の体が動いた。
次の瞬間、波島の体から黒い粒子が溢れ出し、穴が空いた腹が塞がっていく。
「な、何が……」
周りの捜査官たちも突然のことに戸惑いを隠せない。
やがて傷は全て消え、目が開き起き上がった。
「あれ……?私……」
状況が飲み込めないのか辺りを見回す波島を周りは信じられないものを見る目と得体の知れない何かを見る目を向けてきた。
荒木は呆然としていたが気を取り戻し、波島に話しかける。
「体は何ともないのか!?」
「は、はい。何も問題はないですけど……どうしたんですか?皆さん?」
「それは……」
荒木が答えにくそうにしているのに気づいた波島だが理由がわからず、ふと自分の手を見ると血に濡れていることに気づいた。
「え……?何、これ?」
「波島、落ち着くんだ」
動揺する波島に荒木は落ち着くように話しかけていると現場に黒スーツの男達が入ってきた。
「ちょっと!ここには入らないでください!」
「私たちは亜人研究会の者です」
一人の捜査官がその集団を止めに入るが、先頭を歩いていた男が身分証明書を見せ、構わず歩いてくる。
するとその集団の中にいた1人だけ高価なスーツを着た若い優男が波島を見つけた。
「あー!いたいた」
男は嬉しそうに話しながら懐に手を入れ、銃を抜き取り撃った。
撃たれたのは弾丸ではなく小さな注射針だが、真っ直ぐに波島の胸に突き刺さる。
「え?……あれ?」
突然撃たれた波島は呆然としたがすぐ様意識が遠くなっていき、倒れた。
「波島!!」
「ぁ…あら…き……さん」
呂律が回らない波島にさらに注射針が打ち込まれ、波島は気を失うように眠りについた。
「おい!お前!!」
荒木は怒りで体の痛みを忘れ、最初に撃った男に掴みかかった。
「ちょっとぉ、やめてくださいよ。スーツに皺がつく」
「人を撃っといてその態度は何だ……!」
「撃ったのはただの麻酔銃ですって、それに亜人を撃った所で何も問題にはならない。彼らは人間じゃないんだ」
「何だと……!?」
男の言葉に怒りと疑問を覚えていると部下であろう周りのスーツの男達が波島が乗った担架を運び始めた。
「おい!お前ら何し……!」
荒木が波島を運ぼうとするのを止めようとすると摑みかかられた男が荒木の腕を掴んで止めた。
見た目から信じらないほどの力で腕を掴まれ荒木は顔を歪めながら、離れようとする。
「亜人は我々、亜人研究会が預かります。これは国の命令です。……喰種の駆逐お疲れ様でした!後はゆっくりと休んでくださいね!」
真顔で説明を始めたらと思ったら女性ならトキメキそうな笑顔で荒木を労い、怪我をしている腕を軽くポンッと叩いた。
叩かれた腕に激痛が走り、その場に蹲る荒木を通り過ぎ、男は部下に指示を出して波島を連れ去った。
「それじゃ!皆さんお疲れ様でーす!」
ーーーーー
絋輝はどこかの一室で寝ていた。
窓には雨が打ち付けられ、夜になっていた。
薄っすらと目を開け、朦朧とする意識の中、何故自分がここにいるか漠然と考える。
(俺……何で寝てるんだ……?………女狂い!!)
ベッドから跳ね起き、周りの状況と自分を確認する。
体に怠さは残るが問題なく動ける。
寝ていた部屋はどこか見覚えがあった。
「ここは……」
絋輝は見覚えのある部屋を見渡していると扉が開いた。
「あっ、起きた?」
「吉桐……?」
現れたのは絋輝の親友、新田吉桐だった。
そして、自分が寝ていたのは何度も遊びに来た吉桐の部屋だと思い出した。
「何でお前が……」
「何でって、君が路地裏で倒れていたからここに運んだんだ。救急車呼んでもよかったけど、あの服見たら訳ありそうだからね」
吉桐は壁にかけてあった絋輝の服を見た。
全部が焦げており異臭を放っている。
吉桐が公共機関に連絡を取らなくて良かったと思う反面、どう説明すれば良いかわからなかった。
吉桐は最初にできた友達で親友だ。
何と誤魔化すか焦って考えていると吉桐が声をかけた。
「別に事情は話さなくていいよ」
「え?」
「誰にでも隠したいことがあるだろうしね」
吉桐はそうは言うが内心で絋輝を心配しているのは絋輝にもわかった。
しかし、それを隠して絋輝のためにそう言う吉桐に絋輝は罪悪感が湧く。
「……」
吉桐の気遣いに有難いと思うが、少し悲しそうな吉桐の顔を見て申し訳なく思ってしまった絋輝は吉桐を呼び止めた。
「お前を巻き込みたくないんだ。今俺が巻き込まれているのは危険なことだから……」
「………それでも僕は君の友達だ。隠し事は悲しいさ」
「あぁ、だから事が終わったら全部話すよ」
絋輝の真剣な顔を見て、とりあえずは納得した吉桐はいつもの優しい微笑みを浮かべた。
「わかった。約束だよ?でも、いざとなったら僕を頼ってくれよ?」
「あぁ」
今は話せなくてもいつか必ず秘密を打ち明け、いつもの日常に戻ると決意する。
友と心置きなく笑えあえる日常に。
ーーーーー
董香はあんていくの休憩室でスマホを握りしめ、不安な表情でテレビを食い入るように見ていた。
『現在、新宿駅付近は物々しい空気に包まれています。CCGの捜査官と警察が協力して事態の収集に努めているようです。なお、被害者の数は未だにはっきりとした数は確認できていませんが、多くの人たちが犠牲になったようです』
ニュースキャスターのその言葉に董香は泣きそうになるのを我慢して俯き、絋輝の無事を祈った。
すると割れんばかりに握っていたスマホから着信音が鳴った。
絋輝からかと、確認するが着信名には新田の名前があり、少し落胆しながらも電話に出る。
「何……どうしたの?」
『董香、俺だ』
「っ!!絋輝!?絋輝なんでしょ!?無事なの!?」
聞き間違えるはずがない声を聞いて立ち上がって取り乱しながら、電話に向かって叫ぶ。
『何とか無事かな、体の怠さは取れないけど。今は吉桐の家で休めるんだ』
「よかったぁ……」
絋輝の無事を聞いて董香はその場に座り込んで、安心する。
そして次に、今は吉桐の家にいるということが気になった。
「新田の家にいるって言ったけど大丈夫なの?」
『……吉桐は深くは聞いてこようとしてこないから大丈夫だ』
絋輝は咄嗟に嘘をついた。
下手に吉桐が自分の正体を勘ぐっていると知ったら、何かと過激な董香がとううごくのかは想像もしたくない。
『明日、朝一であんていくに寄るよ』
「うん、待ってる。……絋輝」
『うん?』
「無事でよかった」
『………あぁ、俺もそう思うよ』
心の底からの言葉に電話越しでも董香の気持ちがわかった絋輝は微笑んだが、その無事は多くの人を犠牲にして成り立ったものだ。
絋輝は素直に喜ぶことができなかった。