東京喰種ーGhostー   作:マーベルチョコ

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#26 大切なモノ、また無くなりますよ?

学校が終わり、絋輝たち4人は下校し、依子と吉桐と別れた2人はあんていくに向かっていた。

昼休みの時に放課後あんていくに来るように連絡があったのだ。

 

あんていくの入り口に向かうとまだ営業時間にもかかわらず『close』の看板が掲げられており、2人は不審に思いながら店に入ると待っていた入見に休憩室に案内された。

そこには四方を含めたあんていくのメンバーと田中がいた。

 

「よく来てくれたね」

 

「どうしたんですか?みんな揃って……」

 

「とりあえずニュース見てみろよ」

 

田中に促され、テレビに映るニュースを見る。

 

『それでは先日起こった新宿での騒動の動画をご覧ください。一部過激な部分があるのでモザイク加工されてあります』

 

映し出された動画は女狂いが新宿で暴れ回っているものだった。

悲鳴が飛び交い、凄惨な事だと一目でわかる。

絋輝はあの時の光景を思い出し、拳を握り締めた。

それに気づいた董香が絋輝の拳を解きほぐすように両手で包んだ。

 

すると暴れ回る女狂いに黒い人影が襲いかかった。

それを見た絋輝は驚く。

画質が悪いせいか細かく見えないがそれは間違いなく、自分のゴーストだった。

女狂いに突撃したゴーストが食い止めているところで動画は終わった。

 

『先日の事件で現れたこの黒い人型についてネットでは都市伝説の『亜人』ではないかという推察が飛び交い、大きな反響を呼んでいます。さらに今回の騒動について政府から発表があります』

 

場面が切り替わり、どこかの記者会見場が映し出された。

壇上には中年の小太りな男が立っており、テロップに『亜人研究会所長 長田 幹夫』と貼られてある。

 

『先ず巷で噂になっている亜人についてですが、単刀直入に申しますと亜人は存在しております』

 

その一言に会見場は大きく騒めく、不死の人間が存在すると言われ動揺を隠せない。

 

『亜人対策法については実行部の斎藤から説明があります』

 

長田が壇上から退き、次に現れたのは『斎藤 晶』という名の若い男だ。

 

『亜人については憲法第14条に関する法律、条約は全て当てはまらないものとします』

 

その言葉は衝撃だった。

つまり、亜人は人間扱いをしないということだ。

 

『亜人に対しては超法規的措置を行い、その身柄を確保します。亜人の特徴については後ほど時間を設け、全国に放送いたします。……質問のある方どうぞ』

 

その瞬間、記者たちが一斉に手を挙げた。

分からないことが多過ぎる。

 

亜人を捕獲して何をするのか?

製薬、新たな細胞の発見、様々な分野の発展につながる。

 

亜人は危険なのか?

それはまだわからない。

 

などなど様々な質問が飛び交う中、ある記者が質問した。

 

『亜人を人として扱わないと言いましたがそれはあまりにも非人道的ではありませんか?喰種と違い人間に危害を及ぼしたわけでもないのに』

 

その質問に斎藤は笑顔になった。

厳かな雰囲気の記者会見で突然の笑顔に記者たちは不謹慎だと責めようとしたが、その笑みは異様なものにしか見えず全員がその口を止めた。

 

『人に危害を及ぼさない?そんな理由のために14条を無効にしたと?それは違います。彼ら『亜人』は言ってしまえば宝なのです。1人存在するだけで何億、何兆と金が動く。未来への資産も増える。全ての国が喉から手が出るほど欲しがる宝です。聞こえは悪いですが形振り構ってられないのです』

 

公の場でまさかの発言に更に騒つく会場だが、それに対して斎藤は笑顔を崩さない。

 

『既に我々は亜人を3体確認しており、その中でも亜人2号『田中 圭一』を確保しております。さらに亜人の確保を助けてくださった方には研究会から謝礼金が出ますので、皆さまどうか、ご協力を』

 

 

田中はそこでテレビを消した。

絋輝は記者会見を見て思い詰めた表情になっている。

 

「えらい事になったな」

 

田中からため息とともに言葉が漏れる。

 

「……すいませんでした。俺の行動が軽率でした」

 

絋輝が頭を下げようとするが田中がそれを止めた。

 

「あれは仕方ない。正当防衛だ。それに亜人の存在がバレるのはわかっていたことだし、遅いか早いかの違いさ」

 

落ち込む絋輝に田中がフォローしていると芳村が田中に質問する。

 

「これからどうするんだい?」

 

「とりあえずは大人しくしておきます。ほとぼりがいつ冷めるかわかりませんが」

 

「………俺もそうします。女狂いはもう襲ってこないはずですから、普通の生活に戻ります」

 

田中と絋輝の返事を聞いて、芳村は満足そうに頷いた。

基本的に争いを好まない芳村にとって絋輝が董香と共に日常に戻ることは喜ばしいことだった。

 

 

ーーーーー

絋輝と董香は手を繋ぎながら董香の家に向かっていた。

絋輝が難しそうな表情で何かを悩んでおり、2人には会話がない。

世間が自分のことを狙っているとわかり、不安が渦巻いていた。

董香もそれを察しており、何も言わないが心配そうにしていた。

 

やがて、家に着き別れようとすると董香が絋輝の腕を掴んだ。

 

「どうした?」

 

「……大丈夫?」

 

大丈夫だ、と返事を返そうとしたが心にのしかかる不安にそんな事は言えなかった。

 

「どうだろうな……色々起こり過ぎてどうすればいいかわかんなくなってる……」

 

董香は不安そうに言う絋輝を見て、抱きしめた。

 

「今夜は一緒にいよ?」

 

「……うん」

 

董香の温もりを感じて、不安がゆっくりと和らいでいく。

 

 

ーーーーー

荒木はクインケが開発、製造される研究所に来ていた。

目的は女狂いの遺体だ。

駆逐された喰種はこの研究所に集められ、クインケとして利用される。

今回の女狂いの状態は異常だった。

更にそれに合わせて亜人研究会の人間が現れたのだ。

何か繋がりがあると勘が働いた荒木は真っ先に研究所に訪れたが、それは空振りに終わった。

 

「女狂いの遺体がない?どういうことだ?」

 

駆逐したはずの喰種がいない。

駆逐された喰種は例外なくこの研究所に運ばれるが、それが無いのだ。

受付を担当していた女性は荒木の威圧に対して、しどろもどろになりながらも荒木に説明した。

 

「こ、今回の喰種は特殊な個体だということで別の部署に移されました」

 

「別の部署?どこだ?」

 

CCG以外に喰種を扱うところなんて考えられない。

荒木が詰め寄ると背後から声を掛けられた。

 

「亜人研究会にですよ」

 

振り向いた荒木は親の仇のようにその男を睨む。

 

「お前……」

 

「どうもどうも!あの一件いらいですね」

 

その男は波島を連れ去り、先日記者会見を行った男、斎藤だった。

女性から歓喜の悲鳴が上がりそうな笑顔を浮かべて荒木に近づく。

実際に先程まで荒木のせいで顔を青くしていた受付嬢は斎藤を見て顔を赤らめていた。

その逆に荒木は射殺さんばかりに斎藤を睨む。

 

「何故、亜人研究会が喰種の死体を引き取った?お前らは亜人専門だろう」

 

「今回の喰種は特異な個体でしてね。亜人と関係があるかもしれないと思って」

 

「どこでその情報を手に入れた?」

 

「うーん……ほら、貴方の得意な‘勘’ってやつですよ」

 

馬鹿にしたように言う斎藤に荒木は詰め寄り、その襟を掴見上げると斎藤は荒木にしか聞こえない声で話しかける。

 

「あまり僕たちのことは詮索しない方がいい……大切なモノ、また無くなりますよ?」

 

「なんだと……!?」

 

斎藤は荒木の耳元に口を近づけ、呟いた。

 

「息子さん、大変優秀なようで」

 

それを聞いた瞬間、荒木の頭に血が上り、感情に任せて腕を振るうが斎藤はいつのまにか荒木の手から逃げていた。

 

「忠告はしましたよ?」

 

荒木は背中を向けて手を振る斎藤を見送ることしかできなかった。

 

 


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