東京喰種ーGhostー   作:マーベルチョコ

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#29 俺の兄貴を助け出す

荒木の頼みから1週間後、絋輝は荒木を人が寄り付かない廃工場に呼び出した。

絋輝は放置されているドラム缶に座って待っており、荒木は錆びついた扉を開けて中に入る。

 

「……いかにもって場所だな」

 

荒木は辺りを見回して人影がないことを確認し、声をかけるが絋輝は目を瞑って黙っていた。

不審に思った荒木がまた声をかけようとすると真横の影から拳銃を突きつけられる。

 

「……誰だ?」

 

影からゆっくりと姿を現したのは田中だった。

田中は荒木に銃を向け、視線を外さずに絋輝に話しかける。

 

「どうだ?周りに誰かいるか?」

 

「……いえ、いないです」

 

それを聞いた田中は張り詰めた緊張が途切れたように肩と銃を下ろし、一息ついた。

絋輝もドラム缶から立ち上がり、荒木に近づく。

 

「すいません、荒木さん。ここ1週間、亜人研究会と繋がりがないか。尾行してました」

 

「尾行?」

 

荒木がその言葉に疑問を持つと背後から何かが落ちる音が聞こえ、振り向くが何もなかった。

 

(いや、何かいる……)

 

長年の勘でそこに何がいるかはわかっているが、姿が見えない。

何もない空間を凝視していると徐々に黒いモヤが見え始め、それは人の形を成していった。

 

「あん時の不気味な人型か」

 

ゴーストを見た荒木は警戒を解かずにいる。

 

「一週間コイツらを使ってアンタを監視していた。亜人研究会との繋がりがあったら困るからな」

 

黒い幽霊の特性は通常の人間には見えないことだ。

その特性を活かして、荒木が亜人研究会の味方でないか監視していた。

 

「当然の行動だな。いきなり信じられるわけがない……お前が篠原 絋輝に亜人のことを教えた人間、いや亜人か」

 

荒木の質問に田中はヴェノムを出現させ、自分が亜人だと証明した。

 

「俺は田中 雄二。アンタに協力してやるよ。その代わり俺にも協力しろ」

 

「協力?何をだ?」

 

「俺の兄貴を助け出す」

 

田中の言葉に荒木は片眉を少し吊り上げ、絋輝も田中の言葉に少し驚く。

そんな2人様子を無視して田中は話を続ける。

 

「今日本で確認されている亜人は全てで3人。捕まったって言うアンタの部下も合わせてな」

 

「そのうちの2人がお前とその兄貴か」

 

「兄貴は俺を逃すために捕まった。もう5年も前の話だ………亜人研究会の追っ手から俺を逃がすために兄貴は囮になって捕まった。アンタの部下を助ける代わりに俺の兄貴を助けるのを手伝え」

 

「……いいだろう」

 

荒木は手を差し出し、握手を求める。

田中はその手を一瞥してから握手をせず荒木を通り過ぎ、絋輝の側に置いてあるボストンバッグを手に取った。

 

「アンタにやってほしいことは3つ。1つは亜人研究会の研究所の場所を特定すること。奴らの本拠地は公開されていないがこれはアンタの捜査官の権限を使えばいけるはずだ。2つ目は奴らの戦力の確認。どれだけの人員がいるかがわからないと準備の仕様がない。そして3つ目はこいつを鍛えてほしい」

 

田中はボストンバッグから拳銃を取り出し、絋輝に渡す。

 

「研究所に攻め込むにはこいつの力が必要不可欠だ。喰種との戦いを経験したからと言っても人間相手じゃ勝手が違う。俺は教えることは教えたからアンタが戦い方を教えてやってくれ」

 

「まだ子供だ」

 

荒木はまだ子供である絋輝に戦いを教えるのに拒否感を表すが田中はそれを鼻で笑って一蹴した。

 

「ハッ、何言ってんだ。こいつに協力を申し込んだ時点で戦うのは決まってるだろ。こいつも覚悟してるんだ。教えてやってくれ」

 

絋輝は荒木の前に立ち頭を下げて、懇願した。

 

「俺には守りたいものがあるんです。お願いします。俺に戦い方を教えてください」

 

絋輝の言葉を聞いて、彼の覚悟ほ本物だとわかった荒木は少し渋った表情を見せたが頷いて絋輝を鍛えるのを了承した。

 

「ここは廃工場で周りも人が寄り付かない。どれだけ音を出しても問題ない」

 

田中は足元に置いてあるスイッチを踏み押すと的が複数出てきた。

 

「今までのおさらいだ。銃撃ってみな」

 

「銃って……今まで牽制用だったんじゃ」

 

「人間が相手なら撃てたほうがいいだろ」

 

田中は当たり前のように言うがそれは絋輝に人殺しをやれと言っているようなものだ。

確かに女狂いは自身の手で殺したがあの時は怒りに染まって殺してしまった。

多くの人達を傷つけた女狂いに対して、殺したことへの罪悪感はないが手に嫌な感覚だけが残っていた。

 

絋輝は少し複雑な顔をしながら構えて引き金を引いた。

何度も銃声が鳴り響いたが全ての弾丸は的の急所を外れていた。

 

「やっぱり撃つのは下手だな」

 

「……」

 

田中の言葉に絋輝は苦い表情になった。

すると田中が大型のショットガンを取り出し、絋輝に渡した。

 

「えっ、ちょっ……」

 

「下手なのは覚悟がないからだ。想像しろ、もしお前の家族、恋人が無惨にも殺されたらどうする?」

 

荒木の言葉で絋輝は家族、董香が殺されるのを想像してしまう。

途端に怒りが溢れ、目つきが変わる。

絋輝は怒りに任せ、引き金を引く。

さっきとは違いショットガンの弾丸は的の中心を撃ち抜いていく。

 

「それでいい」

 

荒木は満足そうな表情で呟いた。

 

 

ーーーーー

荒木と手を組んでから月日が経ち、絋輝は訓練をしながら学生として過ごしていた。

しかし、董香と下校している時にふと質問された。

 

「ねぇ、最近何か隠してない?」

 

「え"っ」

 

突然の質問に絋輝は普段出ない声が出てしまい、動揺を隠しきれなかった。

 

「やっぱり!何隠してんの?」

 

詰め寄ってくる董香に絋輝は焦る。

敵地に乗り込んで、亜人を助け自分に関するデータを破壊する、とは正直に言えるはずがない。

 

「え、えーとっ……あっ、ほら!夏休みに色々とやろうと思っててさ。それを吉桐と一緒に考えていたんだ。依子と董香には秘密にしようと思って」

 

「…….ふーん」

 

苦し紛れの答えに董香は疑惑の目を向けてくる。

絋輝は冷や汗を流すがそれを見られないように董香の前を歩く。

董香は絋輝の顔が見れなくなると不安げな表情になる。

自分に隠し事をするのもだが、絋輝から僅かに漂ってくる血の匂いが不安の大きな原因だった。

 

 

ーーーーー

廃工場で絋輝は田中と実戦式の訓練を行っていた。

銃はBB弾のモデルガンを使用し、ゴーストを使っての実戦だった。

 

物陰から様子を伺う絋輝は銃を構えて、物陰から出ると周りを警戒しながら足を進めると影が自分を覆った。

上を見るとヴェノムが拳を構えながら絋輝に飛び降りてきていた。

 

「っ!」

 

間一髪で転がって避けた絋輝はゴーストを出して迎撃する。

 

「行けっ!」

 

ヴェノムに向かって走るゴーストはその勢いのまま体当たりし、ヴェノムを大きく怯ませる。

ヴェノムも負けじと対抗するがスピードではゴーストのほうが分があり、ゴーストに翻弄されている。

それを見ていた絋輝の腕に鋭い痛みが走る。

周りを見ると田中が銃を発砲してきていた。

絋輝は走って、田中から逃れようとするとゴーストを倒したヴェノムが絋輝の前まで迫ってきていた。

 

「やべっ……!」

 

逃げようとする絋輝の腹に向かってヴェノムは骨と内臓が潰れる音を鳴らしながら拳を振り抜く。

 

「ゲェっ……!?」

 

廃棄物の山に殴り飛ばされた絋輝はピクリとも動かなくなり、口から血を流し、殴られた部分は血が滲んでいた。

終わったか、と思った田中が絋輝に近づき、足を軽く小突いて反応を確かめるが動かない。

 

「気絶したのか?」

 

死んだのであればリセットするがその兆しがない。

気絶したのか、と考えていると背中からゴーストの腕が突き刺さる。

 

「ごほっ……!演技かよ……」

 

「へへっ……初めて勝った」

 

絋輝は苦しそうにしながらも笑みを浮かべた。

地面に倒れた田中から黒い粒子が出てきて、リセットされる。

目を覚ました田中は少し悔しそうにしながら立ち上がり、絋輝に話しかける。

 

「ったく、してやられたよ」

 

絋輝は満足そうな笑みを浮かべ、田中は実弾が入った銃を構える。

 

「とにかくリセットだな」

 

「あっ、ちょっ、ちょっと待っ」

 

問答無用で絋輝の頭を撃ち抜いた。

崩れ落ちる絋輝から粒子が出て、傷が塞がりリセットされる。

 

「はぁっ!はぁ……はぁ……相変わらず慣れないな」

 

死んだ感覚が体を襲い、冷や汗を流す。

 

「いい加減慣れとけよ。一瞬が生死を分かつんだからな」

 

「それって洒落ですか?」

 

絋輝は苦笑いしながら、服に付いた血のな匂いを嗅いで嫌な顔をする。

毎日家に帰ったら念入りに何度も洗っているが鼻の奥な匂いがこびりついて不快だった。

 

「ヴェノムの一撃で死ななかったんだな。確実に当たったと思ったのに」

 

「当たる瞬間にゴーストを出したんですよ。それで威力が分散されて」

 

それを聞いた田中は内心驚いた。

黒い幽霊を出すのにタイムラグが少なすぎるからだ。

通常は次に出すのに多少のタイムラグが生じるが絋輝はそれが無いような感じだった。

 

「お前の強みになるかもな……」

 

「え?」

 

何と言ったか聞こうとすると廃工場に荒木がやってきた。

 

「見つけたぞ。奴らの研究所だ」

 

荒木は机の上に地図を広げ、山の中を指す。

 

「こんな山奥にあったのか。施設のヤツは?」

 

荒木は更にもう一枚広げ、それは見取り図だった。

 

「今は6月だ。俺たちのヴェノムは動きが制限される。だから、決行は7月だ」

 

田中の言葉に絋輝は改めて危険な世界に飛び込むのだと緊張が走った。

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