東京喰種ーGhostー   作:マーベルチョコ

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#30 商品の価値はない

田中から決行日を伝えられ、絋輝はそのことについて思い悩んでいた。

いくら強敵と戦ったと言ってもあの時は興奮していて、その感覚が麻痺していた。

今はハッキリと戦うという状況に追い込まれ、恐怖が沸き起こってきていた。

登校しながらそのことばかりを考えて足取りが重い。

 

「絋輝、おはよー」

 

「………」

 

待ち合わせしていた董香が絋輝に挨拶するが、それすら気付かず通り過ぎる。

無視された董香はこめかみをピクリと動かし、絋輝の背後に忍び寄って首を腕で締めてきた。

 

「ぐえっ!?」

 

「何無視してんのよ!」

 

無視されたことが気に食わなかったのか、ギリギリと絋輝の首を絞める腕に力を入れる。

 

「恋人を無視するなんていい度胸してるわねぇ……」

 

「ちょ、と、董香!ギブ!ギブ…!」

 

解放された絋輝は咳込みながら謝った。

 

「ごめん、ちょっと考えごとがあってさ」

 

「考えごとね……ねぇ、なんか私に隠してない?」

 

「………」

 

董香は少し不安そうな表情で絋輝を問い詰める。

絋輝も視線を外して気まずそうにする中、董香は微笑んで絋輝の頬を撫でる。

 

「絋輝が何をしようとしているかわからないけどさ……これだけは約束して。絶対に帰ってきて」

 

絋輝その言葉を噛み締め、自分の頬を撫でる手を握る。

 

「うん、必ず帰ってくる。約束だ」

 

大切な人との平穏な日々を過ごすために戦うと決意を新たにする。

 

 

ーーーーー

とある研究所の地下を2人の男が歩く。

 

「女狂いは残念だったね。血での変異は見られたのに途中で崩壊してしまった。あんな出来損ないじゃ、商品の価値はない」

 

「血を直接与えるのは不味かったのかもしれませんね。もう少しアプローチの仕方を変えましょう。……そういえば回収したサンプルはどうします?」

 

「もう焼け焦げて使え物にならないんだろう?廃棄だ、廃棄」

 

男たちはとある培養器の前に立ち止まり、中を覗き込む。

 

「幸い、もう半分は残ってるしね」

 

培養器の中を覗き込むとそこには上半身だけの女狂いが切断面の腹から多くのチューブに繋がれ、培養液の中に浮かぶ姿があった。

 

 

ーーーーー

研究所襲撃のための訓練を繰り返すうちに絋輝の動きは段々と様になってきた。

今も荒木と模擬戦をしているが荒木の猛攻に絋輝は対抗していた。

武器を使い、ゴーストを使って全ての攻撃を防いでいく。

僅かな隙を突いて、一気に反撃に転じた。

 

「ぐっ!?」

 

荒木は絋輝の攻撃を防ぐが、その表情は余裕がなかった。

しかし、荒木は絋輝の攻撃を受け流し、足を引っ掛けて転かすと首に模擬刀を添えて決着がついた。

 

「……負けました」

 

「ふぅ、中々良くなってきたな。これなら戦えるだろう」

 

絋輝は納得いかないのか不満気な表情をしていたが時間を見て、慌てて立ち上がった。

 

「やばっ、すいません。もう帰ります!」

 

「どうした?何か用事か?」

 

「これから友達と試験勉強するんです。訓練ありがとうございました!」

 

慌てて着替え、荷物を持つと廃工場を後にする。

その時何かの資料を持っている田中と通り過ぎるが軽く挨拶して、走って去って行った。

 

「どうしたんだ?」

 

「友達と試験勉強だと」

 

それを聞いた田中は少し顔を顰める。

 

「もうすぐ作戦実行だってのに大丈夫なのか?」

 

「アイツは元々血生臭い世界とは無縁だったんだ。ああしているほうが良い」

 

荒木は去った絋輝を微笑ましいものを見るように優しい目つきだ。

 

「それより作戦立てるぞ。アイツらの装備とかまとめてきた」

 

「おう」

 

絋輝が青春を過ごすなか、大人たちは淡々と襲撃の準備を整えていた。

 

 

ーーーーー

図書館の自習室で絋輝たちいつものメンバーで勉強していた。

それぞれがわからないところを4人の中で最も成績がいい絋輝が皆を教えて回る形でやっていた。

勉強を続けていたが途中で吉桐が集中力が切れ、期末試験が終わった後の夏休みについて話し始めた。

 

「夏休みさー、どこの海に行く?」

 

「うーん、近場でいいんじゃないかな?」

 

「近場かー、でも人が多そうだなぁ」

 

依子の提案に難色を示す吉桐に董香が新たに提案する。

 

「じゃあ少し遠出しようよ。千葉とか静岡にあるかもしれないしさ」

 

「おっ、それいいね」

 

勉強そっちのけで夏休みの話になった。

 

「いつ行く?」

 

「7月の終わりか、8月の始めでいいんじゃない?」

 

「7月の終わりか……」

 

7月には亜人研究会を襲撃する。

無事に目的を達成して、皆と海に行けるのかと不安が過ぎった。

 

 

ーーーーー

そのまま今日の勉強会はお開きになった。

皆で帰っていると董香と依子は前を歩いており、絋輝と吉桐はそれに続いていた。

 

「7月に何かあるの?」

 

「え?」

 

吉桐の突然の言葉に絋輝は疑問を浮かべる。

 

「絋輝ってさ。自分で気づいているかどうかわからないけど難しいことを考えるとき、眉間に皺が寄るんだよね」

 

吉桐は自分の眉間をトントンと指で叩きながら教える。

 

「海の話のときに眉間に皺が寄ってたから何かあったのかって思って」

 

「………」

 

絋輝は顔を俯かせて困った表情になる。

 

「この前のことと関係しているんだろ?」

 

この前のこととは女狂いに襲われて、吉桐に保護されたことだ。

 

「深くは聞かないけどさ。いざという時は頼ってくれよ」

 

「ありがとう」

 

吉桐の気遣いに感謝し、絋輝は必ず帰ってくると心に誓った。

 

 

ーーーーー

学生の夏休み前最後の試練である試験が終わったその日の夜に絋輝は廃工場に呼び出された。

 

「作戦の決行日が決まった。1週間後の夜に研究所を襲う」

 

田中から決行日と作戦を伝えられ、その場は解散となり、帰ろうとすると荒木に飛び止められた。

 

「絋輝、送ってくぞ」

 

車に乗せられ、家に向かう途中に荒木から話しかけられる。

 

「ありがとう。お前が協力してくれたおかげで波島を救う目処がたった」

 

「そんな……俺だって荒木さんには助けられてばかりです」

 

謙遜する絋輝に荒木は笑みを浮かべて、頭を乱暴に撫でる。

 

「大人の感謝は素直に受け取っておけ」

 

「……はい。でも何で俺にそんなによくしてくれるんですか?父さんが先輩だったからですか?」

 

「前も言ったが俺には息子がいる。お前の2コ上か?最近は反抗期で滅多に話していないがな」

 

嬉しそうに話す荒木を見て、本当に息子のことを大切に思っていると絋輝はわかった。

 

「……だからだろうな。お前を息子と重ねてしまう。話はよく聞くんだが、成長する姿が見れないから余計に世話をかけちまう。悪いな、こんな気持ちの悪いこと言ってしまって」

 

少し照れた様子の荒木に絋輝は微笑んで、視線は前に向けた。

 

「息子さんは幸せ者ですね。こんなに思ってくれる父親がいて」

 

絋輝の言葉に荒木も優しい笑みを浮かべた。

 

「それを言うなら篠原先輩だってそうだろう。お前のことを大切にしている」

 

「知ってますよ」

 

そんな他愛のない話をしている2人の車に白いフード付きのコートを着た男が立ちはだかった。

 


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