よろしくお願いします。
車の前に突然現れた白コートに暗かったせいでギリギリまで気づくことができなかった荒木は慌ててハンドルを切った。
「っ!危ねぇ!!」
「うわっ!?」
急ブレーキがかかり、大きくスリップして止まった。
「何だ、一体……」
「……」
車のライトが照らす所には白コートを着たスキンヘッドの男が立っていた。
白コートは喰種捜査官の証とも言われているもので絋輝は荒木の仲間かと思った。
「知り合いですか?」
「いや……」
絋輝の言葉を否定しながら車から降り、男に話しかける。
「お前は誰だ!?捜査官なのか?なら、階級と所属を言え!」
荒木の言葉に男は反応し、ゆっくりと歩み寄ってくる。
荒木がその行動を不審に思った瞬間、男は姿勢を低くし、弾丸のような速さで荒木に向かって飛び出してきた。
荒木は咄嗟にアタッシュケースを取り出し、クロガネを展開して男の突進を防ぐ。
しかし、男の力が強過ぎてその勢いのまま吹き飛ばされてしまう。
車に轢かれたような衝撃が体を襲うが荒木は転がりながらも態勢を整え、クロガネを構える。
「ぐっ…(危ねぇ…!勘が働いた)」
荒木は男に対して警戒を解かずに内心では男に対して悪態を吐く。
男は荒木に向かって足を動かそうとした時に視界の端に突然のことで動けずに車に乗ったままの絋輝が映った。
「えっ」
絋輝が声を上げる前に男は腕を下から振り上げ、その凄まじい力で車を派手に横転させた。
「絋輝!!」
男の突然の凶行に荒木は慌てて走り出し、クロガネを男に向かって振るう。
男は体を後ろに倒し、攻撃をかわすとそのまま身を翻して荒木と距離を取る。
(コイツの狙いは何だ!?俺か?絋輝か?)
男の狙いが分からなければ下手に動くことができないと考えている荒木に男はまたも弾丸のような速さで荒木に接近する。
荒木はそれを防ぐのは不可能だと先の攻撃でわかっていたので、避けるのに専念する。
そして男が攻撃してきたことで、狙いが自分だとわかり、どう動くか即決した。
荒木は一度大振りの攻撃をし、距離を離すとその場から走って去った。
男から絋輝を離すためだ。
亜人であることを知られるのはまずい。
車の中にいて怪我をしているかもしれないがリセットを使えば逃げ出せると思った荒木は男に専念する。
(コイツは間違いなく喰種だ。だがこうもピンポイントで襲ってくるか?)
男の襲撃は余りにも不自然だった。
まるで自分たちがそこに来るのを知っていたかのようだった。
そんなことを考えながら走っていると荒木を飛び越えてきた男が前に立ちはだかる。
(とにかくコイツを駆逐するのが先だな)
十分に絋輝と距離が取れたと分かった荒木は改めてクロガネを構えた。
ーーーーー
絋輝は反転した車の中で気を失っていた。
漸く気がつくと頭に激痛が走り、朦朧とする意識の中で周りを見渡した。
シートベルトのせいでシートに宙吊りの状態になっていた絋輝はおもむろにベルトを外し、車から這い出た。
痛む頭を抑えると手に血がつき、その時初めて血を流していることに気づいた。
「荒木さんは……」
周りを見渡たし、状況を確認する。
周りは工業地帯でまだ稼働しているのか機械の音が聞こえてくる。
密会していたのが夜中だったため人の気配がない。
すると離れたところから大きな騒音が聞こえてきた。
絋輝は音がした方に行こうとしたが足を止めた。
「………」
大きな音は荒木とあの襲ってきた男が争って出た音だろう。
わざわざ危険に飛び込むのは馬鹿のすることだ。
それに荒木は自分より強い。
自分が行って足手まといになっては意味がない。
そう思い、踵を返す絋輝だがその足も止まる。
この場から離れることが賢い選択だが絋輝の良心がそれを咎める。
「……〜クソっ!」
絋輝はマスクを被り、音がする方へ駆け出した。
ーーーーー
荒木と男は激しい攻防を繰り広げていた。
力とスピードでは荒木は男に完全に負けていたが、技術は荒木が優っていた。
男の猛攻に荒木はクロガネで巧みに捌き、攻撃していき、徐々に荒木が優勢になってきていた。
(パワーとスピードは脅威だが、それ以外はそうでもないな。攻撃が真っ直ぐすぎる)
数々の喰種を駆逐してきた荒木にとって男はさほど強敵ではなかった。
男の大振りの拳をしゃがんで躱すと腹に深い斬撃を放つ。
「………!」
男は一旦荒木から距離を取ると、腹から出る血を手で抑える。
すると傷口がみるみると塞がっていった。
(厄介なのはあの超回復だな。もう何度も斬ってるのに一向に怯まねぇ。まるで兵器を相手してるみたいだな)
荒木は再びクロガネを構えて、今度は自分から攻撃を仕掛けた。
男は迎え撃とうと拳を迫ってくる荒木に目掛けて振るうが、まるで荒木の姿が掻き消えたかのように男の拳は空振りになった。
その瞬間、荒木は下から男の体を斬りつけ、致命傷を負った男は膝から崩れ落ちた。
「さて、殺す前に色々と話してもらうぞ。お前は何処から来た?」
首にクロガネを添え、少しでも変な動きをすれば斬り殺すと脅しながら質問する。
男は目をサングラスで隠したまま視線を荒木に向ける。
サングラスのせいで表情が読み取れず、荒木は不気味に感じた。
その瞬間、男はまだ諦めず攻撃しようとし立ち上がろうとしたが、即座に荒木は首を刎ねた。
「……ふぅ、なんだったんだコイツは?」
刎ね落とした首を見ながらそう呟いた荒木は一息入れようとタバコを取り出すと、その背後で男の体が1人でに立ち上がった。
「っ!?」
荒木が気づいた時には男の体は既に動き出しており、その怪力で荒木を吹き飛ばした。
派手に資材の山に突っ込んだ荒木は痛む体を我慢しながら前を見る。
男の体は頭を拾い上げると切断面にくっつけた。
逆方向にくっつけたためか、グリュンと首が180度回って前を向く。
切断された跡は綺麗になくなり、何事もなかったかのように立っていた。
「チッ……」
荒木は資材の山から立ち上がり、駆け出す。
それと同時に男も駆け出し、腕を振るう。
また避けようと荒木は考えたが途端に悪い予感が走り、クロガネで男の攻撃を受け止めた。
今度はしっかり踏ん張り、吹き飛ばされることはなかったが攻撃して来たモノを見て驚く。
「赫子!」
クロガネと鍔迫り合っていたのは男の赫子だった。
しかもその赫子には見覚えがあった。
「しかもその形状……お前女狂いか!?」
女狂いはどちらかというと線が細い女みたいな男と言った風な出で立ちだが、この男はまるで殺人マシーンのようにガタイがでかく、一見女狂いと分からなかった。
因縁があると荒木自身わかっていても、まさか死んでも襲いかかってくるとは思わなかった。
そんな女狂いとの因縁に嫌になりながらも次の攻撃に移ろうとした時、男もとい女狂いもどきの鱗赫が突然変化した。
なんと鱗のような突起物を多く持っていた赫子が突然硬化し、盾のような形状に変化した。
「は?」
突然のことに驚く荒木を男は力任せに腕を振るって突き飛ばすとすかさず追撃してきた。
(こいつ……!さっきより強くなってる!?)
首を刎ねられる前より女狂いの動きは熟練の戦士のように洗練されていた。
一気に形成逆転された荒木は不利になり、攻めあぐねる。
女狂いの動きもそうだが何より気がかりなのがあの赫子だ。
赫子は羽赫、甲赫、鱗赫、尾赫と4種類あり、普通は喰種一体につき1種類だが、稀に複数持ちの喰種がいる。
それでも赫子が出現するのはそれぞれの赫包があるところからだ。
長年捜査官をやってきてそれくらいはわかる。
だが、あの女狂いもどきは今まで経験してきた喰種のどれとも違う。
まるで1つの赫子に複数の赫子の性質を持ったようなものだ。
謎の敵に困惑と焦りが出始める荒木がふと遠くの工業地帯にそびえる煙突に目を向けるとそこに2つの人影が見えた。
「っ?」
その人影に目を取られた瞬間を女狂いもどきは見逃さず、今度は甲赫になった赫子の隙間から鱗のような突起物を生やし、荒木に向かって飛ばしてきた。
「今度は羽赫!?」
回避も防御も間に合わないタイミングに荒木は覚悟をするが、その荒木の前に人影が立ち塞がり、女狂いもどきの攻撃を防いだ。
「お前は……」
荒木を助けたのは分厚い鉄板を持ったゴーストだった。
「荒木さん!無事ですか!?」
「こっ……!坊主!何で来た!?」
マスクを被って現れた絋輝に怒鳴るが絋輝はそんなことは無視して、荒木の横に並ぶ。
「助けに来ました!」
「馬鹿野郎!一般人のお前がいても邪魔だ!さっさと帰れ!!」
荒木の言葉に一瞬怯む絋輝だが、負けじと言い返す。
「亜人になった時点で一般人じゃありません!一緒に戦います!」
頑なに戦うと言う絋輝を説得しようとするが波島の件に巻き込んだのは自分なので言う権利はないと気づき、仕方ないと諦め、クロガネを握り直す。
「はぁ……あの喰種の赫子は特殊だ。ゴーストで先行して攻撃して隙を作って俺が攻撃する。お前は俺のアシストをしてろ」
「……っはい!」
「もし少しでも自分が危ないと思ったらすぐさま逃げろ。いいな?」
「はい!」
荒木はクロガネを構え直し、絋輝は拳銃を取り出ししっかりと握りしめた。