やっとリセットが終わった絋輝はすぐさま傷だらけの荒木に駆け寄った。
「荒木さん!大丈夫ですか!?ああ……!酷い傷だ……!」
絋輝は悲惨な荒木の姿に胃の中から込み上げてきそうなものを我慢して、どうするべきかと考えて混乱してしまう。
それを見た荒木は少し笑みを浮かべて慌てる絋輝を落ち着かせた。
「落ち着け……今はアドレナリンが出ているから……痛みは、ない。それよりきゅ、救急車とし、CC……ジーに連絡を……』
「は、はい!」
荒木の指示で絋輝がすぐさまその2つに連絡をする中、荒木は自分の容態を診て不味いと思った。
(もう、体に感覚がないな……くそっ)
恐らくここで自分は死ぬ、それがわかった荒木はどうしても絋輝に伝えたいことがあった。
残った左手で絋輝の腕を掴む。
「絋輝……」
「荒木さん!すぐ来るそうです!もう少し頑張ってください!!」
「いいから……聞け」
荒木のその悟った表情を見て、絋輝は勘づき大人しく荒木の言葉を聞く。
「俺が、はぁ……お前に協力を頼んだのは……お前を人間と思ってなかったからだ………喰種と同じで、化け物と思っていた……ゴホッ!ゴホッ!」
「………」
荒木が絋輝に最初に抱いていた印象を伝える。
「だけど……お前と訓練して、やっとわかった………お前も俺と変わらない………人のために戦う……勇敢な男だ」
死にかけているのにも関わらず、力強い眼で真っ直ぐと絋輝を見つめる。
絋輝は泣き出しそうになるのを歯を食いしばって我慢する。
「これからお前は、大変な……目に遭うだろう。だけど……はぁ、はぁ、諦めるな。お前が諦めれ、ば傷つく人は……いる。大切なものを守るために絶対に諦めるな……!」
これから過酷な運命を背負うであろうこの子供に掛けてあげられる言葉はこれぐらいしか思いつかない。
かつて先輩達から教わった教訓だ。
三度も失った自分だから、大切なものが失う辛さは誰よりもわかる。
この子にはそうはなって欲しくない。
そう願い、絋輝に教えを伝える。
そして、最後に息子の仁志に伝えたいことがある。
「あと、息子の仁志に伝えてくれ………」
「息子さんに?何ですか?」
朦朧とする意識の中、これだけは伝えないといけないと必死に声を出そうとした瞬間、背後から衝撃が襲った。
「え?」
絋輝の顔に血が数滴つく。
血は荒木の胴体から飛び出たクロガネから飛ばされたものだ。
何が起こったかわからない絋輝は目が点になり、串刺しになった荒木が持ち上げられるのを見上げていた。
荒木刺さったクロガネを女狂いもどきと全く同じ姿の男が持っており、クロガネを乱暴に振るい、突き刺した荒木を放り投げた。
「ぁ…ぁぁ………」
目の前の光景をやっと理解できた絋輝は絶望した。
目の前で恩師が殺されたのだ。
男はそんなことは気にも留めず、座り込む絋輝に手を伸ばす。
「あああっ………!」
そしてその絶望から怒りがこみ上げてきた。
怒りは瞬く間に絶望を覆い、絋輝は怒り一色に染まる。
「アアアアァァァアアアアアアァァッッッッ!!!!!!」
途端に体から黒い粒子が溢れ、ゴーストが出現し、男にタックルしてそのまま派手な衝撃音を響かせながら奥の工業地帯に押し込んで行った。
「殺せッ!!ゴーストッ!!殺せェッッ!!!」
怒りで頭がいっぱいになった絋輝は奥へと消えて行ったゴーストにそう叫ぶ。
聞こえていようがいまいがどうでもいい。
あの男さえ殺してくれれば。
一通り叫んだ絋輝はふと我に帰り、投げ飛ばされた荒木を抱き起こし、柱に背中を預けさせる。
「荒木さん……」
辛うじてまだ息があるが最早虫の息だ。
そんな荒木は口を僅かに動かし、何かを言おうとしている。
「ひ、とし……」
荒木はその言葉を最後に息を引き取った。
絋輝は荒木の息が引き取るのを見届け、悔し涙を流す。
もっと自分が強ければ荒木も死ぬことがなかったと、後悔が胸の中でぐるぐると巡る。
すると奥から激しい戦闘音が響いてくる。
それに気づいた絋輝は男が落としたクロガネを拾い、奥へと向かっていく。
「待っててください、荒木さん。仇を取ってきます」
怒りに染まった絋輝は止まる気配など有りはしなかった。
ーーーーー
男とゴーストの戦いは激しさを増していた。
ゴーストは絋輝の怒りを表わすかのような怒涛の攻撃を仕掛ける。
男も赫子を展開して防ぐがゴーストの攻撃で頑丈な甲赫であろうが削られていく。
壁際に追い込まれた男の頭上からクロガネを持った絋輝が飛び降りて、男の腕を切断した。
一緒、無表情だった男の顔が歪むとは赫子でゴーストを払いのけ、絋輝にその赫子を振り下ろす。
しかし、絋輝は寸前のところで身を翻して躱すとその勢いを使って赫子を切りつけるが、力が足りず防がれる。
だが、絋輝の体から黒い粒子が僅かに溢れるとクロガネは赫子に徐々に切り込んでいく。
「アアアアアァァァァッ!!!!」
叫び声と共に一気にクロガネを振り下ろし、男の体を横に両断した。
深く斬られた胴体は背骨で辛うじて繋がっているが時期に重力に従って千切れるだろう。
しかし、切断面に赫子が繋げようと蠢き始めた。
さらに切断された両腕も赫子が蠢く。
再生した赫子が広がり、襲おうとするのを絋輝は黙って見て、呟く。
「やれ」
その言葉と同時にゴーストが動き出し、鋭い爪を男の頭に突き立てた。
倒れこむ男にゴーストは何度も爪を振り下ろす。
『ヤレ、ヤレ……!ヤレ……!』
壊れたように呟きながら、爪を振り下ろすゴーストを絋輝は冷たい目で見ていた。
ーーーーー
2人の男のうち、1人は興奮した様子で絋輝の戦闘を観察していた。
「凄いですよこれは……!あの黒い粒子が出た瞬間、あの亜人の身体能力が劇的に上がった!新しい発見ですよ!早速捕まえましょうよ!」
「落ち着け。1号より劣るとはいえあのC-type を殺したんだ。下手に近づけばこっちが殺される」
「えー…もどかしいなぁ」
残念がる男を他所にもう1人の男は興味深そうに絋輝を見て、怪しい笑みを浮かべた。
ーーーーー
男が動かなくなったのを確認してから絋輝は荒木の下に戻った。鉄柱に背を預けた荒木は絶命しており、穏やかな表情を浮かべていた。
「やりましたよ。荒木さん………」
そう呟きながら、絋輝は後悔する。
守れなかった。
もっと自分に力があれば荒木が死ぬことはなかった。
後悔と自責の感情が絋輝の中で大きくなって、潰れそうになる。
すると、遠くから足音が複数聞こえてきて、だんだん近づいてくる。
現れたのは白いコートを着た喰種捜査官たちだった。
「荒木さん!?貴様ァ……!!」
荒木の遺体を見て、全員が一斉に絋輝を睨む。
絋輝は睨まれて、後退りしながら戦う気は無いとクロガネを置き、両手を上げる。
「まっ、待ってください。俺は……」
「囲むように隊形を取れ!!荒木さんの弔いだ!!」
今の絋輝は喰種が被っているようなマスクを被っており、側から見れば荒木を襲ったのは絋輝になってしまう。
弁明しようとするが捜査官たちは問答無用で攻撃してくる。
なんとか避けようとするが連携の取れた攻撃に体を斬りつけられる。
「いっ…!?や、やめて……!」
「隊形を崩すな!!一気に仕留めるぞ!!」
何故自分が襲われなければいけない。
何故喰種として攻撃されなければいけないのか。
理不尽な仕打ちに絋輝の中で沸々と怒りが湧いてくる。
「トドメを刺すぞ!!」
捜査官たちが絋輝を仕留めようとしたその瞬間、絋輝の中で渦巻いていた感情が爆発した。
「やめろォォオオッ!!!」
体から黒い粒子が噴出し、捜査官たちを押し返す。
喰種とは違う攻撃の仕方に呆然とする捜査官たちに、絋輝は痛む体を我慢してその場から逃げ出す。
「あっ、待てっ!!」
「ゴースト!!」
捜査官が叫んだ瞬間、ゴーストを召喚し、自分を抱えさせて逃げた。
「あれは亜人の……じゃあ、亜人が?」
捜査官の疑問の言葉だけがその場に響いた。
ーーーーー
董香はいつも寝る前に絋輝と連絡して寝るのが習慣になっていたが、今夜は何度連絡しても返事がこないので、明日仕返してやると決意して眠っていた。
しかし、真夜中だというのにインターホンの音が何度も響き、苛つきながら扉を開けた。
「五月蠅いなぁ!今何時だと思って……!」
怒鳴って追い返そうとしたが、扉を開けた瞬間その考えは消えた。
血だらけの服を着た絋輝が立っていたからだ。
外は雨が降っていて、ずぶ濡れのおかげで血の匂いはかき消えているがただ事じゃないのは確かだ。
「絋輝!どうしたの!?そのかっこ……」
言葉を続けようした董香だが、突然絋輝に抱きしめられた。
「ちょっ……!絋輝!」
「………董香……」
絋輝は今にも泣き出しそうな顔で董香の肩に顔を押し付け、名前を呟いた絋輝はそのままもたれるように倒れ、気絶してしまった。
董香は絋輝を支えて、戸惑いの表情になる。
「何がどうなってるのよ……」
雨の音が嫌に耳に残って仕方なかった。
ーーーーー
CCGの遺体安置室に招かれた荒木の息子、仁志は荒木の遺体の前に立っていた。
その顔は強張ってはいるが泣き出しそうな様子はない。
安らかに眠る荒木を見て、仁志は口を開く。
「父は……」
「うん?」
立会人として、現場に駆けつけた捜査官の一人で荒木の元部下だった小太りの捜査官、出河に話しかける。
「喰種に殺されたんですか?」
「………」
出河はその問いに答え難かった。
現場の検証としては殺したのはあの亜人となっている。
凶器はクロガネ。
クロガネを持っていたあの亜人が犯人となる。
しかし、現場の戦闘痕には喰種のモノもあった。
まだ、あの亜人であるかは断定できない。
まだわからないと答えようとした時、背後から割って入ってきた。
「それは……」
「亜人だよ」
二人が声がした方を振り向くと亜人研究会の斎藤が立っていた。
仁志に近づいてくる斎藤の前に出河が立ち塞がる。
「ここは関係者以外立ち入り禁止だ。出て行け」
「今回の事件は亜人が関わっている。それだけで僕は関係者さ」
出河がそれは屁理屈だ、と言おうとするがするりと避けられて、斎藤は仁志の前に立つ。
「今回、君のお父さんを殺したのは新しく見つかった亜人。亜人4号だ。通称は『ゴースト』」
「ゴースト……」
仁志は死体となった父に目を向ける。
「君が良ければ僕たちが力になろう。対亜人の対策はこっちの方がしっかりしている」
勝手な話を続ける斎藤に出河は斎藤の肩を掴んで辞めさせる。
「勝手なことを言うな!この件は俺たちCCGが……」
「すいません。少し……一人にさせてもらいませんか?」
仁志の言葉に黙って2人は安置室から出ていくと仁志は拳を血が出るほどに強く握り締める。
「亜人4号……ゴースト……!」
その目には怒りが篭っていた。