朝日がカーテンの隙間から差し込み、その光で絋輝は目覚めた。
頭がはっきりしない状態で起き上がる。
「俺は……そうだ…!」
絋輝は昨夜のことを思い出し、慌てて自分と周りを確かめる。
服は部屋着に着替えていて、刻まない。
部屋を見渡すと見覚えがあった。
「ここは……」
「あっ…目、覚めた?」
「董香……」
現れたのは2つのコーヒーが入ったマグカップを持った董香だった。
「ここ、董香の家か……なんで俺、ここに……」
「覚えてないの?夜中に突然来て、気絶したの」
「俺が……」
董香はコーヒーを差し出し、絋輝の側に座った。
差し出されたコーヒーを一口飲むと少し落ち着く。
しばらく沈黙の時間が続くが、董香が口を開いた。
「ねぇ、何があったの?」
「何って……何も無いよ」
「うそ」
董香は立ち上がり、置いてあった洗濯かごから服を取り出した。
「これでも何もないって言える?」
取り出した服は昨夜、絋輝が着ていた服で血のシミがベッタリと付いていた。
「絋輝に傷はなかったけど、この血の匂いは間違いなく絋輝のだよ。これでも何もなかったって言うの?」
悲しそうな表情で問い詰めてくる董香に絋輝は項垂れる。
せっかく隠し通してきたのにまさか自分からバラすヘマをするなんて、と落ち込んでしまう。
すると、董香は絋輝に近づいて頭を抱きしめる。
「危ないことはしないで……」
キツく抱きしめる董香の声は僅かに震えていた。
勘のいい董香はもしかしたら絋輝がしようとしていたことを知っていたのかもしれない。
知らず知らずのうちに、悩ませていたのかもしれない。
そう思うと申し訳なくなってくる。
董香から離れて顔を見つめる。
「ごめん。知らないうちに董香に心配かけてたんだな……でも、」
「でもって言わないで。私にも知る権利はあるでしょ?」
絋輝はこれ以上隠すのは無理だと思い、正直に話した。
喰種捜査官の荒木から頼まれたこと、亜人研究会を襲撃することを。
「そんなこと計画してたんだ……何で絋輝がそれをしないといけないの?」
「………俺の情報が亜人研究会にあるかもしれない。そうしたら俺の家族も、董香も身元がバレて不味いことになるかもしれない」
絋輝が辛そうにそう言うと董香は決心した表情になる。
「私も一緒にやる」
「駄目だ!危険過ぎる!」
「絋輝が何言っても私もやるから。絋輝と一緒に辛いことや幸せなことを共有したの」
まるでプロポーズみたいな台詞を言われて、嬉しくなるが董香を巻き込まないために言い返そうとしたが、スマホが鳴った。
仕方なしに電話を取ると田中雄二の名前が表示されていた。
ーーーーー
田中に呼び出された場所は例の廃工場だった。
董香との話を無理矢理切り上げて、やって来ると神妙な顔つきの田中が待っていた。
「田中さん……」
「荒木が殺されたらしいな。ネットニュースに上がっていた」
「はい……」
絋輝は気まずそうに顔を俯ける。
「その場にいたのか?誰にやられた?」
「俺も襲われました。恐らくですけど……亜人研究会の奴らです。今までで見たことのない喰種だって言ってました」
「そうか……死んでしまったのは仕方ないな」
「仕方ないって……!」
不満そうに抗議しようとするが田中は遮って話を続ける。
「荒木が死んでしまったら計画に穴が空く、どこかで人数の補填と計画の練り直しが必要だ」
人数の補填と聞いた時、絋輝は董香のことを思い出した。
このままでは董香を巻き込んでしまうと思った絋輝は咄嗟に言葉が出た。
「いや、予定通りにやりましょう」
「予定通りって、荒木の穴は誰が埋めるんだ?」
「俺がやります。俺が荒木さんの分までやります」
「………人を殺すかもしれないんだぞ?お前にできるのか?」
田中の鋭い人殺しの睨みに絋輝は真っ直ぐと見つめ返し、頷く。
それを見た田中は少し息を吐き、認めた。
「わかった。少し役割と計画を変える。連絡があるまで待ってろ」
田中にそう言われ、廃工場から出てスマホを確認すると董香からの着信がいくつもあった。
恐らく同行させろなどを言おうとしているのにわかった絋輝は、一息ついて電話に出る。
『もしもし絋輝?今どこにいるの?』
「今、田中さんと研究会襲撃について話してた」
『じゃあ私もそっちに行く。さっきも言ったけど、絋輝が何言おうと私も参加するから』
電話越しでも董香の決意の固さはわかってくる。
絋輝は少し辛そうな表情をし、声は出来るだけ優しくするように努めながら董香と話す。
「……わかったよ。董香も一緒に行こう」
『うん。……お互い頑張ろう』
電話が切れると絋輝はその場にしゃがみ込んで苦しそうに頭を抑えた。
今まで押し殺してきた荒木の死への悲しみと人を殺してしまう緊張、董香に嘘をついた罪悪感で押しつぶされそうだった。
しかし、ここで止まるわけにはいかないと足に力を入れて立ち上がる。
「ごめんな。董香」
例え、董香に嫌われようとも絶対に戦いには巻き込まないと固く心に誓って。
ーーーーー
期末試験が終わり、学校の生徒たちは目前となった夏休みに浮き足立っていた。
終業式も終わり、明日から夏休みとなったなかで絋輝は浮かない表情をしていた。
「どうしたんだい絋輝?そんな浮かない表情して」
「吉桐か……何でもないよ」
浮かない表情をしていると吉桐が背後から話しかけて、絋輝を心配する。
吉桐は何でもないと答える絋輝に少し悲しそうにする。
「危ないこと関係かな?」
「………」
図星を言われた絋輝は目を逸らすことでしか答えられない。
危険なことだとわかった吉桐だが、自分に何ができるかなんてわからない。
もしかしたら何も出来ることがないかもしれない。
2人の間に微妙な空気が流れると董香が絋輝に声をかけた。
「ごめん、絋輝借りる。ちょっとこっち来て」
「………」
絋輝と董香が離れていくのを吉桐は少し悲しそうにした。
「新田くん、どうしたの?」
「いや、もう戻れないのかなって思って」
吉桐の言っていることがわからず、依子は首を傾げるが吉桐は離れていく2人を悲しそうに見ていた。
吉桐から絋輝を離した董香は他の2人に聞こえないように小声で叱る。
「アンタは顔に出やすいんだから、もっと自然にして!」
「悪い……」
「もう……それでいつ襲撃するか決まった?」
「……ああ、
「8月か、学校がないから大丈夫だね。了解」
董香はやる気を見せるが絋輝はそれを見て申し訳なくなり、顔を逸らした。
幸い董香に気づかれなかったが、董香に嘘をついたことに罪悪感をさらに感じていた。
しかし董香を巻き込むわけにはいかない。
董香は自分にとって帰るべき場所なのだ。
そんな董香を戦いに巻き込むのは絶対に許されない。
身勝手なことだとわかっているがこれは自身の譲れないところだ。
そう改めて固く決意した。
ーーーーー
そして、その日の晩に絋輝は田中と亜人研究会の研究施設の前に立っていた。