黒く動きやすい服を着た田中と絋輝は研究施設が見える高台から施設を見下ろしながら、最後の確認をしていた。
「よし、最後の確認だ。まずはヴェノム達を使って研究施設の主電源を切る。そうしたら予備電源に代わる。予備電源に代わるまで時間がかかるからその間に俺たちは侵入して、突入の準備だ。奴らが警戒しだすが、そこはヴェノム達を暴れさせればいい。俺たちはその間に兄貴達を救い出し、その後データを破壊する」
「破壊する方法は?」
「これを使えばいい」
田中はポケットからUSBを取り出した。
「これを刺して一定時間が経てばデータはコピーされ、元のデータは破壊される」
「コピーする必要があるんですか?」
「奴らを脅すためにな。今回の襲撃でそれの糸口でも掴めればいいんだけどな」
田中はそう言いながらバッグからいくつもの銃を取り出し、ショットガンを絋輝に渡す。
「……」
渡されたショットガンを複雑な目で見る絋輝に田中は叱咤する。
「いい加減覚悟決めろ。お前はこれから戦場に立つんだ」
絋輝は目を閉じて深呼吸し、落ち着かせてショットガンを強く握る。
「わかってます」
絋輝はそう答えてマスクを被った。
ーーーーー
ヴェノムとゴーストを出現させた2人は一度研究施設を見下ろしてから互いを見て頷き、後ろに下がる。
そしてヴェノムとゴーストは一斉に走り出し、高台から大きくジャンプした。
空中で姿が消え、柵を越えて研究施設内に着地する。
「よし!中に入った。絶対に姿は表すなよ」
「わかってますよ」
2人は目を瞑り、視界を共有しながらヴェノム達を操作する。
やがて電源室に辿りついた。
ヴェノム達の前には大きな電源装置が稼働していた。
「「暴れろ」」
2人がそう同時に命令した瞬間、ヴェノム達は電源装置に飛び掛かり、破壊し尽くすまで暴れ始めた。
やがて、主電源が落ち施設全体が暗くなる。
「行くぞ!」
絋輝と田中は高台を滑り落りて、レンチカッターで柵を破り、敷地内に潜入する。
施設内に侵入して、亜人達が保管されているところに向かう。
「このまま真っ直ぐ保管室まで行くぞ」
「はい!」
田中が話しながら走って行くのに絋輝は必死について行く。
曲がり角を曲がろうとした瞬間、田中が足を止め曲がり角を覗き込む。
絋輝も釣られて覗き込むと装備を整えた警備員が立ちふさがっていた。
「チッ、結構多いな」
「任せてください」
絋輝はゴーストを出現させて、指示する。
「行ってこい!」
ゴーストは勢い良く角から飛び出し、警備員に向かって行く。
「なん……!?」
警備員が叫ぶ前にゴーストは警備員の首を鈍い音と共にへし折った。
「なんだコイツは!?」
「コイツは亜人の……!!」
警備員が驚く前に全員を戦闘不能にさせた。
数秒後陰から出ると警備員は全員倒れていた。
「よくやった。次行くぞ」
「……」
田中は絋輝を褒めたが、絋輝は首が折れて不自然な方に曲がっている警備員を見て、ドス黒い感情に包まれた。
初めてまともな人間を殺し、過呼吸気味になり、自分が立っているのかもわからなくなってくる感覚に襲われた。
「ほら、さっさとしろ」
「あっ……はい」
田中が絋輝の意識を引き戻し、黒い感情を心の奥に押し殺して、絋輝は先を急いだ。
ーーーーー
2人は警備員を掻い潜りながら、目的の最深部近くにあるラボにやって来た。
「ここにいるんですか?」
「ああ、荒木の情報が正しいならな。ここは警備が手薄だ。さっさと見つけよう」
2人はラボをくまなく探しているとヒト一人が入れる培養器なものがいくつも並んでいる廊下を見つけた。
「田中さん、ここ」
「ここだ。ここの何処かにいる」
並ぶ培養器の中で2つだけが稼働しており、中を覗くと男と波島が裸の状態で何かの液体で満たされた状態で入っていた。
「いた!」
「離れろ!」
田中が培養器のコントロールパネルを操作して2つの培養器を解放した。
培養液とともに流れ落ちる2人に田中と絋輝は受け止め、体を隠し、呼びかける。
「兄貴!起きろよ!兄貴!!」
「波島さん、起きてください!」
やがて田中の兄、田中 甫が目を開ける。
「……っ、うっ!うげぇ…!」
甫は液体を吐き出し、激しく咳き込みながら雄二を焦点が合わない目で見る。
「兄貴…!俺がわかるか!?」
「うぅ……」
甫は雄二の肩に手を置くと腰に挿してある拳銃を奪い取り、田中の頭に突き付けた。
「……っ!?」
「待て!動くな!」
突然のことに絋輝は驚くが雄二は大丈夫だと言った。
「はぁ……はぁ……殺してやる……!!」
甫は未だに焦点が合っていない目て銃を雄二に突き付けており、誰が誰なのかわかっていない様子だ。
雄二はゆっくりとマスクを脱ぎ、自分の顔を見せる。
「兄貴……俺だ。雄二だ」
「はぁ…はぁ…ゆ、ゆうじ?」
やがてボヤけていた視界が鮮明になり、唯一の肉親である弟の顔がはっきりと見えてきた。
「ゆうじ……雄二……!」
雄二だと漸くわかった甫は途端に泣き出し、抱きついた。
雄二もそれを黙って受け止めた。
ーーーーー
漸く頭の整理がついた甫は替えの服を着て、状況を整理する。
「つまり、新しい亜人である篠原君と協力して俺とまた新しい亜人である波島さんを助けるためにたった2人で研究会に乗り込んできたって訳か……無茶するなぁ」
「無茶するなって、たった1人の家族なんだ。無茶くらいするさ」
呆れたように言う甫に雄二は笑って答える。
それに甫は少し嬉しそうにしていた。
「あの……」
「どうした?」
絋輝が雄二に声をかけると、波島の方を見る。
「波島さんが目を覚まさないんです」
波島は一度液体を吐き出し、目を覚ますかと思ったがそのまま気絶してしまっていた。
「いや、目を覚まさなくていい。目を覚ましたら多分恐慌状態になるぞ」
甫はそう言って歩き出そうとするがふらついて、膝から倒れてしまう。
「チッ、やっぱり体が弱ってるな」
「無理するなよ。ほら、肩貸してやる。絋輝、まだゴーストは出せるな?」
「はい」
絋輝は言われるがままゴーストを出す。
「ゴーストに波島を運ばさせて、お前はコピーを取りに行け。俺は兄貴たちを守って上まで運ぶ」
「……わかりました」
絋輝の顔が緊張で強張る。
それに気づいた雄二が落ち着かせるように話しかける。
「警備員たちは今ヴェノムと戦って、警備が手薄だ。隠れながらいけばお前なら行ける」
絋輝は脱いでいたマスクを被り直し、データが保存されている部屋に向かった。
ーーーーー
データが保存されている部屋に辿り着いた絋輝は早速USBを差し込み、データを集め始めた。
ふと、起動している画面に目を向けるとあるデータファイルが目に留まった。
「キメラ計画……?」
画面に映し出されたのは複数の赤い遺伝子を掛け合わせたものを人体のモデルに組み込む図表だった。
「何だこれ?」
「いやー、まさかここまで入ってくるとはね」
背後から突然声を掛けられて、慌てて振り向くと余裕の笑みを浮かべた斎藤が立っていた。
斎藤は絋輝の後ろにある大画面を見て、困った表情になる。
「あーらら、実験体が逃げ出してるよ。君らがやったのかい?他国のスパイかな?それとも反社会組織?まぁ、どっちでもいいか」
淡々と斎藤は1人で話し、絋輝は喋らず、手をゆっくりとホルスターに挿した拳銃に向けて行く。
(拳銃を向けて、脅せばここから抜け出せる!)
そう考えた絋輝は拳銃を手に取って、斎藤に向けた。
「おっ、やる気?にしては拳銃の持ち方が素人だなぁ。君、人殺したことないだろ?」
「………っ!」
図星を言われた絋輝は拳銃を強く握り締める。
その様子に斎藤は戯けた表情になる。
「そんなんだと死んじゃうぞぉ〜。もっと肩の力を抜かない、っと!」
「っ!?」
斎藤は突然、姿勢を低くして走ってくる。
絋輝は突然の行動に驚きながらも、斎藤に向かって引き金を引いた。
しかし、それを斎藤は掻い潜り、足元まで近づいてきた。
そして一瞬で銃を奪われ、顎に拳銃を突きつけられ頭を撃ち抜かれた。
「ふぅ……全く手間をかけさせて」
倒れる絋輝を一瞥してそう零す斎藤は端末に挿してあるUSBに手を伸ばし、抜こうとすると背後から物音が聞こえた。
振り向くと頭を撃ち抜いた絋輝が体から黒い粒子を出しながら立ち上がろうとしていた。
それを見た斎藤は心底驚いた顔をした。
「驚いた……君、亜人かい?」
驚く斎藤に立ち上がった絋輝は斎藤の腰に向かってタックルをした。
体格的には斎藤の方が大きいが、高校生の全力のタックルならば体勢を崩せると考えたが斎藤は僅かに後ろに退がるだけでビクともしない。
すると、斎藤は絋輝の首に手を回し、ガッチリと締め付ける。
「これは思いもよらないってやつだね。君は
斎藤は腹に膝蹴りを何度も打ち込み、絋輝は堪らず崩れ落ちてしまう。
「ごほっ…!ごほっ…!」
「チッ!麻酔銃持ってくるの忘れた。まっ、いっか。ある程度痛めつければ」
斎藤はそう言って、絋輝に拳銃を向ける。
その場から横に転がり、弾丸を避けて物陰に隠れる。
斎藤の背後にUSBがあり、まだダウンロードは終わっていない。
「くそっ……!どうすれば……」
「あんまり手を掛けさせないでくれよー。この前も面倒な捜査官の相手をしたばかりなんだからさ」
「……っ!」
その言葉に絋輝は荒木のことだとわかり、怒りが湧く。
まだ研究会が黒幕だという確証はないが、自分の中では研究会が犯人だと決まっていた。
絋輝は物陰から出て、全身から黒い粒子を溢れさせる。
「行け!ゴースト!!」
絋輝からゴーストが現れたのと同時に斎藤に飛び掛った。