飛びかかってくるゴーストに斎藤は体を後ろに晒して避けると絋輝に向かって走り出す。
しかし、ゴーストはすぐに走る斎藤に振り向いて裏拳を放つが、斎藤はそれをジャンプして身を翻して、また避けた。
人間離れしたその動きに絋輝は驚いてしまう。
(何だよあの動き!?)「人間なのかよ……?」
「人間さ、君たち化け物と違ってね」
つい零してしまった言葉に斎藤は好戦的な笑みを浮かべて答えた。
斎藤は側に落ちてあった拳銃を拾い絋輝に向けて撃ち、肩に命中してしまう。
「がっ……!」
痛みに堪らず倒れてしまう絋輝は前を向くとコピー完了の表示がされている画面が目に入った。
(あれを取れば……!)
絋輝がUSBを取ろうと立ち上がろうとするが銃を目の前に突きつけられる。
「これでゲームオーバーだ」
軽い口調で言う斎藤に絋輝の背筋に冷たいものが走る。
しかし、引き金に指をかけた瞬間に斎藤の背後からゴーストが蹴りを放っていた。
もろに当たった斎藤は吹き飛び、壁に叩きつけられる。
『ブチ殺シテヤル』
「ぐっ…うぅ…!」
痛む肩を支えながら立ち上がり、USBを取って管理室から出て行き、雄二達との合流場所に向かった。
ーーーーー
絋輝が出て行ってから暫く経った後、倒れていた斎藤はゆっくりと起き上がった。
「あー、イッタイなぁ……」
気怠けに呟いた斎藤は立ち上がると、端末に連絡が入った。
「どうした?」
『侵入者が逃げました。どう致しましょうか?追跡しましょうか?』
「あー……いや、いいや。どうせ追っても被害が広がるだけだし、被害状況と証拠品を集めて」
『了解です』
斎藤が一息つくと蹴られた側の左に鈍痛が走り、見ると左肩が外れていた。
「受け流したと思ってたんだけど、鈍ったかな?」
斎藤はあの時、攻撃されるのを予知しわざと横に跳んでダメージを最小限にしたのだ。
それによって肩を外されるだけにダメージは治ったが、本人は完全に受け流したと思っていたらしい。
肩を嵌め直し、管理室から出るときに絋輝が撃った弾丸の薬莢を見つけた。
「『ゴースト』か……」
斎藤は薄ら笑いを浮かべて、管理室を後にした。
ーーーーー
横浜のアジトである倉庫に辿り着いた絋輝達は今だに起きる気配がない波島と甫をベッドに寝かせ、後日に目を覚ましてから今後どうするかを話し合うことになった。
「たぶん明日には研究所のことはニュースになってるだろうな。暫くは大人しく普通の生活をしておけよ」
「……はい」
戦っている時は力が入っていたのに気が抜けたのか身体中が怠くなっている。
ふらふらと帰路につこうとすると後ろから声をかけられた。
「絋輝!」
「………?」
「よく頑張ったな」
それを聞いた絋輝は確かな達成感を感じ、雄二に頭を下げて帰っていった。
翌日になって、疲れのせいで朝を過ぎて昼前に起きた絋輝はリビングに行くとそこには父親以外の家族がいつもの日常を過ごしていた。
「おはよう、母さん」
「おはようって、漸く起きたのね。もうお昼の時間よ。夏休みだからってちゃんとした生活を過ごさないと、ダメになっちゃうわよ?」
「ハハッ……ごめん」
母親の小言を聞いて、いつもの日常だと平穏を噛み締めて弟妹たちがテレビを見ており、挨拶をしようと声をかける。
「おはよう。何見、て……」
弟妹たちが見ていたのは珍しくニュースでそのテロップには大きく、『亜人研究所がテロリストに襲撃!!』とあった。
「おはよー!今日どこのチャンネルもニュースばっかりなんだー」
「つまんなーい」
文句を言う弟妹たちからリモコンを取り、チャンネルを変えて詳しい情報を見ていく。
どのチャンネルも犯人のことはわかっていないらしく憶測しか飛び交っていない。
犯人はテロリスト、他国、保護団体、又は喰種ではないかと言われているらしい。
亜人研究会からも正式な発表はまだらしい。
「喰種でさえ物騒なのに嫌になっちゃうわね」
「うん……そうだね」
母親の言葉に絋輝は曖昧に答えることしか出来なかった。
こんな大事件を起こした張本人は自分だという事実に絋輝の胸の中で重くのしかかり、気分が悪くなってくる。
「おにぃちゃん?だいじょうぶ?」
末の妹が心配そうに顔を覗いてきたので、絋輝はいつもの笑顔を貼り付けて大丈夫だと答えた。
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董香は自室でニュースを見ていた。
どこのチャンネルも同じ事を放送しており、嫌でも頭に入ってくる。
胸に怒りや失望と暗い感情が募って、携帯を強く握りしめていた。