東京喰種ーGhostー   作:マーベルチョコ

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#39 お前が思っている程弱くはない

タタラとエトはある喰種の所に訪れていた。

薄暗いが高級家具で飾られた部屋でテーブルを挟んでテレビと向かい合っていた。

テレビには仮面を被った男性が座っているのが映っていた。

テレビに映るのは『偏食家』と呼ばれている喰種で、その身なりと面談する場所で富を持っているのは明らかだった。

テレビの側に控えていた金髪のメイドがコーヒーを2人に淹れて渡す。

一瞬、エトはメイドに目を配らせるがすぐにテレビの方を集中する。

 

『なるほど、最近噂になっている『アオギリの樹』に私の私設部隊を貸して欲しいと』

 

「そうだ。お前の所には数多くの喰種がいる。喰種の世界を創るため力を貸して欲しい」

 

タタラの提案に偏食家は顎に手を添え、考え込む。

しばらく時間が経ち、タタラは微動だにしないがエトは暇なのかコーヒーを飲み干し、メイドにおかわりを頼んでいた。

 

『良いだろう。アオギリの樹に協力しよう』

 

「そうか。では、詳しい内容は次の機会に話す。エト、帰るぞ」

 

「うん。……そうだ、偏食家さん。協力してくれるお礼って訳じゃないけど貴方が好きそうな獲物の情報をあげる」

 

『ほう?』

 

エトはファイルを取り出し、その中から一枚の写真を見せる。

 

「これなら貴方の嗜好に合うんじゃない?」

 

その写真には学校姿の董香が映っていた。

 

 

ーーーーー

ある日、雄二から波島が目を覚ました、と連絡が入り絋輝はアジトに急いで向かった。

アジトに入ると雄二が少し疲れた様子でアジトの入り口で待っていた。

 

「田中さん!」

 

「絋輝か。中にいるぞ」

 

雄二は移動しながら波島の状態を伝えるが、その様子は疲れ切っていた。

 

「目を覚ましたのは良いが完全に目覚めたわけじゃない。起きた途端に暴れだして仕方なくもう一度寝かした。恐らく実験の恐怖が染み付いてるんだろうな」

 

「そうですか…」

 

カーテンに仕切られた一角に案内され、カーテンを開けると点滴を打たれている波島と診察している甫の姿があった。

 

「来たか」

 

「……どうですか?」

 

絋輝に質問された甫は難しい表情になる。

 

「俺は精神科医じゃないから、詳しいことはわからないけど実験のせいで発狂してるのは確かだね。まぁ、あんな実験で体弄り回されたんだ。発狂したくもなるさ」

 

甫も自分が受けた実験を思い出し、遠い目をしながら呟く。

 

「……治りますか?」

 

「こればっかりは時間が解決するしかない。次、目を覚ましたらゆっくりと説明していくよ」

 

「そう、ですか」

 

それを聞いて絋輝は波島を気の毒に思う。

どんな実験をされたのかはわからないが余程酷いものだったのだろうと考える。

波島の様子を一通り聞いて、アジトから去ろうとした時に雄二が声をかけてきた。

 

「絋輝、最近あんていくには行っているのか?」

 

「いいえ。最近は行ってませんけど、どうかしましたか?」

 

「いやな。芳村さんから連絡があって今20区に厄介な喰種が2体現れたらしくてな。注意しておいてくれって言われたんだ」

 

雄二の話を聞いて、真っ先に董香の心配が思い浮かんだが、すぐに頭を振ってその考えを消す。

自分から別れを告げておいて心配するのはお門違いかと思うが、やはり董香のことが心配になってしまい。

家に帰ろうとしていた足はあんていくに向かっていた。

 

 

ーーーーー

絋輝があんていくの窓から店の中を覗くと、今日も営業しているがその中には董香の姿はなかった。

バックヤードにいるのか、休んでいるのかと様子を伺っていると背後に人の気配を感じて振り向くと四方が立っていた。

 

「よ、四方さん……」

 

「………」

 

絋輝は四方と話すことが今まで余りない、というより四方が絋輝を若干遠ざけている感じだった。

なので余り人柄は知らないが董香が信頼しており、悪い人ではないのだろうが今の四方はどこか怒っている風に感じられた。

 

「な、何か用ですか?」

 

「……こい」

 

端的にそう言うと四方は絋輝の襟を掴み上げ、店の方に引っ張っていく。

 

「え!?ちょっと放して……!」

 

「………」

 

絋輝は抵抗するが強く掴んでくる手はビクともせず、店に引きずられて行く。

店に投げ入れられた絋輝に驚く入見と古間だが、芳村は気づいていたようでいつもと変わらない優しい笑みを浮かべていた。

 

「久しぶりだね、絋輝君」

 

「お久しぶりです」

 

絋輝は休憩室に案内され、芳村からコーヒーを淹れてもらった。

 

「それで、董香ちゃんと何かあったのかい?」

 

「………」

 

率直に質問してくる芳村に絋輝は言いにくそうにする。

その様子を見て、芳村は窓から外を眺めながら絋輝に話しかける。

 

「董香ちゃんにも聞いたが教えてくれなくてね。君みたいに辛そうにしていたよ」

 

そう言われ、董香の辛そうな表情が思い浮かび、絋輝は罪悪感に苛まれる。

 

「喰種と亜人、人間と喰種の関係のように喰べる喰べられるの敵同士の関係だ。しかし亜人の場合は人間でさえも敵だ。つまり今の君には敵が多い。……だから董香ちゃんを遠ざけたのではないのかい?」

 

芳村は憶測で言うが正しくその通りだ。

絋輝は観念して芳村に自分の思いを吐き出した。

女狂いとの戦い、荒木の死、そして亜人研究所での斎藤との戦いで感じた人間への恐怖。

自分が董香の近くにいればいつか巻き込まれるのは目に見えている。

しかも、董香は喰種であるため研究会も容赦なく襲いかかってくるかもしれない。

だから、別れを告げたのだと。

 

「ふむ………君の考えはよく分かる。私もかつてそうしようとした」

 

「え?」

 

「愛する人を危険に晒さないために離れようとしたが、彼女は私から離れようとしなかった。いや、私も離れようとはしたが離れることはできなかった。辛い未来が待っているのはわかっていたのに関わらずね」

 

芳村は懐かしむように話を続けるが、絋輝にはその表情はどこか懺悔しているように見えた。

 

「……その人はどうなったんですか?」

 

「死んでしまったよ。残念なことにね……しかし、私は後悔はしていない。辛くても彼女と過ごした時間はとても幸せなものだった」

 

芳村は絋輝のほうを向いて、話を続ける。

 

「できれば君達には私達のように種族を超えた愛を育んで欲しいと思っているよ」

 

「辛い未来が待っていたとしてもですか?」

 

「君達なら大丈夫だ。董香ちゃんは君を愛し、そして君自身も董香ちゃんを愛しているのだから」

 

何の根拠もない話だが、何故か芳村の言葉は絋輝の胸に刺さる。

絋輝は立ち上がり、部屋を出ようとし、扉を開こうとする手前で立ち止まる。

 

「……董香を危険に晒すのはやっぱり嫌です。でも、もう少し話してみようと思います」

 

そう言って出て行く絋輝に芳村は安心したような笑みを浮かべて見送った。

店を出ようととすると廊下に四方が立っており、絋輝を見ている。

絋輝は少し気まずそうにしながら前を通り過ぎようとすると四方が声をかける。

 

「董香は……お前が思っている程弱くはない」

 

「………失礼します」

 

ーーーーー

あんていくから離れた路地裏で男と女が密会していた。

男の方は少し汚れた服を着て、先まであんていくでコーヒーを飲んでいた人物で、女の方はタタラとエトが偏食家が会合した際に給仕をしていたメイドだった。

 

「それで例の彼女とは会えたのですか?」

 

「い、いや今日は休みで会えなかった……」

 

「………」

 

情報が上げられないならば価値はないと、メイドは目を細めて殺気を滲ませる。

殺気に気づいた男は慌てて、弁解し始める。

 

「ま、待ってくれ!アイツはいなかったが、その関係者なら見かけた!」

 

「関係者?」

 

メイドは殺そうとしていた手を止め、話を聞く。

 

「あ、ああ!どうやら奴の恋人らしい!店によく出入りしている他の奴らから聞いた!しかも相手は人間だ!」

 

「ほう……」

 

メイドはその言葉に興味を持ち、もっと情報を聞き出そうとする。

 

「写真はないのですか?」

 

「ここにある!苦労して撮ったんだ」

 

男は写真をメイドに渡す。

その写真には店から出る絋輝が写っていた。

 

「この人間が……」

 

「ああ!奴の恋人だ!……あの女、昔は暴れ回っていたくせに人間の男を引っ掛けているのかよ、気持ちわりー」

 

男は憎らしげに呟く。

 

「恨みがあるのですね?」

 

「当たり前だ!アイツら姉弟はな!俺の喰い場を奪って、殺されかけたんだ!!恨んで当然だろうが!!」

 

鼻息を荒くして叫ぶ男をメイドは汚い物を見るような目で見るが男は気づかない。

 

「そ、それで約束は……」

 

「ええ、一生食べ物には困らないようにしてあげる約束ですね」

 

「助かる!最近は捜査官にも追われてもう何ヶ月も喰ってねぇんだ」

 

男が安心した様子を見て、メイドは指を鳴らす。

すると暗闇から何人ものメイドが静かに現れ、男を囲んでいく。

 

「え?は?」

 

突然の状況に戸惑う男に金髪のメイドは何も感じていない無機質な目で命令を出した。

 

「約束です。一生食べ物に困らないように………楽にしてあげなさい」

 

『かしこまりました』

 

命令されたメイドたちは徐々に男に近づいていく。

 

「な、何だよこれは!?どういうことだ!?おい!近づくな!!ちかづ……!」

 

男の悲鳴は都会の喧騒に掻き消され、聞こえることはなかった。

金髪のメイドは渡された写真を見て、待機していたメイドを呼び出す。

 

「御用でしょうか、メイド長」

 

「この男の詳細を調べなさい。……少し面白い余興をしましょう」

 

メイド長は妖しい笑みを浮かべ、そう告げた。


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