雄二がメイド隊を殺し終え、甫を探していると瓦礫に座って待っている甫を見つけた。
「よぉ、兄貴。そっちも終わったか?」
「ん?ああ。逃げられたよ」
「逃げられた?兄貴かが?」
心底驚いた様子の雄二に甫は黙って頷いた。
「『ライオット』は出したのか?」
「出したよ。それでも逃げられた」
甫の周りには激しい戦いの跡が残っていた。
「『ライオット』を使っても逃げられたか。偏食家ってのは結構な駒を持っているんだな」
「駒か……どうだろうね」
甫の含みのある言葉に雄二は疑問を覚える。
「何か気になることでもあるのか?」
「……いいや、どうせ俺たちには関係ない。篠原達と合流しよう。時期にCCGが来る」
甫は自分の中にあった違和感を今は関係ないと切り捨て、絋輝たちと合流するためにアジトへと向かった。
ーーーーー
田中兄弟が所有するセーフハウスにたどり着き、絋輝は董香の体や腕に包帯を巻いて応急手当を行なっていた。
「えーっと、ここをこうやって……」
「ちょ、ちょっと絋輝……少しキツ…痛っ!?」
「あっ!ゴメン!………よし、何とかできた」
行なっていたが応急手当なんてしたことがない絋輝は苦戦していた。
漸く終わったが少し包帯を巻き過ぎている様子だ。
包帯を巻き終わると絋輝は安心したように一息ついたが、今後どうなるかわからない不安が押し寄せてきた。
「どうなっていくのかな……俺。沢山の喰種に顔を知られたし、家族が狙われるのかな?」
「絋輝……」
不安そうな顔をする絋輝に董香は手を重ねて安心させてくれる。
「大丈夫。私がついてる」
「……ああ」
絋輝も安心した表情になり、董香を見つめる。
やがて2人の顔の距離はどんどん近づき、深い口付けを交わす。
息をするのを忘れてキスをする2人はもうお互いのことしか見えていない。
しかし、そこに甫が到着してしまい2人の光景に驚くが、絋輝たちは気づいた様子がなく、気まずくなってきた甫は咳払いをした。
「ん"んっ!」
「「あっ」」
漸く甫に気づいた2人は揃って顔を赤くして恥ずかしそうにした。
「無事に戻ってきたのはいいけど、そういうのは帰ってからしなよ」
「す、すいません」
絋輝が甫に平謝りする2人に微妙な空気が流れると雄二が入ってきた。
「おー、無事に戻れたか。良かった、良かった」
疲れたようにソファに座る雄二と立っている甫に絋輝は頭を下げる。
「助けてくれてありがとうございました。3人が来てくれなかったらどうなっていたか……」
「気にすんな!」
「……とは言えないかな。君の顔は喰種達にバレた。下手をしたらこれから狙われる」
甫の言葉に絋輝は重く受け止め、不安そうな表情になる。
「と、言ってもあまり関係ないかもしれない。君の父親は喰種捜査官、しかも元特等だ。喰種と言えど手を出しにくいはずだ」
甫の予想に絋輝の顔が少し明るくなる。
「……そう、ですかね」
「だからと言って油断はしないほうがいい。常日頃から戦える準備はしておきなよ
甫の忠告に絋輝はしっかりと頷き、その場は解散となった。
絋輝が心配だからと董香は家まで送ることになり2人は手を繋いで家路についていた。
絋輝は手を繋いでいるだけで安心できる董香に改めて感謝と愛おしさを感じていると、家の前に着いた。
「じゃあ、ここで」
「うん………」
名残惜しそうに離れる2人だが、絋輝は思い出したように話しかける。
「明日、みんなで海に行く計画を立てよう」
「え?」
「なぁなぁで流されたからな。仕切り直しで」
「……うん。わかった」
董香は花のような笑顔を浮かべ、絋輝も笑顔になった。
ーーーーー
メイド長は傷付いた体を引き摺りながら、屋敷へと戻っていた。
「誤算だったわ……まさか亜人があそこまで強いなんて。でも、亜人達の居場所は分かっている。総攻撃を仕掛けて、全員狩り取るとしましょう」
メイド長は後々の事を考えながらほくそ笑み、屋敷の扉を開けると充満した血の匂いを鼻で感じ取った。
咄嗟に顔を上げると屋敷のメイド達が全員血祭りにされ、天井から吊るされていた。
「なっ……!?」
あまりの光景に言葉を失ってしまうメイド長の背後から声が聞こえてくる。
「遅かったねー。待ちくたびれちゃったよ」
振り向くと、エトが疲れた声を出して立っていた。
「お前はアオギリの!」
「エトって言うんだけど別に覚えなくていいよ。偏食家さん?」
「……っ!フッ!!」
エトの最後の言葉に驚いた表情を見せたメイド長は赫子を出して、エトに向かって振るうが届く前に全て細切りにされた。
驚くメイド長だが、一瞬で目の前にエトが移動しており訳もわからず吹き飛ばされてしまう。
「ガハッ……!?」
「正体を隠す徹底ぶりには驚いたよ。この屋敷のメイド全員に聞いたけど、誰もが私達が会った男だって答えていたけど……貴女が本物なんでしょう?」
吹き飛ばされ倒れるメイド長、もとい偏食家の側でしゃがみ込んで覗き込む。
「何故……正体が……」
「だって貴女、私を見る目がすっっっごく不快だったんだもん」
エト達アオギリと偽の偏食家が会合した時にエトは偏食家が自身の身体を下から上までを舐め回すように見ていたのに気付いていた。
「女ばかりを喰らう変態喰種。その正体がまさか同性愛者の変態だったとわねー」
「……っっ黙れッ!!!」
偏食家は激昂し、エトの顔に爪を突き立てようとするが次の瞬間には腕はもぎ取られていた。
「っっっぁぁぁぁああああっ!!!」
腕をもぎ取られたことに気づいた瞬間には激しい痛みが偏食家を襲い、悶える。
「……っ何故だっ!お前たちは私の戦力が欲しかったんじゃないのか!?こんな事をすれば私の傘下が黙っていないぞ!!」
「いいよ。貴女の戦力なんて今頃潰されてるよ」
エトのその言葉に偏食家は一瞬呆然としてしまう。
「月山家だっけ?今頃貴女の会社買収してるはず」
「あの……変態がっっ!!」
「ハハッ、それブーメランだよ?」
エトは倒れる偏食家の頭に足を乗せ、徐々に力を入れていき潰そうとする。
それに気づいた偏食家は慌てて、エトに縋ろうとする。
「まっ、待って!私にはまだ財力がある!私の全財産をあげるわ!それに貴女を見る目が不快だったならば謝るわ!だから、お願い!命だけは……!」
「うーん……別にお金はいらないかな。貴女を殺した後に奪えばいいし。それに謝らなくてもいいよ。確かに不快だったけどそれくらいは別に何とも思わないし。ただ………」
エトは一瞬間を置いて、偏食家を見下ろす。
いや、睨みつける。
「彼に手を出そうとしたことは許さない。彼に手を出していいのは私だけだ」
「まっ……!」
エトはそう言うと偏食家の制止を聞かず、頭を踏み潰して殺した。
一息ついて、心を落ち着かせているエトに男の生首を持ったタタラがやってくる。
「エト、見つけたぞ」
「そっか、じゃあ行こうタタラさん。新しい仲間を迎えにね」
2人は屋敷の地下にやってきた。いくつもの鉄格子が並んでおり、その中には女子供しかいなかったが、全員が喰種だとエトとタタラは分かっていた。
そしてその一番奥には手足を壁と床に大きな杭で打ち付けられて貼り付けにされた裸の女がいた。
「いた。奴が『アマゾネス』か」
「そうだね。21区で弱い喰種達を守りながら戦ってきた猛者だよ」
タタラとエトの声に女、アマゾネスはゆっくりと顔を上げる。
酷い仕打ちをされているというのにその目には光を失っておらず、エト達を鋭く見つめる。
「……アタシに用かい?」
「そうだ。私達の仲間になれ」
「喰種が群れを組むなんて珍しいねぇ……」
「それはお前もだろう。で、仲間になるのか?ならないのか?」
タタラの質問にアマゾネスは鋭い視線を向けるだけだ。
アマゾネスは仲間になったとしても使い潰されるのがオチだと分かっていた。
タタラの目に映るのはアマゾネスの戦力のみだということにいち早く気づいていた。
緊迫した空気が流れる中、エトがアマゾネスに話しかける。
「ねぇ、アマゾネスさん。貴女はここにいる弱い喰種達を守るために偏食家に捕まったんでしょ?」
「………」
「もし、私達の仲間になってくれるなら全員の居場所を用意してあげる」
「………」
エトの言葉にアマゾネスの眉尻がピクリと動いた。
「どうかな?」
「………本当に用意してくれるんだろうね?」
「うん。だから私達に協力して?」
「……分かった」
アマゾネスは短く答えると打ち付けられた杭を簡単に引っこ抜いて立ち上がり、手足から抜き取ると立ち上がり血塗れの手をタタラ達に差し出す。
「
SSレート喰種『アマゾネス」がアオギリの樹の仲間となり、エトは包帯に巻かれた顔でほくそ笑んだ。