渋谷ストリート周辺は規制線が張られ、その周りにはハロウィンパーティの参加者の人たちが救急隊員に治療を受けたり、警察とCCG捜査官から事情聴取を受けており混乱は収まっていなかった。
そしてその中には董香と依子の姿もあり、2人は寄り添いながら座っていた。
「し、篠原くんと新田くん……だ、大丈夫だよね?」
声が震えながら董香に聞いてくる。
それはどこか縋っているようにも聞こえるが董香もそんな気持ちだった。
確証がなくてもいいから兎に角安心したかった。
董香は震えている依子の手を握って安心させようとする。
「うん、2人なら大丈夫だよ。そのうちふらっと戻ってくるって」
そういう董香の手も震えており、依子はそれに気づいて目に涙を浮かべながら董香の手を握りしめた。
その時、喰種の優れた聴覚がある捜査官達の会話が拾った。
「出河、中にいる喰種は通常とは異なる個体らしいぞ。刈谷特等とも連絡がとれなくなった」
「不味いな……S2班に特等の救援要請を。残りのS1班を半分にして俺が連れて行く。お前はここの防衛を頼む」
「了解した」
その会話を聞いた董香は目を見開いて驚いた。
(通常と異なる喰種……!?この前聞いた時みたいなヤツってことか!ということは狙いは……絋輝!?)
その考えに行き着いた董香は依子の手を引いて立ち上がる。
「依子、行くよ」
「董香ちゃんどこに行くの?ここにいて2人を待たないと……」
「こんな状況じゃ2人が無事でも会えるのは明日になるよ。それに家族に安全を伝えないといけないし、ここじゃ電波は届かないから移動しよ」
「……うん」
少し納得行かない様子だが董香に引っ張られて群衆から離れて電波が取れる場所まで行く。
念の為、依子が家族に連絡を取っているのを確認して董香も連絡をとった。
本来なら最初にあんていくの誰かに連絡を入れるべきだが、董香は一瞬躊躇いあんていくのメンバーではない人物に連絡を入れた。
(頼むから早く来てよ……!)
ーーーーー
絋輝は傷ついた体を引きずりながら凄惨な光景となった渋谷の街を進んでいた。
その体からは血が滲み出ており痛々しかった。
「あのゾンビもどきめ……思いっきり噛みついてきたな」
特に腕の咬み傷は酷いもので肉が抉れていた。
「映画みたいに噛まれたらアイツらの仲間入りとかすんのかな?」
痛みと恐怖心を紛らわせるために1人で冗談めいたこと言う絋輝はあることに気づいた。
(そういえばゾンビもどきの姿が見えないな……警察かCCGが戦ってくれたのか?)
周りを見渡してみると白いコートの人間の死体とクインケがいくつか転がっているのが見えた。
それを見て絋輝の顔が悲しげに歪む。
すると鳥の羽ばたきのような音が聞こえてきたと思った瞬間、背後から両肩を掴まれて空に攫われてしまう。
「うぐぁっ!?な、なん……っ!」
上を向くと絋輝を攫ったのは仁志と刈谷が戦っていた喰種だった。
「お前は何なんだ…がぁっ!?」
問い詰めようとした瞬間、鋭利な爪が肩に食い込んで肉が抉られる。
痛みで悶えていると喰種がガラス張りビルに近づいていく。
「ちょ、ちょっと待ってよ……おいおい!」
喰種はスピードを更に上げて絋輝をビルの壁に叩きつけた。
そのまま上昇して引き摺るように押し付けた。
壁に叩きつけられた絋輝は血みどろになって呻き声を上げることしかできない。
「ぅ……ぁ、あ……」
「フッフッフッ……」
その様子を見て喰種は不気味な笑みを浮かべた。
やがて絋輝は事切れて死んでしまうとリセットが始まる。
黒い粒子が出て、復活するが肩には爪が突き刺さったままだ。
「この……!いい加減に……!」
なんとか逃れようと踠くが宙吊りの状態と肩の痛みで動くことができない。
その時、空を飛んでいる喰種に向かってビルの屋上から飛び降りる人影があった。
「オオオォォッ!!!」
クインケを上段に構えた仁志が喰種の背中に向かってクインケを振い、背中を切り裂いた。
「アアァッ!?」
斬られた喰種は地上に落ち、その拍子で絋輝を放してしまう。
絋輝は車の上に落ちて派手な音を立てながら落ち、仁志もクインケと壁をうまく使い地面に降りて絋輝に近づく。
「大丈夫ですか?怪我は……っ、お前は」
「ぅぐ……貴方は……」
まさかの再会に仁志と絋輝は驚く。
「何故お前がここに……」
「友達と遊びに来て、それで巻き込まれて」
仁志は一瞬疑いの目を向けるが絋輝のコスプレ服を見て、嘘をついているわけではないのは分かった。
「その血はどうした?」
「え、あぁ、これは逃げる時に返り血がかかっちゃって……」
絋輝は痛む体を支えながら誤魔化すが仁志はその言葉何嘘だと一瞬で見抜く。
(服は傷ついているのに怪我がない)
問い詰めたいところだが今はそれより優先することがある。
「この道をまっすぐ進めばCCGの規制線に着く。早く行け」
そう言いながら絋輝に背を向けてクインケを喰種に向かって構える。
「あ、アンタはどうするんだよ?」
「俺はCCG捜査官だ。市民を守るのが俺の義務だ。
言葉を強めていう仁志に絋輝は見られないように顔を引き攣らせる。
喰種は傷が癒えたのか翼を広げて飛び上がり、空中から見下ろす。
「俺が奴を止める。早く行け!」
「あ、ありがとう!」
絋輝は仁志に背中を向けて走り出し、それを喰種が追いかけようとするが仁志が立ち塞がる。
「お前の相手は俺だぞ!!」
わざと大声を上げて目立つようにするが喰種はそれを無視して絋輝に向かおうとする。
「チッ!」
仁志はそれに気づき、喰種を追いかけようとする。
しかし空を飛ぶ喰種には追いつかず、喰種の手が絋輝に近づく。
もう少しで絋輝に迫りそうになった時、喰種の足首にクインケが巻きつき喰種の体勢が崩れると地面に落とされる。
「そんなに慌てて何処に行くつもりだ。まだ終わっていないぞ」
現れたのは頭と腕から血を流す刈谷だった。
「荒木二等、状況は?」
「はい、目標が民間人を狙っています」
「そうか。君、早く逃げなさい。ここは私達がなんとかする」
「は、はい!」
刈谷の言葉に再び進もうとするがその前に喰種が起き上がり、翼を広げて跳び上がり街灯に蝙蝠の様にぶら下がる。
「何だ?」
「………」
3人が様子を伺っていると羽を翻して羽赫を一斉に放つ。
「嘘だろ!?」
3人はそれぞれの物陰に隠れてやり過ごし、刈谷が顔を覗かせると辺り一面が赫子に覆われているが死体に刺さったもの意外は塵となって消える。
それを見ていた刈谷はふと呟く。
「あの喰種の攻撃の仕方、見覚えがある」
「そうなんですか?」
「ああ、7区の『コウモリ』という喰種だ。3年前から消息が分からなかったがこいつなのか?様子が変わりすぎだ」
刈谷はかつて自分が追っていた喰種と類似点に気づく。
しかし、コウモリは浮浪者の様な格好をした喰種だった。
今のような化け物の姿ではない。
疑問が残るが今は対処するのが優先だ。
「フッ!」
ウルシを振るって喰種に仕掛けるがそれを身を翻してかわす。
仁志がそこに追撃を仕掛けるが身軽な喰種はそれをもかわしてしまう。
喰種は絋輝を見つけると仁志達には目も向けずに襲おうとするが刈谷がそれを阻止する。
「君は早く逃げなさい」
「は、はい!」
絋輝に逃げられ、喰種は邪魔な刈谷を睨んで獣のような唸り声をあげる。
「グルルル……」
「お前が何者なのかは分からないがこれだけはハッキリ分かる。お前は生きてはいけない奴だ」
ウルシを構え直して喰種と一騎打ちに持ち込もうとするが、その時喰種が頭上を向いて咆哮を上げる。
しかし、それは咆哮というより音波のように甲高い。
「うるさっ……!」
「ぐっ……」
近くにいた仁志と刈谷は耳を抑えるが頭に響くような痛みが走る。
やがて咆哮が終わると先ほどの喰種の攻撃が刺さった死体が動き出す。
その死体達はゆっくりと立ち上がると刈谷に向かっていく。
迫ってくる死体に刈谷はクインケを鞭にして攻撃するが数が多く、更に死体であるためか痛みを感じた様子もなく、致命傷を与えても怯まない。
攻撃力が低いウルシでは多くの数を制圧するのは難しく、徐々に追い込まれる。
その様子を見ていた喰種が醜悪な笑みを浮かべて見ていることに気づき、刈谷は怒りだ額に血管が浮かぶ。
「外道がっ!」
怒りで更に力が篭るがそれでも死体の軍勢を切り抜けることができない。
焦ってしまったのか背後から近づく死体に気付けず、襲われてしまう。
「しまっ……!」
「シッ!」
しかし、そこに仁志が割り込み死体を一太刀で倒す。
「俺が道を切り開きます。刈谷特等はあの喰種をお願いします」
「分かった。任せるぞ!」
仁志はその言葉と同時に喰種に向かって走り出す。
向かってくる死体には仁志がクインケで切るのではなく、吹き飛ばす。
まるで暴風のような一撃が死体を吹き飛ばして喰種までの道を作り出す。
(戦闘能力だけならもう上等捜査官と違いはないな。流石荒木さんの息子だ)
前を行く仁志の背中を見て、かつて憧れた仁の姿を思い起こさせた。
やがて死体を全て蹴散らし、喰種へと続く道が出来た。
「刈谷特等!!」
「ああっ!!」
刈谷は喰種に向かって飛び出し、クインケを振るう
(俺のクインケではこいつの回復力を上回ることはできない。なら……!)
刈谷に向かって放たれる羽赫の攻撃をかわし、間近に近づくとクインケを鞭にして喰種の体中に巻き付ける。
「オオォッ!!」
掛け声と共にクインケを引っ張ると巻きついたクインケが高速で動くことで傷つけていき、体を切り裂いた。
体をバラバラに切り裂かれた喰種は血の池に沈み、動かない。
「ふぅ……(これで終わったか?)」
動かなくなった喰種を見て、一息つき周りを見渡すと自分たちを襲ってきていた死体達も動かなくなり倒れていた。
「その死体たちはどうした?」
「刈谷特等が喰種を討伐した瞬間に動かなくなりました」
仁志の報告を聞いて思考に耽ってしまう。
(赫子が刺さった死体を動かす?赫子自体を切り離して操る個体はいたが赫子から他者を操る個体なんて聞いたことがない)
足下で無惨な肉の塊となった喰種を見て、不味い事態になっているのではないかと考えてしまう。
「刈谷特等、どうかしましたか?」
「……いや、何でもない。残党の殲滅、民間人の救助に向かうぞ」
刈谷がそう言って喰種の血溜まりを踏んだ瞬間、死んだ筈の喰種の指がピクリと動いたのを仁志は気づく。
「刈谷特等!!」
仁志が叫ぶのと同時に喰種の肉塊が刈谷に飛びつきしがみ付く。
「なっ!?こいつ……!」
胸にしがみ付くのを剥がそうと踠くが、肉塊が次々と刈谷の体にくっついていく。
そして最後に頭部が刈谷の首元付近に飛びかかり、首筋に鋭い牙を突き立てる。