絋輝の体から黒い粒子が溢れだし、刈谷の胸ぐらを掴み持ち上げる。
刈谷もその手を放そうと絋輝の腕を掴むがびくともしない。
喰種の筋力は通常人間の7〜8倍もあり、鍛えているとはいえ高校生の絋輝が対抗出来るはずもない。
しかし、今はそれとは真逆の状況で絋輝の腕を引き剥がすことができない。
翼を変形させて触手で離れようとするがその前に刈谷を投げ飛ばす。
投げ飛ばされてうつ伏せに倒れる刈谷の背中を踏みつけて、動けないようにする。
「ガアァッ!!」
刈谷は背中の触手で絋輝を攻撃しようと振るうがそれらを両手で掴まれてしまう。
「ハ、ハナセ!!」
「……あああぁぁぁぁっ!!!」
絋輝が雄叫びを上げながら触手を引っ張るとブチブチと肉が千切れる音が鳴り、赫子を引きちぎった。
「ギャアアァァァッ!!!?」
「フゥー……フゥー……」
荒くなった息を整えながら刈谷の髪を掴んで引っ張って自分の方に向ける。
「……俺が怖いか?」
「アア?」
絋輝は刈谷に寄生した喰種と同じことを聞くと最初は訳が分からないと言った顔だったが理解した刈谷は怒りを見せるがその瞬間、仁太郎は刈谷の顔を地面に何度も叩きつける。
「ア、ガッ!?ハガッ?!」
肉と骨が潰れる音が響き、血が地面に広がると絋輝は動きを止めて再び胸ぐらを掴んで持ち上げる。
そして躊躇なく、潰れた顔の辛うじて分かる眼球に親指を躊躇なく差し込む。
普通ならそんな惨いことは出来るはずもないが怒りで我を忘れている絋輝には関係がなかった。
「あああアアアァァァッ!!!」
雄叫びと共に力を込めるとより一層体から黒い粒子が溢れ、刈谷の体を無理矢理左右に引き裂いた。
刈谷の血が全身を染め、雨が流し落としてくれるがその顔は血を被ってもなお怒りに染まっていた。
足下に転がる刈谷の死体を一瞥すると吹き飛ばされた吉桐のことを思い出し、駆け寄る。
血を流して動かない吉桐を抱き起こす。
「吉桐!吉桐!?しっかりしろ!!」
「ぅ……ぁ……こうき……ははっ、酷い、顔だなぁ」
目を覚ました吉桐は焦点が定まらない目で絋輝を見上げる。
熱を帯びている腹部に手を当てて見ると血がベッタリとついているのが分かった。
「はぁ……ははっ……これは助からないな……ごほっ、ごふっ!?」
「吉桐!!」
咳き込むと腹から押しあがってきた血が口から溢れてしまう。
悲痛な叫びを上げる絋輝の頬を吉桐が血濡れた手で撫でる。
「なんで……人ってこんなに惨いことができるんだろうね」
突然話し出した内容に絋輝は理解できなかった。
「人も喰種も同じ世界に生きてるのに……何でこんな奪い、奪われることになってるんだろう……僕はただ愛しい人たちと幸せに……生きたいだけなのに……」
吉桐は懐からハロウィンに使っていた喰種のマスクを取り出し、絋輝に被せてあげる。
「絋輝……君はこの世界をどう思う?…………」
「……吉桐?……ッ〜〜〜〜!!!」
吉桐はそう言うと目を閉じ、腕から力が抜け地面に落ちる。
息を引き取ったことが分かり、声にならない叫びを上げる。
叫び声を上げながら慟哭していると足音が聞こえてくるが絋輝にはそちらの方を向く余裕がない。
「お前は……?」
足音の正体は怪我をした仁志であり、絋輝の近くに真っ二つになった刈谷の遺体、死んだと思われる一般人とそれを抱きかかえるマスクを付けた人物を見て状況を判断する。
「……そこのお前、その死体から離れてゆっくりこっちを向け」
「………」
仁志の言葉に反応せず、効果はマスクの中で涙を流すことしかできなかった。
動かないと分かった仁志は思い切ったことを聞き出す。
「この状況はお前がやったのか、篠宮 絋輝」
「………」
「お前が刈谷特等やそこの人を殺したのか?それとも全くの別が原因なのか?……それともお前が原因でこんなことが起きてるのか?」
仁志の最後の言葉に絋輝の肩がピクリと動き、ゆっくりと顔を向けて吉桐の遺体を丁寧に地面に寝かせて立ち上がる。
「………」
「………」
互いに何も言わず、視線だけが交差する。
絋輝の目には悲壮感、絶望が。
仁志の目には怒りと正義感が。
いつのまにか雨が止んでおり、ジメッとした空気だけがその場に流れていた。
互いに何も話さず、動かないまま時間が流れると仁志の背後から複数の足音が聞こえてくる。
「荒木二等!!応援に来たぞ!!」
「出河上等……」
「奴が今回の黒幕か?」
「いえ、それは……」
応援に来た出河率いるチームが現場に到着し、絋輝にクインケを構える。仁志が何か言おうとした瞬間、どこからか発射音が聞こえてきて絋輝と仁志たちの間に煙幕弾が着弾する。
「なんだ!?」
「奴の仲間か!?」
「落ち着け!固まって周りに警戒しろ!!」
突然の事態に狼狽える捜査官に出河が指示を出すなか、仁志は絋輝の方だけを見ていた。
煙幕が張られてよく見えないが煙幕が広がったのと同時にどこからか現れたカラスのようなマスクをつけた背丈の高い男が絋輝を肩に担いでいた。
背丈の高い男は仁志を一瞥すると高く跳躍してその場から離れた。
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肩に担がれた絋輝は助けてくれた四方に力なく声をかけた。
「……戻ってください。あそこにはまだ吉桐が……」
「……戻ったところでお前の友人が生き返る訳でもない。董香のためにお前は生きろ」
「ッ………」
四方のその言葉に絋輝は言い返すことも出来ずに唇を噛み締めることしかできなかった。
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ハロウィンパーティーの被害者はのべ800人までに上った。
過去最悪の喰種事件を解決したのは殉職した刈谷特等と仁志と報道された。
この事件での犯人は初めて現れたにも関わらずSS+レートに認定され、通称『ヴァンパイア』と呼称された喰種。
そしてヴァンパイアが現れた原因として亜人4号『ゴースト』と報じられ、亜人に対する危機感を日本中に知らしめた。