渋谷のスクランブル交差点でトラックに轢かれてしまい、リセットが起きてしまった絋輝は呆然とした様子で立ち尽くす。
その時、誰かが呟いた。
「亜人だ」
その一言で周りは一気に騒がしくなる。
「え?マジで?」
「だって目の前で復活したんだよ!?」
「うわ、怖……」
「案外普通の奴じゃん」
「マジで本物じゃんww」
周りの野次馬は好奇の目で見ており、スマホなどを向けて写真や動画などを撮り始める。
しかし、誰かの一言が空気の流れを変えた。
「あの亜人のせいでハロウィンの喰種が暴れたんじゃね?」
すると先まで好奇の目で見ていた群衆の目に恐怖が生まれ、さらに騒ぎになる。
「まずい……!」
「真戸さん!?」
まずい事態になるといち早く気づいた真戸が絋輝の元に駆けつけようとするが群衆が多くなかなか辿り着けない。
非難の目を向けてくる人達に絋輝は追い込まれていくような感覚に襲われ、動けなくなる。
「絋輝!!!」
名前を呼ばれ、振り向くと董香が必死な顔をして叫んだ?
「逃げて!!!」
董香に言われて絋輝は群衆の中に飛び込んで人の中へと姿を消した。
辺りは騒然とし、警察とCCG捜査官は群衆を落ち着けながらも絋輝の確保に向かうべきか決めあぐねて動けずにいた。
「………」
その中で真戸は絋輝が逃げた方向をジッと見て、次に群衆の方を向く。
騒ぎ出す群衆の中を何かを探し出すかのように見つめる。
「真戸さん、どうしたんですか?」
「亜門くん、私は絋輝くんを追うよ。このまま彼を1人にすると不味い状況になる」
「こうき……?あ、真戸さん!」
真戸は亜門の静止も聞かず、群衆を分け進んで絋輝を追いかける。
残された董香は何が起きたか分からず座り込んでしまっている依子を立たせてここから離れようとする。
「と、董香ちゃん……絋輝くんに何が起きたの?」
「よく分からないけど、一旦ここから離れよう?すごい騒ぎになりだしたし。それから絋輝のことは考えようよ」
「う、うん……」
体に力が入らない依子を支えて歩く董香は絋輝が逃げて行った方向を見て、心配する。
(絋輝……無事でいて)
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渋谷スクランブル交差点前の喫茶店で1人の若い男がコーヒーを飲んでおり、眼下に広がる騒ぎを見てほくそ笑んでいた。
するとそこにもう1人の若い男が疲れた様子で片手に飲み物を持ちながら現れる。
「おつかれ」
「いやー疲れましたよ。アホみたいに人がいるんですもん。ここに来るまででめちゃ疲れましたぁ。これってボーナスでますよね?
座っていた男は亜人研究会の顔役として最近知られている齊藤だった。
そしてその腹心みたいな立ち位置であるもう1人の男はもう一つの席にって愚痴をこぼす。
「たった二言、群衆の中で話すだけなのにボーナスなんて出ないよ、
「キャラメルフラペチーノです」
2人は外の喧騒とは全く異なり、いつも通りの様子で話を続ける。
「でも驚きましたよ。本当に二言話しただけであんな騒ぎになるなんて」
齊藤はコーヒーを一口飲んだ。
「今まで亜人について良いも悪いも広報したからね。いつ爆発してもおかしくなかったが今回はいい起爆剤になった」
「起爆剤ってあのトラックを用意したの齊藤さんじゃないですか」
窪谷の一言に齊藤は笑みを浮かべた。
「齊藤さん、楽しそうですね?」
「そりゃあねぇ、狩りがこれから始まるんだから」
齊藤は絋輝が逃げた方向を見ながら、これから始まることを楽しみにしていた。
ーーーーー
絋輝が逃げてから数時間が経ち、董香は依子を落ち着けてからすぐにあんていくに向かった。
あんていくは臨時休業しており、奥の応接間には芳村をはじめとしたあんていくのメンバーと亜人である甫と雄二がいた。
「絋輝から連絡は!?」
「ないな。その様子だとそっちもないみたいだ」
「董香ちゃん、何が起きたか詳しく教えてもらっていいかな?」
董香は渋谷で起きた事を話すと芳村と甫は考える素振りを見せる。
「……霧島、篠原を轢いたトラックはその後どうした?」
「は?そんなの今関係ない……」
「いいから」
「……ちゃんとは覚えてないけどそのままどこかに行ったはず」
甫がそう言うと董香は不満そうにしながら答えた。
それを聞いた芳村と甫は眉間に皺を寄せる。
「今回の件は誰かが裏で手を引いている可能性がある」
芳村のその一言に全員が驚いた顔を見せる。
「そんな…!誰が!?」
「亜人だと知られて得する奴ら……亜人研究会だろうな」
その言葉を聞いて全員がどうするか悩んでいると董香は居ても立っても居られなくなり、部屋から出て行こうとする。
「董香ちゃん、どこに行くんだい?」
「ここで考えていても仕方ないです!絋輝を探しに行きます!」
出て行こうとする董香の肩を芳村が抑えて、行かせないようにする。
「離してください!」
「落ち着きなさい」
「今、出て行っても篠原がどこにいるか分かるのか?」
「それは……っ!」
甫の言葉に董香は答えることが出来ず、悔しそうにする。
「董香ちゃん、今は警察が動いている。下手に動くと絋輝くんを追いづらくなる。今は動かずにいた方がいい。それに絋輝くんから連絡が来るかもしれない」
芳村の言葉に董香は渋々と納得したが董香はこの後のことに大きな不安が胸の中で燻っていた。
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アオギリの樹のアジトでエトはテレビを見ていた。
そこには絋輝が亜人であることと、既に警察による捜査網が敷かれていることが報じられている。
すると背後にタタラが現れてエトに声をかける。
「エト、どうする?」
「勿論、彼を獲りにいくよ」
いつもなら戯けた口調だが今はそんな様子はなく、どこか焦った様子だった。
「人選は?」
「私が行く……と言いたいけど、別件があるから行けないね。じゃあ城方さんに行ってもらおう」
「わかった」
タタラが先日『偏食家』から奪った喰種『アマゾネス』の所に向かおうとするとエトが呼び止める。
「待ってタタラさん。城方さんに伝えて欲しいんだけど邪魔する奴らは全員ブチ殺していいから」
赫眼を発言しながら話すエトにタタラはいつもとは違う真剣な様子に何も言わなかった。
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ニュースで絋輝のことが報道される前のCCG本部には喰種捜査官が一同に集められていた。
その中には全ての特等捜査官がいた。
「刈谷さんが死んだ現場で亜人が二度出現……これって亜人4号のゴーストと同じなんですかね?」
若くして特等に登り詰めた宇井 郡が同じ特等でありCCG最強の死神、有馬 貴将に質問する。
「どうだろう。亜人である彼が自身が狙われたであろう場所に戻る理由が分からない。仮に理由があったとしてもあまりいい理由ではないと思うけどね」
淡々と話す有馬の話を聞いていた宇井だが有馬の更に隣から声を掛けられる。
「シッ、2人とも今はそんな話をするのはやめなさい」
唯一の女性特等捜査官である安浦 清子が2人の話を止める。
「憶測で話すのは最も危険なことよ。亜人については我々はほぼ素人なのだから。……それに」
安浦はそう言って少し離れた席を見る。
そこには険しい顔をした篠原が同じ特等である黒岩の隣に座っていた。
すると会議室に和修局長が入ってくる。
全員が立ち上がり敬礼をしたが、すぐ後に入ってきた亜人研究会の齊藤を見て少し騒つく。
全員が着席すると和修局長が話し出す。
「我々、CCGは今後亜人研究会と共に亜人確保に動く」
和修局長がそう宣言すると捜査官達のざわつきが大きくなった。
騒ぎ声が小さくなると話を続ける。
「我々は喰種の脅威から市民を守るのが義務だが亜人の存在はその脅威を大きくする一因だと判断し、亜人研究会と手を組むことになった。突然のことで動揺すると思うが皆も協力して欲しい。……では、これより亜人研究会の齊藤氏より詳細を話してもらう」
「どうも和修局長。今回は亜人4号、通称『ゴースト』の確保にCCGの皆様には動いていただきます。とは言っても通常の喰種と同じく複数のチームを専属として動いてもらいます」
すると若い捜査官が手を挙げて質問する。
「我々が敵対をするのは喰種と亜人だけでしょうか?」
その質問に齊藤は笑みを一瞬浮かべた。
「基本的には我々が追うゴーストとそれを狙う喰種だけだと思いますが、恐らく外国の傭兵部隊と戦う可能性もあります」
その言葉に捜査官達は騒ぎ出す。
「落ち着いてください。理由を話します。そもそも亜人は金のなる木……いや、その言い方も過小だな。無限の可能性を秘めた宝みたいなものなんですよ」
齊藤の言葉に篠原の握っていた拳から握り締める音が鳴り、隣に座っていた黒岩には聞こえた。
「とある情報筋から既に他国と企業がゴーストを捕まえようと動き出しているみたいです。これが人間と戦うかもしれない理由です」
理由を聞いた捜査官たちは険しい顔をする。
捜査官たちは喰種の命を奪うが人間の命を奪うのは訳が違う。
命のやり取りをするのに違いなどない筈だが捜査官たちはそこを線引きして命を掛けている。
「安心してください。もし彼らとやり合う時は警察、自衛隊、それに私設の部隊を動かしますよ」
万人に受ける優しい顔をしながらもその目には狂気が宿っていた。
「さあ、皆さん。協力してゴーストを捕まえましょう。それがこの国の人たちのためになるんですから」
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こうして様々な勢力が亜人である絋輝を求めて東京で動き出す。