東京喰種ーGhostー   作:マーベルチョコ

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#55 君は彼の弱点だ

時間は絋輝が逃げ出してから1時間後までに戻る。

絋輝は一端、渋谷の路地裏に逃げていた。

乱れた呼吸のままその場に座り込み、自分の状況に頭を抱えた。

 

「くそっ……くそっ!くそっ!」

 

亜人としての正体がバレたことに取り乱してしまうが、深呼吸をして頭を落ち着かせる。

 

「すぅ、はぁ……これからどうする?スマホは……!だめか……」

 

ポケットから取り出したスマホはヒビ割れており、電源もつかない。

取り敢えず情報を集めようと動き出す。

自分の服が血で汚れていることに気付き、すぐ側で酔い潰れている青年を見つけて服を拝借する。

 

「ぅ……一旦、スクランブル交差点に戻って様子を探ろう」

 

服の酒臭さに一瞬顔を歪めるが、情報を集まるためにフードを深くかぶってスクランブル交差点に向かう。

スクランブル交差点は警察とメディア、野次馬と多くの人がいた。

その人混みに紛れ、様子を伺う。

すると巨大モニターから緊急ニュース速報が流れる。

 

『速報です。13区に現れた亜人確保のため総理は亜人4号『ゴースト』を確保するため、正式に警察、自衛隊、CCG、亜人研究会に要請を出しました。また亜人4号に関する情報も開示されました。亜人4号の氏名は篠原 絋輝、16歳。もし見かけた場合、追わずに専門の番号に連絡をお願い致します』

 

その言葉と共に、絋輝の学生としての写真が映し出された。

 

(もうそこまで……!動くのが早すぎるだろ!)

 

絋輝は顔を見られないように下を向き、その場から離れた。

とにかく人混みは避けようと渋谷の中心地から離れた。

寂れた公園のベンチに座って、どうするか考える。

 

(取り敢えず……家族に連絡しよう)

 

近くにあった電話ボックスから服を貰った男から少し拝借した金で電話をかける。

電話をかけて5回コールが鳴っても出ず、絋輝は不可思議に思った。

 

(遅いな……いつもなら母さんがすぐに出るのに)

 

更に3回コールがなると漸く電話に出た。

 

『絋輝……なの?』

 

「母さん!?良かった……」

 

母親の声を聞いて今まで不安だった気持ちが柔らぐ。

 

『……そっちは無事なの?』

 

「ま、まぁ無事かな……みんなは大丈夫?」

 

『え、えぇ……こっちはみんな元気よ……』

 

どこか歯切れが悪い母親に訝しげに思い、ある質問をする。

 

「……母さん。今、そこに家族以外の誰かがいる?」

 

『……ッ!絋輝!今は家に帰ってきちゃダメよ!警察と亜人』

 

そこで電話は切れてしまい、絋輝は受話器を耳から外して驚く。

 

(もう家にまで……!?みんなは無事なんだよな!?)

 

余りにも早く動く事態に絋輝は戦慄してしまい、電話ボックスの壁にもたれてしゃがみ込む。

 

「そうだ……董香は?」

 

絋輝は董香の携帯に電話をかけるとすぐに出た。

 

「も、もしもし!?俺、絋輝だけど董香、そっちは無事か!?」

 

『絋輝!?本当に絋輝なの!?無事でよか』

 

しかしそこで董香の声は途切れてしまう。

 

「董香?どうした!?何かあったのか!?」

 

『本当に篠原絋輝か?』

 

次に電話に出たのは甫だった。

その声色は警戒心が強く表れていた。

 

「は、甫さん?何言って」

 

『俺たちと篠原絋輝しか知らないことを言え』

 

突然の質問に戸惑う絋輝だが素直に従うことにした。

 

「雄二さんは俺と初めて会ったとき、いきなり頭を銃で撃たれました」

 

『……』

 

暫く沈黙が続くと甫から話し出した。

 

『絋輝くんで間違いないようだな。無事でよかった。今、みんなに聞こえるようにスピーカーにする』

 

確証を得たのか甫の声色が変わり、いつも通りになる。

絋輝は自分の状況を伝えた。

 

「家にももう警察が来ていて帰れない状況なんです」

 

『……そうか。じゃあ俺たちが匿う。今、どこにいるんだ?』

 

「たぶん……恵比寿辺りだと思います」

 

『分かった、こっちで作戦を考える。少し時間を欲しい』

 

そう言うと電話は甫から董香に代わる。

 

『絋輝、本当に無事なんだよね?』

 

「うん、今のところは……そっちは大丈夫か?依子の様子とか」

 

『私は大丈夫。依子は……動揺していたけど取り敢えずは落ち着かせたから』

 

董香の言葉に絋輝は依子に対して申し訳ない気持ちになる。

 

「ごめん、何から何までそっちに任せて」

 

『絋輝が謝ることじゃない!あれは事故だったんだから……。私たちが絶対に迎えに行くから、安心して』

 

董香のその言葉に絋輝の胸に安心感が広がる。

 

「あぁ、ありがとう。待ってる」

 

『うん、あっ!?ちょっ……!』

 

董香の声が途切れ、甫の声が聞こえてくる。

 

『悪いな、恋人の会話を終わらせて。作戦を伝えるぞ』

 

甫から伝えられたのは港近くにある倉庫で回収するとのことだった。

 

「でも何で港で?」

 

『港なら地上と海の二つで助けに行ける。それに今日は季節外れの台風が夜に近づいて海が荒れるから誰も港に近づかないだろう。夜の10時に迎えに行くからそれまでに着くようにしてくれ。それと合流するまでこちらに電話をかけてくるな。こっちの情報が漏れるかもしれない』

 

「分かりました。……あっ、最後に董香と電話をさせて欲しいですけど」

 

『少しだけだぞ?』

 

『……絋輝、必ず助けるから』

 

「うん、俺も必ず間に合うようにする。董香も無茶はしないでくれよ?じゃあ切るから」

 

『……うん』

 

董香の名残惜しそうな声を最後に絋輝は受話器を置いた。

 

「……ふぅ」

 

董香の声を聞いて折れそうだった心を持ち直し、電話ボックスを出る。

 

「行くか」

 

絶対に董香の下に帰ると心に決めて絋輝は歩き出した。

 

 

ーーーーー

董香が電話を切ったのを見届けて甫は話し出す。

 

「誰が行くかは俺が決めてもいいですか?芳村さん」

 

「構わないよ。そちらの事情もあるだろうしね」

 

ありがとうございます、と頭を軽く下げて全員の方を向き直る。

 

「篠原を迎えに行くのは雄二と四方 蓮示に頼む。車を用意するからそれで……」

 

「ちょっと待ってよ!?」

 

甫の話を遮ったのは怒りで顔を歪ませた董香だった。

その顔のまま甫に食ってかかる。

 

「何で2人なの!?」

 

「何でって俺たち亜人の中で顔がバレていないのは雄二だけだ。それに1人だと危険だから実力がある四方 蓮示にした」

 

「そうじゃなくて!何で私が入ってないんだよ!?」

 

董香は自分が選ばれていないことに憤るがそれを聞いた甫は呆れた表情になる。

 

「言わないと分からないか?君は彼の弱点だ」

 

「弱点?」

 

「篠原は君のためならどんなことでもするだろうな。君が捕まれば篠原も捕まる」

 

そう言われて董香は言い返すこともできなかった。

悔しそうにする董香の肩を四方が労わるように手をおく。

何も言わないがその目には任せろ、と言っていた。

 

「四方さん……絋輝をお願いします……!」

 

懇願する董香に四方は頷いた。

 

 

ーーーーー

喰種捜査官と亜人研究会の人間を乗せた複数の車が港に向かって走っていた。

捜査官が乗っている車には篠原、真戸、亜門が乗っていた。

他の車両には複数の捜査官が乗っており、戦力としては過剰だった。

 

「こんなに捜査官が……たった1人を捕まえるだけなのにこの数を揃える必要があったのでしょうか?」

 

「たった1人とは言え、相手は亜人。我々にはノウハウがないから数で捕まえるしか無い。しかし、我々にとっては悪い状況だねぇ、篠原」

 

「……….」

 

真戸の言葉に篠原は何も答えず、黙っていた。

その様子から怒りを我慢しているのは明らかだった。

 

「我々の目的は絋輝くんを捕獲するのではなく逃すことだ。誰よりも早く見つけ、保護しなくては……しかし、亜門くんは良かったのかね?我々がやろうしていることは明らかに命令違反だ。君のキャリアに傷がつくよ?」

 

真戸の確認に亜門は声を張り上げる。

 

「はっきり言って亜人研究会は信用なりません。亜人対策法は明らかに法を逸脱しています。それに篠原さんはアカデミー時代の恩師、協力するのは当たり前です!」

 

亜門の言葉に篠原は笑みを浮かべる。

 

「ありがとうな。真戸、亜門」

 

篠原の言葉に2人は笑みを浮かべて答えた。

一方、亜人研究会のもはや顔役である齊藤が窪谷と共に車に乗っていた。

 

「まぁ、恐らく篠原元特等、真戸上等、亜門一等は独自に動いてゴーストを確保しようと動くだろうね」

 

「それを分かっててチームに入れたんですか?他にも強い捜査官いたじゃないですか」

 

「亜門一等は別として2人はゴーストに対しての餌だね。身内がいれば動揺するだろ?」

 

「はー、なるほど」

 

2人の間には緊張感などなく、ゆるい空気が流れている。

ふと齊藤は空は暗くなり、風が強く木々が激しく揺れている外の光景を見ていると横から追い越して行った車が目に入った。

 

「……窪谷くん。ちょっと路肩に車止めてもらえるか?」

 

「え?あっ、はい」

 

窪谷は言われた通り路肩に車を止めると齊藤は即座に車を降りて先ほどの車を目で追いかけた。

捜査官の車群からは別の道へと走って行った。

 

「窪谷くん、降りてくれ。少し行きたい所がある」

 

「え?降りるんですか?」

 

窪谷は戸惑いながら車を降りると運転席に齊藤が乗り込む。

 

「君は別の車に拾って貰いな」

 

齊藤はそれだけを窪谷に言って車を走らせた。

 

 

ーーーーー

絋輝は港近くの人通りがない狭い道に到着していた。

空は暗くなり、風が強くなっている。

公共交通機関を使わずに来たため、予想していたより遅れてしまった。

 

(この道を抜ければ港はすぐのはず……!)

 

気持ちは焦りながらも、もう少しでこの状況から抜け出せるという希望を持ち足を進める。

更に足を進めようとした瞬間、絋輝の数メートル先に人が立っていた。

体型から女性だと分かるが肩幅が広く、背が高い。

 

「お前が亜人『ゴースト』の篠原絋輝だな?」

 

そして何より特徴的なのが女性らしさがありながら攻撃的なマスクをしていることだ。

 

「一緒に来てもらうぞ」

 

「喰種!?こんなところで……!」

 

絋輝は迫る喰種にすぐに背中を向けて来た道を戻ろうしたが、喰種はその場から跳躍して絋輝の前に躍り出ると腹に蹴りを放つ。

 

「ぅごっ……!?」

 

「お前を連れてくるのに多少手荒にしても構わないということだ。どうせ死んでも生き返るんだろう?」

 

内臓が直接揺れ動いたかのような衝撃が腹に伝わりながら吹き飛ばされる絋輝は地面に転がる。

喰種が苦痛で蹲る絋輝を掴み上げると体と、服に付着していた血の匂いが喰種特有の鋭い嗅覚に伝わる。

すると目眩がするかのような芳醇な匂いに思わず喰種は顔を背けた。

 

(これが亜人の匂い……!思っていた以上にマズイな。理性を保つのが難しい)

 

意識がそのことに集中していると喰種の背後に突如現れた人影から攻撃が振るわれた。

喰種は寸前でかわしたがその拍子に絋輝から手を離してしまう。

 

「SSレート『アマゾネス』、暫く姿を見せていないから死んだと思っていたんだけどね」

 

絋輝を助けた人物は持っている武器を強く握りしめる。

 

「篠原か!」

 

「ウチの息子に手を出すのを止めてもらおうか……!」

 

数々の喰種から恐れられた不屈の篠原が目に怒りを燃えさせながら絋輝を守るために立つ。

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