絋輝を助けるために駆けつけた絋輝は一瞬嬉しかったがすぐに気まずい表情になる。
それを尻目に篠原とアマゾネスは睨み合う。
「やっぱりCCGは亜人研究会と組んでいたか。亜人も喰種と同じで駆逐するのか?」
「お前らとは違う、亜人たちは安全な環境に保護する」
「安全、ね……それがどこまで本当なのやら」
殺伐とした空気の中、篠原はアマゾネスを睨みながら絋輝にだけ聞こえるように小声で話し出す。
「絋輝、時間がないから手短に話す。父さんの仲間がお前を保護してくれる。亜人研究会とは手を組んでいないから安心してくれ」
篠原の言葉に絋輝は目を僅かに見開いて驚いた様子を見せる。
「道を戻ってすぐ近くにガラス張りのビルがある。そこの裏手に亜門という男が待っているから合図を出したらそこまで走るんだ」
「……父さんはどうするんだ?」
「俺はコイツを引き付ける。後で会おう。………それと絋輝、お前が無事で良かった」
そう言ってこちらを見て微笑む篠原はいつもの頼れる父親の表情だった。
「走れ!!」
その言葉と共に篠原はアマゾネスに切り掛かる。
鋭い斬撃をアマゾネスは紙一重で避けるがそれを篠原は分かっていたかのように、更に追い討ちをかける。
直撃すると思われた攻撃は硬い物がぶつかる音で弾き返された。
「流石、特等。赫子なしでは無理か」
肩から生える鉤爪のような形をした甲赫の赫子を構えながらそう呟く。
その様子に篠原はクインケを構え直して目を鋭くする。
アマゾネスは篠原の背後で背を向け、走って逃げる絋輝を見つける。
「お前たち!獲物は走って逃げている人間の男だ!捕まえろ!!」
その声を掛けられた瞬間、篠原たちの両脇にあるビルの屋上からの複数の喰種たちが飛び降りてきた。
「絋輝!?」
「……くそっ!『ゴースト』!!」
襲いかかってくる喰種達に絋輝はゴーストを出して対抗する。
アマゾネスと同じ民族的なマスクを付けた集団は一体ずつは大したことはないが連携して絋輝とゴーストを追い詰めて行く。
赫子の攻撃をゴーストで防ぐがゴーストの体の一部が削られてしまう。
(エトに聞いていた通り、赫子はあの黒いのに効くのか)
「ハァッ!!」
自身の古くから付き従う部下たちが絋輝たちを追い込んでいく様子を見て、そう思案していると篠原が鋭い攻撃を繰り出すがアマゾネスはそれを防ぐ。
「どうした。さっきから攻撃が鈍いな?後ろが気になるか?」
「黙れッ!」
篠原はそう怒鳴って返すが図星だった。
本当ならすぐにでも助けに行きたいが目の前のアマゾネスがそれを許さない。
絋輝を助けに向かおうとした瞬間、殺されてしまうのは目に見えていた。
篠原の顔には焦りが見えており、それは絋輝も同じだった。
徐々に体が削られていくゴーストは遂に膝を着き、体が崩壊してしまう。
ゴーストに守られながらも傷ついた絋輝は追い詰められた顔になる。
部下の喰種が絋輝を確保しようと近づいた瞬間、背後から銃撃される。
「がぁっ!?」
「目標を発見!それを狙う喰種と交戦する篠原特等も発見しました!」
「A〜B班は特等の援護を!C〜D班は目標の確保に行け!」
『了解!』
出河の号令で捜査官たちが動き出す。
手練れの捜査官達が喰種たちを牽制して絋輝から引き離し、その後から続く捜査官達が絋輝を地面に押さえつけた。
「ぐあぁっ!は、放せ!」
「大人しくしろ!!」
「こちらC班、目標の亜人『ゴースト』を確保」
もがく絋輝を見て、篠原は更に焦りを見せる。
(不味い……!真戸も亜門もここにはいない!どうにか絋輝を助け出さなければ……!)
「よそ見とは、らしくないな」
「しまっ……ぐぅっ!?」
目を一瞬晒した瞬間、アマゾネスは赫子を振るって篠原の肩に浅くない傷を付ける。
「特等!?」
「大丈夫だ!」
血が流れる肩を抑えながらアマゾネスを睨む。
久しぶりの強敵との戦いだがここまで遅れを取ることは普段はない。
絋輝を喰種とCCGから逃がそうと考えてしまい動きが鈍る。
「ぐぅぅっ……!」
「動くな!」
「麻酔薬を早く打て!」
捜査官の1人が懐から麻酔薬を取り出すのを見て、絋輝は叫ぶ。
「ゴーストォッ!!!」
体から粒子が溢れ出し、押さえ付けていた捜査官達を吹き飛ばした。
倒れる捜査官の方を向いたゴーストは爪を尖らせて捜査官に向けて振り下ろした。
「やめろ!殺すな!」
絋輝のその言葉に爪を寸前で止めた。
目の前に迫る爪に冷や汗を流す捜査官を尻目に絋輝は立ち上がって走り出す。
しかし、その瞬間に別の捜査官が銃を撃ち、絋輝の足に命中してしまう。
「があっ!?」
「絋輝!?」
倒れてしまう絋輝だがゴーストが絋輝を抱えてビルの壁を駆け上がって逃げた。
アマゾネスは逃げた絋輝を追いかけようと構えた瞬間、篠原が切り掛かった。
「行かせるか!!」
「チッ、邪魔だな」
アマゾネス一派と篠原が率いる捜査官の戦闘は更に激化していく。
ーーーーー
ゴーストに抱えられた絋輝は追いかけてくる捜査官達のパトカーを見下ろし、どこに逃げるかと考える。
その時、絋輝の頬に一粒の雨が落ちる。
「雨……?っ!まずっ……!?」
雨が降っていることに気づく前に一気に降り出した雨のせいでゴーストの動きは錆びついたブリキ人形みたいに動かなくなり空中で止まってしまう。
更に重力に従って、絋輝を抱えたまま地面へと落ちて行った。
下にあったビルの壁に激突し、骨が折れる音が響かせながら落ちる
地面に落ちると血が雨で流れ落ち、体から僅かに黒い粒子を発生させてリセットする。
立ち上がって苦しい表情をしながらも背後から聞こえるパトカーのサイレン音に急かされるように足を進める。
(もう少しで合流地点だ……!)
雨風が強くなる一方だがもう少しで雄二たちと合流できると思うと足が進む。
やがて開けた場所に出た瞬間に爆風が絋輝を襲った。
咄嗟に顔を腕で覆って守り、恐る恐る目を開けるとそこには炎上して大破している車の前に立つ齊藤がいた。
呆然とした顔で自分を見る絋輝に気づき、そちらに顔を向けて笑みを浮かべる。
「やっと来たね。初めまして『ゴースト』くん」
絋輝には雨とともに絶望が降り注ぐ。