皮膚は白く、頭には四つの角らしき突起物が生えてその下には隻眼の赫眼がギョロリと蠢いている。
優に3mは超えるその巨体にはボロ布が覆われており、不気味さと威圧感を醸し出す。
CCG最大の敵『隻眼の梟』が齊藤に襲いかかった。
細くも巨大な腕が齊藤に振るわれるが後ろに飛び退くことでかわす。
「おおっと!」
『ケハハハ!!!』
梟と対峙する齊藤は恐怖するどころか楽しんでいた。
「ははっ、ボーナスステージだ」
『アーソビーマショーウ?』
梟の嵐のような猛攻を齊藤は全て捌いていく。
その体には全く傷が付かず、梟は口元を僅かに歪ませる。
その光景を倒れ伏せている絋輝は朧げな意識で見ていることしか出来なかった。
(このままだと……どちらかに捕まって終わる……その前に逃げないと)
手足がない体を僅かに体を動かすことしかできない。
時間が立てば出血多量で死ぬことは出来るかもしれないがその前に捕まってしまうかもしれない。
あの2人が戦っている今がチャンスだ。
どうにかリセットしようとするが腕がない状態では何もできない。
一方で齊藤と梟の戦いは激化していた。
梟の一撃は風を切り、地面を抉る程だが齊藤はそれを身をよじるだけでかわしていく。
『ニゲルナヨ!』
「やだね。死んじゃうもん」
齊藤は梟の攻撃を避けると初めて前に出た。
攻撃を掻い潜り、梟の真下に出るとその胴体を切り付ける。
『ウギィッ!?』
「ん?浅いかな?」
僅かに呻く程しか傷つけることしかできず、手元のクインケを見ると刃こぼれができ、ほとんど使い物にならなくなっていた。
「レートが低いクインケだとこれが限界か。あと一撃ってところかな?」
齊藤は梟を見上げて観察し、頭部を見て笑みを浮かべる。
「頭か」
そう呟くと梟は蹲るように体を縮めると背中の赫胞が激しく蠢き、ブレード状の赫子を周囲に向けて一斉に放った。
周囲の建物を破壊し、地面を抉る。
常人であれば必死の一撃だが齊藤はそれすらもどこ吹く風といったふうにかわしていき、梟の目の前に躍り出るとクインケを逆手に持って梟の頭部に向かって投げた。
『グギャアアァァぁぁぁぁっ!?」
クインケは梟の巨大な赫眼に突き刺さり、化け物の悲鳴に混じって女性の悲鳴も聞こえてくる。
梟はクインケを抜き取るが同時に肉も抉れてしまい、中が僅かに見えて人影が見える。
梟は唸り声を上げながら睨むが睨まれた齊藤は笑みを浮かべるだけだ。
睨み合う2人だが離れたところから瓦礫が崩れる音が聞こえた。
瓦礫が崩れたところからゴーストが現れ、その下から手足が復活した絋輝が走り出した。
梟の攻撃で崩れた倉庫の瓦礫が降りかかり、絋輝はリセットでき、瓦礫のおかげで雨に濡れることはないためゴーストを出現させて、瓦礫を退かして脱出できた。
動かなくなったゴーストを尻目に絋輝は荒れ狂う海に向かって飛び込んだ。
夜の海中は光を通さないと思えるほど暗く、嵐のように流れが荒れ狂い、絋輝はそのあまりの勢いにやがて意識を失ってしまった。
ーーーーー
荒れ狂う海へと消えていった絋輝を見届けて齊藤はため息を吐いた。
「あ〜あっ……逃げられたね」
齊藤は少し失望した目を絋輝が逃げた海を見つめ続ける梟に向けた。
「まだ続けるかい?」
『グルルルウゥゥゥ……!!』
齊藤に唸り声を上げるが何もせず、その場から跳躍して暗闇へと姿を消した。
齊藤は追撃もせずに空へと消えていった梟を見送るだけだった。
そこにいくつものパトカーが到着し、捜査官、警察官、研究会の人間が降りてきて目の前の惨状に目を見開いて驚く。
「さ、齊藤さん……何があったんですか……?」
「いやぁ、情けないことにゴーストを隻眼の梟のせいで逃してしまったよ。君、対象は海に身を投げて逃亡。海が落ち着いてからでいいから捜索隊を出して。それと隻眼の梟も対象を狙っているみたいだ。CCGの上に連絡して捜査隊を再結成して欲しい」
「り、了解です」
捜査官はあまりの情報量に頭が追いつかないまま返事をしてしまうが齊藤はただ楽しそうにしていた。
「さぁ、君はどこまで僕を楽しませてくれるかな?」
ーーーーー
篠原たちと交戦していたアマゾネス一派だが後ろで控えていた鳥を模したマスクを被った女性の部下が何かを聞き取り、うなづく。
「姐さん!エトが失敗したみたいです!退散しましょう!」
「了解。お前たち聞いたね!!退きな!!」
アマゾネスの言葉に戦っていた喰種たちはその場から逃げ出した。
「くっ!待て!!」
「待つんだ!今の我々の目的は喰種の討伐じゃない!目的を見誤るな!」
喰種を追おうとした捜査官を篠原は抑える。
アマゾネスは屋上に上がり、こちらを睨んでくる篠原を一瞥して去って行った。
「……負傷者は衛生班に任せて、我々もゴースト捜索に向かうぞ!!」
『了解!!』
篠原ははやる気持ちを抑えながらも早足で現場に向かった。
ーーーーー
絋輝が逃亡してから時間はしばらく経ち、雄二と四方はあんていくに帰還していたがことの顛末を報告していた。
「どういうこと……?絋輝を連れて来れなかったってこと?」
「悪い、失敗した」
謝る雄二に董香は目の端を吊り上げて詰め寄る。
「失敗したって……何でだよ!!?」
「敵が予想以上に上手だった。妨害されてこの有様だ」
「そんな……っ!!」
責めたい董香だが手当されている四方を見て、口を紡ぐ。
「……すまん」
「………いえ」
謝罪してくる四方に董香は何も言えなくなり、休憩室から出ようとする。
「董香ちゃん、どこに行くんだい?」
「絋輝を捜しに行きます」
「駄目だ。行ってはいけないよ」
芳村に止められるが董香はそれを気にせず、ドアノブに手をかけるがいつの間にか背後にいた芳村に手を優しく止められる。
「店長、止めないでください」
「今は捜索も強化されているだろうし、雨風も激しくなっている。捜しに行くのは危険だ」
「それでも行きます!」
「駄目だ。ここにいる全員を危険に晒す行為だよ。許可することはできない」
「でも……!!」
董香は振り返って芳村に抗議しようとするがいつも閉じられている目が開かれて、赫眼が董香を覗いており僅かに威圧感を感じてしまう。
しかし、芳村の表情は悔しさを我慢しているようだった。
それを見て董香は何も言えなくなった。
「一旦落ち着いたら外の様子を探りに行こう。今流れているニュースが本当なのか知りたい」
「古間くん、入見くん。お願いできるかな?」
芳村たちが何かを話しているが董香はやらせなさで拳を握り締めて立ち尽くすことしかできなかった。
ーーーーー
嵐が収まり、曇天が広がる空が僅かに明るくなっていた。
誰もいない無人の砂浜に絋輝は打ち上げられていた。
荒波に揉まれた絋輝の服は血と泥で汚れていた。
「ぅ……」
絋輝は意識を取り戻し、ふらつきながら立ち上がると開けた場所にいるのはまずいと朦朧とする頭で考えて、ゆっくりと歩き出す。
「………」
虚な表情で歩いていく絋輝は浜辺から林へと入っていき、どんどん奥へと進んでいく。
やがて木の根に足を引っ掛けてしまい倒れてしまう。
起きあがろうとするが体に力が入らず、どんどん意識が薄れていく。
(にげ……ない……と)
霞んでいく視界の中で絋輝は誰かが自分に近づいてくるのが見え、また意識を失った。