『亜人4号篠原 絋輝の発見、逃走から1週間が経ちました。現在もなお市民からの目撃情報を募っています』
朝食を食べながらニュース番組を絋輝は見ていた。
その横では恵里も朝食を食べていた。
逃走してから1週間が経つがいまだにメディアは亜人についてばかり報道していた。
「まだ収まらないな……」
ニュースを見て、いまだ止まない亜人に関する熱にうんざりするように呟く。
『今回は亜人4号の家族関係、友人関係を探っていこうと思います。まず父親の篠原 幸紀はCCGアカデミーで教官をしており……』
自身の家族について話し始めて絋輝はテレビを消した。
メディア関係は早速絋輝の近辺を調べ始めて、それを大きく報道し始めた。
実名で報道するメディアに対して絋輝は嫌悪感が溢れてしまう。
実名報道するだけでSNSでは自身の家族とその周辺の交友関係について有る事無い事書き上げられて騒いでいる。
状況を知ることはできないが被害が出ていないことを祈ることしかできない。
朝食を終えて食器を流しに持っていくと畑仕事の準備を終えた瑞希と鉢合わせた。
「朝食ご馳走さまでした」
「お粗末さまでした。……絋輝くん、この後はやる事はある?」
「いえ、特には……」
亜人研究会の動向もネットの中だけでは分からず、暇を持て余していた。
「なら畑仕事手伝ってくれるかしら?」
瑞希の提案により畑仕事を手伝うことになったがもう11月となり気温が下がったとはいえ、想像以上の重労働に絋輝は汗を流す。
「結構、きつい……」
「情けないわね!まだまだ耕す畑はあるから頑張ってちょうだい!」
春に向けての畑を耕す作業を2人でしているが畑の数が多く、先に絋輝がへばってしまった。
「なんで、瑞希さんはまだ動けるんですか?」
「まだまだ若い子には負けないわよ。ここらの畑は全部私1人で管理しているんだから。このくらい大したことないわ」
見た目に反してパワフルな瑞希に驚いてしまう。
「絋輝くんも家にずっといないで外に出て運動してみたら?幸いここら辺は山道も多くて人目はつかないわよ?」
そう言われて絋輝は近くの山に目を向けた。
ーーーーー
次の日の早朝から絋輝は山にランニングしに行くと人目がないところまで行き、念のため人影がないか確認してから意識を集中させてゴーストを出現させる。
「改めてこうやってお前のことを知ることはなかったな」
『………』
まじまじとゴーストを眺めると顔のない頭何絋輝の方を向いている。
「よし、じゃあそこの木の棒を取れ」
絋輝がゴーストに足下に落ちている木の棒を取るように指示を出すが、無視をして棒立ちになっている。
「取れって」
『………』
「取れって。聞こえてるのか?」
『………』
「無視かよ……戦いのときは言うことを聞くのに」
無視をするゴーストに悪態をつくと突然ゴーストが動き出して足下の石を取って滅茶苦茶な方向に投げた。
投げた石は木にぶつかり、派手に砕け散った。
「勝手に動くなよ」
『ソコノ、木ノ棒ヲ、取レ』
「言うこともメチャクチャだ」
その日のトレーニングはそれで終わり、畑の仕事を手伝って終わった。
また次の日になり、山にゴーストのトレーニングをしに行く。
「今日は俺についてこいよ」
『……』
絋輝が走り出すがゴーストはその場で棒立ちになり、動こうとしない。
「……ついてこいって」
『………』
ゴーストは時折言うことを聞けば、言うことを聞かずに暴れ出して絋輝に怪我をさせてしまうこともあった。
しばらくそんな日が続き、絋輝は瑞稀からスマートフォンを借りて自分に関するニュースを確認しているが自分の居場所については憶測だけが飛び交い、現在の場所に関することは何もなかった。
(このまま何もないといいけどな……)
内心でそう考えてスマホを置くといつのまにか隣で立っていた恵里がジッと絋輝を見ていた。
「え、恵里ちゃん。どうしたの?」
いつも気配がなく、現れるたび驚いてしまうが恵里はノートと色鉛筆を無言で渡してくる。
「あぁ……また絵を描いて欲しいのか。何かリクエストはある?」
「……鳥、綺麗な鳥」
「……うん、わかった」
絋輝はそう言われてまず思い浮かんだのは背中から綺麗な赫子の羽を出す董香の姿だった。
それをイメージして絋輝は想像上の鳥を描く。
「……綺麗」
「そうだよね。やっぱり綺麗だ」
ーーーーー
その頃、CCGの亜人捜索隊に与えられた会議室では今だに発見できない絋輝の捜査に行き詰まっていた。
嵐の夜の海に身を投げたのもあって足取りは完全に見失っていた。
全員が地図や目撃情報を見比べてどこにいるかを捜査している中で篠原と真戸は少し離れたところで話し合っていた。
「こうも足取りが分からないとなると……篠原、いよいよ覚悟をした方が良いかもしれん」
「………亜人は不死の存在だ。絋輝は必ず生きている」
捜査隊の中には死亡説がちらほらと上がってきており、不死である亜人といえど荒波にのまれてしまえば助からないと考えていた。
そこに齊藤が窪谷を連れて現れた。
「お疲れ様です。捜査の進捗はどうですか?」
普段と変わらない様子で聞いてくる齊藤に半数はその軽い様子に苛つきを見せて睨むが、もう半数はあのSSSレート喰種である隻眼の梟を撃退したことに尊敬の目を向ける者までいる。
篠原は絋輝を追い詰めた齊藤に恨みをこめた視線を向けるが真戸に抑えるようにたしなめられる。
その視線のことも気づいていた齊藤は少し可笑しそうに笑みを僅かに浮かべながら広げられている捜査資料を見渡し、口を開く。
「ゴーストは千葉にいますね」
「は?」
「あの日の海流の向き、風から推測すると千葉の東京湾内の岸に漂流しているはず」
「その辺りは水上警察が捜索しましたが目撃されませんでしたが?」
「ならもう上陸して姿を隠しているかもしれないですね。どこかで潜んでいるか。どこかの家庭に匿われているとか、かも」
「………千葉県警に連絡して海岸沿いの捜索をしてもらうように連絡してくれ」
「分かりました」
捜査官は何も情報がない以上、齊藤の意見を聞き入れて千葉を捜索することになってしまった。
ーーーーー
それから数日が経ち、ニュースでも未だに絋輝に関することを報道していたが最初の頃よりは治ってきていた。
恵里も絋輝に懐いて今も隣で絵を描いている。
絋輝はどう動くかを考えているがここの居心地が良くずっと居座ってしまってしまい申し訳なく思っている。
そうしていると外から何かを言い合っている声が聞こえてくる。
外に顔を向けると瑞稀と絋輝は遠目でしか見ていないが隣人が何かを言い合っている。
やがて、それが終わり絋輝が疲れた様子の瑞稀に声をかける。
「瑞稀さん、大丈夫ですか?」
「……絋輝くん、ええ……そうね…………」
大丈夫とは言わない瑞稀に絋輝は不安を覚えるがやがて瑞稀は決心した目を向けてくる。
「絋輝くん、ちょっと良いかしら。恵里は家にいて」
瑞稀は絋輝を連れて少し離れたところにある納屋に連れていく。
そこに入るとそこにはカバーかけられたバイクがあり、そのカバーを勢いよく剥がして埃が舞う。
「このバイクはね。私の友人夫婦が持っていた物なの。とっても優しい人たちで私も大好きだった」
そのバイクを懐かしみながら撫でて昔の話を始める。
「恵里は私の娘ではないわ。このバイクの持ち主だった友人夫婦が遺した子なの………絋輝くん、このバイクをあげるわ。その代わりに恵里を連れて行ってくれないかしら」
まさかの瑞稀からのお願いに絋輝は一瞬呆然としてしまう。
「………どういうことですか?俺と一緒にいたら危険ですよ。亜人研究会やCCG、警察に追われます」
「恵里がそうだったから貴方も気づいていると思っていたけど違うのかしら?気づいていないの?」
「どういうことです?」
瑞稀が言いたいこと分からない絋輝は疑問符を浮かべる。
「恵里は貴方と同じ亜人よ。あの子は亜人の存在を感じ取れることができるの。だから海辺で打ち上げられていた貴方を見つけることができた」
衝撃の事実に絋輝は驚くが瑞稀はそれに構わず話を続ける。
「さっきお隣の山田さんから警察に貴方のことを通報したと言われたの。上手く恵里と一緒に貴方を置いて逃げ出してくれ、とね」
「………そうすれば瑞稀さんと恵里ちゃんは助かります」
「その時に私と恵里のことを調べられたら私達の秘密もバレるわ。……お願いです。恵里を連れてここから逃げて」
瑞稀は頭を下げて、絋輝に頼み込む。
彼女たちの秘密という言葉にも気にかかるが頭を下げ続ける瑞稀に絋輝は断る気が起きなかった。
「分かりました。恵里ちゃんを連れてここから逃げます」
「ありがとう」