ゾンビが人間を守って何が悪い   作:セイント14.5

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少し間が開きました。

今回はクロスオーバーというか、個人的に好きな作品の要素を思い切って取り入れています。

Destinyの世界観や整合性を崩さないレベルになるよう作りましたが、そういうのが苦手な方や純粋にDestinyのみを楽しみたい方はご注意ください。


追記:クロスオーバーについて少々書き直しました。物語には支障ありませんが、過去のものは過去に置いていきます。



レベル5.魔改造計画

 

 

夢を見た。カバルの無機質な戦車が進む。さっきまで軽口を言い合っていた戦友をその履帯の下におきながら、俺に砲口を向けていた。俺は動けなかった。友人の死に動揺したのではない。後ろに、守るべき街と市民がいたから…

 

ずいぶん久しぶりの夢だった。

元々死体だったガーディアンが夢を見るほど眠ることは、実は少ない。

光さえあれば、いくらでも活動できるからだ。

 

 

…光はもうない。

 

 

……………………

 

 

『起きてください』

 

 

ライフの声で目を覚ます。身体の節々が痛み、麻痺したように動かない。

 

 

「ここは寒すぎるんだ。疲れがちっとも取れない。全く…」

 

 

『あなたはよく眠っていました。およそ6時間といったところでしょうか』

 

 

「そうか。日は出てるのか?」

 

 

指先から少しずつ動かして身体を慣らす。カチャ、という音に驚いたが、すぐに腕と脚を取りかえたことを思い出した。既に接続部の痛みはかなり薄まり、フォールンに受けた傷も半分ほど塞がっているように思えた。改めて、ライフの性能の高さとエーテルの万能っぷりを感じる。

 

 

『いえ。真夜中です』

 

 

「ならなんで起こしたんだ」

 

 

実をいえば洞窟にいる今、日が出ているかどうかはさほど問題ではないのだが…要は気分の問題だ。人間は夜に寝て、朝に起きる。紀元前から続く伝統で、俺もそれを尊重するつもりだった。自分の都合のつく限りだが。

古き伝説によればアイティー・ドカータやヒキ・ニートゥという希少人種が昼夜を厭わず活動していたという噂もあるが、俺は信じていない。

何せこれはハンターが言っていたことだからな。

 

 

『報告があります。2つほど…まず、いいものが1つ』

 

 

「もう1つは?」

 

 

『受け取り手次第です』

 

 

『いい方から行きましょう。サービターの残骸から抽出したエーテルにより、しばらくはエーテル切れの心配をする必要はありません』

 

 

「そうか。朗報だな」

 

 

『そうですね。それともう1つは』

 

 

『フォールンの装備がたくさん手に入りましたので、更なる改造が可能です』

 

 

「なんだ。両方とも朗報じゃないか」

 

 

『…私にとっては朗報ではありません。あなたの意思を尊重して報告したまでです』

 

 

「俺がもうガーディアンじゃないように、お前ももうゴーストじゃない。自分でそう言っただろう」

 

 

「光の戦士としての正義は、もはやこの手に振りかざしていいものでは無くなったのさ」

 

 

『ガーディアンじゃないから、身体をフォールンに改造しても倫理的に問題ないと?』

 

 

「ん…うん。ああ。つまりそういうことだ」

 

 

そこまで考えていなかった。そうか、身体をフォールンに改造するっていうのは倫理的な問題もあるのか。

ほかの生存者に会った時の印象が悪くなるかもしれない…

 

 

「まあ、どちらにせよ…生きるために必要だからやるんだ。それで、いくつ改造プランがあるんだ?」

 

 

『2つです。脊髄から神経系に沿うようにしてエーテル供給パイプを身体の各所に繋ぎ、エーテル供給の効率化と省エネ化をする。これはフォールンがやっていることと同じです』

 

 

『もう1つが、腕及び脚にフォールン由来の武器を直接装備するカートリッジを増設します。これにはいつくかの前例があり…成功率も高いと思います』

 

 

『代表的なものは…パワードスーツでしょうか。少数ですが、ガーディアンが生まれる前に人間の装備の一種として開発されたものがあるようです』

 

 

「パワードスーツ?ガーディアンの装備とは違うのか」

 

 

『着想はもっと古く…トラベラーさえ存在しない時代にはもう、創作として広く知られていたようです』

 

 

『例えば…ああ、今の私ではクラウドデータに接続できません。口惜しい』

 

 

「何も覚えてないのか?」

 

 

『多少は覚えています。英雄として宇宙からの侵略者に立ち向かった話があります。ただ、彼の人間性は最悪だったようですね』

 

 

「パーソナリティはともかく、やってることはガーディアンそのものだ。しかし、それが古典なら彼は光なしで戦ったということか?」

 

 

『ええ。創作ですが』

 

 

『何でしたら、カートリッジ増設の際に彼の装備を再現しますか?』

 

 

「できるのか?」

 

 

『もちろん。ゴー…我々の能力は非常に高いことをお忘れですか?』

 

 

「そんなことはこの腕や脚を見ればいつだって思い出せるさ」

 

 

『そうでしょうね。【それ】は私の…功績であり、同時に業、ですから』

 

 

「あまり難しいことを考えるなよ。気が滅入る」

 

 

『すみません』

 

 

「とにかく、そいつの装備が再現できるならついでにやってみてくれ。後で交換もできるんだろ?」

 

 

『…恐らく』

 

 

「おい」

 

 

『いえ、大丈夫です。ええ。それで、改造プランは後者…腕と脚の強化でよろしいですか?』

 

 

「いや、脊髄のと両方だ」

 

 

『…私が失敗しないことを今から神に祈って下さい』

 

 

「神は信じてないんだが…」

 

 

『でしたら私に祈っていてください』

 

 

「わかった。頼むぞ」

 

 

うやうやしく(同時にわざとらしく)ライフの前で手を組み、目をつむる。

数秒の沈黙の後、俺はライフに言われたとおりうつぶせになった。ライフが腕から何かを流したかと思うと、視界は急速に暗くなっていった。

 

 

………………………

 

 

『軽い電流です。毎度毎度、痛みで気絶するわけにもいきませんからね』

 

 

『…本当にこれでよかったのでしょうか?…いえ、選択肢など無かった。それは確かなのですが…』

 

 

『…ガーディアン。いえ、今は動く死者…ゾンビと、そう名乗っていましたね。私が見つけ、共に戦ったかつての光の守護者…あなたは、今何を考えていますか?』

 

 

『私は…いえ、トラベラーは、あなたが命をかけて守った彼らは、今の…ガーディアンとして死んだあなたを見て、どう思うのでしょう…』

 

 

ライフは俯くような仕草を見せたあと、ボディを左右に振った。さも、人間が迷い、そしてそれを思考から排除しようとするかのように。

 

 

……………

 

 

また夢を見た。今度は見知らぬ場所。【俺】が、薄暗い所で佇んでいる。

誰かが近づいてくる。その影がだんだんはっきりしてくると同時に、【俺】は姿勢を低くして、そいつを注視した。

 

 

「そんなに身構えなくてもいいじゃないか」

 

 

そいつは【四本ある腕】を軽く広げ、俺に話しかけた。

 

 

「仲間だろう?」

 

 

そいつは話し続ける。

 

 

「…何だと?仲間?俺とお前が?」

 

 

聞き捨てならない言葉に、思わず反応した。

 

 

「そうだ。同じ身体。フォールンの身体。流れているものも、死ぬ条件も同じ…俺とお前は同類だ」

 

 

「ふざけるな!俺とお前は別物だ!俺は…」

 

 

俺は…

 

 

俺は、何だ?

 

 

………………………

 

 

『起きてください』

 

 

ライフの声。

 

 

『うなされていました。どこか痛みますか?』

 

 

「…いや」

 

 

左腕を見る。首を回すと、何かに引っ張られるような異物感を覚えた。

 

 

「…っ」

 

 

正面の氷壁に自分の姿が映った。全身をパイプがつなぎ、口にはフォールンと同じマスク。少し大きくなった左腕や左脚は、既に元の人間の要素など欠片もない。

 

 

『どうか、しましたか?』

 

 

「…ライフ」

 

 

「俺は…何だ?」

 

 

『あなたはゾンビ。死してなお動く、元ガーディアン…そう、あなたと私で決めました』

 

 

「ああ…そうだったな」

 

 

『ええ…そうです。腕と脚の装備の説明をしますね』

 

 

『まずは彼のメイン装備であった【リパルサーレイ】…を模した、アーク放電を起こすことで衝撃波を前方に放射する手のひら』

 

 

「同じ名前にするのも失礼だし、パルスキャノンとでも呼ぶか」

 

 

『そうですね。加えて、ひじから拳にかけての部分にはワイヤー射出機構を装備しています。相手を掴まえて動きを封じるほか、高いところから落ちても平気』

 

 

「俺が反応できるならな…これはまあ、ワイヤーでいいだろう」

 

 

『そうですか。色々案はありますよ?タクティカル・ロッドにスペシャルダーツ。それと…極東の古典になぞらえてヒッサツ・オシゴトピープル』

 

 

「装備の名前は全部俺がつける。絶対だ。いいな」

 

 

『残念です。まだ色々あるのに』

 

 

『説明に戻りましょう。ですが腕はそのくらいです。あとは先程の戦闘で使用したワイヤーライフルを直接腕に接続できるようになりました』

 

 

『脚は、武器としてというよりも別の用途に向けて改造しました。まずは大腿部にエーテルパック詰め替え用。2つもついて安心です』

 

 

「もう少し言い方はなかったのか」

 

 

『特には。それと、膝にはスパイラル・ドリル』

 

 

「待て」

 

 

『何ですか?ストレート・ドリルの方がお好みですか?』

 

 

「めちゃくちゃだ。武器はつけないと言ったろう」

 

 

『ええ。これは武器ではありません。採掘用です。収納もできます。というか、今収納しています。思い切り膝蹴りすると出ます』

 

 

試しに左足を曲げて強く振ってみると、膝をカバーしていた金属板が突然開き、けたたましい機械音とともに鋭く高速回転する銀色のトゲが出てきた。これは間違いなくドリルであり、他の呼び方を許さない。そんな気迫さえ感じる回転だった。

 

 

「なくせ」

 

 

『ご無体な』

 

 

「これはものすごく邪魔だ…まさか楽しんでないか?」

 

 

『分かりました。残念ですが、次の機会にでもその機構は排除しておきます』

 

 

「頼むぞ…それと、他には何かないのか?」

 

 

『あとはかかとに小型ローラー及びターンピックと』

 

 

「なくせ」

 

 

『冗談です。流石に全く不要なものはつけません』

 

 

「………」

 

 

『仕切り直して、あとは爪先に電磁ナイフを仕込みました。これでキックによる攻撃に殺傷能力が付与されます』

 

 

「まともだな。武器だが」

 

 

『ええ。スペースが余ったので…つい』

 

 

「………」

 

 

『………』

 

 

一通りの説明を受けると、どっと疲れを感じてまた横になった。こいつはいつからこんなに冗談好きになったのだろうか。いや、冗談にしてもこんな行動までするような奴じゃなかったような気もするが…トラベラーとの接続が途切れると、性格も変わるのだろうか。

 

 

「…ライフ」

 

 

『何ですか?』

 

 

「…いや。俺はもう一度寝る。今度は朝になったら起こしてくれ」

 

 

『分かりました。いい夢を』

 

 

「ああ…見れるといいな」

 

 

意識は、次第にブラックアウトしていった。考えることややるべきことは数え切れないほどある。だが、今は何も考えずに眠りたかった。

 

 


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