つまり…石頭でアホの子要素があります。
『エーテルって何なんだ?サービターを倒すと出てくる紫のもやもやのことだ』
『エーテルだと?助手よ、まさか本当に知らないのか?』
『…知らないという顔だな。よくそんな状態でヤツらと戦おうなどと言えるものだ。仕方ない。教えてやろう。エーテルとはサービターに搭載された高度なテクノロジーによって精製される気体状のエネルギー体であり、フォールンにとっての生命維持装置だ。サービターがその辺の資源から適当に作って、周りのフォールンに配る。ヤツらはこれがないとみじめにもがき苦しんで死ぬ』
『じゃあヤツらを見つけたら、まずサービターを破壊すればいいのか?』
『バカめ。怒り狂って突撃してくるフォールンを全員捌ける自信があるのか?それともお前はサービターだけを破壊して帰ってくるつもりか?』
『サービターを壊してエーテル供給を止めても、しばらくの間はエーテルが残っているから動ける。中でも供給量が多いために身体が肥大化したキャプテンは、エーテルなしでも数週間は動いてられたという情報もある』
『ふーん…まあ、俺には関係ないな』
『どうせ全部倒すから、とでも言うつもりか?』
『………』
『バカバカしい。だが、正しくもある。そんなところだな。フォールンは一度に全滅させないと次々と援軍をよこしてくる』
『でも、疑問がひとつ晴れたよ。フォールンのなかでも特に偉いアルコンやバロンがどうしてあんなにデカいのか。エーテルをたらふく貰ってたんだな』
『ああ…まあ、そういう話で終わっておこう。お前との会話は疲れる。もうどこかへ行け』
ー金星。とあるガーディアンの会話記録ー
…………………
「さて…」
『どうしましょう』
「キャンプには誰もいませんでした、おわり…とはいかん。何か探そう」
『…あ、ガーディアンの死体です。戦闘があったのでしょうか』
「…ハンターだな。クロークを見るに、デッドオービットの所属だったらしい。この状況はヤツらにとってはありがたかったのかもな」
『デッドオービットはあくまで太陽系外にも生存圏を探しに行くことを目指していただけで、タワーの破滅までは…』
「どんな組織だって一枚岩にはなれない。実際、ヤツらの中にだってそういうことを大声で言うのはいた」
「デッドオービットの船は、タワーよりよっぽど安全なんだと。しかしタワーがあるから人は外に逃げられないんだ、足枷なんだ。だったら無くなってしまえばいいってな」
「そして…いつだって、大声を張るやつは目立つ。そいつのいる組織や集団を代表するかのように、そいつの声や行動は周りに広まっていく」
「そうやって出来ていくんだ。イメージというのは…良くも、悪くも」
「話しすぎたな。まあ、奴らのデザインしたアーマーは気に入ってたよ。ライフ、何か見つけたか?」
『えーと…食糧はありませんね。前にキャンプを見つけた人がいたのかもしれません』
『…まあ、今のあなたはエーテルがあれば十分なのですが』
「…そうだな。それ以外は?」
『プラスチール強化材がありました。これであなたのアーマーを修復できます』
「それはいいな…おっ」
『どうしました?』
「銃だ…これは、パルスライフルだな。ハッケの旧式で、4発バーストで撃てるやつだ」
『いいですね。弾は資材さえあれば精製できます』
「この規模のキャンプならこんなもんだろう。むしろいい方だ」
「アーマーを修理して少し休憩したら、もう少し奥まで行ってみよう。マトモな武器も手に入ったことだし、今度は多少戦闘することも考えて動くぞ」
『了解しました。無理だけはしないで下さいね』
………………
「…少し、慣れが必要だな」
先程のパルスライフルを手元に構える。さもありなん、といったところだろうか、フォールンの腕に人間用の武器はかなり不格好に見えた。ついでに三本指では持ちづらい。
『大変お似合いですよ』
「お前はその態度をいつか後悔することになるぞ」
『ああ、恐ろしい』
「ライフ…大丈夫なのか?」
最近、気になってきたことがある。ライフの様子がおかしいのだ。元々あなたのゴーストであることを誇りに思います、とか恥ずかしげもなく言うような真面目一辺倒だったのに、いつの間にか冗談ばかり言うようになったのだ。ゴーストの性格が変わるのは珍しい話ではないが、それは長年の付き合いとなったガーディアンに徐々に影響されたりした結果、個性として生まれたものだ。今回のような急激な変化とは状況が合わない。
『何がですか?私の機能は依然、万全です』
「…お前みたいなやつを修理できる知り合いはまだ生きているかな」
『中々ひどいですね』
「お前のために言ってるんだ。決めた。ゴーストに詳しいやつに会ったらお前について調べることにする」
『そうですか?まあ、何も出ないとは思いますが』
「だと、いいんだがな」
とはいえ、今できることは非常に少ない。ライフのことばかり気にしていることはできない。今は前に進むべきだ。
「さて、鬼が出るか、蛇が出るか…」
そうつぶやいて、ヨーロッパ・デッドゾーンの奥地へ歩を進めた。
………………
『…アレは…』
「ケッチ!だが小型か」
ケッチ。フォールンの輸送船だ。兵員から物資まで何でも運ぶ。多少の自衛能力もある。ケル(王)のケッチはすさまじくデカく、停泊すれば基地にもなる。
『停泊しています。戦闘…ではありませんね。物資の調達でしょうか』
「…チャンスだな」
『危険では?』
「エーテルはあるに越したことはない。確保できる時にするべきだ。それに…新しい武器の試運転もまだだ」
『…そうかもしれませんね。では偵察から行きましょう。ちょうどいいところに小さな岩山があります。あの裏なら気づかれないでしょう』
「そうだな…行くぞ」
………………
「ここだな。さて…」
改めて、フォールンの様子をうかがう。後方の支援任務についた小隊、といったところだろうか。忙しく働くドレッグに手や口で激を飛ばすキャプテン。周りを数機のシャンクが飛んでいるのが見える。
「バンダルはいないのか?」
『いえ。これは恐らく…』
「あ、あそこか」
『どうせなら最後まで言わせて下さい』
少し離れたところで、バンダルが戦闘訓練をしていた。4本の腕を器用に使い、ブレードやライフルで連携してターゲットデコイに波状攻撃を仕掛けている。
「改めて見ると、シンプルでよくできた戦術なのかもな」
少し感心する。少しだけ、もし自分に4本の腕がついていたらどうするか考えてみる。
「…あり、か?」
『脳改造から始めないといけませんがね。それか各腕に私特製のサポートAIを取り付けます』
「…それは御免だ」
『残念です』
ライフが少しうつむいて身体をふるが無視して偵察を終える。
「こんなもんだろう。後はどう攻めるかだが」
「昔の俺なら正面にグレネードを投げ込んだ勢いのままオートライフルを撃ちながら突撃してパンチだが、流石に無理だ」
『…まあ、高所からそのワイヤーライフルで狙撃、都度拾ったパルスライフルやその他の武器で攻撃でしょうね』
「狙撃は苦手なんだがな…」
だが、他に手もない。俺は深呼吸をすると、狙撃のできそうなポイントを探し始めた。