結局、狙撃のために横倒しになったトラックの山の上に伏せることにした。しかし…
「なんて不安定な場所だ…どこも錆び切って今にも崩れそうだ。さっきの岩山の方が良かったんじゃないか?」
『あそこだと遠すぎます。当てる自信があるのなら別ですが』
「………」
『ここがベストです。我慢してください』
「…そうか」
ワイヤーライフルに取り付けたサイトを覗く。銃口の先には、休んでいるのか壁にもたれかかるキャプテンの姿があった。
「これは使命じゃない。生きるためだ」
そうつぶやいて、息を止める。腕のブレを極力抑え、キャプテンの頭を狙う。
「………」
「…っ!」
パシュン、と特徴的な音を響かせ、弾丸がキャプテン目がけて飛ぶ。
「クソッタレ!やっぱりだ!」
だが、無情にも放たれた弾丸はキャプテンに届くことなく、その足元に穴を作ったのみに終わった。
キャプテンの咆哮。アレだけ派手な武器なのだから当然だが、こちらに気がついたらしい。
『ドレッグが向かってきます。応戦してください!』
「分かってる!」
ワイヤーライフルを置き、トラックの山から飛び降りる。
『正面にドレッグ2体、10時の方向からシャンクが3機です』
「おおおおっ!」
パルスライフルを乱射する。頭に正確に当てる自信はないが、どこかに当たれば足止めになる。
ドドドドッというリズミカルな音とともに、運良く弾が胴に当たったドレッグが倒れた。
「よしっ」
『まだです!気を抜かないで!』
気づけば、シャンクがすぐそこまで迫ってきていた。すでに銃撃の用意をしている。
「ぐっ!…ライフ!」
『なんですか!』
「パルスキャノンを使う!補助してくれ!」
『分かりました!左手を素早く2回握れば起動します!無事に当たることを祈って下さい!』
「また祈りか!ギャラルホルンを探してるんじゃないんだぞ!」
『チャージしています!構えて!』
「くっ!」
シャンクの銃撃をかわしながらパルスライフルを背負い、左腕を前に突き出して右腕を添える。
『…もう少しです』
「早くしてくれ!もう避けるのも限界だ!」
シャンクの群れにいつの間にかバンダルが加わり、銃撃は激しさを増していた。
『行きますよ!3、2…』
「っ!」
『1…!発射!』
左腕から大きな衝撃が走り、景色が急転する。一瞬、青空が見えたかと思うと頭に鈍痛が走るが、何とか意識を保つ。どうやら自分はパルスキャノンの反動で後ろに転んだようだった。
「っ〜〜!…」
『敵の残存数を確認…朗報です。パルスキャノンの威力は予想以上です』
「…みたいだな」
起き上がって、先ほどのパルスキャノンの射線を見る。そこにあったのは、一直線に黒く焦げた地面と、装備ごとボロボロに破壊された無惨な姿のフォールン達だった。
『これで残りはキャプテンだけです』
「サービターはいないのか?」
『あ、そうですね。サービターは…いないようです』
「いなくても大丈夫なのか?」
『分かりませんよフォールンの考えることなんか。それよりキャプテンが来ます。構えて!』
「クソ!パルスキャノンは!?」
『エーテルを使いすぎました!これ以上使うと生命維持装置に支障が出ます!』
「これが終わったら調整が必要だな…仕方ない、ほかの武器で戦うぞ!」
『キャプテンはエネルギーシールドを展開しています。キネティックダメージ系統…背中のパルスライフルは有効打になりえません!』
「だろうな!あとは…ワイヤーライフルを拾いに行ってる暇はない!残るのは…」
『…ドレッグピストル、それと…ショックブレードと、ドリルですね。ワイヤーは残念ながらあの体格の動きを阻害できるほど強力ではありません』
「最悪だ!!」
「クソっ!食らえ!」
興奮気味に、ドレッグピストルをキャプテンに向かって撃つ。低威力だがアーク属性を持っていること、敵を検知して多少追尾することが利点の武器だ。銃を当てる自信の無い今の自分には意外にマッチした武器かもしれない。
『キャプテンのシールドの漸減を確認。消失には至っていません。それと…』
『あのキャプテンは肉体派のようですね』
「見たらわかる!」
キャプテンは二本の大型ショックブレードを構えてこちらに突進してきていた。こちらのささやかな抵抗は全く意に介していないようだ。
「曲芸なんかしたことないぞ!」
ピストルを撃ちながら、悪路をジャンプしつつ後退する。キャプテンとの徐々に距離が詰まっていく。
『危ない!』
「っ!!」
一瞬の視界の暗転ののち、痛みとともに地面に伏す。こんなところで引き撃ち流石に無理があったか、大きめの石に気がつかずに無様に、仰向けに転んでしまった。
「まずい!」
キャプテンは速度を緩めず向かってくる。
立ち上がる暇もなくこちらに追いつき、右腕ごとピストルを踏み砕く。そして…
その刃を、無慈悲に俺に突き立てた。
「っ…ああああああああ!!!」
死。それが明確なビジョンとなって俺に襲いかかる。キャプテンは勝利を確信したのか、腕を上げて叫んでいる。
キャプテンがこちらを見る。狩人が捕らえた獲物に対するように見下ろしたかと思えば、今度は久々に会った同胞に向けたように目を見開いた。
『グ…ォ…』
『…オレ達の、【なりそこない】か』
「…なん、だと…」
フォールンの声。ひどくハッキリとした幻聴が頭の中でこだまする。景色が妙にゆっくりと動く。キャプテンはこちらを観察するのをやめ、トドメを刺すために再度ブレードを掲げた。
終わってみれば、なんとも呆気ないものだ。そんなことを呑気に考えながら、ブレードを見つめる。
『ドリルを起動します!』
突如、けたたましい音が鳴り響く。左脚からだった。
ドリルがキャプテンの足を抉り、キャプテンを怯ませる。
『さあ、起きて!まだ戦えるハズです!』
「あ、ああ…」
キャプテンが叫ぶ。相当な怒りを感じる。勝利を確信した【獲物】に噛みつかれたことに憤っているのだ。
「武器、は…」
『残念ながら、左脚のみです』
「はっ…」
乾いた笑いを浮かべる。
『グオオオオ!』
キャプテンが突進してくる。足を怪我したためか先ほどより勢いは無いが、それでも今の俺を殺すには十分だ。そう思った。
「死ねないから殺す…生きるためだ。略奪も、生きるため…」
「なりそこないか…確かに、そうかもな」
左脚のつま先ををキャプテンの突進に合わせて突き出した。
『オオオオオォ…!』
つま先に仕込まれたブレードが、キャプテンの首に深々と突き刺さる。パイプが切れたようで、エーテルが吹き出ている。
「…俺は死んだガーディアンだ。だが…なりそこないとして生きることはできるのかもしれない」
『ォォ…ォ……』
ぶらん、とキャプテンの腕が下がる。
「そのくらいならできるハズだ」
「フォールン。お前の奪ってきたものを少し分けてもらうぞ」
『…グオオオオォ!』
『危ない!』
キャプテンが突如動き出す。ライフが叫んだ。
「っ!?」
『オオオオ!』
キャプテンの最後の抵抗によるブレードは、俺の右肩に突き刺さった。右腕が身体と切り離され、地面に落ちる。
「っぐ!ああああっ!!」
「…痛いな…クソ…畜生!」
背中のパルスライフルを取り出し、キャプテンに滅茶苦茶に撃ち込んだ。キャプテンは少し痙攣したかと思うと、ついに倒れる。
『ォォ………』
勝ち誇ったような顔で、キャプテンは今度こそ息絶えた。
「…俺は生きてるんだからお前の負けだよ、この野郎…」
『大丈夫ですか!?』
「ライフ…大丈夫に見えるか?」
『いえ…ただ…』
「何だ…早く止血しないと死んじまう。とりあえず布を…」
『あ、いえ、そのことなんですが…』
『血が、出てません。右肩からエーテルが流れ出てます…』
「………は?」
長くなったので今回は前後編にしました。
最近、別の小説?も書き始めましたがちゃんと終わらせるつもりなので大丈夫です。きっと。