ゾンビが人間を守って何が悪い   作:セイント14.5

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思い知ったことがひとつ。キャラクターを魅力的に書くのがめちゃくちゃ難しいです…




レベル9.奇襲はお任せ

 

 

結局のところ、ザナリー3の同行は俺にとって大きなストレスとなった。

戦闘となれば、確かにヤツはそれなりに戦ってみせた。特にハンドキャノンの扱いについては、確かに言うだけはある、というのが俺とライフの評価だ。しかし、たとえ戦闘中であっても、ヤツの軽口は留まるところを知らなかった。いい加減腹に据えかねて文句をいえば…

 

 

「おっと、すまない。独り言のボリュームを下げるよ」

 

 

この一点張り。どうやらヤツにとって【軽口】と【独り言】は同義らしい。そして何より腹が立つのは…

 

 

『それで…あなたのゴーストは、光について何か知っていましたか?』

 

 

「知ってたらこんなことにはなってないな。だがあくまで噂話だが…歴戦のゴーストの中には、とんでもなく遠くの光も感知できるヤツもいたそうだぞ?」

 

 

『興味深い…今の私にはとても…無理でしょう』

 

 

「ああ。暗黒のさらに奥…光が微塵も入らない深淵。まるでハイヴの王座のような所…そこで、ガーディアンと共に厳しい戦いを乗り越えたゴーストは、少しの光も見逃さないように進化する…そういう、噂だ。ハハ」

 

 

『なるほど』

 

 

これだ。何故だか知らんが、ライフとこの…いまいましいアンドロイドが、楽しげに会話をしていやがる。

 

 

「ライフ、そろそろ目的地に着く。無駄話はやめろ」

 

 

『ですが興味深い話です。今後の参考にも』

 

 

「ライフ」

 

 

『…はあ、もう…ここはフォールンのキャンプ跡地です。一見すれば単なる洞窟ですがね…さてと。フォールンの場合はここに…』

 

 

ライフが壁に取り付けられた小さな端末を操作する。しばらくして、洞窟の奥で大きな音がした。

 

 

『OK。セキュリティをシャットダウンして、ついでにシャッターを開きました。進みましょう』

 

 

「アンタのゴースト…や、ライフ君だったか。とにかくアイツは優秀だな」

 

 

「………」

 

 

「…アンタも元気そうだ。さて、進もう」

 

 

ザナリー3が俺に向けてくいっと手首をひねり、奥へ進むよう促してくる。

 

 

「フン…」

 

 

『…武器は構えておいて下さい。ここはデータによれば廃棄された場所ではありますが、フォールンが全くいないとは限りません』

 

 

「ああ、そうだな。少し見てくるよ」

 

 

ザナリー3は腰のあたりに手をかけて数秒じっとすると、音もなく透明化した。

 

 

「どう?見えてない?」

 

 

「行くなら早く行け」

 

 

「おっと、そうだったな」

 

 

そう言うと、彼は足跡も残さず奥へと進んで行った。ほとんど見えていないので予測ではあるが。

 

 

少しの静寂が流れた。俺とライフだけでいるのも、誰も喋らないことも、ずいぶん久しぶりのように思えた。

 

 

『…ゾンビさん』

 

 

ライフが俺に語りかける。

 

 

「なんだ」

 

 

『ザナリー3のことです。彼は…』

 

 

思った通り…ザナリーの話だった。

 

 

「分かってる。ヤツが悪いんじゃないことぐらいはな…だが無理だ」

 

 

『…一時的とはいえ協力者です。生存率を上げるためにも、いがみ合うべきではありません。それに』

 

 

「アイツは優秀だ。使える…そう言いたいんだろう」

 

 

『…ええ。よく分かりましたね』

 

 

「お前と何年一緒にいると思ってる。俺はハイヴの王座に突入したチームの一員ではなかったが、立派にシティを守ってきた1人だ…お前とともに」

 

 

『…ガーディアンとしての誇りですか?あなたはもう、ガーディアンではない…そう言ったのはあなただ』

 

 

「誇りなんかじゃない…これは郷愁だ。俺は元ガーディアンとしての記憶と、そしてこれからフォールン混じりの【なにか】としての生と、付き合っていかなきゃならない」

 

 

「いがみ合っていてはいけない…それは、自分自身ともだ…」

 

 

『…変わりましたね。ザナリー3のおかげですか?』

 

 

「いや…どちらかと言えば、あのフォールンのおかげだ。俺の肩に刃を突き立てた…」

 

 

ーーーオレ達の、【なりそこない】かーーー

 

 

『あのキャプテンですか?確かに腕は接続しましたが…』

 

 

「…いや、アレはアイツにとって…むしろ俺以外の全てにとっても、何気ない一言だったんだろう。しかし…」

 

 

「考えれば考えるほど、俺は【なりそこない】という言葉がいやにしっくりくるんだよ」

 

 

「ガーディアンではない。かといって、いくら装備を盗んでも、腕を取り替えても、身体にエーテルが流れても、俺はフォールンじゃない…フォールンにすらなれない」

 

 

「だから俺は、【なにかのなりそこない】だ。人間でも死者でもない、死人のなりそこないのゾンビって名前にもぴったりだ。どうだ?」

 

 

「ハハ…俺はいいと思うぜ?」

 

 

「…ザナリー。いつからいた」

 

 

「ついさっきだ。アンタが、ライフ君に俺との関係について諭されてたあたりかな」

 

 

『ほぼ全部聞かれてましたね』

 

 

「全く…いいかザナリー。お前には関係のない話だ。奥の様子を見てきたのなら報告しろ」

 

 

「もちろんです。仰せのままに…なんてな。フォールンはいたが、バンダルが1体と、ドレッグが数体いただけだ。紋章もつけてない。ハウスを追い出されたんだろうな」

 

 

「アンタの生命に関わるエーテルも、大した量はないだろうな。襲う価値はあるのか?」

 

 

「確実に勝てる戦いを積み上げていくのも戦略だ。フォールンの数は減り、俺達は戦闘の経験値を得る…エーテルはその副産物としてあればいい」

 

 

「フーン…よく分からないが、襲うんだな?だったら任せとけよ!奇襲はハンターの十八番だぜ?」

 

 

「何をするつもりだ」

 

 

「分かっちゃつまらないじゃないか!いいから見てろって…3分後に歩いて入ってきな」

 

 

「あ、おい!」

 

 

「いいからいいから!」

 

 

言うや否や、ザナリー3は透明化して奥へと走っていってしまった…

 

 

「…これでも仲良くしろって言うのか?」

 

 

『…今回の戦闘の結果次第では、意見を変えるかもしれませんね』

 

 

「………」

 

 

…………………

 

 

『3分です。頃合でしょう』

 

 

「ああ。行こう」

 

 

洞窟には電気が通っていた。足元のライトを頼りに進む。

 

 

『…これは』

 

 

「なるほどな」

 

 

しばらく歩くと、やかましいブシューッという音と、人工物のゲートに開いたフェンス、そしてそこからもうもうと立ちこめる白い蒸気が俺たちを迎えた。手を伸ばせば、肘から先がぼやけて見えなくなるほどの濃さだ。

 

 

「奇襲は得意って言ったろ〜!?うわっ、何しやがる!すまん、手伝ってくれ!」

 

 

「ライフ、どうだ?」

 

 

『私としては…協力者でありたいですね』

 

 

「そうか…まあ、いいだろう」

 

 

新しく備えた右腕を構える。ライフが敵の位置を教えてくれる。

 

 

「4体か。いや…」

 

 

「ちくしょう、このっ!…ハッハー!見たか!」

 

 

「…3体だな」

 

 

『正面、3歩の距離です』

 

 

右腕で頭を掴み、そのまま地面に叩きつける。

 

 

『続いて10時の方向。向かってきます』

 

 

「流石に場所くらいは分かるんだろうな」

 

 

左腕を2度握る。バシュン、という音とともに、アークエネルギーの塊は蒸気を切り裂いてドレッグを吹き飛ばした。

 

 

『威力の調整も良好ですね。エーテル損失も軽微…やはり威力を切り替え式にするのは良い選択だったと思います』

 

 

「片付いたか?」

 

 

『ええ。もう大丈夫…いや、ちょっと待ってください…まさか!』

 

 

「どうし…」

 

 

『っ危ない!後ろです!』

 

 

「おっと、お疲れさん!」

 

 

「っ!」

 

 

振り向くと、俺を睨んだまま動かなくなったバンダルと、そいつの首にナイフを突き立てたザナリー3の姿があった。

 

 

「…透明化したバンダル…レーダーに映らないハズだ」

 

 

『すみません。バンダルがいた時点で警戒するべきでした…』

 

 

「いや、いい。俺も忘れていた」

 

 

「…なあ、命の恩人である俺になにか一言は?」

 

 

「………」

 

 

『すみません。助かりました…彼に代わってお礼を』

 

 

「ハハ…まあいいさ。口下手なのは知ってる」

 

 

「今回は水がたんまり溜まってるタンクを近くに見つけたんで、コイルをいくつか作ってくっつけて、無理矢理高圧の電流を流して熱で中から爆発させてやったんだ。蒸気でニンポーエンマクのジュツ、なんてな…」

 

 

そう言うと、ザナリー3は蒸気の奥に歩いていった。かと思えば、少しして大声で話し始めた。

 

 

「なあ、もうこの蒸気止めていいか!?錆びちまう!」

 

 

「…エクソが錆びるわけないだろう!いいから早く止めろ!」

 

 

「…おっ、了解〜!」

 

 

キュッ、キュッ、という金属とゴム質が擦れる音。

 

 

『バルブを閉めているのでしょうか?でも何故…』

 

 

「…あ〜クソ!やっぱり無理か!このっ!」

 

 

ガンッ、ドガンッ、という強い金属音。

 

 

「バルブは諦めたらしい」

 

 

「う〜ん…あ、そうだ」

 

 

ガコォン、という響くような、重い音が聞こえたかと思うと、少しずつ霧が晴れていくのが分かった。

 

 

「…ハハ、まあどうやったって結果は同じだ」

 

 

『…これは…』

 

 

「………」

 

 

そこには、ぐしゃぐしゃに潰されたタンクと電線にコイル、そしてその上に、無造作に叩きつけられた大きな岩…

 

 

「…お前、詰めが甘いと言われたことはあるか?」

 

 

「1度や2度じゃないな。いつも言われてたぜ」

 

 

「…今後、お前に作戦がある時は…必ずその内容と、どう収拾をつけるかを必ず俺とライフに伝えてからだ。お前が独断専行したと判断すれば撃つ」

 

 

「そりゃ…ひどいな?」

 

 

「当然の措置だ。お前は奇襲することに関しては確かに優秀かもしれんが、それだけでは足りない」

 

 

「…わ、分かったよ。俺が何か思いついたら、アンタかライフ君に必ず相談する。それでいいんだろ?」

 

 

「ああ。それでいい…盗るもの盗ってさっさと行くぞ」

 

 

「ああ、了解。と言っても俺は単なる荷物持ちだがな…ん?」

 

 

「…なあ、もしかして今、俺が優秀だって言ってた?しかも今のって俺と協力して動いてくれるってこと!?」

 

 

「いいから黙って選別しろ!」

 

 

「なあ、教えてくれよ!それかもう1回言ってくれ!なあ頼むよ〜!」

 

 

「うるさい!お友達になった覚えはないぞ!」

 

 

「ハハ…否定はしないと。いいね!そう来なくちゃ!」

 

 

『…結果オーライですかね?あ、そのパーツは捨てないでそこに…ああっ、それは違います!あーっ投げ捨てないで!』

 

 

 





相変わらず、評価や感想大歓迎です。ここがおかしい、みたいな意見もけっこう参考になります。

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