ゾンビが人間を守って何が悪い   作:セイント14.5

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レベル10.暗雲:後編

 

 

 

 

「…俺の身体にエーテルが流れているから、身体が肥大化していると?」

 

 

『ええ。ご存知の通り、フォールンは厳格な階級社会…階級によってエーテルの供給量が決まります。そして、上位の個体ほどエーテル供給量は多く、また身体も大きい…』

 

 

「俺、エルダーズプリズンを見学した時に見たぜ!冷凍保存されてたが、バロンの1体にめちゃくちゃデカいのがいた!ドレッグの3倍はあったね」

 

 

『エーテル供給量の多い個体が大きくなるのは、エーテルの作用による最適化だと考えられています。ドレッグなどはエーテルを温存するために小さなままですが、キャプテンやバロン、アルコン達は十分な量のエーテルを得られる分、消費が大きくても問題ない』

 

 

「…俺が、エーテル供給量の多いキャプテンのようになりつつあると?」

 

 

『端的には、そうなります』

 

 

「下らん仮説だ…とは言い切れないな。しかし、俺がフォールンに近づきつつあるということになる…だが認めたくはないが、ほかに原因も思いつかん」

 

 

「良いことじゃないか」

 

 

「なんだと?」

 

 

「ライフ君、コイツの身体が大きくなると、何が良くて何がまずいんだ?」

 

 

『戦闘力としては向上します。ゾンビさんは正面から打ち倒す戦術を取りますから、筋力や骨格は大きい方が有利です。デメリットとしては隠密が大の苦手になりますが、どうせやらないので関係ありませんね』

 

 

「おい、俺は1度フォールンの斥候を上から奇襲してやったんだぞ」

 

 

『ですがあれ以来1度もやっていません。奇襲や隠密はザナリー3に任せて口にも出さない』

 

 

「…適材適所だ」

 

 

『ではあなたは正面戦闘に適していますので、幸いにもそれに特化することになりましたね。ほかのデメリットですが、エーテルの燃費が少し悪くなるのと…【外見が人間離れします】』

 

 

「フォールンの腕をつないでるんだ。今更じゃないか?ハハ」

 

 

「…フォールンの腕は、あくまで【つないでいるだけだ】…身体が根本的に変わった訳じゃなかった…機械をつないだのも、効率や必要に迫られてだ…しかし…」

 

 

『もしこのまま成長が続けば、残念ですが…人前に出ることは難しくなるでしょう。あなたに害意はなくとも、ほかの人間にとっては脅威と捉えられるでしょうね』

 

 

「………俺は、フォールンじゃない」

 

 

『ええ。それは確かで…「俺は、ガーディアンでもない」』

 

 

『………ゾンビさん…?』

 

 

「…俺は…人間でもなくなる…?」

 

 

『………』

 

 

「俺は…俺は、【何】になるんだ…?俺は…オレは…」

 

 

『あなたは、ガーディアンとして死んだまま生きる者、ゾンビです…私とあなたでそう決めました。これは前も言いました』

 

 

「…ああ、ゾンビ…そうだったな…俺はゾンビ…だがゾンビは人間がなるものだ…人間ですら無くなれば、俺は何になればいい?」

 

 

『ゾンビさん、落ち着いて下さい!あなたは【何でもない何か】のまま生きるとも言っていました!あなたはフォールンではありません!』

 

 

「そんなことは分かっている!」

 

 

思わずマスクを引き剥がし、地面に叩きつける。硬質な金属音とともにマスクが跳ねた。

 

 

「おっと、危ねぇ…なあダンナ、アンタ難しく考え過ぎなんじゃないのか?俺とアンタと、フォールン混じりで似たもの同士だ。これからのことは寝ながらでも考えてさ、仲良くやろうぜ?」

 

 

「似たもの同士、だと…?」

 

 

「お前に…エーテルも流れていない…身体にフォールンの機械をくっつけただけのお前に!俺の何が分かるっていうんだ!!」

 

 

「【ゴーストさえいないお前に】!!」

 

 

近くにあったラジオまでも蹴りつける。腹の底から湧き上がってくる激情に、身体の抑えが効かなくなってきていた。ラジオから音が漏れる。

 

 

《ザーーーー…ザザ…ーーーーガガ…》

 

 

「…ゴーストの話をするなよ…【お前に俺の何が分かる】だって…?」

 

 

「そりゃコッチのセリフだぜ…なあ、アンタに…」

 

 

「ゴーストが生きてて、甲斐甲斐しく付き従ってるアンタに!ゴーストのいない俺の気持ちが分かってたまるかよ!!」

 

 

《ザー…ビビ…ビ…ーーーーぐ…》

 

 

既に空は暗雲に覆われ、ぽつぽつと雨が降り始めていた。

 

 

《…生き残っ…ザ…ガーディアンに告ぐ…ガガ…衛星…タイタンに集結…よ!…繰り返す…ザ…ザザー》

 

 

「…それは…」

 

 

「…もういい。終わりにしよう」

 

 

「…ザナリー」

 

 

「気安く呼ぶんじゃねえ!俺の名前はザナリー3…俺のゴーストが、名前も忘れちまった俺につけた名前だ…アンタみたいな甘ったれた野郎に呼ばれたくない」

 

 

「…なあ、俺はアンタのこと、嫌いじゃなかったんだ…希望だった。光を失っても、グチャグチャになりながらフォールンを倒してるのを見て…俺はもう1度戦おうと思った。アンタと一緒にいたら、フォールンにも勝てると思った」

 

 

「………」

 

 

「…それだけだ。じゃあな。今までムリヤリついていって悪かったな…そこで固まってるヤツも元気でな」

 

 

『…ザナリー3…私は…』

 

 

「何も言うな。自分の命は大事にしろよ」

 

 

そう言うと、ザナリー3はゆっくりと歩き出した。振り返らず、かといって急ぎもしない。もはや未練などない…お前達のことなど気にも留めない。そう主張するように。それを見せつけるように…俺の目にはそれが、ヤツなりの決別の仕方なのだと感じられた。

 

 

《ザー…現在生き残っ…る、全ガー…に告ぐ。衛星タイタンに…せよ。繰り返…》

 

 

ザナリーを呆然と見送ったまましばらく立ち尽くしていると、雨が本格的に降り始めた。

 

 

『…行きましょう。せめて雨をしのげる場所へ…これからのことは、そこで腰を落ち着けてから考えましょう』

 

 

「…やかましいラジオだ。…ザヴァラ。生きていたんだな…衛星タイタンに集結しろ、だとさ…生き残ったガーディアンには光も船もないだろうに、無茶な要求だ。本当に行くやつなんかいるのか?バカげてる」

 

 

『ゾンビさん、今はそれどころでは…』

 

 

「バカげてるといえば、あのポンコツもそうだ。俺を何だと思ってやがる…万能の願望器か?望むままの、ヒーローみたいな姿でいろって?…バカめ、荷物も置いたまま行きやがって…」

 

 

バックパックを持ち上げる。

 

 

『あ、それは…』

 

 

ザナリー3が携帯していたのは、ナイフと1マガジン分だけ弾のこもったハンドキャノンだけだった。

 

 

『…ここはフォールンの勢力圏です…放っておけば、フォールンの物量に押されて死んでしまいます…ゾンビさん』

 

 

「ライフ。お前も、俺に望むのか?」

 

 

『…もちろん。あなたは、使命を果たすために私が選んだガーディアンでしたから…働いてもらいますよ』

 

 

「………」

 

 

『行きましょう。彼の行先は分かっています』

 

 

『ヨーロッパ・デッドゾーンの入口…トロストランド。そこへ向かいましょう』

 

 

「………」

 

 

落ちたマスクをつかみ、無言のまま歩き出す。雨に濡れても、もはやまばたきすら必要なくなった。身体は常に人間から離れていっている…俺は、【何】になるのか。そのことを考えている暇は、今はなかった。

 

 





ゾンビくんのアンデンティティはガバガバ

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