ゾンビが人間を守って何が悪い   作:セイント14.5

18 / 42


最近ネタ切れ気味なので、またしばらく間が空くかもしれません。失踪する時は宣言するので、とりあえずは気長に待って下さるとありがたいです。




レベル11.人間

 

 

 

 

「ああ…鬱陶しい」

 

 

本格的に降り始める雨。ぬかるみにくるぶしまで浸かりながら歩くのに辟易する。

 

 

『そろそろ人間の建物が見えてくるはずです。ザナリー3も雨宿りはするでしょう…もしかしたらそこに居るかも。そこで説得しましょう』

 

 

「俺はあいつに忘れ物を渡しに行くだけだ」

 

 

『…そうですか』

 

 

「クソ…背中が痛い…人間離れだと?そんな生易しいものじゃない…俺の身体はフォールンになろうとしている」

 

 

『あなたはフォールンじゃありません!』

 

 

「だったら俺は【何】だ!」

 

 

『それは…っ!敵です!これは…フォールンではない!まさかカバル!?』

 

 

「何だと!?」

 

 

カバル。気の遠くなるような宇宙の果て、別の銀河から来た侵略者。圧倒的な体躯、重厚な武装の数々。そして…

 

 

「俺達から光を奪った張本人…」

 

 

『危険です。すぐに離れましょう』

 

 

「…いや、もう間に合わん」

 

 

崩れかけた二階建ての家屋。その上で、小さな人影がこちらを見つめていた。

 

 

「サイオン…カバルに隷属した知性体…ヤツらは目がいい。俺達は見つかったらしい」

 

 

『…では、建物のある方へ牽制しながら逃げましょう。隠れる所は多い方がいい』

 

 

「そうだな…行くぞ」

 

 

装備を確認する。機械の左腕、左脚。そしてフォールンの右腕。前よりもたくましくなったか?

 

 

『パルスキャノンは既にオンラインです。銃のリロードも済んでいます』

 

 

「3…2…」

 

 

サイオンがこちらを見るのをやめ、声を上げる。仲間に敵の存在を伝える合図だ。

 

 

「1…!」

 

 

『走って下さい!』

 

 

ライフの掛け声とともに建物に向かい走る。遠くから特徴的な機械の音が聞こえる。

 

 

「それなりに数はいるらしいな」

 

 

ジャンプして階段を上り、高所に向かう。立ち止まるワケにはいかない。牽制にパルスライフルを撃ちながら角を曲がり、敵の少ない方を目指す。

 

 

『遮蔽に入ったことでサイオンの目が離れました。あそこに逃げ込みましょう。』

 

 

「廃墟どころかほとんど埋まってるじゃないか」

 

 

『だからですよ。敵の目を欺けます…大丈夫、今のあなたなら怪我もしません』

 

 

「あまりいい感じはしないがな…」

 

 

実のところ、身体に起こった変化は肥大化だけではなかった。皮膚の硬質化もその1つである。

廃墟のとなった家の中を進み、ガレキをかき分けた中に身を隠す。

 

 

『身体は完全に隠れました。あとは静かにしていれば、諦めていなくなるでしょう』

 

 

「………」

 

 

何もせずじっとしていると、いらないことまで思考に入り込んでくる。俺は今までのことを思い出していた…

 

 

あの日、何事も無かったかのように目が覚めると、目の前に白色の角張った喋るロボットが浮いていた。ゴーストだ。俺は死んで、ガーディアンとして生き返ったと言う…俺はゴーストの導きに従い、たくさんの敵を倒し、たくさんの味方を守ってきた…あの日までは。

カバル。今でも鮮明に思い出せる。妙な機械がトラベラーに取り付き、俺達は光を失った。

 

 

俺達は逃げた。どこへともなく散り散りになった。また戦える日が来るのを待ちながら…俺は逃走に、旧ロシアの山を越えるルートを選び、そして…失敗した。

 

 

俺は生き延びるためにフォールンの力を使った。身体にはエーテルが流れ、俺は、そこに至ってやっと、自身がもはや光を失い、ガーディアンではなくなったことを自覚した。

 

 

さらに、俺は戦うためにフォールンの力を求めた代償を受けることになった。身体は醜く肥大化し、皮膚は岩のように硬くなり、手足は4本中3本が、すでに人間のものではない。

俺はもはや、到底人間とは呼べなくなっていた。

 

 

妙な夢を見ることは誰にも言っていない。ヤツの言うことは曖昧で、的を射ることがない。ただ、ヤツの姿がフォールンであることだけが、俺の心に引っかかっているのだが…アレは一体何なのだろうか?…

 

 

『…もう大丈夫です。出てきて下さい』

 

 

ライフによって思考がシャットアウトされる。深みにハマる所だっただけにありがたかった。

上に覆いかぶさったガレキを右手で押しのけ、立ち上がる。

 

 

「ライフ。次の目的地を教えてくれ」

 

 

『了解しました。ええと…』

 

 

「…?」

 

 

首元に違和感を覚える。左腕で触ると、水音と、やや粘着質な感触があった。虫でも潰していたかと左手を戻す。

 

 

「っ!」

 

 

左手は赤かった。ここで俺はようやく首から血を流していたことを知った。これは銃弾の跡だ。弾丸は貫通したらしく、反対側からも血とエーテルが流れ出ていた。咄嗟に物陰に身を隠す。

 

 

「血はまだ赤いんだな…ライフ。俺はどこからか撃たれたらしい。場所…を…」

 

 

気が遠のいていく…

 

 

『ゾンビさん?…っ!これは…!全身を撃たれています!まずい…治療しなければ…』

 

 

「その必要はない…首以外は麻酔銃だ。音は聞こえなかっただろう?俺特製のサイレンサーを使った。なに、この程度なら熊でも1日は生きているだろうさ。…こんな化け物なら1週間は耐えるんじゃないか?」

 

 

『誰です!?』

 

 

「俺か?俺はこの辺りに拠点を構えてる…デヴリムだ。ゴースト。お前には少し聞きたいことがある」

 

 

『あなたがやったのですね…!一体何故!』

 

 

「いいから、俺の質問に答えろ。それ以外は許さん」

 

 

デヴリムと名乗ったその男は、ゴーストを鷲掴みにした。

 

 

「ゴーストよ…まず聞こう。コレは何だ?」

 

 

暴れるゴーストを手で抑えながら話しかける。

 

 

『いいから早く私を離して下さい!治療しなくては…急がないと死んでしまう!』

 

 

ゴーストはその手からどうにか逃れようと、カチャカチャと音を立てもがく。

 

 

「ゴースト。お前の力では私の手からは逃れられん…いいから答えろ。【これ】は何だと聞いているんだ」

 

 

デヴリムはゴーストを両手で掴みながら、あごで地面に倒れるものを指した。

 

 

『…では約束してください。私が事実を話したらすぐに解放することを!』

 

 

「いいだろう…では、事実を全て話せ。【これ】は何だ?この人間のようなフォールンに、何故お前が付き従っていた?」

 

 

『訂正させて下さい。彼はフォールンではありません。彼は人間です…元ガーディアンの』

 

 

「ガーディアン?…はっ、光をなくしたから、今度はフォールンになって野盗の真似事でも起こそうとしたのか?」

 

 

「嘘をつくな。事実だけを話せ…ガーディアンは人間か、それに類する種族がなる。こんな大きさで外見の人間など見たことも聞いたこともない」

 

 

『嘘ではない!この私が、光を失い負傷した彼を改造したのです!彼が望み、そして私が応えた!彼がガーディアンであったことは否定させません!』

 

 

「…ふん。それで?【これ】がガーディアンだったとして、何故フォールンになっている?」

 

 

『フォールンではありません!…戦う力が必要だったからです。光がなくとも、彼は戦おうとしていたから、敵の装備を奪い、装備した!それ以上の意味などありません』

 

 

「あくまで、【これ】が人間だと、そう言うのか」

 

 

『…彼を【これ】と呼ばないでいただきたい…早く離して下さい。話すべきことは、これが全てです』

 

 

「…なるほどな。元ガーディアンが、光を失い、そして戦うためにフォールンの装備を使っている…」

 

 

『その通りです。だから…』

 

 

デヴリムは片側の口角を上げ、獰猛な笑みを見せた。

 

 

「全く信用できんな。では、コイツが今後、俺達人間に銃口を向け、フォールンの仲間にならない理由は?そもそも何故こんなに身体が大きい?お前は一体、コイツに何をした?」

 

 

『!?』

 

 

「フォールンがゴーストを捕え、改造し、実験体に付き従うように仕向けた…恐らくガーディアンを装い、油断させるためだろう。そう考えるのが自然だ」

 

 

「光を操る実験も兼ねていたかもしれんが、何せこのデカくて色々つながった身体だ。右腕なんか完全にフォールンじゃないか。こんなものすぐにバレるだろうに…もっと人間のことを研究すべきだったな」

 

 

「ゴースト。お前も機械のはしくれだ。故障ぐらいする…故障中に、お前が何をしたとしても…お前は悪くない。そうだろう?機械に詳しい仲間がいるんだ。そいつに見てもらおう」

 

 

『ま、待ってください!せめて彼の治療を!』

 

 

「ダメだ。コイツには色々吐いてもらうことがあるんだ…フォールンの基地や作戦、その内情をな」

 

 

「デヴリム。コイツはどこに置けばいいんだ?」

 

 

近くに控えていたらしい男が物陰から出てくる。

 

 

「奥地まで行かなくていい。教会の地下で十分だろう…ああ、大丈夫だ。かつてキャプテンを閉じ込めたが、奴が死ぬまで破れなかった頑丈な牢だからな」

 

 

『…エーテルが流れ出ている…!離して下さい!早く!』

 

 

「大人しくしていれば、手荒なことはしないさ。お前にはな…行くぞ」

 

 

『離して下さい!離して!…ゾンビさん!起きて下さい!』

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。