最近ネタ切れ気味なので、またしばらく間が空くかもしれません。失踪する時は宣言するので、とりあえずは気長に待って下さるとありがたいです。
「ああ…鬱陶しい」
本格的に降り始める雨。ぬかるみにくるぶしまで浸かりながら歩くのに辟易する。
『そろそろ人間の建物が見えてくるはずです。ザナリー3も雨宿りはするでしょう…もしかしたらそこに居るかも。そこで説得しましょう』
「俺はあいつに忘れ物を渡しに行くだけだ」
『…そうですか』
「クソ…背中が痛い…人間離れだと?そんな生易しいものじゃない…俺の身体はフォールンになろうとしている」
『あなたはフォールンじゃありません!』
「だったら俺は【何】だ!」
『それは…っ!敵です!これは…フォールンではない!まさかカバル!?』
「何だと!?」
カバル。気の遠くなるような宇宙の果て、別の銀河から来た侵略者。圧倒的な体躯、重厚な武装の数々。そして…
「俺達から光を奪った張本人…」
『危険です。すぐに離れましょう』
「…いや、もう間に合わん」
崩れかけた二階建ての家屋。その上で、小さな人影がこちらを見つめていた。
「サイオン…カバルに隷属した知性体…ヤツらは目がいい。俺達は見つかったらしい」
『…では、建物のある方へ牽制しながら逃げましょう。隠れる所は多い方がいい』
「そうだな…行くぞ」
装備を確認する。機械の左腕、左脚。そしてフォールンの右腕。前よりもたくましくなったか?
『パルスキャノンは既にオンラインです。銃のリロードも済んでいます』
「3…2…」
サイオンがこちらを見るのをやめ、声を上げる。仲間に敵の存在を伝える合図だ。
「1…!」
『走って下さい!』
ライフの掛け声とともに建物に向かい走る。遠くから特徴的な機械の音が聞こえる。
「それなりに数はいるらしいな」
ジャンプして階段を上り、高所に向かう。立ち止まるワケにはいかない。牽制にパルスライフルを撃ちながら角を曲がり、敵の少ない方を目指す。
『遮蔽に入ったことでサイオンの目が離れました。あそこに逃げ込みましょう。』
「廃墟どころかほとんど埋まってるじゃないか」
『だからですよ。敵の目を欺けます…大丈夫、今のあなたなら怪我もしません』
「あまりいい感じはしないがな…」
実のところ、身体に起こった変化は肥大化だけではなかった。皮膚の硬質化もその1つである。
廃墟のとなった家の中を進み、ガレキをかき分けた中に身を隠す。
『身体は完全に隠れました。あとは静かにしていれば、諦めていなくなるでしょう』
「………」
何もせずじっとしていると、いらないことまで思考に入り込んでくる。俺は今までのことを思い出していた…
あの日、何事も無かったかのように目が覚めると、目の前に白色の角張った喋るロボットが浮いていた。ゴーストだ。俺は死んで、ガーディアンとして生き返ったと言う…俺はゴーストの導きに従い、たくさんの敵を倒し、たくさんの味方を守ってきた…あの日までは。
カバル。今でも鮮明に思い出せる。妙な機械がトラベラーに取り付き、俺達は光を失った。
俺達は逃げた。どこへともなく散り散りになった。また戦える日が来るのを待ちながら…俺は逃走に、旧ロシアの山を越えるルートを選び、そして…失敗した。
俺は生き延びるためにフォールンの力を使った。身体にはエーテルが流れ、俺は、そこに至ってやっと、自身がもはや光を失い、ガーディアンではなくなったことを自覚した。
さらに、俺は戦うためにフォールンの力を求めた代償を受けることになった。身体は醜く肥大化し、皮膚は岩のように硬くなり、手足は4本中3本が、すでに人間のものではない。
俺はもはや、到底人間とは呼べなくなっていた。
妙な夢を見ることは誰にも言っていない。ヤツの言うことは曖昧で、的を射ることがない。ただ、ヤツの姿がフォールンであることだけが、俺の心に引っかかっているのだが…アレは一体何なのだろうか?…
『…もう大丈夫です。出てきて下さい』
ライフによって思考がシャットアウトされる。深みにハマる所だっただけにありがたかった。
上に覆いかぶさったガレキを右手で押しのけ、立ち上がる。
「ライフ。次の目的地を教えてくれ」
『了解しました。ええと…』
「…?」
首元に違和感を覚える。左腕で触ると、水音と、やや粘着質な感触があった。虫でも潰していたかと左手を戻す。
「っ!」
左手は赤かった。ここで俺はようやく首から血を流していたことを知った。これは銃弾の跡だ。弾丸は貫通したらしく、反対側からも血とエーテルが流れ出ていた。咄嗟に物陰に身を隠す。
「血はまだ赤いんだな…ライフ。俺はどこからか撃たれたらしい。場所…を…」
気が遠のいていく…
『ゾンビさん?…っ!これは…!全身を撃たれています!まずい…治療しなければ…』
「その必要はない…首以外は麻酔銃だ。音は聞こえなかっただろう?俺特製のサイレンサーを使った。なに、この程度なら熊でも1日は生きているだろうさ。…こんな化け物なら1週間は耐えるんじゃないか?」
『誰です!?』
「俺か?俺はこの辺りに拠点を構えてる…デヴリムだ。ゴースト。お前には少し聞きたいことがある」
『あなたがやったのですね…!一体何故!』
「いいから、俺の質問に答えろ。それ以外は許さん」
デヴリムと名乗ったその男は、ゴーストを鷲掴みにした。
「ゴーストよ…まず聞こう。コレは何だ?」
暴れるゴーストを手で抑えながら話しかける。
『いいから早く私を離して下さい!治療しなくては…急がないと死んでしまう!』
ゴーストはその手からどうにか逃れようと、カチャカチャと音を立てもがく。
「ゴースト。お前の力では私の手からは逃れられん…いいから答えろ。【これ】は何だと聞いているんだ」
デヴリムはゴーストを両手で掴みながら、あごで地面に倒れるものを指した。
『…では約束してください。私が事実を話したらすぐに解放することを!』
「いいだろう…では、事実を全て話せ。【これ】は何だ?この人間のようなフォールンに、何故お前が付き従っていた?」
『訂正させて下さい。彼はフォールンではありません。彼は人間です…元ガーディアンの』
「ガーディアン?…はっ、光をなくしたから、今度はフォールンになって野盗の真似事でも起こそうとしたのか?」
「嘘をつくな。事実だけを話せ…ガーディアンは人間か、それに類する種族がなる。こんな大きさで外見の人間など見たことも聞いたこともない」
『嘘ではない!この私が、光を失い負傷した彼を改造したのです!彼が望み、そして私が応えた!彼がガーディアンであったことは否定させません!』
「…ふん。それで?【これ】がガーディアンだったとして、何故フォールンになっている?」
『フォールンではありません!…戦う力が必要だったからです。光がなくとも、彼は戦おうとしていたから、敵の装備を奪い、装備した!それ以上の意味などありません』
「あくまで、【これ】が人間だと、そう言うのか」
『…彼を【これ】と呼ばないでいただきたい…早く離して下さい。話すべきことは、これが全てです』
「…なるほどな。元ガーディアンが、光を失い、そして戦うためにフォールンの装備を使っている…」
『その通りです。だから…』
デヴリムは片側の口角を上げ、獰猛な笑みを見せた。
「全く信用できんな。では、コイツが今後、俺達人間に銃口を向け、フォールンの仲間にならない理由は?そもそも何故こんなに身体が大きい?お前は一体、コイツに何をした?」
『!?』
「フォールンがゴーストを捕え、改造し、実験体に付き従うように仕向けた…恐らくガーディアンを装い、油断させるためだろう。そう考えるのが自然だ」
「光を操る実験も兼ねていたかもしれんが、何せこのデカくて色々つながった身体だ。右腕なんか完全にフォールンじゃないか。こんなものすぐにバレるだろうに…もっと人間のことを研究すべきだったな」
「ゴースト。お前も機械のはしくれだ。故障ぐらいする…故障中に、お前が何をしたとしても…お前は悪くない。そうだろう?機械に詳しい仲間がいるんだ。そいつに見てもらおう」
『ま、待ってください!せめて彼の治療を!』
「ダメだ。コイツには色々吐いてもらうことがあるんだ…フォールンの基地や作戦、その内情をな」
「デヴリム。コイツはどこに置けばいいんだ?」
近くに控えていたらしい男が物陰から出てくる。
「奥地まで行かなくていい。教会の地下で十分だろう…ああ、大丈夫だ。かつてキャプテンを閉じ込めたが、奴が死ぬまで破れなかった頑丈な牢だからな」
『…エーテルが流れ出ている…!離して下さい!早く!』
「大人しくしていれば、手荒なことはしないさ。お前にはな…行くぞ」
『離して下さい!離して!…ゾンビさん!起きて下さい!』