ゾンビが人間を守って何が悪い   作:セイント14.5

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遅れ…てない(当社比)。1週間なら遅れてはない…なくない?
すみません。お待たせしました。




レベル12.白狼は獲物を逃がさない

 

 

「答え合わせをしようじゃないか」

 

 

もはや見慣れた風景。何をするでもなく、声の元へ顔を向ける。

 

 

「お前は一体誰だ?何が目的で俺の夢に入り込む?」

 

 

何度も繰り返された質問。はぐらかされることは分かり切っている。

 

 

「同志…そんなことは重要ではないのだ。オレはオマエだが、オマエはオレじゃない…」

 

 

「…そうやって俺をせせら笑って楽しいか」

 

 

「ああ。楽しいとも…これから、もっと楽しくなる…爪弾き者のエリクスニーもどき。ニンゲンもどき。ついに【仲間】に撃たれたな?」

 

 

「………」

 

 

意識を失う前。こちらに歩いてくる男を見た記憶がある。

 

 

「本当にあいつが撃ったのか?」

 

 

「ニンゲンが、オマエを敵とみなし、銃を撃ったのか、ということだな?…答えはすぐそこにある…また会える時を楽しみにしている」

 

 

含み笑いのような仕草を見せ、ヤツはこちらに背を向ける。話は終わった、ということだろう。

 

 

………………………

 

 

「答え合わせをしよう」

 

 

バシャ、という水音と、冷たい液体の感触に意識が必要以上に覚醒させられる。

髭面の壮年が、眉間に皺を寄せて立っていた。片手にバケツを持っていることからして、コイツが俺に水をかけたのだろう。

 

 

身体の状態を確認すると、俺は牢屋に入れられた上で、壁に何重にも巻かれた鎖で磔になっているようだった。

 

 

「…ひどいことをする」

 

 

文句を言うと、男はひどく驚いたようにしてみせた。あまりにわざとらしい挑発だ。

 

 

「ほう、人語を解すか…フォールンの技術力は流石に高いな。さあ、質問だ。お前はフォールンだ。そうだな?」

 

 

「…フォールンだと?」

 

 

「今更とぼけるなよ。無論お前のことだ。もはやお前に逃げ道も、弁護士を立て司法に訴える道もない。…司法は分かるか?それともフォールンに法はなかったか?」

 

 

「俺はフォールンじゃない!」

 

 

「その右腕がそう言ったか?それとも左腕か?左脚か?そうだ。その右脚はどこから手に入れた?」

 

 

「っ!!ぐ…っ」

 

 

大した言葉ではない。単なる挑発に過ぎない…そうやって自分に言い聞かせる。この男は何か致命的な勘違いをしているだけだ。

しかし…しかし、俺をフォールン呼ばわりしてはばからないのはやはり腹が立って仕方がない。

 

 

「ふん。フォールンの本能はやはり野蛮だな…さあ、吐いてもらうぞ。お前達の作戦から基地の資材まで全て!」

 

 

「…あの小うるさいロボットは結局大したことは何も吐かなかったからな」

 

 

「…なんだと?」

 

 

「あん?ああ…あのゴーストのことに反応したか。お前からしたら大事な作戦ツールだろうしな…気になるか?アレは今別のところにいる。次会うときはもう少し素直になってればいいがな」

 

 

「どういうことだ」

 

 

「おい、いちいち俺が説明しなきゃならんのか?なんて愚鈍なヤツだ…あのゴーストは俺の知り合いの元で改造を施すと言ったんだ。ちゃんとガーディアンの元で正しい行いの手伝いが出来るように直してやるのさ」

 

 

「改造だと!?」

 

 

怒りに任せて男を掴みあげてやろうとするが、鎖が派手な音を立てるだけで俺の行動は終わってしまった。

 

 

「おーおー…人間にこんなに敵意を向けやがって…やっぱりコイツはガーディアンじゃあないな。あのゴーストは嘘をつきやがったということだろう…」

 

 

「ここまで挑発しておいてよくも…!」

 

 

「フン。どうせお前に選択肢はない。情報は全て吐いてもらうし、ここから逃がすことは絶対に無い…なに、時間はまだまだある…今日はまだ顔合わせで済ませておく。今のうちに命乞いの言葉でも考えておくんだな」

 

 

男が踵を返す。

 

 

「っ待て!ゴーストを返せ!いや…返さなくていいから改造するのをやめさせろ!アイツは正常だ!」

 

 

「聞こえなかったか?お前に、選択肢は、無い。ゴーストをどうしようが俺の勝手だ。お前の運命を握っているのは俺だ。…これ以上の説明は必要か?」

 

 

「っ…この…」

 

 

「フン…馬鹿め…」

 

 

男は再び歩き出し、どこかへ消える。俺は黙って見ていることしかできなかった。

 

 

「クソ…あの野郎…俺をフォールンだと…本気で言っているのか?」

 

 

「…ゴースト…ライフ」

 

 

ゴーストが自ら名付けた名前をつぶやき、左腕を見つめる。

 

 

「チッ…」

 

 

機械の三本指。散々見て、無慈悲に破壊してきたフォールンのもの。最近サイズが合わなくなってきて、そろそろ替え時か、などと話していた…少なくとも人間のものではない。

 

 

人間とは何か…哲学をするつもりはない。俺が人間だと信じる限り、俺は人間であり続けるだろう。問題は、俺が、自分自身が人間であることを疑いはじめていることだ。

 

 

「………」

 

 

ライフは、常に俺の不安に注意を払ってきた。俺が疑心暗鬼に陥れば、すぐにそれを否定してきた。鬱陶しいと思っていたソレが、今になって俺を守るための行動であったと知る。

 

 

「…俺はあとどのくらい生きていられる?」

 

 

意識を現実に向ける。期待する返事はない。

エーテルが首元から流出していることは知っていた。思っていたより勢いよく流れ出ている上に、治療してくれる相手もいない。手足を縛られては、自分で処置することもできない。明日の朝には、もう俺は死んでいるのではないだろうか…あの男は俺を死ぬ寸前、もしかすれば死ぬまで追い詰めるつもりのようだ。

 

 

「ここまで依存していたとはな…情けないことに、俺はアイツなしでは少しの間も生きていられないらしい」

 

 

自嘲する。

 

 

「さて、それはどうかな」

 

 

「!?」

 

 

突然、牢内に見知らぬ声が響いた。

 

 

「誰だ?」

 

 

声のあった方を見れば、牢の向こうから1人の女性がこちらを見据えて歩いてきていた。シンプルに見えて複数の凹凸を含んだラインを施されたヘルメット。

膝までのびる藍色のコートが揺れ、腕に淡く光るリストバンドが見えた。

 

 

「…ガーディアン。それもウォーロックか」

 

 

ハッキリ言えば、ハンターより苦手な人種だ。やれ事実を超えた真実だの、真理だのを戦闘中であっても常に議論してる奴らは、ドーン・ウォードを張るのに必死なタイタンの目には単なるサボりにしか見えなかった。

 

 

「驚かせてしまってすまない。1つ伝えておきたいのは、私は君のゴーストの頼みでここにいることだ」

 

 

「ゴーストだと?」

 

 

「君のゴーストは優秀だな。ゴーストの出せる最大範囲の通信で、私達ガーディアンにオープンチャンネルで救援を求めた…咄嗟にな」

 

 

「そんな機能があったのか?」

 

 

「さあね。少なくとも私のゴーストはそんなことしない。ゴーストは突き詰めればただの人工知能…条件に対して一定のアンサーしか出さない。普通ゴーストはガーディアンの指示無しにルール違反のオープンチャンネルは使わないし、ここまで大げさに助けを求めるはずはないんだ」

 

 

「私がここにいるのは単なる興味だ。妙なアクションを起こしたゴーストと、そのマスターである君に対するね…」

 

 

「…それで、俺をどうするつもりだ。あの男のように尋問するか?」

 

 

「それには及ばない。私は真実を論ずる際には他人の言葉は用いるべきでないと考えるタイプでね。究極的に嘘を嘘と見抜くことはそもそも…」

 

 

「いいから、要点を話してくれ…」

 

 

ああ、ウンザリだ。ウォーロックは世の中で一番難しい言葉を使うヤツが一番賢いと思っていやがる!

 

 

「おっと、すまない…つまり、君を助けにきたのさ…ゴースト、仕事は終わったか?」

 

 

『あと3秒下さい…終わりました』

 

 

「よし。意外とセキュリティが固かったな…フォールン用と言われるだけある。さあ、あとはその鎖だが…」

 

 

『ハッキリ言えば無理です。少なくともここでは。破壊には専用の機械が必要です』

 

 

「コレもフォールン用ってワケだね。ふむ…どうしようか…ゴースト、鎖の組成は分析できるか?腐食から試してみよう」

 

 

「………それは、どのくらいかかる?」

 

 

「うん?そうだな…分析結果にもよるから適当な推測は立てたくないんだけど、どれだけ急いでも数時間は必要だろうね」

 

 

「す、数時間…?」

 

 

「ああ。別の方法も無いわけじゃないんだが、とりあえずこれが一番早いだろう」

 

 

ああ…これだからウォーロックってやつは!

 

 

「……なあ」

 

 

「なんだ?今計算の準備をしてるからあまり集中を乱して欲しくないのだが」

 

 

「脱出が目的なら、俺の後ろにある壁を破壊して、鎖ごと持っていけばいいんじゃないのか?」

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

「…よし、それで行こう。ゴースト!効率的に、かつ発生する音の小さいように壁を破壊できるポイントを」

 

 

「っ…うあああああーーっ!うるせえ!もう離れてろ!俺がやる!」

 

 

それはほとんど無意識だった。脳のオーバーフローが引き起こした現象であった。俺はありったけのエーテルをつぎこみ、左手を何度も閉じ、開きを繰り返してパルスキャノンを連射した。

 

 

地響きのような音が地下中に鳴り響く。音の合間にウォーロックの叫びが聞こえてくる。ガレキが至るところで崩れ落ち、世界の終わりのような様相を呈してきたころ、ようやく俺の身体は壁から解放された。

 

 

「な、なんてことを!これでは脱出がバレてしまう!」

 

 

「早いか遅いかの違いしか無いだろうが!!」

 

 

「その違いが重要で…ああもう!早く逃げるぞ!着いてこい!」

 

 

走り出すウォーロックに追いすがる。身体が大きくなってしまった分、崩れ落ちたガレキに身体がつっかえることがあったが、鎖か巻きついたままの右腕で破壊して進んだ。フォールン・キャプテンの腕というのは思ったより強力だ。

 

 

「もうすぐ地上だ!」

 

 

走る。走る。状況の矛盾に気がつくことなく…

 

 

「よし!これで…」

 

 

「ゲーム・オーバーだな。ガーディアンとバケモノよ」

 

 

「っ!デヴリム…!?」

 

 

そうだ。俺の脱走など、想定も対策もしていないハズが無かったのだ…デヴリムと呼ばれたその男は、地下を這い上がってきた俺と突然現れた協力者を、苛立ちを含んだ獰猛な笑みで出迎え、自慢げに抱えていたライフルをこちらに向けた。

 

 





というわけで、新キャラです。ウォーロック使いの皆さんお待たせしました。ウォーロックって議論好きの理屈屋なイメージがあるんですが私だけですか?多分ベックス研究家な彼のせいだとは思うんですけど。


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