そういえば、時々はじめの方に書いている伝承風の文章ですが、深い意味はあったりなかったりします。今回は割と書きたかっただけです。
月、『ヘルマウス』での会話記録
「なあ、それはなんだ?その胸に下げてる石のペンダントのことだ」ーー新米のハンター
「これか?これは俺だ」ーーベテランのウォーロック
「いや、アンタはそこにいる。俺と話してる」
「俺はここにはいない。もっと遠く…いや俺は、もうどこにもいないのかもしれない」
「何の話だ?意味がわからない」
「俺達は死ぬが、生き返る。だがその間に何があったか知ってるか?」
「ある時、この【間】が恐ろしくなった。だから俺をここに封じこめた。俺が壊れない限り、身体が死んでも、俺はここで全てを見ていられる」
「自己暗示か?」
「そうではない。事実だ。俺はハイヴ魔術により魂を分け、ここに移動させた」
「何だと?ハイヴの忌まわしい力を使ったのか?」
「忌まわしい?ハイヴは純粋だ。純粋な死だ。そもそも…敵の技術を流用することの何が悪い?」
「このことはバンガードに報告させてもらう」
「そうか…残念だ」
「なんだと?」
「歯。先端。お前は年老いた影だ。苦痛。腫瘍。そして…」
「何をしてる?おい!やめろ!」
………………………
あれからまた数日が経過した。
ザナリーは俺をからかってくる以外はよく働く。ケイについても、時々俺やライフに妙な質問を投げかけてくるがそれだけだ。突っ込むザナリーや俺の援護が非常に上手く、今では作戦を考えるのも彼女の仕事だ。理屈っぽく、また考え過ぎて視野が狭くなる時もあるが、その時は俺やザナリーが意見する。
俺達はかなり安定した戦いができるようになっていた。
これなら自分達が生きるだけでなく、ほかのことにも目を向けられるだろう。
…それこそ、ガーディアンの仕事の真似事だってできるかもしれない。
…ただ1つの懸念を除けば。
『痛みますか?』
「いや、最近はもう痛みは感じない」
俺達は木製の廃屋をキャンプにして休息をとっていた。あちこち軋んでうるさいし、床には穴が空いていてよく足が抜けるが、雨風をしのぐには十分だと判断した。
ライフは俺にライトを当てるのをやめて考え込む。
『ふむ。エーテルの供給を最低限にしたからでしょうか』
「そうかもな。身体の肥大化も前ほど早くない」
『やはりエーテルの供給量が身体の肥大化に直結しているようですね。ケイはどう考えますか?』
「前例が無いことだから難しいが、私が考えるにこれはかつてのガンのようなものだ」
『ガン、ですか』
「なんだそれは」
「ああ。ガンというのは病の1種だ。黄金時代までは不治の病だったらしい。私も文献でしか知らないがな」
「それが、どう俺とつながるんだ」
「ガンの治療法が確立するまでは、患者には2つの選択肢しかなかった。すなわち、進行を弱めて死を遅らせるか、ガンに罹った部位を健康な部分ごと切除するか」
『…今のゾンビさんは前者であると?』
「そうだ。結局のところ、根本的な解決をしなければ、君は遅かれ早かれ完全なる人外と化すだろうな」
「なんだ。最初からそう言え」
「例を挙げて話した方が分かりやすいだろう?」
「どうだかな。そもそも例を知らないなら意味がないんじゃないか?」
「それは受け取り手次第だ。そもそも会話による理解というのは実際の割合にして…」
「ああ。もういい。その話はまた俺の墓ができた時にしてくれ。それで、結局俺はどうしたらいいんだ?」
「言っただろう。根本的な解決だ。つまり原因の究明、解決策の模索。ガンのように、解決策さえ確立してしまえば、不治の病はほんの少しの損失に変わる」
「何も分からんということか?」
「そうとも言える」
『では、我々はゾンビさんの変化を抑えながら研究し、解決を目指す…つまり今まで通りというわけですね』
「…なあ…お話中失礼するんだが…」
「どうしたザナリー、敵がいたか?」
「いや、ちょっと話を…いやほとんど全部聞いてたんだが…なあ、つまり、アンタ達は【よくわかんないから現状維持で】って言うためだけにそんだけの時間を費やしたのか?」
「………」
「…はあ、ザナリー…あなたは本当に…」
「あー、いや、俺の勘違いならいいんだ!ただ、その話に弾丸の1発分以上の価値はあったのか気になったんだ!」
「…物事の本質は結論にだけある訳じゃない。複数の事実。複数の意見。そして複数の分析…結論はその先にあるからこそ価値がある。結論や結果が同じであっても、そこに明確な根拠があることに意味がある。説得力が増す」
「…なるほどな!ハハ…今度からアンタ達の話は立ち聞きしないようにするぜ」
『理解を諦めるのも1つの選択ですね』
「そういう事だ。ライフ君は優しいなぁ感動しちゃうぜ」
『では、私をボールにして遊ぶのを控えてくれると嬉しいのですが』
「そりゃムリだ。今ある娯楽の中で1番楽しいんだからな!」
『ああ…助けて…イヤだ…』
「ザナリー」
『ゾンビさん!』
「…ほどほどにしておけ」
「了解!流石ダンナだ話が分かるぜ!」
『………』
ライフは静かになった。
………………………
「ケイ、お前に師匠はいるのか?」
「師匠はいなかった。あえて言うならゴーストが私の師匠だ」
『質問に答えていただけです』
ケイのゴーストはライフに比べて寡黙だ。必要とされたり、ケイの話の補足程度にしか話さない。
「ウォーロックの素質が高かったということだな」
「そうかもしれない。師匠はいなかったが、仲間はいた。チームを組んで研究に打ち込んだりもした。今は…どこにいるか分からない」
「そうか。死ぬ前に見つかるといいがな」
「ああ。…あっ」
「どうした」
「1つ、忘れていたことがあった…お前より先に、敵と融合したガーディアンがいたんだ」
「融合…という言い方は引っかかるが」
「…あの人も、お前と同じだ。そうせざるを得なかったから、そうなった」
「気が合いそうだな。タイタンならもっと良かった。それで、名前は?」
「エリス。エリス・モーン。アウォークンの女性で、行方不明だったファイアチームの生き残り。かつてシティに迫るハイヴの脅威を伝えた」
「彼女はハイヴだらけの中で身を隠し、生き残るためにハイヴの目を手に入れた。彼女は…私達には聞こえない声が聞こえていたようだった」
「ハイヴか。あまり参考にはならなさそうだが、話してみる価値はあるな。それで、居場所は分かっているのか?」
「分からない。そもそも、今生きているのか…」
「彼女はシティにいたのか?」
「ああ。ハイヴの脅威がガーディアン達によって退けられた後は、シティの広場の端、影になっているところで景色を眺めていた」
「あの日、シティから逃げること自体は難しいことではなかった。ましてハイヴの巣から生還する能力があればな…生き残っている可能性は高いだろう」
「あの日死んだのは勇敢な者達ばかりだった」
「………」
「おい!大変だ!」
ザナリーの声が響く。柱のひびが大きくなった気がした。
「ザナリー、あまり大きな声を出すな」
「大変なんだ!今ラジオのオープンチャンネルで話してる!いいから聞いてくれ!」
《…ザヴァラだ。経緯は先程スロアンが伝えた通りだ。我々は衛星タイタンに集結し、反攻の時を待った。そして…ガーディアンがやってきた》
「ガーディアンだと…?」
《彼は我々の懸念をことごとく打ち破った。驚くべきことに…彼は、1度は奪われた光を取り戻していた!》
「…!」
思わず顔が歪む。
《これは福音だ。我々はまだ戦うことができる。希望は残されている!我々はバンガードを再度結成し、リーダーを召集して、反攻作戦を練る…これを聞いているガーディアンがいたならば、我々の発する情報を常に気にかけてほしい。そして覚えておいてほしい…我々はまだ負けてはいないことを!》
「………」
「…どうだ?すごい事だぞこれは!」
「…ザヴァラ…いやほかのバンガードは生きていたのか…」
「………」
「どうした?ダンナ、具合でも悪いのか?」
「…おおおっ!」
衝動のままに醜く膨れ上がった右腕を振りぬき、地面に穴を開ける。
「い、一体何だってんだ、落ち着けよ!」
「……っ!」
腕を引き抜き、立ち上がる。
「どこへ行く?外は危険だ」
「すぐに戻る…1人にしてくれ」
そう言って、俺はほとんど外れかけの扉を開いた。
………………………
『ショックでしたか?』
「ライフ、黙れ」
『あなたはその身をフォールンに似せてまで生き残り、力を得た』
「黙れ」
『これで戦うことができる。姿は変わっても、光がなくても、また人を守れる…また、ガーディアンの仕事ができる…そう思った』
「………」
『でも問題が起きた。あなたは守るべき人間に拒絶された…それが、彼らにとって正しい判断だったとしても、あなたにとっては理不尽にも感じた』
『……それでも、あなたを保っていたのは諦念。光などない…取り戻した者などいないのだから、こうするしかなかった…状況が悪かった。そう考えることで、自分を正当化していた』
「黙れ!握りつぶしてやってもいいんだぞ!」
ライフを掴む。だが、ライフは話すことをやめない。
『…私はあなたのライフ!あなたの命を預かると決めた!ならば、これは自衛です!私は今、あなたが私から奪おうとするあなたの命を守っている!』
『光が取り戻せると知ったから何ですか!?あなたはもう取り返しのつかない所まで来ているというのに!フォールンのような身体の何がいけないのですか!?』
『センチメンタルにふけるのもいい加減にして下さい!あなたが過去にタイタンとして働いたことを、私があなたのゴーストであったことを、今更後悔させないで下さい!』
「…っ!」
『…あなたはもう、ガーディアンではない。自分でそう決めた。ならば、今更光など気にしないで下さい。あなたはあなたの戦い方で戦えばいい…光を取り戻したガーディアンがいたことはプラスです。憎たらしい暗黒に痛い目を見せられるチャンスです』
「……少しの間でいい…静かにしててくれ。頼む」
『いいでしょう。私はまだ、あなたのゴーストです』
「…ゴースト…ガーディアン…俺は…」
ゴーストはガーディアンの乗り換えができるそうです。ラストワードの伝承にもそういった描写がありますね。