ゾンビが人間を守って何が悪い   作:セイント14.5

23 / 42


短めですが、キリがいいのでこの辺で。
リアルが忙しいので更新はゆっくりになります。気長にお待ちください。



レベル16.意識

 

 

 

 

エリスが術式を編み終えると、またハイヴ式のポータルが開いた。彼女が言うには、彼女の船が停めてある場所に繋がっているらしい。

ポータルを通る時、ザナリーは珍しい体験にずいぶん興奮していた。ケイは戸惑いながらも、興味を隠せない様子だった。最後に俺が通った。引っ張られるような感覚があった以外は、特に何も感じなかった。

 

 

ポータルを抜けると、目の前には鬱蒼とした森と大きめの黒い影があった。エリスの船だった。エリスの船は普通のガーディアンが乗るような船に近い形をしていた。ハイヴ風の装飾が施されていたのは彼女の趣味だろうか。

 

 

残念なことに、ガーディアンの船は俺を含めた複数人を乗せるようにはできていない。我々(俺)については現地で情報収集するつもりで、今回は予想外だったと説明された。

ケイは身体が小さいので、エリスと共になんとかパイロットシートへ。俺とザナリーは格納庫に入り、宇宙に出る一応の対策として、月でも活動できるガーディアンのスーツをつけた。バンガードの支給品をいくつか持ってきていたらしい。

もちろん俺にはサイズが合わないので、俺だけはライフが加工したものに身体を無理矢理はめ込んだ。はっきり言ってキツい。このままザナリーと一緒に惑星タイタンまで行くのかと思うと、人生の終わりのような気分になった。深く考えないように努めていると、いつの間にか意識が遠のいていった…

 

 

 

………………………

 

 

 

「同志よ…調子はどうだ」

 

 

「また、お前か」

 

 

いい加減に、この夢にも飽きてきた。雲をつかむような話をするフォールンの相手を、相手が満足するまで延々とするだけ。

 

 

「もういいだろう」

 

 

起きている間に、俺は1つの仮説を立てていた。コイツの正体についてだ。

 

 

「…何がだ?」

 

 

わざとらしく、フォールンは首をかしげる。

 

 

「とぼけなくてもいい。お前の正体くらいは分かっている」

 

 

冷静になってみれば、何のことは無い。

 

 

「………」

 

 

「お前はフォールンだ…だが、フォールンのうちの何者でもない。お前は…」

 

 

「お前は、俺の被害妄想が作り出した幻に過ぎない」

 

 

そうだ。こいつは俺の、【フォールンになってしまったかもしれない】という不安に、被害意識に呼応して生み出された、単なる悪夢の登場人物。曖昧な話も、全て俺がそもそもフォールンについてよく知らないから、確かな話が出来ないだけなのだ。

 

 

「……そうだとして、オマエはどうする?」

 

 

「オマエは、もはやガーディアンには戻れない。オマエのゴーストが言うのは希望だ…全く、具体性のない。オマエは分かっているハズだ…もはや、後戻りなどできはしない」

 

 

「オレがオマエの妄想の産物だと?だとすれば、オマエの心のなんと脆弱なことか!夢でも敵を作らねば自我を保てないとは!」

 

 

「ああ。そうだ。俺は弱い。身体がではない…精神面の問題だ」

 

 

「身体をいじくり回して、人間とは到底言えない身体になりながら、フォールンを殺して、俺は生きて…何人かにはコケにされて、俺はようやく気がついた」

 

 

「俺は弱い。もしかしたら、ガーディアンであった頃からそうだったのかもしれない。ゴーストは、それを知っていて、終始俺を止めていたのかもしれない」

 

 

「それも推測に過ぎん」

 

 

フォールンが低くうなる。

 

 

「そうだ。これも、全て推測だ。だが不思議と確信がある…全てがつながったような。そうだ。俺の生に大層な伏線や劇場的な展開などない…全てはあるべくしてあり、全てはなるべくしてなっている」

 

 

「悟ったような気分になっているだけだ。現実は何も変わりない!」

 

 

フォールンが叫ぶ。

 

 

「ああ。そうだとも…現実は、これから変わる」

 

 

「俺は弱い。数々の失敗を経て、俺が弱いということを知った…だが、まだ全てを失ったわけではない。ゴースト…妙ちくりんな協力者。それに…この【命】が残っている」

 

 

「お前はそれを自分で捨てたのだ」

 

 

「いや、預けたんだ。俺のゴーストに…だから俺はゾンビだ。生きているのか死んでいるのか分からない。ただ動く。何かの目的をもって…もしくは持たずに」

 

 

「ゾンビとして、ただ生きることは難しいことではない。ガーディアンとして人類を守ることは今更不可能だ…だが、俺は諦められない。ガーディアンであることを…」

 

 

「諦めたと自分で言ったはずだ!」

 

 

「言った。言ったが…やはり、俺は、精神の奥底の部分でガーディアンなんだろう。だから俺はフォールン扱いされることをあんなに拒絶し、人間であることに執着した…女々しいと笑えばいい…」

 

 

「…だが、俺は諦めない。永劫ゾンビとして生きることになったとしても、ガーディアンとして戦うことはできるハズだ」

 

 

「不可能だ」

 

 

「やってみなくちゃわからんだろう」

 

 

「馬鹿め…そのままフォールン扱いされて、卑屈に生きていればいいものを」

 

 

「全てがどうしようもなくなったら時はそうさせてもらう」

 

 

「……それで満足か?」

 

 

「さあな。この夢が醒めたら考えることにする」

 

 

「………」

 

 

「…苦労をかけたな。俺の心を守るために生み出された、名前も知らないフォールンよ」

 

 

「…お前がまた戻ってくることを楽しみにしている」

 

 

フォールンはそう言って踵を返した。段々視界が霞みがかり、その姿も見えなくなっていく。

覚醒していく意識の中で、もうこの夢を見ることは無いだろう。そんな確信があった。

 

 

 

………………………

 

 

 

「お、やっと目が覚めたか?」

 

 

密着に近い距離で、ザナリー3がこちらの顔を覗き込んでいる。

 

 

「…離れろザナリー」

 

 

ヘルメットの中でため息をつく。

 

 

「俺を見るなりため息をつくなんて…悪い夢でも見たのか?」

 

 

「今の状況が俺にとっては悪夢だ」

 

 

「ハハハ、そうかも」

 

 

「今、どこにいるんだ?」

 

 

「もう宇宙だとさ。木星まで行くんだろ?しばらくかかるんじゃないか?」

 

 

『そろそろ到着だ。姿勢を低くしろ』

 

 

エリスの声が響いた。船内放送だ。

 

 

「…だそうだ。俺の予想は大幅に外れたが、何も賭けてなかったよな?」

 

 

「ああ」

 

 

「よし。最高だ。そういやケイド6も見つかったらしいぜ!これでまたアイツと…いや、特に何もしてなかったっけ」

 

 

「アイツの冗談はつまらないんだ。なんと俺よりも!何故そんなことが分かるかって?だって俺よりクレームの数が多いんだよ」

 

 

「少し黙ってろザナリー。舌を噛むぞ」

 

 

「俺エクソだぜ?……もしかして冗談のつもり?」

 

 

「………」

 

 

「ハッハー!なんてこった!ダンナが冗談を言ったぜ!…しかも俺に!こいつは大ニュースだ!」

 

 

「黙れと言ったんだ!」

 

 

「こいつが黙っていられるかってんだ!ハハハハ!すげえ!俺、光を失くしてから1番笑ってるかも!」

 

 

到着するまで、ザナリーの笑い声が止むことはなかった。






というわけで、ゾンビさんの情緒不安定やらにうまくケリをつけたい今日このごろ。考えながら書くもんだから、収集つけるのは次話を書く時の自分です。一応大筋は決めてあるんですが。

それとお調子者キャラはやっぱりオチに使いやすいです。乱用しないようにしないと…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。