ずいぶん間が開きました。ごめんなさい。
「…さて!お互い意見はあるだろうがとりあえず矛を収めろ。この場は俺が預かる。いいな?」
ケイドは数歩歩くと軽く両手を持ち上げ、俺とバーツとの間に立ち掌を向けた。
「バーツ。お前はこのガン…ゾンビを、『裏切り者』だと言う」
「私は嘘はつかない」
「嘘かどうかは問題じゃない…とにかく、そこまで言うには理由がある。そうだろ?」
「もちろんだ」
「…だが、その理由を聞くのは後にしよう。長くなりそうだからな。さて…」
ケイドはゆっくりとこちらを見据えた。
「ゾンビ。何かこれに対して言うことは?」
「…ああ、そうだな…」
どうやらケイドは俺に釈明の機会を与えているらしい。問題が起これば務めて公平に。ケイドは嫌な顔をするだろうが、これもバンガードのリーダーの素質だ。
「………」
コンテナに登り直したザナリーが期待するような目でこちらを見ている。恐らく俺が公然とバーツの言い分を否定するのを待っているのだろう。だが…
「ない」
「うぇっ!?」
ザナリーがまた落ちる。ケイドも少し驚いたように首を傾げた。
「ない、ないってことは…ないってことか?」
「そうだ。俺はそこの女が俺を『仲間殺しの裏切り者』だと言うことに対して、何ら反論するつもりはない」
「…いいのか?それは…お前がバーツの言い分を全面的に認めることになるぞ」
「………」
「…ダンナ?どうしたんだ?」
『ゾンビさん…私はあなたの判断に従います』
氷のように冷え切った罪の意識が、粘着質に背筋を這う。
「…『仲間殺し』…認めるも何も、事実だからな」
「…!!」
周囲に動揺が走るのが目に見えて分かった。それと同時に、その多くが俺から半歩距離を取り、武器に手をかけた。
「…は、はははっ!やっぱりだ!私は間違っていなかった…この化け物め!」
バーツが叫ぶ。手にはライフルを構え、その銃口は正面…俺に向いていた。
「ケイド6!バンガードのリーダーに要請する!この場でこの危険分子を射殺する許可を!」
「…少し待て」
「ケイド6!!いつでも撃つ用意は…」
「待てって言ってるんだ!バンガードのリーダーに従えないのか!?」
「…っ!」
ケイドは俯いてため息をついた。
「…バンガードのリーダーに従え?俺が言ったのか?…クソ、なんで俺はこんな役職に…バーツ、お前は今冷静じゃない。とにかく、お前はそのまま待機だ。それと…」
ケイドは俺を横目で見る。球状の青色に光る両目で値踏みするように少し見つめた後、俺から目を離した。
「ゲイル、ケイ。お前達でゾンビを拘束しろ。動けなくなるくらいでいい。ザナリーは周辺の警戒。フォールンやハイヴが近くまで来たら知らせろ。俺は少し…バンガードと連絡を取る」
「拘束だって!?まさか!嘘だろ!?」
ザナリーが抵抗する。
「嘘じゃない。いいからやれ」
「ケイド6!アンタの目には、この『人』がマジで敵にでも見えてるのか!?」
「『化け物』にならない保証がない」
「ケイド6!!」
「もういい。ゲイル、ザナリー3も拘束しろ…口もふさげ」
「了解…悪く思わないで下さいね」
ゲイルは素早くロープを取り出すとザナリー3の口をふさぎ、そのまま身体も雁字搦めにした。
「むがが…チクショー!俺のアイデンティティを…!……!」
「こら、暴れないでくれ!」
「………」
「…どうした?縛らないのか」
暴れるザナリーを尻目に、ケイはロープを手にしたままこちらを見て立ち尽くしていた。
「私は…知識を求めてウォーロックになった。草木はどうして成長するのか、動物はなぜその形を取ったのか…ガーディアンはどうして生まれ、暗黒はどこから来たのか…」
「では、私は、何故そうまでして知識を求めるのか?」
「思い出せない。ゴーストに聞いても、私の根源にはたどり着けなかった」
「なぜ今そんな話をする」
「…何故だろうな。とにかく、今は怖いバンガードのリーダーに従おう」
「手早く頼む。それと…俺は痛いのは嫌いだ」
「フ…保証はしかねる」
結論から言うと、彼女のロープさばきは素晴らしいものだったが、少しだけ痛かった。いや、痛くされた。
………………………………
ケイドが席を外し、俺とザナリーがロープに縛られてしばらく経った。ザナリーはスリープ状態に入り、バーツはケイドに怒鳴られたのが少しは効いたらしく、時折こちらを睨む程度に収まっている。ヘルメット越しに睨むのが分かるのは不思議だが、感情の読みやすい…いかにもタイタンな女だ。
「待たせたな、諸君。いやそんなに待ってないか?…なんだ、ザナリーは寝ちまったのか。そりゃいいな。そっちの方が話が進む」
ケイドが両手をひらひらさせながら歩いてきた。どうやらバンガードの
「ケイド。あれからどのくらい経った?」
時間を聞いてみる。特に理由はないが、沈痛な空気を嫌ってのことだ。
「ちょうど15分くらいだ。長いと感じるかは任せる。俺はそうは思わない。忙しかったからな。さて結論から述べるが、作戦はとりあえず中止になった。まあ、これは当然だな」
「…彼の扱いは?」
ゲイルの問いに対して、ケイドはため息混じりに答える。
「まず…今までの扱いが、『表向きバンガードメンバー、実質バンガード預かりの危険物兼研究対象』だったわけだが…これが少し変わる。つまり…『バンガード』のあたりが消える」
「…追放ということか?」
「…まあ、そういうことになる。言い訳臭いが、バーツの言葉について、これを信じたワケじゃない。というか、まあ…その、ゾンビ…『暴風のガンドール』の、『メリディアン・ベイの撤退戦』については、俺だって知ってるさ。そこでの被害、その詳細までな」
「…では、本当に、仲間を…殺したのか?」
「ケイ。ウォーロックなら分かるだろう?ここで彼を突き放すってことは…彼を危険だと見なしてるってことだ。バンガードにも彼を警戒するための戦力を抽出する余裕はない。ならば追放してしまう方が合理的だろう」
「…しかし…地球ではそんな素振りは…」
「なあ、昨日まで仲良しだったヤツがナイフを向けてくるのがそんなに珍しいのか?」
「…ケイド、言い方というものがある」
「そりゃ悪かったな。俺も少し気が立ってる。許してくれ…それで、俺としては平和的に解決したいワケだ」
「シャトルはあるのか?」
「…まあ…一応。旧式だが。それと…ちょっと穴が空いてるのと…俺が暇つぶしにアートを少し加えてやったが…そのくらいだ」
「………」
「…でもちゃんと動くぞ?…多分」
ため息。今日何度目だろうか。
「…いいだろう。整備する時間をくれれば、このまま出ていってやる。ここの研究者連中にも退屈していたところだ」
「…そうか。そいつは…助かる」
「だがケイド。1つ約束してくれ」
「…内容にもよるが、言ってみろ」
「損はしないさ。手は煩わせない。お前も俺の望みは分かってるだろう…光を取り戻したら、必ず教えてくれ。教えてくれるだけでいい…連絡の手段はある。ライフ」
『了解。ケイド6、これからあなたのゴーストと私にパスをつなげます。大丈夫。メモリやストレージのロスはありませんし痛くありません。あなたが望んだ時に連絡できる…要はホットラインの開設です』
「…器用なんだな?」
『お褒めいただきありがとうございます。さて、完了しました。次は船の整備ですか?』
「そうだが、もう少し後になるだろうな…」
そう言って、左を見る。バーツがもう一度、こちらに銃口を向けていた。
「バーツ、やめろ」
ケイドが諌める。
「ケイド、何故殺さない」
「バンガードの決定だぞ」
「危険分子だ!」
「お前が何を知ってる!いいからバンガードに従え!」
「知っているとも!コイツがタイタンの英雄で!仲間殺しの裏切り者だってことも!その殺された仲間が…私の師匠だったことも!!」
「師匠…?まさか」
バーツの腕に巻かれた青色のバンドが目についた。
「そのバンド…エイリーク…!?」
「…っ私の師匠の名を気安く呼ぶなぁ!化け物めっ!!」
「師匠の仇…ここで、終わらせてやる…!ここで殺してやる!!うわぁああーーーーっっ!!」
パァン、と、弾けるような音が響いた。
暑いと思ったら夜は冷えたり、また蒸し暑かったり、もう自律神経ボロボロです。
皆様もお身体にはお気をつけて。