ゾンビが人間を守って何が悪い   作:セイント14.5

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前書きはありません。と書くと、しかし前書きはありませんという前書きが存在しているわけで。
あるのにない。不思議。




レベル23.守護者

 

 

 

エメラルドと言うには透明度に欠ける緑がかった海が眼下に広がり、大きくうねりながら一定のリズムを刻む。巨人の名を拝したこの星で響いたひとつの銃声は、確かにその『肉』を貫き、金属の地面に到達した。

 

 

まるでスローモーションのようにゆっくりと、巨人が倒れる。思ったより大きな衝撃も、音もしない。『彼』のゴーストは、彼の懐に入ったきり出てこなくなった。

 

 

巨人は、『タイタン』を見上げ…白い右腕を伸ばそうとした。そして、力なくその身を地面に任せ…最後には動かなくなった。

 

 

「………は?」

 

 

静寂が場を支配する中で、初めに声を発したのはザナリー3だった。その声は、心なしか震えているようだった。

 

 

「どういうことだ?…仲間を撃ったのか?」

 

 

彼の視線の先には、銃声の発生源…バンガード所属タイタンのバーツ。

彼女は倒れた『彼』を、ただ眺めていた。自分が撃ったことを確かめるように、銃を胸に寄せ、感触を確かめた。

 

 

「仲間だと?」

 

 

ザナリー3の弱々しい抗議に振り向きながら、バーツは氷のように冷酷な声色で答えた。

拳を握りしめ、ザナリー3の我慢ならない言葉に反論する…すなわち、『仲間』という言葉に。

 

 

「私が撃ったのは『敵』だ!コイツは紛れもない危険分子だった…私は危険を未然に防いだだけだ!!」

 

 

「…ああそうかよ!言いたいことはそれだけか!!」

 

 

もはや相容れないだろう。ザナリー3が立ち上がり、腰のハンドキャノンに手をかけようとした瞬間、横から手が伸び、それを制した。

 

 

「ケイド6!止めないでくれ!俺は…」

 

 

「いや、お前を止めたいんじゃない。俺が止めるのは…」

 

 

ケイド6はザナリー3を制したのとは反対の手で、いつの間にかハンドキャノンを構えていた。銃口は正面…バーツに向いていた。

ケイド6は斜に構え、分かりやすくバーツの頭に照準を合わせる。本当に撃つつもりは無い威嚇だ。これ以上余計なことをするなという意思表示である。

 

 

「この場の無意味な争いだ。バーツ、銃をおろせ」

 

 

努めて冷静に、この場を収めようとする意図が読み取れる声色で、ケイド6はバーツに警告した。

 

 

「…いいだろう。もう危険は排除した」

 

 

バーツはひとつ大きな息をつくと、手にしたライフルを腰のホルダーにしまった。丁寧に、手榴弾やサブウェポンを持っていないことも示した。

 

 

「ケイド6!!」

 

 

まさかこのまま目前の事態を見逃すのかと、ザナリー3がケイド6に抗議する。再度ハンドキャノンを構えようとすると、今度はケイド6がその腕を掴んで止めた。

 

 

「ザナリー3!いいから抑えろ!」

 

 

「っ…んなこと言ったって!人が死んでんだぞ…!!味方に撃たれて!」

 

 

「分かってる…バーツ、大人しくついてこい。ケイ、ゲイル、お前達はバーツの後ろにつけ」

 

 

ゲイルは顎に手を当てほんの少し逡巡すると、素直にケイド6の指示に従うことにした。自らが口出しすべき問題ではないという考えに至ったようだ。

 

 

「まるで囚人の護送ですね」

 

 

彼は冗談交じりに言うと、同じく指示を受けてバーツの後ろについたケイが顔をしかめた。

 

 

「ゲイル。私も無駄口は嫌いじゃないが、後にした方がいい…私も、ショックを受けている」

 

 

その声は少しだけ、いつもより低いように感じた。

 

 

「囚人だと…?私がか?」

 

 

バーツは身体を震わせ、怒り混じりに動揺した様子だった。自らの理解が得られないことに対する不満だ。

 

 

「ああ。お前のこれからの処遇はバンガードのリーダーによる協議で決まる…ま、よくて追放だ」

 

 

ケイド6が今後の予定を説明する。彼としては、ここから先は自分ひとりでは手に負えないと考えているようだ。

 

 

「私は敵を撃っただけだ!」

 

 

バーツはなおも肩をいからせ、自らの正義を振りかざした。彼女の言葉の裏には、確固たる『彼女の』正義が読み取れる。敵の攻撃を独りで受け止めることもあるタイタンには、こういった精神構造がよく見られた。

 

 

「『敵』だ何だとさっきから言ってるが…バーツ、お前は…なんの権利があってそんな事を勝手に決めたんだ?」

 

 

ケイド6は足を止め、バーツに振り向いた。どこか呆れたような、非難するような口調だった。

 

 

「何っ…」

 

 

「敵は何だ?ガーディアンが戦うべきなのは?そんなの『暗黒』に決まってるだろ!それ以外の敵はバンガードが決める!そんでヤバいと思ったら命令を出す!ガーディアンはそれに従う!そうじゃなきゃガーディアンなんかその辺のチンピラやマフィアとおんなじだ!分かるだろう!!」

 

 

「俺達は統制された集団じゃなきゃいけないんだ!今お前は『バンガードが敵と判断していない人物を個人の裁量で私刑的に射殺した』んだぞ!?」

 

 

「っ…だ、だが!私は奴の危険性をバンガードに訴えた!バンガードはそれを承知して、奴を追放した!敵と見なしたんじゃないのか!」

 

 

「それこそバカの考えだ!バカタイタンめ!バカにも分かるようにもっと簡潔に言ってやる…『お前はガーディアンを殺した』んだよ!!」

 

 

ケイド6は柄にもなく大きな声を出し、バーツを叱りつけた。ガーディアンとしては大ベテランである彼は、口では何度もバンガードを批判しようとも、バンガードの存在意義やその重要性について…そして、『力』の危険性について、この場の誰よりも深く理解していた。

 

 

「………うるさいっ!!うるさいうるさいうるさい!!アイツは師匠の仇だったんだ!あの撤退戦で!アイツは!アイツはっ!!」

 

 

バーツは地団駄を踏み、ケイド6に詰め寄って抗議する。『師匠を殺した裏切り者に復讐する』、この事実だけが、彼女にとっての全てだった。

 

 

「…だが、お前はその仇と同じことをやったんだ!!復讐を免罪符になら、何でもやっていいとでも思ったのか!?」

 

 

ケイド6の意見は変わらなかった。

 

 

「っ……!!」

 

 

バーツは、力なく崩れ落ちた。

 

 

「…『メリディアン・ベイの撤退戦』について、偏った情報から勘違いしてる可能性がある。臨時本部の謹慎室に連れてけ…後はザヴァラにやらせる。タイタンのケツはタイタンが拭くんだ」

 

 

ケイドは深くため息をつき、あとの対応について改めて説明すると、バーツから視線を外した。

 

 

「…了解。ケイ」

 

 

ゲイルは少し驚いた様子で、しかしすぐに落ち着きを取り戻して指示に従う。

 

 

「ああ。ほら、立て…それと、武器は預かる」

 

 

ケイはバーツの不安定さを懸念して、武器を預かることにした。

 

 

「…な、なあ…」

 

 

力のない声が下からケイの耳に届いた。

 

 

「…ザナリー」

 

 

座りこんだままのザナリー3が、全く動かない死体をぼんやりと眺めていた。

 

 

「…俺はこれからどうしたらいい…?ダンナは…ダンナは、もう助からないのか?ケイ、お前は頭がいいんだろ?教えてくれよ…」

 

 

救いを求めるような、切羽詰まった声色だった。

 

 

「…ケイド」

 

 

ケイはケイドに確認を取る。ザナリー3の対応を優先してやることにした。

 

 

「ああ…こっちはゲイルと2人で連行して先に戻ってる。相手してやれ」

 

 

「…了解………一発。…脳天を撃ち抜かれてる。全てを正直に言っても…悲しみしか残らないだろう」

 

 

彼女のゴーストによって分析された情報を伝える。

 

 

「…そうか…ああ、そうか…ダンナは…」

 

 

「………ダンナは………死んだ、のか」

 

 

消え入るように、自分に言い聞かせるようにして、ザナリー3はつぶやく。

 

 

「………」

 

 

「…クソ…畜生!クソ、クソ!クソッ!!何で動けなかった!何で守れなかった…!俺は、まだもらった恩のひとつだって返せちゃいないってのに!!」

 

 

ザナリー3は目前の動かない身体にしがみつき、叫んだ。時折、肩や頭を抱きかかえて掌で叩いている。

 

 

「…ザナリー…」

 

 

「…畜生…チクショーーーーーー!!!!」

 

 

慟哭がグリーンの海にこだました。

 

 

 

………………………

 

 

 

「うう…ダンナ…絶対死なないと思ってたのに…!」

 

 

ザナリーが動かない身体を抱えて泣き続けること数分。

…ようやく、身体に感覚が戻ってきた。一言目には、ずっと考えていたことを伝えてやろうと思う。

 

 

「………ぅる……さい…ぞ…」

 

 

暗く、絞り出すような声。この場の、『動く』誰の声でもない。

 

 

「………え?」

 

 

ザナリーの動きが止まった。

 

 

「…ゴースト!対象をスキャン!」

 

 

ケイは目を見開き、驚きを隠そうともせずゴーストを俺に向けて派遣した。

 

 

『了解。少々お待ちください……人間47%、フォールン49%、ニッケル等含む合成金属3%、その他1%』

 

 

「組成じゃない!生きているのか?」

 

 

今の彼女に、ゴーストの冗談を受け止めてやる余裕はないようだ。

 

 

『…21gはまだ抜けていません』

 

 

「………やっ……たぁあああああああああ!!!!」

 

 

ザナリー3が両拳を天に振り上げ叫ぶ。うるさい。金属の身体のハードポイントが当たって痛い。

 

 

「…はなれ…ろ…!」

 

 

ザナリー3は、この後何を言っても硬くて冷たい身体を離してはくれなかった。







梅雨も明け始め、最近暑くなってきました。学生の皆様の中には夏休みに突入した方もおられるかもしれません。社会人の方でも夏休みのある方はおられるかもしれません。
そんなものなどないという方もおられるかもしれません。
ともかく、熱中症やクーラーの浴びすぎなど、お身体にはお気をつけてお過ごしください。

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