学生の皆さんは宿題終わりましたか?
あ、辛いことを聞いてしまったとしたら申し訳ありません。
ちなみに、社会人は宿題がない代わりに夏休みもありません。
どうです、羨ましいでしょう?
戦うために生まれてきた者もいる。彼らは忠実で純粋で、「5秒で駆けつけろ」という招集がかかると、必ず誰よりも先に駆けつける。だが、私は違う。私は英雄ではないし、死に急いでもいない。……ガウルが終わらせるために来た……この戦いはレッドリージョンが終わらせる。だが、我々は踏ん張りを見せ、生き長らえた。それは勝利だ。銃にそう書いてある。
―――伝承:スカイバーナーの誓いより抜粋―――
「しかし…」
落ち着きを取り戻したザナリー3が、思い出したようにつぶやいた。
「どうして生きてたんだ?」
仲間が生きていた、それは喜ばしいことだ。だが落ち着いて考えれば、脳天を銃で撃ち抜かれたにも関わらず、どうして彼は生きていたのだろうか?
人は頭を撃たれたら当然死ぬ。だからこそ、それはシンプルで純粋な、しかし当然の疑問だった。
「俺にも分からん」
その疑問に、彼は一言で返した。無駄な言葉を弄する余裕も理由もない。そもそも、言い訳やごまかしは彼の性格には合わない。
『私がやりました』
会話が途切れたタイミングで、どこからか声が聞こえた。彼のゴーストが、彼の胸元から装備の隙間を縫って空に浮かんだ。
「ライフ君!」
「どこにいたんだ」
『あなたの損傷箇所を修復するため、胸部の私のポケットに入っていました』
「お前のポケット…そんなものあったか?」
『作りました』
簡潔に。だが、ゴーストに表情はなくとも、簡単な感情は読み取れる。ゴーストは今、間違いなく得意気だった。
「そうか」
彼はそれを知ってか知らずか、突き放すように会話を切り上げようとした。
『内部からエーテル供給量の部位別調整および細胞の活性化を行い、修復を急ぎました。正直危うかったのですが、なんとか一命をとりとめたようで私としても安心しました』
お構いなしにゴーストはザナリー3の疑問に答えるため説明を続けた。自分の能力が発揮できたことが余程嬉しかったのか、得意気な様子はいつしかその声色にも表れていた。
「エーテルの力だったのか…いや、すごいな」
ザナリー3は素直な感嘆の気持ちを表す。言ってしまえばこれは死者蘇生だ。研究機関にこのデータを提出すれば、業界に革命が起こるかもしれない。ザナリー3はそこまで考えて、そこから先は面倒になって考えるのをやめた。
『ええ。彼らの多くが無謀な突撃を敢行するのも、そういった背景があるようです。まあ、もっともそれは単なる要因のひとつで、大元の原因は彼らの気性の荒さにあるのでしょうが…』
「ライフ、今後の活動に影響はあるか?」
ゾンビが興味を示すのは理論ではなく実践のほうでだった。今後も生き長らえ、また敵を倒すことができればそれでいい。そう言外に伝えている。
『エーテルの侵食率が増大しました。今やあなたの身体はかなりフォールン寄りです』
彼のゴーストが疑問に答えるため、得意気な雰囲気を捨てて俯きがちに今後の懸念を伝えた。
「それは元々だろう」
『今まで以上に、です。注意して下さい。この影響は私には計り知れません』
ゴーストはたしなめるように語気を強めた。今回の蘇生処置はあくまで緊急の必要を踏まえたもので、エーテルの影響が増大するリスクを鑑みるに、今後多用していけるローリスクなものではないのだ。
「エーテルの必要量は増えたのか?」
そんなことは分かっているとばかりに、彼は実を求める。
『身体がよりフォールン化したことでむしろエーテルの移動の抵抗は減少しました。まあ…気にしなくていいレベルですが。そもそも…』
ゴーストは周囲を眺め回した。
「…このフォールンの死体の数ではな」
そこには、数えきれない数のフォールン…ほとんどはケイド6の華麗な(本人談)ハンドキャノンさばきにより、一撃のもとに脳天を撃ち抜かれたものばかり。フォールンからエーテルや装備を奪って生きる彼からすれば、傷の少ないフォールンの死体は宝の山のようなものだ。
『しばらくはエーテルにも困らないでしょうね』
「ああ…そうだ…な……」
突然思考が濁り、急速に陰が差していく。景色が歪んで回る。抵抗する暇もなく、そのまま彼の意識は刈り取られた。
弛緩した身体は重力に従って地面に倒れる。
「ダンナ!?」
ザナリー3の脳裏に嫌なイメージが浮かび上がったが、慌てて立ち上がるザナリー3をゴーストが静止した。
『細胞活動を過剰に活性化させた影響で、肉体的疲労が限界に達しています。要は…彼はとても疲れています』
無理矢理脳みそまで再生させたのだから、エーテルで補っているにしても本来身体は疲れる程度では済まない。死んではいないことが救いだろうか。
「…あ、ああ、なら…いいのか?」
戸惑いながら、ザナリー3はゴーストを信じることにした。彼は専門家の言葉には素直に従うタイプだった。
『バンガードに戻りましょう。ケイド6のいう船はそこにあるようです』
「ダンナはどうする?…まさか俺が運ぶのか?この巨体を…?」
『私には不可能です』
「私は彼の装備や道具を運ぼう。ザナリー、頑張れ」
先ほどまで彼女のゴーストをチェックしていたケイが、はにかみながら抜け目なく楽そうな役割を取って歩いていってしまった。
「……いやいや…………え、ウソだろ………?」
ザナリー3は、倒れ伏す2メートルを越える巨体を見下ろして立ち尽くした。今の彼には、腰が重量オーバーで折れたり歪んだりしないことを祈ることしかできなかった。
………………………
危険地帯を迂回しながらしばらく歩いて、三人はようやくバンガードの仮設ハンガーにたどり着いた。追放されているため、残念ながら基地の建屋内に入ることはできない。その証拠に、彼らの私物は既にこのハンガーに届けられていた。
『着きました』
「フレームが歪むかと思った…膝関節に油圧機構があったら確実に中身が漏れてた……!」
彼の関節はデジタル制御のようだ。
『お疲れ様です』
簡単にゴーストがフレームをチェックするザナリー3をねぎらう。そうしていると、大柄な男性が近づいてきた。
「戻ったようだな」
『ザヴァラ』
ザヴァラはタイタンバンガードのリーダーとして見送りのためにハンガーで彼らを待ち受けていたようで、積み荷の隣で横たわる男を認めると、軽く息をついた。
「問題の男は…なんだ、眠っているのか。呑気なものだな」
「さて、既にケイドから大まかな話は聞いていると思う。あれから臨時会議を行ったが、方針に変更は無かった。残念だが、この男をバンガードに置いておくことはできない」
ザヴァラは冷たい声で、事務的にバンガードの決定を伝える。
「なんでだ!何も悪いことなんてしてないだろ!」
ザナリー3が怒りを示しながら抗議した。
「確かに、彼はバンガードの指示には全て従っていた。暗黒との戦闘を鑑みれば、むしろ貢献さえしていたと考えるが」
ケイも、冷静な態度ではあるが同じように、バンガードの決定には反対の意見を述べる。
それを聞いて、ザヴァラはバンガードの決定の経緯を説明することに決め、近くの段差に座り込んだ。
「ああ。私もそう認識している。だが問題はそこではない」
「というと…やはり、彼の過去か」
「…『暴風』の由来、だったか…ああ、確かに私は彼の潜在的な危険性を考慮し、警戒の意図を込めてその二つ名を通知した…ずいぶん前の話だ。当時を覚えているガーディアンなど、そう多くはない」
ザヴァラは少し間を置くと、昔読んだイコラの本の一節を思い出した。
「……無数の人間に紡がれた歴史はいつか教訓となり、また新たな歴史の土台となる…歴史とはかくあるべきものだ」
それは歴史の意義、存在価値についてだった。教訓が消えぬよう過去の過ちをよく記し、また繰り返さないように未来の人間はそれをよく学ぶ。歴史の価値はそこにあるのだと述べられている。
「…ちょうど俺もそう思ってたとこだ!バカにするなよ?難しい言葉を使ってはぐらかそうったってそうは…」
個人的に難しい言葉に対面したザナリー3が見栄を張った。
「ザナリー。今のは別に難しい言葉でもない」
「……そう、俺は今そうも思ったんだ。確かにな、うん」
「…ザヴァラ。歴史の話をしたということは、貴方はその危険性についてもよく理解しているはずだ」
ケイはザナリー3から目線を外し、ザヴァラの言葉を少しだけ詰める。イコラのファンとして、少しだけ対抗心が出ていたのも事実だ。
「そうだ。今回はそこが問題となった…つまり、歴史は…誤解と、怨恨を生み出す土壌ともなりうるのだ」
「歴史は多くの人によってリレーのように語り継がれる…歴史は解釈や受け取り手によって、無限にその形質を変える。…バーツからの聴取によれば、この『暴風』の生まれた地に居合わせたガーディアンに話を聞いたようだが…どうやら、ずいぶん偏った話だったらしい」
バーツ。ゾンビを独断によって撃ち抜いたタイタンは、師の訃報を聞き、未だ錯綜する情報を集めるうちに思い込みが深くなっていったとバンガードは判断したようだった。
「イコラ・レイの著書によれば、歴史は嘘と偏見に満ち、また時には都合よくねじ曲げられる。しかし、我々が真実を追い求める限り、歴史を学ぶ意味がある」
「ああ。だがこうもある…歴史の真実を知ろうとする時、十人の目撃者の証言を聞くのでは全く足りないだろう…」
「…そのために本がある。それで第2章は終わり。ええ、二人ともよく読んでる。細かい所は違うけれど」
「!」
ザヴァラでも、ケイのものでもない女性の声がハンガーに反響した。イコラ・レイ。ウォーロックバンガードのリーダーで、先ほどからやたら著書の引用をされていた。
「イコラ。バーツの聴取は終わったのか?」
「彼女の精神に大きな疲れが見られたから中断した。またすぐに再開する予定だけれど」
「そうか。見送りにでも来たのか?」
「そんなところ。それと…」
イコラがケイに向き直る。ケイは思わず背筋を伸ばした。
「ケイ。あなたはとても若く、賢く…同時にウォーロックらしい人。私達はあなたを研究者として評価している…ウォーロックバンガードにはあなたの席を作る用意がある」
「それは、スカウトと受け取ってよろしいですか?」
ケイは思わぬ展開に嬉しさを感じていた。尊敬するガーディアンや同業者が自分を認めて、戦力として欲している。望外の誉だ。
「もちろん。といっても…あなたの答えは決まっているようだけれど」
「…そうですね。あなたが私を研究者と評すならば」
少し前のケイなら、二つ返事で了承したかもしれない。しかし、彼女の意思は既に定まっていた。
「つまりどういうことだ?」
会話の輪から外れていたザナリー3が、暇つぶしにしていた銃いじりを中断して尋ねる。
「研究者が目の前の研究対象を放って建物の中にいる奴らと議論しに行くと思うか?」
(忘れられがちだが)彼女の研究テーマはゴーストの自由意志や感情について。目の前にそれを持ち得るゴーストがいる限り、それを観察するのが研究を形にする最短ルートだ。ならばそれを逃す手はない…彼女は良くも悪くも、よい研究者だった。
「…なるほどな!」
当然だが、彼はそれについてよくわかっていない。
「フ…バンガードとしては残念だが、私個人としてそれは好ましいと思う。せめてあなたの研究の成功を祈ろう」
「ありがとうございます。それで…」
ケイはハンガーの奥、打ち捨てられたように置かれている金属の箱を指した。ところどころに穴やこげつき、装甲の劣化が見られ、デュアルエンジン(があったと思われる空間)からは、他の船のために片方のエンジンが抜き取られている。そもそもそれが、外装が剥がれているせいで遠くから見て取れる。
極めつけは謎のオブジェや落書きが所狭しと散りばめられていることだ。海賊船と呼ぶにもおこがましい、悪ふざけの集大成とも言うべきものがそこにはあった。
「…船というのは、もしやアレのことですか?」
ケイド6から事前に、「ボロい船」だとは聞いているが、ここまでとは思わなかった。ケイはじとっとした目で、船(仮)とザヴァラ達を見比べる。
「………」
バンガードのリーダー達は無言で、ためらいがちに首肯した。「そうだ」と明言しなかったのは、それを認めたくなかったからだろうか。それともそんなものしか用意できなかった罪悪感だろうか。
「船?おもちゃ箱の間違いじゃないのか?」
ザナリー3は遠慮のない糾弾を述べる。誰だってあんなものを船とは認めたくない。しかもそれにこれから自分達が乗るというのなら尚更だ。
「残念だが、バンガードも余裕がないのだ。明日の資材も足りていない中で、お前達にキレイな船を渡してやることはできなかった」
「飛ぶのか?」
「先だってアマンダに確認させてある。地球まで行くだけなら……問題はないそうだ」
「…だけなら?…問題はない?」
「………」
ザヴァラは目を逸らした。緑色でも空はきれいだなと、そう思った。
「…おい!おい!!」
「私としても残念だが、明日の資材も足りていない中でキレイな船を渡してやることは」
「それはもういいって!!クソ、分かってたことだけど、こりゃあハードな旅路になりそうだぜ…」
ザナリー3は諦めて、船をなんとか整備する方向に切り替えたようだ。ボロボロの船に向かって、工具を片手に歩を進めていった。ケイも軽くバンガードのリーダー達に頭を下げて、ついていくことにした。
「…こりゃあ途中でフォールンやカバルの船に出逢えばおしまいだよな?」
「その可能性が極めて高いな」
「小さい石ころに当たるのも避けた方がいいか?」
「うん…まだ詳しく見ていないから絶対ではないが、なるべく避けた方がいいだろう」
「…宇宙ゴミは?」
「ダメだ。ダメージもあるが、部品に電磁気などが残っていた時の影響が分からない」
「…普通の船なら全部気にしなくていいのにな」
「…あるだけマシだろう、そう考えよう」
2人は今日一番のため息をついた。
「さあ、始めよう。彼が寝ているうちに、心配ごとをひとつ潰しておいてやろうじゃないか」
ぱん、と手を叩き、ケイが気持ちを切り替える。
「そりゃいいや!戦闘の時と同じだ。全体の指示は任せるぜ」
ザナリー3は呼応するように、キュイキュイと肩関節を回してやる気を示した。
「ああ。さっさと終わらせよう。まずは…」
少し未来の話をすれば、彼が目を覚ますまでに整備が終わることはなかった。
あれ、なんか…長いな…まあいいか。