ゾンビが人間を守って何が悪い   作:セイント14.5

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お待たせしました。




レベル25.銀

 

 

彼女の後ろで、人々は逃げ惑っていた。

 

数え切れないほどのフォールンが襲ってきたのだ。…彼女のゴーストが悲報をささやく…ゴーストの光が見えなくなり、100人の生き残りの足音が聞こえなくなると、彼女はヘルメットを被り、ガントレットを締め直し、足元で地面を覆うヘドロに線を描いた。フォールンのドレッグの足音がトンネル内に響いてくると、彼女は光を引き出しボイドのエネルギーでシールドを張った。

 

必要なら、この一線を永久に守り抜く。

 

「下がれ。二度は言わない」―――ブジョルナ3

 

 

―――伝承:アーサ・フリオーサより抜粋―――

 

 

 

「というワケで!」

 

 

身体中を黒い油まみれにしたまま、それを気にもとめずどこか満足気なザナリー3が仁王立ちしている。

 

 

「苦節8時間、ついに完成したのが」

 

 

その隣でケイが身体を壁にもたれかけて休んでいた。

二人の後ろにあったのは、もはや船とは呼べない何かであった。

翼はもがれ、パッチワークで継ぎ接ぎされた剥き出しの装甲は薄く歪んで頼りない。コックピットがあるはずの所には、謎の機械がはめ込まれていた。

 

 

「…このよく分からん金属の塊、ということか。…名付けるならスペースデブリ号だな」

 

 

『ちなみに私も手伝いました』

 

 

「オイオイひどいこと言うぜ!これでも頑張ったんだぞ!?」

 

 

辛辣な言葉に、ザナリー3が全身を使って抗議する。怒りを表していても、根底のところでコミカルなためいまいち伝わらない。

 

 

「…まあ、外見に関して文句を言われることは予想していたとも。我々は専門家では無いからな。だが、素人なりに最大限力は尽くした」

 

 

ケイが珍しくザナリーを擁護する。どうやら彼女もかなり手を加えたようで、この船?に多少の自信があるようだ。

 

 

「そういうことだ!まあ、まずはこの…うーんと、『スーパー・ザナリックカスタムスペシャルロケット号Mk.Ⅱ』の説明をさせてくれ!」

 

 

ザナリーがとんでもない名前を既成事実としてつけたがっているようだ。

 

 

「待て、名前についてはまだ結論が出ていないはず」

 

 

瞬間でケイからインターセプトが入る。ザナリーも分かっていたようで、ばつが悪そうに頭をかくモーションをとる。

 

 

「うーん…なら、ダンナに決めてもらおう。それなら文句ないだろ?」

 

 

「じゃあ、ダンナ!この船の名前なんだが…」

 

 

「どうでもいい。こんなものは宇宙に射出された途端に撃たれるか自壊して燃え尽きる運命だろう。名前なぞつけるだけ無駄だ」

 

 

「…燃え尽きる運命だってさ。うーん、じゃあ、この船の名前は『シルバー・フレイム()号』でどうだ?船の外装(フレーム)もちょうどシルバー(未塗装のため)だし丁度いいだろ」

 

 

「…まあ、いいだろう。少なくともスーパーなんたら号よりはマシだ」

 

 

「あんなにクールな名前なのに!」

 

 

「それで、船の説明はまだか」

 

 

話が進まなさそうだったので強引に話を戻す。

 

 

「おっと、早速この『シルバー・フレイム号』に興味をもってくれたみたいで嬉しいぜ。それじゃあまずは…」

 

 

ザナリー3がちょこまかと動き回りながら、身振りを多分に交えた船の説明を開始した。

 

 

………………………

 

 

 

「…ま、とりあえずこんな所だな」

 

 

ザナリーが説明を終える。彼の説明は所々…というかほぼ全てにケイの注釈が入ったおかげで、思ったよりはスムーズに理解できた。そう。理解できてしまった。

 

 

「………」

 

 

我々には、もはや残酷な未来しか残っていないということを。

 

 

「…どうした?感動に打ち震えてるのか?」

 

 

ザナリーがこちらを覗き込み、的外れなことを聞いてくる。

 

 

「…いや、これで最期になると思うと、昨日食ったレーションの味も悪くなかったと思い返していたんだ」

 

 

『実はもうエーテルさえあれば十分生きていられます。つまり趣味です』

 

 

ライフがいらぬ横槍を入れる。実際、現状において食事をするのは人間らしさを失わないためでしかない。

 

 

「死ぬ前提かよ!?」

 

 

「マトモなウイングもない、コックピットもない、ちょっとしたゴミが当たれば穴があくようなペラペラの装甲、オマケに燃料タンクと推進機だけはいっちょ前で誘爆性は抜群ときた!これで死なないと思うヤツはいないだろう!」

 

 

「ウイングは元々ボロボロで意味なんか成してなかったの!コックピットも単なるデッドウェイトになってた!装甲はこれでもマシにした!燃料タンクと推進機がなきゃ地球までどうやって行くんだよ!」

 

 

「……だったら、お前はこの空飛ぶ棺桶に乗って地球へ行けると思ってるのか」

 

 

「思ってない…だから火星に行こうと思う」

 

 

口論の末、ザナリー3が突拍子もないことを言い始めた。

 

 

「なんだと?」

 

 

「地球は無理だ。今でもカバルの大艦隊が周りを哨戒してる。…でも火星は、例の光を取り戻したガーディアンがブレイ施設やその周辺システムを再起動させてくれたおかげでいくつかセーフゾーンができてる。そこまで行くだけなら、コイツでも持つ!」

 

 

「お前の妄想は分かった。だが、俺が言ってるのはどこまで行くかじゃない。この船にそこまで飛んでいく能力があるかじゃない。俺が言いたいのは、そこへ行くまでの間に、敵に見つかることも、デブリにぶつかることも無いという保証がどこにもないことだ!」

 

 

「…でもここにはもういられない」

 

 

「!」

 

 

「…俺達が悪いことしたってワケじゃない。バンガードも悪くない。悪いのはカバルだ。それは分かってる…なんでこんなことにって思って、理不尽に対して怒るのも分かる」

 

 

「…俺だって嫌だ!そりゃ確かに、ケイとゴースト君と頑張って整備した船だ。でも…まあ、ボロボロだし…安全に飛べるなんて夢にも思っちゃいない」

 

 

「でも、俺達に、ほかに選択肢なんかあったか?」

 

 

「…ガーディアンの船だって、いつでも安全というワケではなかった。むしろいつも危険と隣り合わせの地帯を飛び回っていた…違うか?」

 

 

ケイが口を挟んできた。口元がどこか笑っているように見えて仕方がなかった。

 

 

「…詭弁だ。それとこれとは話が違う」

 

 

「危険に、変わらぬ勇気を胸に立ち向かってきたのは誰だ」

 

 

ケイが煽るように口調を作る。

 

 

「シティを守るために走り回ったのは、カバルの突進を真っ先に受け止めたのは誰だ」

 

 

ザナリー3が何かを期待するようにこちらを見ている、

 

 

「…安い挑発だ。その手のは何度も聞いた」

 

 

「…フ…火星に行くだけではない…我々は、火星でもっと耐久性に優れる船を手に入れる。そして…」

 

 

「あの、トラベラーを妙な機械でつかまえて偉そうにふんぞり返っているカバルに攻勢をかける」

 

 

「…何!?」

 

 

突然の話に思わず立ち上がる。

 

 

「え!?」

 

 

ザナリーがひっくり返った。

 

 

「…本当は火星に着いてからにしようと思ったのだけれど、仕方ない…ザナリー、あなたにも話しておく。私は、バンガードからカバルへの反抗作戦について情報を得てる…非公式だけれど、その協力要請も」

 

 

「そんな!そんな大事なこといつの間に!?」

 

 

ザナリー3が首を戻しながら悲痛な声を上げる。

 

 

「あなた達が調査や暇つぶしで忙しかった時に」

 

 

「…ああ、そういう…」

 

 

ザナリーは納得して静かになった。

 

 

「例のガーディアンの活躍によって、あのカバルのリーダーの姿と目的が見えてきた…バンガードは各リーダーや民間の協力者が少数の部隊を連れてカバルを陽動している間に、レッドリージョンのリーダーの場所まで例のガーディアンを送りこみ撃破する、いわゆる斬首戦術をとるようだ」

 

 

そこまで聞いて、バンガードの意図がハッキリと見えてきた。つまり、その例のガーディアン以外は囮で、その命はずいぶん軽いらしい。

 

 

「…俺達に、その英雄殿の露払いをやれと?そのために危険を冒して宇宙を飛び、自前で装備を調達し、地球までたどり着けと?」

 

 

「そういうことになる」

 

 

ケイが即答する。

 

 

「………」

 

 

「バカな。死にに行くようなものだ」

 

 

「そうだな」

 

 

彼女は間髪入れずに首肯する。

 

 

「危険すぎる。しかも非公式だと?バカにしてる!俺達の努力は、死すらも、何の記録にも残らない」

 

 

「その通りだ」

 

 

彼女は口元を緩めて同意する。

 

 

「ありえない。バンガードは俺達を追放しておいて、間髪入れずに今度は協力しろと言っている」

 

 

「虫のいい話だ」

 

 

「………」

 

 

「ん?」

 

 

「…なんだその顔は」

 

 

ケイのすかしたような態度に、肩透かしを食らった気分になった。再度座り込み、壁にもたれかかるケイを横目で見上げる。

 

 

「人を見透かしたような顔だ。俺が大嫌いなウォーロックの顔だ…俺が次に何を言うのか分かってて、その答えも持ってて…それを言うのをほくそ笑んで待ってる顔だ」

 

 

「…師匠譲りの顔だな」

 

 

「………フー……ああ。分かってる。分かっているとも…お前に何を言っても現状が変わるわけじゃない…ザナリーもお前も、ただベストを尽くしただけだ…『ガーディアン』としてのベストを」

 

 

そうだ。結局のところ、ガーディアンにとってトラベラーを守るために命をなげうつのは当然のことであり、必然なのだ。本能に近い。彼らはそれを実現するために、リスクを飲み込んでトラベラーを守るための一手となろうとしているだけなのだ。

 

 

「ダンナ、俺達の目的はなんだった?」

 

 

「…光を取り戻し…ガーディアンの力を手に入れることだ」

 

 

「そして、もう一度シティを守るガーディアンになること。そうだろう?」

 

 

「そこまでは言っていない…言っていないが…恐らく、そうなることを望んでるんだろう。フン。フォールンのバケモノが都合のいい夢を見ているだけだ」

 

 

自嘲する。そうだ。元々の目的はそうだった。もう一度ガーディアンになる。しかし、今更なれるなどと思っていない自分もいるのだ。何より…

 

 

「全く下らん!そもそも火星が安全だと!?あそこは元々カバルの勢力圏だ。警備が薄いんじゃない、トラベラーを抱えてる地球よりはマシなだけだ!俺は叶わない夢を抱いて死ぬ気は無い!」

 

 

「…ホントは火星に行きたくないだけなんだろ!?」

 

 

「ザナリー!いいから黙れ!」

 

 

「いい加減にしてくれよ!アンタは『暴風のガンドール』!かつて火星で勇敢に戦って、でも不運にも仲間は戦死してしまった!それでいいじゃねえか!いつまでもウジウジと進歩がない!だからアンタはいつまで経ってもウスノロゾンビなんだ!」

 

 

「俺が火星で何をしてたかなどお前達には関係ないだろう!俺が勇敢に戦っただと!?それで!不運にも仲間は戦死しただと!?…俺の戦友をバカにするな!アイツらは俺の不甲斐なさによって!…俺に!殺されたんだ!!」

 

 

「ッ…!アンタは…結局それじゃねえか!それがアンタを縛ってるんだ!…俺は知ってるぞ!あの時、バーツが撃つことをアンタは知ってた!防げたのに!知ってて、あえて撃たれたんだ!どうせ自分は撃たれて当然だとか思ってたんだろ!?」

 

 

「そう思って何が悪い!!」

 

 

「…『暴風のガンドール』の名に恥じぬ激しさだな」

 

 

「ケイ!引っ込んでろ!」

 

 

「いや何、私の研究テーマを思い出して欲しいんだが…私は、まだ意見を聞いていない者がいるなと、そう思ったんだ。ゴースト君?」

 

 

ケイに促されて、彼女の陰からライフがやれやれといった様子で出てくる。

 

 

『私は…私は、ゾンビさん。あなたの心のままに動くことを提案します』

 

 

「心、心だと?フン。バカにするなよライフ。俺はそんなもの信用しちゃいない」

 

 

『…そうですか。では、あなたが私に過去数年間にわたって再三計算させた火星へのルート及びリスク計算の結果は破棄してもいいのですね?』

 

 

「!このっ…」

 

 

一瞬、口が詰まった。

 

 

「……やっぱり行きたいんじゃねえか!!」

 

 

「…クソッ!それだって過去の話で…」

 

 

『ゾンビさん。そろそろ逃げるのは終わりにしましょう』

 

 

「だが…」

 

 

『戦友に会いに行くんです。戦友達を弔いに』

 

 

「………言い訳だ」

 

 

『そうです。それが何か悪いことですか?』

 

 

「……クソッ…口喧嘩で勝てるわけが無かったんだ!もういい!ザナリー!!」

 

 

「何だよ!」

 

 

「ライフの計算を参考にしていいから火星までのルートと渡航計画を立てて必要な資材を算出しろ!必要ならケイと協力すればいい」

 

 

「…ってことは!」

 

 

「今回はお前の提案に乗ってやる。だがケツは自分で拭け!」

 

 

「…おう!任せろ!」

 

 

「…アナタはその間何を?」

 

 

「話をしてくる」

 

 

そう言って、ハンガーに背を向け歩き出した。

 

 

「…そう。少しだけ計算時間を引き伸ばしておこう」

 

 

「ああ。助かる」






あっれえ〜おっかしいなあ、出発させて目的地まで行こうってつもりで書いたのになあ…

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