ゾンビが人間を守って何が悪い   作:セイント14.5

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もしかするといるかもしれない、待ってくださっていた方へ
詳しいことは、活動報告に書きました。

簡潔に言うと、忙しすぎて二年弱死んでました。
これからがんばります。


レベル27.宇宙の力

 

 

外装の剥がれた部分から外に出て、メンテナンスのため取り付けられていたハシゴを登り、レーザー塔の頂上へ向かう。そこから更に金属の骨組みを伝い、落ちたらタダでは済まないな、と思うくらいの高さまで登っていく。

 

 

「これだな」

 

 

『ええ。彼のサインです…恐らく』

 

 

そして、このあたりでトラベラーに最も近い(と思われる)位置…アンテナの先端に、それは括り付けられていた。

 

 

「いい景色だな」

 

 

赤錆色の大地が見渡す限り広がっている。そこかしこに掘り起こされた岩石が転がり、カバルの存在を強烈に感じさせる。仲間達はここで戦い抜き、そして自分が見殺しにした。…こんな高所で風が吹けば危険だ。過去に浸る時間はない。すぐに意識を現実に向けた。

 

 

『チェック…完了。これは…一見何の変哲もないジャンクパーツですが、私なら分かります…流入した電気エネルギーをボイドエネルギーに変換できるようです。画期的な構造です。…効率はあまりよくありませんが。少しだけ加工すれば恐らく我々でも使えます』

 

 

アンテナから取り外したそれは、手に取って眺めても、やはり単なる無価値な機械部品にしか見えない。サイオンの執拗な探知やカバルの破壊を免れたのも、それが原因だろうか。

 

 

「ボイドエネルギーか…扱いが難しくてあまり好みじゃないが…まあ、十分だろう。早速やってくれ」

 

 

ボイドエネルギー。宇宙の深遠さを想起させるようなそれは、物体への吸着力や引力を発生させることが得意な反面、他のエネルギーのように派手な破壊を生み出すことは難しい。十分に使いこなすには、ウォーロックのようにボイドを愛し、ひとつになる覚悟が必要だ。

 

 

『ええ。じっとしていて下さいね』

 

 

ライフがくるりと一回転し、機械を持ち上げた。

 

 

………………………

 

 

『…取り付け完了。具体的な性能評価は実際に使ってからにしましょう。まずはここから降りなければ』

 

 

あまり使わなかったアームマウントの代わりに左腕に取りつけられた機械を眺める。これを格納するためにひと回り大きくなった左腕は、肥大化した右腕に対してバランスを取っているようだった。

 

 

『見た目を良くする意図もあります。いつまでも左腕だけ細いのでは、その…カッコ悪いですから』

 

 

「フン…」

 

 

ライフがまた妙な気を回したようだった。見た目で言えば、確かに前より悪くないだろう。重量バランスも、多少はマシになったと感じる。

 

 

『燃料である電気エネルギーはエーテルの親和性を考慮してアークエネルギー経由で生産しています。言うまでもありませんがエーテルを消費しますので使い過ぎにはご注意を』

 

 

「……大きな爆発は起こせるか?ポンコツ号を簡単に破壊できるくらいがいい」

 

 

『…まあ、可能でしょう。ボイドエネルギーは基本的に内向きの方が効率が良いので、破壊の規模を上げるにはかなりのエネルギーが必要になるでしょうが…』

 

 

「そうか。出来るならいい」

 

 

ライフが怪訝そうに上目づかいになる。

 

 

「ライフ、試運転だ。変換装置を最大稼働しろ。発動をできる限り外向きに。…とりあえず、破壊力と破壊規模を優先だ」

 

 

『…降りてから始めた方が安全かと思いますが…了解しました』

 

 

「エーテルは必要なら生命維持の分だけ残して使い切っていい。発射はこの装置からなのか?」

 

 

『そんなにですか?いえ、腕部のパルスキャノンにエネルギーを送って射出する予定です。左手の…そう、そのトリガーを引けば起動します。チャージして、トリガーを離せば撃ち出されるハズですが…』

 

 

それを聞き、すぐにトリガーを引く。左腕にエーテルが流れ込んでいくのが分かった。

 

 

「そうか。ショックはどの程度だ?」

 

 

ライフが本格的に焦りを見せ始めた。その間にも、左腕はチャージを続ける。

 

 

『爆発だけなら身体がバラバラになることはありません。反作用で吹っ飛びますが……えっと、準備は完了しましたが……まさか…このまま撃ちませんよね……?』

 

 

「ライフ、俺はここに来るまでに考えていたことがあるんだ」

 

 

『…えっと…その話は、ここを離れてからしてはいけませんか?』

 

 

左腕が振動し、暗い光を帯び始めた。臨界点が近いようだ。右腕で左腕を抑え、照準を合わせる。

 

 

「正直に言うが、ずっと俺はもう一度火星に行くべきだと思っていた。だが行きたくはなかった。…仲間の死をきちんと弔ってやらなければならない。そう思っていたが、同時に仲間の死という事実を未だ受け入れ難い感情が、そして情けなく生き残った自身に対する憤怒がそれを邪魔していた」

 

 

『………』

 

 

「ライフ。今ここに来て、俺が意外なほど冷静なことに、俺自身が驚いている」

 

 

『…あの…まだ停止には間に合います。少し考える時間を置きましょう。お気持ちは分かりますが』

 

 

「こんな大きいだけの鉄クズがあいつらの墓じゃ、報われない。…俺は間違っているか?」

 

 

『ですが壊す必要までは――――

 

 

トリガーを離した。閃光が辺りを覆った。

 

 

………………………

 

 

身体のあちこちが痛む。ホワイトアウトしていた視界がようやく回復した。ずいぶん吹き飛ばされたようで、レーザー塔だったものの残骸があちこちに見える。

 

 

下が砂漠でよかったとつくづく思いながら砂ぼこりを落として立ち上がると、懐からゴーストがふらふらと浮き上がってきた。

 

 

「…衝撃から思うに…想像していたよりは、小さな爆発だった」

 

 

『………まさか本当にやるなんて……』

 

 

「…軽い気持ちや思いつきでやった訳じゃない…ライフ、周囲の状況は?」

 

 

『……そうですね。レーザー砲台だった廃墟が、廃墟だった残骸になりました。すぐに爆発音を聞きつけてカバルの偵察隊が来るでしょう。もしくはハイヴかもしれません。早めに離れないと死にます。お望みなら待機を推奨しますが』

 

 

「怒ってるのか?」

 

 

『カバルがですか?それとも私のことですか?』

 

 

「…俺は俺の為すべきことをしたんだ」

 

 

『ええ、そうでしょうね、内容はともかく』

 

 

「………」

 

 

ライフはもはや聞く耳を持たない。…何を言っても、今は意味がないだろう。

 

 

『とにかく離脱しましょう。近くに停めたスパローは奇跡的に無事です。まさか計算しましたか?』

 

 

「……いや…とにかく行こう」

 

 

………………………

 

 

しばらくスパローを走らせ、視界の開けた砂漠地帯を抜けて岩場の陰に入る。周囲にカバルの基地や装置は見当たらない。

 

 

『…この辺りにはカバルはいないようです…とりあえず、安全です』

 

 

「…エーテルの残りが心もとない。補給が必要だ。俺は見たことがないが、火星にもフォールンはいるのか?」

 

 

エーテルは今のところフォールンから奪う以外に集める手段がない。完全に切らしたらどうなるのか不明だが、実験する気はない。

 

 

『先程ほとんど使い切りましたからね。…過去にはウルブズの一派が火星に逃げ込んだ記録もあります。彼らの適応力を鑑みればここにもいる可能性は十分にありますが、カバルとハイヴがこの星の現支配者であることに変わりはありませんから…仮にフォールンがいたとしても、すぐに見つかるとは思えません』

 

 

「そうか。とにかく網は張っておいてくれ」

 

 

『了解しました』

 

 

スパローで進んでいると適当な大きさの岩と日陰を見つけたので、座って休むことにした。

 

 

「それで、これからどうするかだが…まずはアイツらと合流する方がいいか」

 

 

『私は始めからそう言ってます。ええ、ケイのゴーストには位置情報を送信してあります。ザナリー3には…信号弾でも撃ちましょうか?』

 

 

「いや、それはいい…バンガードがシティに攻勢をかける日も遠くはない。地球へ行く船がいる。それを確保するための戦力も」

 

 

『船、それに戦力。どちらも合流してから話しましょう。……余談ですが、衛星タイタンでザヴァラに聞きました。【彼】が見つけた光は、地球にあったそうです』

 

 

「…!」

 

 

『驚きましたか?トラベラーの破片から光の残滓を受け取り、光を取り戻したのだと。場所も聞いてあります』

 

 

「……そうか」

 

 

事も無げにライフが語ってみせたことは確かに衝撃的なものだった。ガーディアンのまま光を取り戻す手段があり、しかもそれを成し遂げた一人のガーディアンは今や英雄となりつつあるという。

 

 

翻って、今の自分はどうだろうか?敵の肉体を繋ぎ合わせ、歪に膨れ上がった実験動物のような姿。果たしてトラベラーの前に身を晒した暁には、これでもガーディアンとして光を分けてくれるのだろうか?

 

 

…どちらにしても、自分がこうなったのは自分の判断で、しかも過ぎたことだ。今更考えても仕方がないだろう。かぶりをふり、要らぬ思考を頭から追い出す。

 

 

『……地球に戻り、シティに向かう前に、そこへ行きませんか?もしかしたらあなたの光も…』

 

 

「…時間が許すかどうかだ。光は確かに取り戻したいが、俺一人の光よりシティとトラベラーの方が重要だ」

 

 

曖昧な希望より、作戦を遂行することを優先すべきだろう。元々、光がない状態で戦う予定だったのだから、今更それが変わることもない。

…光は、余裕があれば、だ。

 

 

『そう…ですね。ですが……あっ、レーダーが感知しました。南南西に敵影…カバルです!』

 

 

「!合流は間に合うか?」

 

 

『距離はまだありますが既にこちらを補足しているようで、一直線に向かってきます!ケイとザナリー3が合流する前に、我々だけで戦う必要がありそうです…』

 

 

「そうか…なら、早速ヤツらにこの新装備のお披露目と行こうか」

 

 

『了解しました。各装備の最終チェックを進めておきます。スパローでヘルメットに表示した岩場に向かって下さい。ここよりは戦いやすいハズです』

 

 

火星に着いたあたりから、ある感情が燻っている。

怒り、憤怒…火星は今、カバルのものだ。カバルが、仲間の仇が、俺をこんなにした元凶が、ここには掃いて捨てるほどいる。

 

 

「いつでも来いカバル共…お前達に俺の怒りを思い知らせてやる!」

 

 

………………………

 

 

岩場の陰に待ち伏せて投げ込んだグレネードから、戦いは始まった。一瞬だけ混乱したカバル達は、しかしすぐに陣形を組み直し、こちらを確認して指をさすと、二手に分かれて向かってきた。

 

 

「フン…腹が立つが、流石に訓練されてるな」

 

 

『敵は小規模ですが、スラグライフルとシールドで武装しています。リージョン級が2部隊、ファランクスが1部隊です…マーク視認!スカイバーナー部隊です!』

 

 

スカイバーナー。シティを占拠したレッドリージョンより前に現れ、火星を占拠したカバル大隊の中核を担う精鋭部隊だ。ガーディアンの抵抗でそれ以降は攻めあぐねてはいたが、数々のガーディアンの命を奪ってきたのも彼らだった。俺の仲間を殺したのも…

 

 

「……スカイバーナーか。新参者に手柄を取られてさぞ不愉快だろうな。いい気味だ」

 

 

『気持ちは同じですが、冷静にお願いします』

 

 

カバルは見た目こそ鈍重だが、ジェットパックを使って一気に身体を持ち上げ、空中から距離を詰めて制圧を狙ってくる。奴らの常套手段にして、高い技術力と高度な訓練が為せる戦術だ。

 

 

リージョンがスラグライフルの斉射で牽制してくる。ゆっくりと放物線を描いて着弾点で爆発する。当たり所によってはそのまま戦闘不能になるだろう、恐るべき武器だ。

 

 

すぐ近くの岩に着弾し、衝撃とともに小石や砂が舞い上がる。初弾の割に精度が高い。訓練の賜物か、それとも…

 

 

「っ…リーダーは!?」

 

 

奴らを後ろから指導している隊長がいるか、だ。

 

 

『今のところは確認できません!しかし、これで全部とも思えません!』

 

 

「場所がバレてるならもう躊躇する必要もない!信号弾を上げるぞ!あのバカでも気づくぐらいデカいのだ!…スパローでどのくらい離せる!?」

 

 

『旧式なのでクイックターンができません!回避が期待できない以上、乗ったところで撃ち落とされて終わりです!』

 

 

「…クソッ!」

 

 

戦う前から撤退を考える者は臆病者だ。だが、撤退する方法すら持たない者は単なる馬鹿だ…俺は今さらになって、その馬鹿になっていることに気がついた。カバルを前にして、気づかないうちに頭に血が上っていたようだ。もはや生きるか死ぬか…毎度のことだが、心臓が早鐘を打つ。冷や汗が出る。エーテルのパイプがイヤに過熱しているように感じた。

 

 

『先程の試運転の影響で、エーテルの残量わずかです。パルスキャノンは控えて下さい!』

 

 

「そんな余裕があればな!」

 

 

手に持ったライフルを牽制にばら撒きながら、足場のマシな岩場へと移る。信号弾は上がった。後は…

 

 

「俺がどこまで耐えられるかだ」

 

 

フォールンの右腕をぶるん、と震わせた。

 

 

………………………

 

 

「まだか…!」

 

 

『彼らの反応は拾っています!私の予測ではあと5分で到着します!』

 

 

「そんなにか!?もう保たんぞ!」

 

 

『っ左です!』

 

 

ファランクスの突進を受け止めきれず吹き飛ばされる。地面をこすりながら体制を何とか立て直すが、流石に受けたダメージは誤魔化しきれない。ビキビキと身体の至るところが嫌な音を立てた。

 

 

「っぐぅ…!」

 

 

『大丈夫ですか!』

 

 

「いいから治せ!あちこち壊しやがって…もう隠れるところも無いぞ!」

 

 

『ですがカバルの増援はもう来ません!あと少しです!』

 

 

「何回同じセリフを吐くんだお前は!!」

 

 

ライフは気休めに嘘をつく傾向がある。悪い癖だった。

 

 

『っ!ゾンビさん!通信です!…ケイ!ケイですね!?聞こえますか!?』

 

 

ライフが通信しながら焦ったようにあたりを見渡す。まだ味方の到着には時間がある…少しでも出来ることがないか探しているようだ。

 

 

「喋る暇があるなら早く来い!」

 

 

『まだ元気そうだなダンナ!それとケイじゃなくて悪いな!俺だよ!でもケイも一緒だ!』

 

 

『ザナリー!合流したのですか!?』

 

 

『ああ!待ってろもうちょっと…いや、あと3秒で助けてやる!眩しいから目瞑ってろよ!?』

 

 

「何を言って……」

 

 

直後、閃光――――。反射的に瞑目した後、開いた視界に映ったのは、その場に倒れ伏したカバルだった。

 

 

「一体何をしたんだ…?」

 

 

『よっしゃ!続けて行くぜ〜!あとは俺に任せな!』

 

 

『…そう言うなら、手助けはしないぞ?』

 

 

『オイオイオイ!スーパー・マジックのタネ明かしは最後の最後だろ!?』

 

 

一瞬怯んだカバルは即座に集合し、こちらへ向き直す。新たな脅威よりも前に、目前の敵に集中することを選んだようだった。

 

 

『ケイ、お前は根本的に俺とは違ってユーモアのセンスが不足してるんだと俺は…』

 

 

「っやかましい!!出来るならさっさとやってくれ!!」

 

 

枯葉色の砂漠に、咆哮がこだました。

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